スーパーSF大戦 外伝




− 闇 −




Eパート 美神美智恵


 こうして加持隆介は、生まれて初めて味わう本物の神気を浴びて気絶する寸前に、小龍姫と出会う事が出来た。これまで妙神山へ登山中に気絶した者は有無を言わさず麓に送り返されていたが、曲がりなりにも小龍姫と会えた加治はそのまま修行場に招き入れられた。
 そして両者の会談で人間界と神界、魔界との間で色々な取り決めがなされていった。
 具体的な約束は追々述べられる事もあるだろうが、特筆すべきは人限界側の、今のところ日本連合政府しかその役職を設けていないが、対魔族対策の担当責任者に元GS協会会長美神美智恵が推薦された事であろう。前々からの帝国華撃団米田司令の推薦に加えて小龍姫からの推薦も受けた加治は、正月早々に美神美智恵と会談を持って彼女を連合政府特異テロ対策補佐官に任命したのであった。ちなみにこの『特異』は怪獣Gメンこと環境省自然保護庁特異生物部の『特異』とも通じている。尋常ではないテロリストの意味が込められているのだ。
 もちろん神話の悪魔や魔物が相手であるとは、とてもではないが直ぐに一般公開出来る物ではない。従って彼女の肩書きはS級機密事項に定められ、表向きは民間団体『GS協会』会長のままである。

 そして美神美智恵は政府側の組織整備は他の補佐官らに任せて、自分は民間団体『GS協会』の再建に取りかかった。いや、彼女は前々からGS協会の再結成を関係各機関に働きかけていたのだが、時空融合直後のお堅い官僚達が幽霊相手の団体をまともに取り扱う理由も無かったので遅々として進まなかったのである。そう言えばGS世界の官庁って、どこがGS協会とつき合っていたんだろうか?
 それはともかく、今回秘密裏にとは言え美神美智恵は連合政府補佐官に任命された事もあってか、昨年の苦労がウソのようにさくさくっとGS協会が立ち上がった。このGS協会は融合前のGS免許試験や更新だけに留まらず、有事の際に民間の霊能力者たちを指揮する司令部機能を満たす事を連合政府から秘密裏に期待されている。
 そして美神美知恵はGS協会長として民間の協力者を集め始めた。つまり元の世界から一緒にやってきたGS達はもちろん、時空融合以来噂に聞いたり除霊活動で実際に知り合った別世界出身の本物の除霊師霊能者達の中から、魔族とやり合える人物をスカウトし始めたのである。
 敵の正体が正体なので真実は伏せ、あくまでGS協会長として除霊師団体としてのGS協会への加入を誘う事から彼女は始めていった。その中からこれはと言う信頼できる人物を見極めて真実を伝え、そして将来発生が予想される神魔大戦において人間サイドで戦う軍団を造り上げていく・・・筈であるが、もともと良く言えば個性的悪く言えば集団行動に向いていないGS達、さらに新しく加入が見込まれる異世界の霊能力者たちとの関係は、そう日本観光協会と加盟旅館との間程度の関係に終始するかは、それこそ『神のみぞ知る』と言った所である。
 更にこの時点ではGSの中にも真実を打ち明けられる人物は皆無に等しく、せいぜい唐須神父と西条の二人くらいであり美神令子は問題外である(爆)、外部を見渡してこれはと言う人物に少しずつ接触を図っている段階であったが、やはり真実を打ち明けても良い人物はそう多くは居なかった。
 だが、その様な状況でも例外と言うものがある。

「へ〜、崇徳上皇を鎮めた事もあったんですか」
「えぇ、そうです。他にも中部日本全域の霊山を使った御岳の呪法を潰したり、神様、もちろん妙神山の神様と違って人間と会話する人格は持ち合わせていませんでしたが、神様の力を利用した呪術をその神様毎封印したり、表沙汰に出来ない事件の解決に協力して貰いました」

 崇徳上皇は菅原道真と平将門と並ぶ日本三大怨霊に数えられる怨霊である。それを鎮めたと言う霊能者と接触するため、美神美智恵は情調の調査官、錦織 彰が運転する車に同乗して埼玉へ向かっていた。
 時に新世紀2年1月の中旬の事である。この錦織調査官は情調に所属する前、つまり時空融合前は元の世界の内閣調査室特務課の調査官だった。この特務課は一般警察が関知できない呪法による事件を調査し、呪法師を抹殺するのが任務であった。もっとも実際に呪法師と対決していたのは錦織ではなく、彼は事件の捜査と呪法以外の、つまり体術や銃刀器と言った物質的な妨害者を排除するのが仕事であった。情調の五十嵐本部長は美神美智恵に協力する際、情調メンバーで最も神秘学関係に詳しい者を連絡担当者に付ける事にし、呪法に些か心得がある錦織を付けたのである。今日これから会おうという霊能者も、この錦織が推薦する人物である。
 この様に美神美智恵が特異テロ対策補佐官に任命されてから真っ先に協力しているのがこの情報調査本部であるが、これには些か不名誉な事情が絡んでいた。美神美知恵もそのことを疑問に思っていたので、これは良い機会とばかりに、尋ねてみた。

「ところでそんな霊能力者と接していた割に、情調は私たちGSには冷たかったわね。それはどうしてなの?」
「・・・それは申し訳なかったと思っています。超能力者が居ても、心霊現象に理解のある調査官は私と他数名だけで、分析する連中には居なかったと言うのが本当のところです」

 逃げられない車中での事、一瞬答えに詰まった錦織調査官は覚悟を決めて美神美智恵にこれまでの事情を説明し始めた。
 所謂政府系の情報機関が政権に情報を提供するまである決まった手順がある。それは情報を収集し、それを分析し、結果が正しいかを評価する。そしてその結果を政策に反映するのが時の政権、と言うものである。
 連合政府の場合では情報を収集分析する組織は帰化したヨーロッパ系特に英国系の外交官や軍人の協力があって、自衛隊や警察、公安関係さらには融合前には害務省などと嘲られていた外務省まで数多く整備されてきた。これら複数のルートで上がってくる情報を元に加治首相は最終的な政策判断を下しているのであるが、これらの情報を再度分析し複数の情報を比較検討して総合評価を下しているのが今の情報調査本部の主な役割である。
 そして新世紀元年中の情報調査本部は、専ら加治首相と面会しようとする人物評価に明け暮れていた。
 連合政府が成立する前後から、加治首相と接触しようとする個人や組織代表は山ほど現れた。味方が欲しい加治首相ではあったが、流石に協力関係を結んだのが、いわゆる『悪の組織』だったりすると日本滅亡に陥ってしまう。そこまで酷くなくても自称ほど能力を持たなかったり、『敵に回ると心強い』相手だったりしても目も当てられない事態になる。
 そのために首相府官房内に組織された情報調査本部(略して情調)は、警察や自衛隊、その他日本に出現し情調に所属することになった諜報員を使いこなし、加治首相と接触しようと言う人物や組織を次々に洗い出していた。面会希望者たちの言動を表裏から念入りに分析し、矛盾点、隠していること、それが犯罪行為で有るかどうか等々を徹底的に調査していたのである。錦織ら情調に所属する調査官も、評価のための裏付け調査に国の内外を飛び回っていた。
 その結果、加治との面談をなんだかんだと理由を付けて断ったり、さらに公安関係にマークさせた事もある。その中には後にショッカーの首領を勤めていた元国会議員もいたが、正体までは判明しなかったが加治と接触させるにはあまりにも怪しい人物という判断を出して断ったこともある。
 勿論その判断が100%正しいと言うことは無い。条件をクリアした組織の代表が加治の面前で『連合政府の機密情報をハッキングした』と不法行為を誇示した例もあった。最近では情調の五十嵐本部長自ら接触した相手が義務づけられた書類や約束したレポートを提出するよりも先に、連合政府のA級という比較的軽いレベルであるが機密情報を調べ上げたとしか考えられないような『悪戯』(本人談)を仕掛けてきたこともある。
 ちなみに問題を起こしたどの組織も『悪用しません』『敵ではない』等々言い訳していたが、人物評価が互いに出来ていない初対面の時期にそう言う行為をしてくる人物を流石に信頼どころか信用もできるはずがなく、情調もその内部では結構どろどろした感情を抱えてそれらの組織を告訴できるだけの不法行為の証拠を掴もうと再調査や監視を行っていた。

 閑話休題

 さて錦織が言うことには、情調も自分たちが収集した情報を分析する部署を中心に百人千人単位で規模が拡大して行ったが、その分霊能者達だけでなく幽霊騒動とも直接接触した経験を持つ者が少なくなった。そのために断片的に入るGSを含む幽霊関係の情報はまるっきり信用されないまま分析もされずに捨てられ、次の段階である評価すら行われずにいた。一組織の責任者である華撃団司令、米田が妙神山での経験をレポートにして直接加治首相の手元に届けるまで、幽霊やその他神秘学関係の状況が政策にも反映されることはなかったのである。結果として情調は霊能力者と協力している錦織調査官を有しながら、幽霊を相手とする団体に正しい判断を下せなかった。そしてGS協会を怪しい団体として結論付け、それが回りまわって連合政府各機関の窓口がGS協会に冷たかった理由でもあった。

「へ〜、去年GS協会設立にあれほど苦労したのは、情調の所為だったんだ」
「申し訳ありません・・・」

 ひたすら謝るしかない錦織であった。こういう訳で情調は失敗を取り返すべく、見えない所で苦労を重ねているのである。






 さて目的の家に着いた美神と錦織は和室に通され、部屋にいた老婆の正面に並んで座った。

「お久しぶりです、扇さん」

 そのお婆さん、扇 千景と面識がある錦織が最初に挨拶した。

「お前も元気そうで何よりじゃの、錦織。今の政府にすっかり忘れられたかと思っとったわ」
「今まで連絡を取らなかった事をお詫びしますが、そんな事はありません。前以上に扇さんのご助力を必要とする事件が多くなると考えています」

 前にも触れたように、この錦織調査官が時空融合前に所属していた内閣調査室特務課は、一般警察が関知できない呪法による事件を調査し、呪法師を抹殺するのが任務であったが、実際に呪法師と対決して呪術を解いていたのはこの家の者達、迦楼羅神教の前当主である目の前の扇 千景と孫娘で現当主である翔子とその双子の妹、舞子である。情報調査本部が美神美智恵に推薦する霊能者とはこの扇家の者たちである。なお扇家は隔世遺伝で女子にしか霊能力が発現しないため、千景の娘であり翔子舞子の母親でもあるこの家の主婦は至って普通の人間である。その他にもこの家とは別にもう一人、内調の依頼で呪法を行うものを逆に呪殺する担当がいたが、扇祥子舞子と共にこの場にはいない。

「そしてこちらが・・・」
「知っておる。GS協会の会長さんじゃろぅ?」

 錦織が美神を紹介しようとすると、扇はそれを遮るように口を挟んだ。

「噂は聞いておる、一般人の目にも見えるような形で幽霊騒ぎが多発しておるからな。わしらも除霊に行く事もあるが、美神さんたちゴーストスイーパーが確実に落とすから、近隣のヒヨッコ共がおまんまの食い上げじゃと騒いでおったわ」

 かかっと高笑いしながら、扇は美神の方に目を向けた。
 迦楼羅神教に引きずられてか、多少は霊能力を持つ新興宗教もこの近所に出現していた。それらは元の世界でも除霊・付き物落としなどをしていたが、より確実に解決するGSに押されて信者も減少しつつあった。これらの宗教団体は、良くて三流GS並みの能力しか持たないから駆逐されても仕方が無いかもしれないが。

「それで、今日は何用かの?会長自ら来られるとは、わしら迦楼羅神教もGS協会に入ってくれという事かの?」
「はい、プロの間で名高い扇さんに加盟していただけたら、百人力です」

 美神は一礼すると、早速勧誘に入った。しかし扇の表情は逆に気むずかしい物になった。

「わしらは人心を惑わす邪法の気配を感じたら、頼まれなくても破邪の呪法を執り行う。お金を貰って解決しようというGSとは対立する事があっても、わしらが協会に加盟する筋合いでは無いと思うがな」

 この返事を聞いて、美神と錦織は互いに視線を交わし、軽くうなずいた。

(やはり、こう来ましたわね)
(ええ、だからこそ連合政府のためにも、扇家を味方に付けなければ)

 無言のうちのやりとりの後、錦織の方から口を開いた。

「扇さん、連合政府では秘密裏に霊能犯罪、霊能テロリズムに対処する事を正式に決定しました。ここにいる美神美智恵さんは有る御方の推薦を受けて連合政府特異テロ対策補佐官に就任され、有能な霊能力者を集めているのです」

 こう言うと錦織は昨年の帝国華撃団とGS美神令子の接触から加治首相の妙神山初詣まで、連合政府の周りで起きたオカルト事件の裏表を漏らすことなく説明した。融合前から政府とも繋がりのある有力な霊能力者である扇家をどうしても味方にする必要があり、そのために少なくとも扇のお婆様には隠し事は無用なのだと心得ているためであった。

「う〜む。時空融合で日本列島の霊脈が乱れてから一向に旧態に収まる気配は無かったが、なるほどのう。幾柱もの神様が現世に降臨なされていたとは」

 腕を組み一頻り唸った後、再び顔を上げた扇は美神に向かい口を開いた。

「別にわしらがGSに加わらずとも、今まで通り、十分政府に協力できると思うが?」

 連合政府が関わったオカルト事件を聞いた扇は、錦織に確認した。

「ええ、既に情調には登録してあります。ですがそれを表看板に出されて貰うと我々情調の活動まで世間に気付かれてしまう恐れがあります。申し訳ありませんが、扇さん、表向きは何処かの団体に登録していただけないでしょうか。GS協会が気に入らないのならば他の団体も推薦します」

 この時錦織は、あのギゲルフ・リキュールが率いる魔導師ギルド、女子高生である翔子と舞子向けにESP能力者系団体の少年エスパー同盟、その他幾つかの団体を提示した。

「魔導師ギルド?」

 意外な名前を聞いたように、美神は魔導師ギルドという名前に反応した。その声に錦織は問いかけた。

「どうかしましたか?」
「いえ、うちに所属しているGSに魔鈴という者がいるんですが、失われた中世ヨーロッパの白魔術をかなり復活させただけあって『魔女 魔鈴』と言う異名を取っているんです。その魔術の評判を聞いて魔導師ギルドって言う団体が加入を誘ってきた、って言っていたから、ここでも?って思っただけです」

 美神の答えに、錦織は情調が把握している魔導師ギルドの情報をこの場で説明した。

「あちらも元の政府とのパイプが残っていましたからね。魔導師ギルドは妖魔(ルシファーホーク)と呼ぶ異世界生物の侵攻を魔術と霊能力で防いでいたそうですから、GSとも協力関係を築いて欲しいと危機管では考えています。この後で魔導師ギルドのギゲルフ・リキュール氏とも面会して貰う予定でした」

 ここで錦織は扇に向き直すと、さらに言葉を続けた。

「連合政府の方針もありますし、我々としては美神補佐官が直接指揮されるGS協会に扇さん達も加入していただくのが一番良いと考えています」






 ここで能力者達に対する連合政府の方針について説明しよう。

 始まりは時空融合直後、都内近郊に廃墟と共に出現した、ウルトラスーパーデラックスマンと名乗る存在であったと言える。
 この男はうだつの上がらない平凡以下なリストラ寸前の中年サラリーマンであった。だが、ある日突然超能力に目覚めてウルトラスーパーデラックスマンを名乗り、新聞紙面を騒がす悪党を倒していったのである。その全てを・・・五体バラバラに虐殺して。
 だが、考えてもみたまえ。虐殺されるに相応しい悪党がそうそう出現するだろうか。些細な罪でも極刑にするウルトラスーパーデラックスマンを警察は逮捕しようとし、世論も『虐殺者』『暴力主義者』等々と非難の声を上げていった。
 しかし『自分が正義。悪は悪。悪を養護する者も悪』だと断言したウルトラスーパーデラックスマンは、警察も自分を非難するマスコミ各社も虐殺して世論と対決したのであった。そこの政府も黙っていた訳ではない。自衛隊の火力すら通用しないウルトラスーパーデラックスマンに対して最後の手段である核兵器を、しかもウルトラスーパーデラックスマンが寝静まった真夜中に不意を突くように使ったのだが、街一つ犠牲にしても(住民は事前に避難させていたが)本人は無傷であった。
 こうして正義の味方を自称した男は世間から恐れられて廃墟の中の一軒家で暮らしていた。
 会社に行けばハイヤーを使った重役出勤、高層ビルの最上階で上司も部下も仕事も無く、ウルトラスーパーデラックスマンを出現させないように事件が載ることもなくなった新聞を読むだけの毎日。腹が減れば電話一本で御馳走が配達され、可愛いアイドルがテレビに映れば、彼女を呼び出して・・・(以下18禁略)
 そんな状況を運悪くウルトラスーパーデラックスマンと目があったがために自宅に招待された会社の同僚は指摘した。『お前はもう怪物だ』と。
 そんな男が時空融合と共に出現したのだが、幸か不幸かその男は末期ガンに犯されていたため、出現直後に血を吐いて倒れ伏した。
 なんせ核兵器をも跳ね返す強靱な体のため外科手術も(メスが通らない)放射線治療も(レントゲンすら不可能)化学療法も(毒物も役に立たなかった)なにも通用せず死んだのであった。
 こんな男がもし生き続けていたら、やはり治安を預かる者の義務として連合政府は自衛隊の出動も考慮に入れて警察力の全てを挙げて取り押さえる必要がある。だが核兵器も歯が立たない様な超能力で守られている怪物を取り押さえるには、他の世界から来た能力者達の協力を得たとしても、東京の一つや二つを引き替えににするぐらいの犠牲が必要だったろう。
 そんな訳で、この情報に接した公安関係者はこれ以上ないほど安堵した。だが一部の者は他にも同じ思考に陥る能力者が出現するのではないかと恐れていた。

 そして時空融合から半年以上が経過し、今の日本には多くの能力者、超能力も霊能力も区別せずにまとめて能力者と呼ぶようになっていた、が多数存在している事が知れ渡りつつあった。彼らの多くは周囲にも秘密にしながら少なくとも社会に迷惑をかけないよう暮らしていたが、一旦彼らが事件に巻き込まれると、引き起こしている事もままあるが、多かれ少なかれその事件を解決する様に働き、結果としてその存在が社会に明らかになっていった。
 その場合、多くの者達は引き続きひっそりと隠れて平穏に生活しようとしていたが、頼まれれば自分の能力を社会の為に役立てようともしていた。
 しかし一部の能力者は、何を勘違いしたのか己にしか通用しない独り善がりの正義を掲げ、政府の方針だけでなく一般社会の常識からも逸脱した行動を取り始める傾向が出てきたのであった、一部の政府公安関係者が危惧したように。
 己の正義に従って、と言うのは簡単だが、それが反社会的な行動を取る程病的な物になってしまったら、その正義はテロリストが掲げる物と大差ないのである。有名な所では、ストライク男と名乗る自称"正義の味方"が居た。幸いな事にこいつは超能力者ではないが、ストライク男が取る"正義の行動"により、管轄の都内墨田区は墨東署交通課の婦警らは大幅に頭を悩まされているのである。墨東署を上げてこいつを取り押さえようと躍起になっているが、逃げ足だけはスーパーヒーロー並みに早いので、未だとっ捕まえることに成功していない。
 さらに『自分が正義』と声を大にして活動している者がいると、『貴様が正義なら俺は悪だ』と決め台詞を放ちながら乱入してくるアンドロイドまで出てくるという始末。

 いみじくも、加治首相が妙神山で表明した『少なくとも私は相手が最高神だろうと大魔王であろうと人間にとっては大して差は無い』という意見の根拠はここ、自称「正義の味方」達による傍迷惑な行動にあったのである。

 それでも連合政府では、能力者達を差別することなく一人の人間として平等に扱おうとしていた。『基本的人権の尊重』という憲法に謳った基本政策から、空を飛び電撃を放つは火を噴いたりする能力を持つ宇宙人や人の形をしていないムスカ級生体潜水艦ですら日本連合国民として扱うのであるから当然のことである。それに彼らの様な能力者でないと解決が難しい事件も起こっているから、連合政府としても能力者達の協力活動は大歓迎している。例えばバビル2世こと"101"山野浩一やサイボーグ009達の協力がそうであるし、幽霊騒ぎもGSを始めとする霊能力者達によって静められている。
 だが、やはり能力者が暴走するとそれを収拾するには多大な努力が必要となる。何事もそうなのだが、問題が発生した後に対処するよりも事前に予防する方が被害の発生を抑えることが出来る。連合政府では対処方法を色々考えた末に、"正義の味方"で有ろうとする能力者達の活動を禁じるよりも、特別な資格を持たせて事件解決に協力して貰う方が良いという結論に達した。以前にメトロン星人事件が発生した時、事件解決に協力してくれたサイボーグ009達を危機管の土門補佐官がスカウトした事を前例としたのである。あの時は民間人のままボランティアとして必要な時に協力してもらえたらそれで良い、と言うように話がまとまり、危機管では彼らを一種のNGO、NPOとして扱っていた。
 他にも"正義の味方"の活動を禁じたら連合政府が"悪の組織"で有ると非難されかねないという消極的な理由もあったのである。特にうら若い乙女達の黄色い声の非難の前では・・・(はぁ)
 ともあれ 連合政府は積極的に"正義の味方"で有り続けようとする能力者を治安維持に協力してくれる有資格者として登録し、現場でもスムーズに活動できるように法的裏付けを与え、活動の結果生じた第三者への被害を政府が補償する等の支援を行うと、その制度を定めた。もっとも、能力者の中には第三者から見て事件解決に協力してくれたように見えても、本人にとっては"正義"何て考えもせず単にその能力を振るいたかっただけかもしれない者がいたとしても、制度はそんな内面に触れる所まで考慮している訳ではない。あくまで結果として能力を振るう事が知れ渡った者を対象にしている。
 この制度により政府としては能力者の実情を把握でき、能力者側としても通常ならば私的制裁行為と見なされ刑法罰の対象にもなりうる行動を、もちろん完全無制限という事では無いが政府から有る程度認可され、そして敵を制する際に生じた被害を本人に成り代わって補償してくれるこの制度を概ね了承していた。唯一、登録もしないで活動する能力者はテロリストと同等と見なす、と言う支援と引き替えに出された政府の方針には"正義の味方"側にも難色を示す者もいた。だが、一般社会が登録しない傍迷惑な"正義の味方"より、登録をした者達の方を自己を律すると言う意味で精神的に自律した社会に協調する活動をする者と見なし、これを支持するようになったので自然反論は収まっていった。

 もっとも確信犯的にこの制度に登録せず、実力を持って堂々と社会に"ヒーロー"として認知させた者も居なくなることは無かった。だが、そんな強者は心技体が揃った精神的にも成熟している本当の勇者であり、それは10年に一人か二人出現すれば良い方である。大概の者は"暴走行為"と見なされる行動を取った時点で"正義の味方"の先輩方やらきつい所では連合政府の対テロ特殊部隊からお灸を据えられる羽目になるのであった。

 ちなみにこの制度は所謂能力者だけに留まらず、後に警察の捜査に協力する『名探偵』という職業へと結びついていくのであるが、これはまた別の物語である。






「とまぁこういう訳で、超能力者霊能者、その他にもハッカーやら。とにかく一般人には無い能力を持つ能力者達の行動が治安活動を妨害する事例が多発してきたので、連合政府としても彼らを規制する必要が出てきた訳です。もうそろそろ政府からも発表されるはずですが、特殊能力保持者には登録を義務づけられるはずです。残念ながら扇さん達も例外ではありません」

 情調に所属して、実際にも暴走行為を制してきた錦織は、その時の苦労を思い出しながら実感の籠もった声で連合政府の方針を説明し終えた。
 それに引き続き、美神が再度GS協会への入会を頼み始めた。

「政府の方針にも有るとおり特殊な能力を使用する者には、本人の意志がどうであれ使用した後の責任が問われてきます。それは私たち霊能者でも例外ではありません。いやむしろ誰の目にも見える形で幽霊事件が多発している今では、こんな言い方は嫌かもしれませんが、確実に信用のおける業者であるかどうかを依頼者から問われることになります。その上魔族によるテロ事件も予想される現状では、個別に活動していては除霊するつもりが逆に魔族に殺されることも考えられます」

 錦織と美神の説明を聞いた扇お婆さまは、溜息を一つついた。

「先ほども言ったように時空融合からこちら、確かにGSと比較されることが増えてきておる。それに魔族とやらの逆襲を考えない訳ではない。現にわしらも結構危ない橋を渡ったこともある」
「では?」
「うむ。GSに所属するかは翔子と舞子にも聞かねばならぬが、とりあえずGSへの加入を考えておこう」

 連合政府の方針を聞いた扇は、これほど能力者が出現した現状を顧みてGSに限らず何処かの団体に加入する必要を考え始め、加入を前向きに検討することを約束した。

「ありがとうございます。ところで、先ほどからお名前の出ている翔子さんと舞子さんはお留守なのですか?」

 美神美智恵は扇にお礼を述べると同時に、先ほどから名前の出ていた翔子と舞子の姉妹がこの場にいないことを扇に尋ねた。

「二人なら剣崎と池田の坊主と待ち合わせじゃ。今頃渋谷に着いておるじゃろう」
「渋谷ですか?」
「うむ。剣崎が香川の
鴉玉から人捜しを頼まれての、その手伝いに行ったんじゃよ」

続きます。


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少年エスパー同盟 イナズマン 石ノ森章太郎 そう言えばイナズマンFにタイトルが変わったら消えて無くなったんだっけ?
ウルトラスーパーデラックスマン 異色短編集から
「ウルトラスーパーデラックスマン」
藤子・F・不二雄 SSFWではすでに死んでいます。
『貴様が正義なら俺は悪だ』と決め台詞を放ちながら乱入してくるアンドロイド 映画「ハカイダー」 石ノ森章太郎 『闇』シリーズではこれ以上出てこないはずです。たぶん。