作者:アイングラッド

 スーパーSF大戦
 第23話 怪獣迎撃戦

 第三新東京市にある芦ノ湖の畔で武装テロとの戦闘行為が行われたが、それとは無関係に喧噪に包まれている場所がある。
 第5使徒迎撃作戦に於いてオフェンスを担当するマイクロガンバスターとディフェンスを担当する3機のエヴァンゲリオンが陣を構えているこの場所である。
 現在マイクロガンバスターは主機である縮退炉が極小出力での安定供給が出来ないと云う問題の為にコンデンサーとのマッチング調整を行っている最中だったのだ。
 さて、変化の兆しは些細な事から発生していた。
 これにより、戦いはより混迷の度合いを増して行くのだが、神ならぬ観測者には予想も出来ない展開を迎え始めていた。
 使徒迎撃の隙を突き第三新東京市の地下に眠るジオフロントを占拠しようとした武装テロリスト『死ね死ね団』だったが、あっさりと撃退されその影響力を無くしていたはずであった。
 しかし、死して尚日本人に向けた悪意を残していたのだ。
 劣化ウラン弾、硬度が高く高いエネルギーを有する劣化ウランを用いた弾芯は戦艦薩摩の装甲に命中し砕け散っていた。
 だが、低レベルとは云えども放射性廃棄物である、環境に悪影響を有しており、そしてここは芦ノ湖なのだ。

 第5使徒が御殿場で迎撃され、再度の侵攻を迎撃しようとしていた自衛隊は撃破された死ね死ね団の残存戦力を確認する為に部隊を派遣していた。
 比較的桃源台港から近い位置だったのでLAV【軽装甲車】に搭乗した隊員達は破壊された戦車の残骸へと注意深く接近する。
 湖に程近いこの場所は薩摩の砲撃により地形が変わってしまっていて、対戦艦用の徹甲弾によって破壊された戦車は爆裂によって木っ端微塵になって周囲に散乱しており、比較的大きな残骸の中に残されている遺体も損傷が激しく凄惨な様子を見せていた。
 屈強な心を持つ陸上自衛隊の隊員達であったが、流石に気分の良い物では無い。
 心持ちゲンナリしながら周囲の捜索を行っていた彼らの耳に嗚咽にも似た唸り声が届く。
 おぉん、と残響が耳に障りながら消えて行くが、折り重なるようにその唸り声は連なっている。
 風鳴りにしては静かすぎる天気に、隊員達は不気味そうな顔をして辺りを見回す。

「おいおい、心霊現象とか洒落にならないぞ」
「はは、お前そんなもん信じちゃってるわけ?」

 経験の低い若い二等陸士が同僚の怯えた様子に馬鹿にした感じで軽口を叩くが、隊を率いている経験豊富な陸曹長が感慨深げな口調で若い隊員を窘めるように云った。

「……災害出動でな、大量の人が亡くなった現場に派遣された事のある隊員なら、誰にでも経験のある事なんだよ」
「そんな莫迦な…」

 オカルトなどと云う不真面目な話題など口に出す事も憚れる陸曹長が出した言葉に若い隊員は口篭もるが、同じ隊に居る経験の多そうな曹達は思い思いに口を開く。

「俺は御巣鷹山だな」
「僕は阪神で」
「自分は福島ですね」
「科学的には証明出来ないだろうが、現場ではな。南無阿弥陀仏」

 敵とは言えども死んだ人間に恨みを抱かないのが日本の流儀であり、亡くなった者は既に仏さんなのである。
 『憎まず、殺さず、許しましょう』とは全日本正義の味方協会会長の月光仮面(仮名)氏が提唱した『正義の【味方】』の定義のひとつである。
 生きている相手に対して許すのは難しい事である。
 だが、つい先ほどまで武力侵攻してきた相手であっても亡くなった相手に対して鎮魂を祈念するのは可笑しな事では無い。
 しかし残念ながら、この場合は相手が違っていたのだった。
 軽く地響きが起き、『キュゴゥンン』と不気味な重低音の声が轟いた。
 既に去っていたが戦艦薩摩との戦闘水域の方からほのかな光、劣化ウラン弾の残骸からチェレンコフ光が放射されており湖面の下に太長い何かが蠢いているのが見て取れた。

「何だアレは」
「芦ノ湖だから、アッシーかな?」
「足ッシー、ウッ…嫌な記憶が」

 若干名バブル期の記憶にトラウマを刺激される者がいたが、その他の隊員達は警戒態勢でその様子を観察する。
 だがその時、彼らの脳裏に響き渡るユニゾンした『『ah-~』』の声。
 すわ第三勢力が出現かと警戒を増すが、謎の怪音声とユニゾンの声は会話するように強弱を付けて響き渡る。
 一分ばかりした後、双方の声は止み、湖水の触手もチェレンコフ光を発する放射性物質を取り込んだ後に姿を消失させた。

「心霊現象怖ぇ~」
「いや、今のはソレジャナイ感が…隊長、報告します?」
「一応、特異生物部の管轄だからな。報告だけはしておこうか」
「怪獣Gメンですか、了解です」

 これによって特異生物部にも連絡が行ったのだが、戦場のど真ん中にマットジャイロで乗り込むわけにもいかず結局彼らが芦ノ湖に到着するのは事が済んでからの事になる。
 さて、そうしている間にも御殿場市での戦いに敗退した第5使徒は非常に低速だが第三新東京市へと戻ってきており、マイクロガンバスターのバスタービームで撃墜する計画であるが極小威力での出力調整に難があり未だに調整中であった。
 そこで現在の布陣はエヴァンゲリオン3機が正面に立ちATフィールドにて防護の構えを取り、バスタービームが撃てるようになり次第攻撃を開始すると云う泥縄的な体勢になってしまっていた。
 正直、エヴァパイロット達は連戦に慣れておらず披露の度が激しかったのだが、エントリープラグの状態を銀英伝のタンクベッドほどでは無いが短時間の睡眠で疲労回復が認められるモードに変更し休息を取っていた。
 碇シンジは朦朧とした意識の中でコール音を聞いた。
 エントリープラグのインテリアは人間工学に基づいた形状になっていて、耐衝撃、耐Gに優れていたが意識消失状態から覚醒させる機能も充実している。
 軽いショックと振動でスッキリと覚醒したシンジはキョロキョロと周りを見回すが、耳元に聞こえてきた惣流・アスカ・ラングレーの声に自分の場所を思い出した。

「ようやくお目覚めね、シンジ」
「あ、アスカ、おはよう?」
「使徒が戻ってきたわ。自衛隊の皆(みんな)が頑張ったみたいね。通常兵器だけで使徒に損傷を負わせたのよ。侮れないわね」
「あはは、そりゃあ…今の自衛隊ならね」
「シンジ君、現状の報告をします」

 シンジがアスカと会話をしているとアスカが映し出されたエントリープラグ内の小モニターの左側に綾波レイの小モニターが開き、真剣な眼差しで口を開いた。

「あ、うん。どうぞ」
「第5使徒3rdは自衛隊のサンフラワー作戦によりコアに達する損傷を受け第三新東京市に向けて進路を変更。ただしコアに達する損傷を受けた後に自動修復により形状を初期状態に戻しているわ、なのでATフィールド等の機能の低下があるかは不明です。第三新東京市に達するまで予想時間は10分ほど。現在、マイクロガンバスターのバスタービームの再調整に手間取っているから、私たちで食い止めないと」
「ATフィールドだけで止められるかな。あの攻撃は、元の世界でも直接浴びた事があるから」
「大丈夫、予備が届いたから」
「予備?」
「ええ」
「シンジ、これよこれ。第5使徒2ndの時に使用した南原コネクションの超電磁コーティングとさっき支給されたマーカライト塗料を塗ったばかりのサーメット製の盾よ」
「サーメットってなんだっけ?」
「耐熱性と耐摩耗性に優れて脆くて欠けやすい欠点がある金属の事よ。今回は耐熱性を考慮して使われているらしいわね」

 後に南原コネクションで建造される事となる超電磁ロボ・コンバトラーVで採用される構造材の前々段階の硬質化合物を焼結した複合素材であるが、現時点に於いても耐熱性に優れている事から試作段階の物を使用した経緯がある。
 コンバトラーVに採用された際には発達した分子工学によって巨大分子化した素材を組み合わせた極めて強固な超合金となって結実していたが。

「へー、どれどれ?」

 シンジはアスカが持つ盾に初号機の右手人差し指を伸ばしてその表面に這わせるが、途端にアスカから怒声が浴びせられた。

「こらっ、まだペンキ塗り立てだってぇ~の! マーカライトが薄くなっちゃうじゃないの」
「あ、ゴメ」
「ん~?」

 とエヴァンゲリオンパイロット達はコミュニケーションを取りながらそれぞれに盾を装備するが、攻撃用の兵装が用意されていなかった。
 今回は、オフェンスをマイクロガンバスターに任せてディフェンスに専念する事になってしまったのだ。
 エヴァンゲリオンが用いる兵器は複雑な機構を有する精密機器が多い。
 ここがNERV本部ならば予備も整備も万全なのだろうが、本来の第三新東京市も存在せず日本連合の特機自衛隊の整備能力にも限界がある以上仕方が無いのだ。
 何しろ時間は無い、第5使徒ラミエルは空を浮遊して移動する、障害物など山地の高低ぐらいの物だった。

「見えた。第5使徒ラミエルを目視で確認したわ。私たちはマイクロガンバスターの前方でディフェンスを組むわ」
『うむ、マイクロガンバスターの調整にはもう少し時間が掛かりそうだ』
「え~ナニそれぇ~」
『シュバルツシルト半径を共有する二つのマイクロブラックホールが光速で回転する事により剥き出しになった特異点から放出されたエネルギーを利用するのが縮退炉の原理だ。その制御の困難さは君には理解出来るはずだが?』
「真空からエネルギーを取り出す相転移炉とか鏡面反転させる対消滅反応炉の方が簡単そうに思えるわね。管理官の目を欺いてX線がチェレンコフ放射を行わずに超光速を実現する位には難しいわね」

「レイ、アスカが何を言ってるのかさっぱり分からないんだけど」
「大丈夫よ。私にも分からないから」

「来たっ! シンジ、レイ、ATフィールドをっ!」
「ATフィールド全開っ!!」

 シールドを構えて待ち構えていたエヴァ3機の正面に第5使徒ラミエルから発射された荷電粒子砲が到達した。
 3機が三重に張ったATフィールドにより軌道を変更させられた荷電粒子の束は芦ノ湖の湖面に炸裂し、水蒸気爆発を発生させた。
 湖底を灼き切った強烈な熱量により湖水は沸騰し、少なくない水棲生物群を殺傷した。
 事前に芦ノ湖水軍の艦艇及び観光船は元箱根の港に避難しているが、発生した津波によって岸壁に打ち上げられ座礁、以後の行動は使徒殲滅後の復旧作業まで停止せざるを得なかった。
 掻き混ぜられた芦ノ湖北部の水温が平均30度近辺まで上昇し、着弾地点では沸騰した湖水が激しい湯気を上げて第5使徒ラミエルとエヴァの視界を遮る。
 その為に芦ノ湖内で発生し始めていた特異な生物反応の発見が遅れたのも無理からぬ事ではあったのだが。
 荷電粒子を凌ぎきったエヴァであったが、エヴァチルドレンの消耗は予想以上だった。
 そもそも戦闘は精神に多大なストレスを与える、それが立て続けに襲い来て反撃すら適わない。
 先の見えない展望は彼らの心に激しい苛立ちと過剰な体力を消費する事を強いていたのだ。

「くっ、使徒はどこへ」
「アスカ、敵が見えない、どっちから来るのか」
「シンジ君、アスカ、慌てないで」
『狼狽えるな3人とも、二子山のレーダーサイトから情報だ。第5使徒ラミエルは正面から左へと移動し、現在側面へと回り込もうと移動中だ。陣地を移動し、マイクロガンバスターを防御しろ』
「了解。シンジ、レイ、行くわよ」
「分かったよアスカ」
「分かったわ」

 対ブラスト姿勢の様な格好で盾を構えていたエヴァンゲリオン3機は50メートルの巨体を静かに立ち上がらせて地響きを立てて使徒の正面に立とうと歩き出した。
 人造人間としての機能は伊達では無く完全機械のロボット兵器よりもスムーズに動作しているが、エヴァパイロットの疲労が表に出ているのか、何時もよりも猫背気味の姿勢で盾を引き摺りながら重々しく行動している。

『むぅ、これはいかんな。アマノ』
『バスタービームの出力は想定の5倍程度までは押さえられていますが』
『それでは相克界への影響が未知数だ。下手をすると地上が相克界に灼かれてしまう』
『はい』
『どうすれば良い、どうすれば』

 正直なところ、オオタは苦悩していた。
 大規模な戦闘は首都圏で発生している為、特機自衛隊に所属するゲッターロボなどのスーパーロボット軍団は現在中野区周辺で暴れているドクターヘルの機械獣軍団と戦闘を繰り広げている。
 民間人に与える被害からしたら当然の事なのだが、正直、使徒が目的を果たした場合の被害が想定出来ない、最悪サードインパクトもあり得る可能性はある。
 但しサードインパクトの起因となる物が不明で、エヴァパイロットの惣流アスカ・ラングレーと綾波レイの二人が持っている知識しか根拠となる物が無い。
 この場合、一民間人として育てられ、専門の教育を受ける機会の無かった碇シンジは除外する。
 それ故に高火力を誇るスーパーロボット達はこの地には居ない、唯一スーパーロボット博物館に動態保存されているマジンガーZ改が現在遊撃任務に就いているだけだ。

『『お困りのようですね』』
「これで困っていないように見えるのなら眼科に……今のは誰だ?!」

 緊迫する司令室の内部に似つかわしくない涼やかな声がユニゾンにて問いかけてきた。
 思わず返事をしてしまったオオタが疑問の声を上げるが司令室内部に居る人員の誰にも心当たりの無い事であったので、思わず目線を合わせて返事を返した。

「いえ、誰も声は掛けていませんが」
「幻聴か? 若い女性の声がユニゾンで」
『『いいえ、幻聴ではありません』』
「誰だ!?」

 突然オオタの耳元に聞こえてきた言葉に彼は自分の正気を疑ってしまったが、再度の声掛けに声がした方を向く。
 すると、簡易テーブルの上にある魔法瓶の横に南洋風の貫頭衣を纏った二人の美人【若い女性のマスコミ的表現】が立っているのが目に入った。
 オオタは隻眼の目蓋を瞬かせ、目をハンカチで擦ってみたが魔法瓶の横に立つ身長30センチ程の小美人の姿はハッキリとその存在を主張していた。

「これは夢でも見ているのか」
『『いいえ、夢ではありません。私たちは機龍の時の約束を果たしに来たのです』』
「機龍。特異生物部の報告書で見た覚えがあるな。たしかシラサギの運用目的がゴジラの骨を用いたメカニック・ゴジラの運搬だった、か。む、では君らはインファント島の」
『『はい。日本がゴジラに襲われた時に機龍を使わないでくださいとお願いしました。その後機龍はゴジラと共に日本海溝で時の流れの中に葬り去られましたが、約束は約束です』』
「つまり、インファント島からモスラがここに向かっていると」
『『いいえ、もう既に来ています』』
「むぅ、いつの間に。しかし、モスラ一頭だけでは勝ち目は無いぞ」
『『いいえ? 私たちに賛同してくれた怪獣の方がひとり参加してくれるそうです。それに』』
「それに?」
『『湖の中にもうひとり、ゴジラの血を引く怪獣が目を覚まそうとしています』』
「芦ノ湖の中だと?!」

 オオタが思わず芦ノ湖の方へ目を向けると、丁度戦艦薩摩が武装勢力の保有する戦車と交戦した湖岸と湖水が稲妻のような紫電に包まれた。
 戦車を繰り出した武装テロリスト達の中には、使用済み核燃料を鉛で包み込んだ劣化ウラン弾を使用していた物もあった。
 劣化ウランは空気に曝されると凄まじい勢いで酸化し、激しく燃焼する。
 非常に重く堅い劣化ウランで弾頭を造るのは相手の装甲を破るのに効果を発揮し、燃焼する事で相手にダメージを与える。
 元々は廃棄するしか無い使用済み核燃料を再利用出来るという二重の費用効果にアメリカ軍等が採用したのだが、命中し燃焼した際に放射性物質を辺りに撒き散らして深刻な放射能汚染を及ぼすのだ。(アメリカ軍は非常に軽微な数値であるので考慮する必要は無いと発表)
 その為、先ほどの戦闘跡には看過し得ないレベルの放射能が蓄積していたのだ。
 戦闘によって撒き散らされた劣化ウラン弾と劣化ウラン装甲と使徒の放った荷電粒子ビームによって殺菌され唯一生き延びたG細胞が活動しやすい高水温に保たれた湖水。
 その条件に於いて急激に放射性物質を取り込み細胞分裂を始めたG細胞は一気にその形を取り戻して行った。
 未だに湯気立つ湖面の下を這いずるように数え切れない筋が広がって行く。
 この時、特異生物部の三枝部員がこの場にいれば直ぐに気がついただろう、彼女がG細胞と初めて出会い、DNA操作によって生まれたゴジラと薔薇と人間のハイブリッド遺伝子を持つ怪獣の事を。
 弦楽器を引き絞る様な切ない咆喉が辺りに響く。
 第5使徒ラミエルはそんな異常に全く反応する事無くエヴァとマイクロガンバスターのみを標的として攻撃位置を確保する。
 使徒が荷電粒子砲のスリットを輝かせるとエヴァ3機は直ぐに盾を構えて防御体勢を構築する、だがその直後に湖面から無数の植物のツタが弾かれるように空中の第5使徒ラミエルに絡みついた。
 攻撃直前だった為かATフィールドが解かれており、直接本体に触れた触手は溢れた荷電粒子砲のエネルギーに弾かれ破裂する物も多かったが、粒子加速器をショートさせてエネルギーを奪い取ったG細胞は一気に本体を成長させて最終形態へと復活を遂げた。
 100メートルを優に超える巨大な顎を持ち、全身を植物由来の緑色に染め上げた大怪獣ビオランテは芦ノ湖の湖面から巨大な本体を持ち上げ、根っ子に当たる数百本の根体を蠢かせて使徒へと直接向かい合う。
 怪獣王ゴジラに似た形相のビオランテの開いた口腔から緑色の樹液に似た液体が吐き出され、瀑布のような勢いで粘性の強い液体は触手の隙間から使徒の全身に絡みつきベットリと固化して行く。
 エネルギーを吸収する機能を持っているのか、使徒が荷電粒子砲を撃とうとする度に放電現象が発生してその威力を低減させていた。
 だが、触手のバリアーによって荷電粒子砲をしのぐビオランテであったが吸収しきれないエネルギーを浴びて各所が吹き飛び、炭と化した部分から炎を上げており劣勢である事が見て取れた。
 漸く本来の目標であるマイクロガンバスター以上の脅威と認定したのか、第5使徒ラミエルはよろめくビオランテに荷電粒子砲を放つ頂点を向けた。
 直ぐさま防御の触手防壁を立てるビオランテ、バチバチと樹液の放電によりエネルギーのロスを出しつつも第5使徒ラミエルは構わず粒子加速器にエネルギーを注ぎ続ける。
 その様子をエヴァパイロットの三人は呆気にとられた表情で眺めていた。

「いきなり怪獣大決戦が始まっちゃったんだけど」
「私たちに攻撃の手段が無いんだから、手を出す訳にも行かないでしょ!? 」
「でもあの怪獣は、僕たちの代わりに戦っているんだ」

 シンジは自らの代わりに燃やされ破壊されながらも使徒に喰らいついて行く怪獣に憐憫の情を抱いたのか『彼女(ビオランテ)』の手助けを出来ないか考える。
 だが一個人としての感情で遂行中の任務を放棄する事は使徒を倒す事を放棄する事に直結する。
 レイは冷静にシンジへと現状認識を促す言葉を投げかけた。

「シンジ君、私たちに下されている命令はマイクロガンバスターの防御よ。使徒に対する確実な攻撃手段をなくすわけにはいかないもの」
「うん。それはそうなんだけど」
「だー、もう、優柔不断は禁止よシンジ。あ、何あの雲?」

 山岳特有の稜線越えの雲が一筋第5使徒ラミエルの背後に近づいてきた様に見えた、が、一気に使徒の背後を取ったそれは4枚の羽根を極彩色の模様に変化させその本性を現した。
 翼端長が100メートルを遙かに超す巨大な蛾の怪獣の姿がそこにあった。

「なにあれっ!?」
『『モスラです』』
「え? 何? 幻聴?」

 アスカは思わず問いかけるが返事を期待したものでは無かったろう、だがそこに返答が帰ってきた。

『『インファント島の守護神、モスラです』』

 アスカ達3人の脳裏に小美人達のテレパスによる言葉が響いてきた。
 テレパシーとは共感力を精神波にて共有する一種の類感場を生成するのだが、感受性の高いエヴァパイロット達は彼女達のメッセージを言葉としてだけではなく映像や威力と言ったレベルで受け取っていた。
 脳裏にアメリカ軍の原水爆実験場として多数の核攻撃を受けたインファント島の島民達が赤い汁を啜り放射能障害と闘いつつ生活の場としていた地下大洞穴にて守護神モスラを讃える歌を歌い上げる光景や、三式機龍を巡って怪獣王ゴジラと戦う成体モスラと幼生モスラの姿、使徒に匹敵するゴジラとそれに対抗出来る怪獣達の姿等々が瞬間的に脳裏に浮かび、当時の経緯までもが理解出来た。
 その情報のやり取りは瞬時に行われ、経過した時間はわずか。
 モスラは第5使徒ラミエルの後方へと突撃し、体当たりにより姿勢を崩す事に成功した。
 第5使徒ラミエルは直ぐに反対側の頂点にて反撃の荷電粒子を放とうとするが、ビオランテから再度の樹液状の液体が噴霧された為にATフィールドを形成してそれを防いだ。
 その隙にモスラは大きく羽ばたいて上空へと遷移し、箱根の外輪山の周囲をマッハを超える速度で飛翔する。

「使徒も大概だけど、あれはまさしく『怪』獣ね。生物の常識を越えているわ」
「でも、私たちに加勢してくれている。だけど、決め手に欠けているのは確か」

 使徒の標的が完全に怪獣達に向けられている状態であったが、マイクロガンバスターのバスタービームはこの時点に於いても出力がハンチングをしていて不安定であり、マニュアルによる安全回路の一部停止により時々縮退炉から漏れた重力波が可視光線を赤方変移させたり重力傾斜を引き起こしている程である。
 そのような時にオオタに一つ報告が入っていた。
 それは気象庁による地震警報でありマグニチュードも小さく気にするほどのものでは本来無かったのだが、ただ一点、無視し得ない情報が入っていたのだ。

「震源が移動している?」
「はい、太平洋沖合、初島近海で発生したマグニチュード1の地震はその震源を毎秒100メートルの速度で移動させており、最終的には」
「ここ、第三新東京市に向かっていると云うのか!?」
「はい」

 大地震に触発された群発地震ならともかく移動性震源など聞いた事も無い。
 特に箱根は温泉が有名な事からも推測出来るが今なお活発な休火山であり、大涌谷などでは小規模な水蒸気爆発も観察されている。
 箱根は芦ノ湖というカルデラ湖を持つ外輪山で25万年前には裾野の広さから推察すると標高2,700mの古箱根山があった、そこに震源が移動していると云う事はジオフロントを埋めた大規模な火山活動が迫っている可能性も推測された。
 尚、オオタの思考から無意識に特異生物が地中を移動している可能性は排除されていたが、非常識の権化たる宇宙怪獣との戦闘ならばともかく地球産の生物にそれほどの能力を持つものなど理解の範囲外だったのだろう。
 ともあれ、第5使徒ラミエルvs.ビオランテ+モスラ 怪獣大決戦に新たなファクターが参戦しようとしていた。

 芦ノ湖の南岸にある元箱根町は使徒との戦闘で発生した津波により多大な被害を被っていた。
 通常観光船が停泊している港には双胴観光船、そして戦艦薩摩が陸上に打ち上げられて身動きが取れなくなっていたし、町並みも大量の湖水によって被害を生じていた。
 幸いにして避難が進んでいた為に人的被害が無かったのが幸いだが、一般車両の通行は困難な状況である。
 そこへ進入してきたのは自衛隊の機械化部隊で、兵員輸送車と装甲車を連ねて比較的高速で箱根ターンパイクを走破し箱根町から冠水した道路を北回りで走り、芦ノ湖北岸の桃源台を目指していた。
 目的は戦闘の混乱をいい事に第三新東京市地下のジオフロントに進入しようとする組織が存在している事が確認されたので、警備以上の火力を持つ機甲戦力を派遣し進入を防止する事。
 使徒との戦闘地域への派兵に対使徒戦闘への懸念が生じたが、ジオフロントの価値を考えると二の足を踏んでいる暇は無かったのである。
 現在、使徒の攻撃の余波によって芦ノ湖周辺の道路事情は悪化しており、倒木やアスファルトの剝離、路面の崩壊が多数発生していて大型の耐弾タイヤを履いた装甲車であっても足止めを喰らってしまい立ち往生を余儀なくされていた。

「ちぃっ、ここも駄目か。中迫さん、別のルートを検索してくれ」
「むぅ、ここも駄目となると林道か、しかし幅が取れない。どうにかして倒木を退かして移動した方が」

 四十代の部隊指揮官が現地に詳しい下士官にルートの変更が出来ないか質問をするが、芳しくない返答しか得られなかった。
 今のところ可及的速やかな移動は求められていないがノンビリするわけにも行かず、先ほど先行させた偵察小隊を考える。

「うーん、偵察のオートバイが帰ってこないと決断出来ないか。最悪倒木は榴弾で吹き飛ばすかウインチで除去するか。む、地震?」

 地図を広げたボンネットの周りで行動を検討していた面々が突然揺り動いた地面に違和感を感じ、周囲を見渡す。
 開けた森の中に街道が走りそこを倒木が塞いでいるのだが、地面の下の方から断続的に何かが崩壊するような轟音が地響きと共に移動していた。
 突然に後方の湖面方向2キロほど離れた地面が盛り上がり地面に生えていた樹木が根っこごと持ち上がる、断続的にその盛り上がりが100メートル単位で移動して行くのだ。
 その異様な光景に部隊員達は総立ちで地面の下を移動するナニかを強く意識せざるを得なかった。
 彼らが無線にて報告したその光景は気象庁が観測した移動震源の位置と合致しており、直ぐさま特異生物部が統括管理している特異生物データーベースに問い合わせが行われる事になった。

 使徒との戦いが続くマイクロガンバスターとエヴァを指揮するオオタ部隊の指揮所のコンソールのひとつに特異生物部のデーターベースへのアクセス権が与えられ、オペレーターが条件を入力すると直ぐに可能性の高い件名が上げられたのだが、そこで挙げられた最大の件名に赤字で強調された「WARNING」が表示された。

「これは……コードGですっ!」
「コードGだと」

 Gと云う頭文字。
 そこに込められた特異生物部のメンバー達の関心度の高さは門外漢の彼らには理解が及ばなかったようだ。
 オオタも大声で聞き返したが、等級がGならばそれほど高くはないのでは、と考えてしまう。
 通常はA、B、Cと等級は下がって行き、Aの上にスペシャルのSが付く事はあってもGである。
 上から7番目ではそれほどの脅威ではないのではないか。
 しかし、WARNINGの文字がそれを裏切っていたし、最大限の備えを勧告している。
 ここに特異生物部のメンバーが来ていない為に、コードが示されても適切な判断が出来ないのだ。
 悩む彼らが特異生物部へと連絡を取ろうと受話器を持ち上げた時、オペレーターのひとりがGと云えば、と推測をこぼす。

「G、Gか。Gと云うと……ゴキ、ブリ?」

 彼が生理的に無理と公言しているそれを口にすると、同じくゴキブリを苦手とするオペレーターが周囲を見渡しながら黒いそれの姿を探し出しながら反論する。

「どこに!? 居ねえじゃねぇか、やめろよな。うぅ、Gとは云えゴキブリとかあり得ないわい」
「いや、ゴキノザウルスって云う巨大なゴキ…公害怪獣が出たと云う記録が公害Gメンと云う組織の記録に」
「マジッ!! いや、そんな訳があるか、アレ、あれだよ。ほら、GだからGの…影忍とか」
「そんな漫画があったような、つまりG……ガンダムかっ?!」
「アニメじゃないんだぞ、特異生物部のデーターベースなんだから怪獣とか恐竜の類いだろ?」
「本当にゴキノザウルスがっ!?」
「それは分からないが、そうだなGと云えば」
「Gと云えば?」
「G……ガッパとか」
「タコでも咥えてそうだな。確かギロンだかギロロだか居たような気がしたが」
「ギララじゃなかったか? いや、ギルギルガンだったか?」
「ガイッガーンとかガマ鯨とかも聞いた覚えがある」
「ゴモラとか云うのがニューヤイヅで確認されたと聞くが?」
「ゴルゴン、ゴドラ、ゴメス、ゴルザ、ゴライアス、ゴンゴロスも候補から外せないな」
「ゴに限らないだろ、グリーンモンスとかグドンとかグランゴンとか云うのもデーターベースに載っている」
「そう云えば、特異生物部の奴らギャオスとか云う怪獣を目の敵にしているらしいぞ」
「確かにそれならWARNINGが点くのも納得が行くが」
「ふぅむ。いまいちピンと来ないな」

 無数の時空が融合したこの日本には、怪獣がフィクションであったり身近な脅威であったりした世界から多種多様な人達が集っている。
 この司令室でオペレーターをしている彼らもその例外では無い、その泡のように湧き出てくる多数の意見に飽和気味であったが、その内の一人が何かに気づいたように目を見開いて口を開く。

「まさか、Gと云えばアレの事じゃあるまいか?」
「アレ? アレとは何だ」
「陸、海、空、あらゆる領域で活動が確認されているアイツの事だよ。ほら、あの緑色の~Gって云えば? ……っ! そうだ、ガチャピンだ!?」
「何でも出来る恐竜だからって、地底を移動は出来ないだろうよ」
「では何だって云うんだ!?」

 いい加減に結論の出ない話に焦れたのか、怒鳴り声が響いて周りの皆は口を噤んでしまうが、一人のオペレーターが意を決して意見を述べた。

「皆(みんな)明言を避けているみたいだから、言うが。Gと言えばゴジラ、ではないだろうか」

 ゴジラ、と言うただでさえ大規模自然災害に匹敵すると云うのに放射能まで撒き散らす非常に厄介な単体の特異生物にオペレーター達は一気に緊張の色を浮かべるが、データーベースを精査していたオペレーターがそれを否定した。

「いえ、ゴジラの可能性は嬉しい事にネガティブです」
「じゃあ、なんだと言うのだ」

 オオタが不明瞭な答えに苛立ちを隠せず問い返すが、それに答えたのは先程の小美人達だった。

『『ガメラです』』
「ガメラ。えーっと。特異生物部のデータベースでは。人類では無く、ガイアの、地球の守護神【ガーディアン】だと、書かれていますが」
『『一万年前、ムー大陸の科学者達が、敵対するアトランティスの科学者が造り暴走してしまった『人類を殲滅する』生物兵器であるギャオスに対抗する為に造った存在、それがガメラなのです』』
「ムー大陸の文明とか。時空融合前だったらムーのネタだろって笑い飛ばせたんだけどな」
『『彼は地球上に存在する全ての生命を否定する使徒に対して強く憤りを感じています。彼はモスラと共闘してくれると、そう言っているのです』』
「分かるのか、姿も見えないのに」
『『私たちには心で感じるテレパシーがあります。距離や障害物は関係ないのです』』
「エスパーの研究は地球帝國でも行われていたな。確か、ピラミッドパワーを使って光速を越えた距離の存在を瞬時に感知出来るレベルの被験者が報告されていた。あながち嘘とは言い切れんな」
『『私たちは嘘を吐く事が出来ません、テレパシーでコミュニケーションをする者達の会話とはそういう物なのです』』
「そうか、どの道、我々はマイクロガンバスターの縮退炉が安定するまで攻撃を行う事が許されていない。バスタービームは恒星間兵器に搭載されている兵器だからな、撃っている最中にクシャミでもしたら地球を輪切りにしてしまう。そうなっては本末転倒だ」
『『……私たちの敵にはならないで下さいね』』
「承知している」

 使徒迎撃の要であるマイクロガンバスターが調整に手間取っている今、使える物は猫の手でも借りたい状況である。
 時空融合後に敵か味方か判別出来ない戦力が突如出現して敵対したり、加勢してきたりとその手の状況は実のところこれまでにも先例があったのだ。
 よって、敵に対して攻撃をする、こちらに加勢すると明言している事からも『ガメラ』に対して攻撃をする必要は無いと判断を下せた。
 だが、人類の持つ常識を持っていない巨大生物の行動は、攻撃の意志を持たずに被害が生ずる恐れがある。
 よって周辺に対して警告を勧告し、中央に敵味方識別の連絡を入れ、戦場での混乱を少しでも防ぐのがこの司令部の仕事だ。
 オオタが直ぐに麾下の自衛隊に対してガメラの予想移動経路と地上に与えられる被害範囲からの退避勧告を行い、首都圏での大規模武力テロ対応に忙しく情報が錯綜していそうな防衛省の地下指揮所にも一報を入れていた。
 一方そのころの東京ではDr.ヘル麾下の機械獣軍団が中央線沿線で暴れており、かと思えば品川駅を改造人間を含む武装集団が占拠しており、更に各地で無数の武装テロが発生していた為にそれらへの対処で手一杯であり、とてもではないが使徒迎撃戦への関与は出来る状態では無かったのだ。
 だが、特異生物の中に人類に対して友好な者がおり、テレパシーでとは云え交渉が可能な者がいるという情報は見逃す事は出来なかった。
 後日ではあるが、特異生物部への報告書にその旨が記されており、当事者が帰国した事を知った長峰と三枝は相当悔しがったという。
 さて、サンフラワー作戦にて第三新東京市へと戻ってきた使徒は細胞単位で残存していたビオランテがテロリストの使用して芦ノ湖に巻き散らかされたM1A1戦車の劣化ウランの放射能を吸収する事により復活し、無数の触手と緑色の消化液によって拘束され、モスラの一撃離脱攻撃によって動きを止めていた。
 だが、致命傷を負った訳では無い。
 むしろ自己修復能力によってジワジワと損傷を修復している次第である。
 モスラの鱗粉攻撃も致命的な損害を与えている訳では無かった。
 だがそこへ、第3の怪獣が地面を割って飛び出してきた。
 Gのコードネームを持つ最強種の一角、地下・地上・水上・空中とオールレンジな活動領域を持ちその全てで他の怪獣を圧倒する黒い怪獣。
 ガメラ。
 背中の甲羅で地面を割り砕き、一気に地上へと躍り出たガメラは大きく息を吸い込むと一転、口を大きく開きプラズマ火球を使徒へと叩き込んだ。
 強力な熱量にて青い結晶体を炎炙りにされた使徒はその構成物質を3割方崩壊させて地上にバラ撒くと、四角錐の頂点をガメラに向けた。
 今までの行動からすると荷電粒子砲の可能性が高く、幾ら頑丈な甲羅を持っているガメラと云えども酷い怪我を負うのは確実である。
 すると、ガメラは突然両手両足と頭を甲羅に引き込めた。
 亀族特有の防御体勢であるが、使徒の攻撃は強烈を極める。
 受け身が信条の亀族とは云えども危険が危ない事には変わらない、だが、引き込めていた手足と首の位置から猛烈に煙を噴いたかと思うとプラズマ火炎がジェットの様に吹き出し、自身の重たそうな身体を回転させ始めたのだ。
 まるで火の円盤のように炎に包まれたガメラの巨体は見る者の意表を突くかの様な行動を取った。
 浮いたのである。
 轟と物凄いエネルギーを吐き出しながら回転する甲羅は一気に上空へと飛び上がった。
 これはさしもの使徒も考えられなかったのか、体表面を加速させていた荷電粒子がボフンと云う音を立てて霧散すると『ヒィイイィイン』と甲高い音を立てて上空を縦横無尽に飛行するガメラを呆然と見上げているかのような反応を示した。
 もちろん、それを見ていた自衛隊員やノリコ達やシンジ達も目が点になっている。
 『だって亀が飛ぶんだもの。信じらんなーい』とは後日のアスカによる証言である。
 翼による揚力や重力制御に拠らないガメラの強引な飛行方法はその方向転換の方法もさる事ながら、運動エネルギーも膨大な物である。
 ヒラヒラと柔軟な翼をはためかせて可憐に妖しく飛ぶモスラの横を強引にエネルギーの噴射だけで重力や慣性力をねじ伏せてガメラが飛ぶ。
 そしてその勢いのまま『ガッ』『ゴッ』と鈍い音を立ててガメラが体当たりを開始した。
 その莫大な運動エネルギーは使徒のATフィールドを歪ませて使徒本体へもダメージを与える。
 こうもランダムに動いていると目を瞑って当たるを幸いに無軌道な行動のように見えるが、ガメラ自身は自分の行動を完全に制御していた。
 よほど三半叉器官を始めとした内臓器が丈夫に出来ているのだろうが、どうやって自分と相手の位置を知覚しているのかは不明である。
 同時に空を舞っていたモスラはテレパシーにてガメラとコンタクトを交わす、ガメラが一撃を与えて離れた隙を見て棘を飛ばして攻撃。
 使徒も攻撃を避けようとして懸命に身体を動かそうとするが、ビオランテから伸びた触手に拘束されギシギシと軋み音を立てるものの僅かな範囲に留まる。
 3頭の怪獣によりタコ殴りにされて、さしもの使徒もこのまま消滅するかと思われたのだが核(コア)の周囲を残して青い結晶体を剥がし落とすと、触手から逃れた使徒は上空へと、ちょうど富士山と同じくらいの高さまで上昇して静止した。
 ビオランテが空しく触手を虚空に伸ばすが既に遅く、使徒の剥き出しに近い核がギュンギュンと赤黒く輝きを増して行く。
 周囲2キロの距離を開けてモスラとガメラが周囲を旋回していたが、今までは体表に沿って加速していた荷電粒子を非常に低い収束率のまま大量に放出しナイアガラの大瀑布に飲まれた小舟のように翻弄された。
 単位辺りのエネルギー量は今までとは比較にならないほど低い、その為にモスラは鱗粉によるバリアー、ガメラは甲羅とジェット噴流によって直撃を防ぐ事が出来たのだが夜中が昼間に思えるほどのエネルギーの大放出はモスラ、ガメラの巨体を遙か彼方へとはじき飛ばして視界の彼方へと姿を消した。
 そしてついでとばかりにエネルギーを芦ノ湖に屹立するビオランテへと向けた。
 かなりの範囲に照射されたエネルギービームにより一瞬で蒸発した湖水、ビオランテも全身から金色の燐光物を放出しながら耐えたが、爆風と高エネルギープラズマの奔流によって建物や樹々が薙ぎ倒されて直径1キロメートルのクレーターが出来た時点で全身の肉体を金色の粒子に変えて宙へと消えていった。
 対象の消滅を確認した使徒は放出していたエネルギーを停止し、そのまま上空で不気味な停滞に入った。

 沈黙が続く中、シンジは改めて自分たちが戦わなければならない存在のバカげた戦闘能力に息を呑む。

「アレが、使徒」

 シンジのつぶやきを聞き、気圧されていると感じたレイは努めて冷静に状況を分析する。

「ギリギリで範囲から外れていたけど、あんなのの直撃を受けたらATフィールドだって持たないわ」
「ちぃっ、ちょっと、ガンバスターの調子はどうなのよ?」

 ディフェンスを担当している為に自ら動く事を許されていないアスカは焦れったそうに本部へとコールする。
 今回の迎撃戦に於いて高威力の爆弾では無く、マイクロガンバスターの有するバスタービームを用いるのは今後の使徒戦に対する方針を反映した物だ。
 現時点で使徒に対して投射した攻撃に於いて、既に戦術核並みのエネルギー量が地上戦で使用されているのは使徒戦と云う事実を以てしても尋常な事では無い。
 日本連合政府の方針として極端な熱量を地上で放出される事を嫌った為に、その対策として超科学の産物である恒星間超光速戦闘用のマイクロガンバスターを使用している。
 だが、宇宙を含めた全領域戦闘用のマシーン兵器であるとは云え、主戦場が宇宙空間である物を地上でいきなり使用した為か不調が続いていた。
 それもオオタが未来に開発する予定のガンバスターの発展型であり未来の地球帝國が開発製造した超高性能機であるマイクロガンバスター、バスターマシン四号、五号。
 用いられる科学技術も工業規格も現代地球では理解する事すら難しい隔絶した技術(西暦2245年には生産技術が途絶していた)の超科学技術を元にしている。
 現代科学では真空中の電磁波の空間伝播にエーテルの存在は不必要であると立証され、常識となっている。
 その証拠に、エーテルの存在が信じられていた百年前にエーテルの存在を立証しようと考案された実験方法がある。
 現代でそれと同じ実験方法を用いて超新星爆発に伴う重力波を観測した事があったが、実験結果を知った科学者達の中に『この実験でエーテルが存在したと証明された』と発言する者が存在しなかった位にはエーテルの存在は考慮されていない。
 にも関わらず、エーテルの存在を肯定したエーテル物理学を根底に置いた科学技術を元にマイクロガンバスターは製造されているのだから、ニュートン・アインシュタイン物理学に慣れた科学者達には運用が困難なのは当然なのであった。

 マイクロガンバスターの方はともかく、オオタの居る指揮所ではいきなり蒸発した湖による衝撃波で指揮所自体がひっくり返るような衝撃に襲われ、人員施設共に床に転がっていた。
 モスラの巫女たる小美人の二人はモスラが太平洋上の遠くまで吹き飛ばされた時点で泡を食って姿を眩ませていたので巻き込まれなかったが、近くでエヴァがATフィールドを張っていなければ危なかったかも知れない。
 現在、有線無線共に不通状態になっていて目視で確認出来る状況以外は不明なのだが、ほとんど核のみの状態になった使徒は上空にて周囲の空間を歪ませる勢いで圧力を発しており、異常な威圧を受ける。
 そもそも使徒に通じる兵器というのは限られているのだが、現在オオタが動かせられる兵力はここを守れるだけの陸上部隊とエヴァ3機、そしてマイクロガンバスターだけだ。
 採れる選択肢の無さにオオタは焦りを隠せない。

 とそこへアマノから通信が入る。

「コーチっ! 縮退炉の出力が4パーセントの出力で落ち着きました。予定より高いですが、如何いたしますか?」
「それが限界か」
「すみませんが、今回の任務中に更に低い出力で安定させるのは・・・私(わたくし)には自信がありません」

 アマノはオオタの期待に応えたい気持ちはあるのだが、このじゃじゃ馬の縮退炉は機動兵器に収まるサイズに木星を縮退させた物よりも高出力なエネルギーを持ち、炉の安定性は最悪だった。
 オオタも今までの状態を把握していた為に苦渋の決断を下す。

「仕方あるまい。バスタービーム照射用意。決して水平線より低い位置に向けるなよ!? 自然物、人工物もセンサーに捉えられる限り避けるんだ」
「了解、ノリコ、バスタービーム発射の用意を」
「はい、お姉さまっ!」
「コスモレーダー起動、百宇宙キロ圏内に障害物なし。行けるわ、ノリコっ!!」
「バスタァアアアッッビィイイイイイムゥッッ!!」

 マイクロガンバスターの頭部から光がほとばしり、使徒へと向かう。
 白銀の閃光が束となって使徒の張ったATフィールドと衝突し、あっさりと突き抜けた。
 ブルーのクリスタルに似た使徒の身体は、熱いフライパンに落としたバターの様に『じゅつ』と云う音を残して一瞬で蒸発し、その余波で上空の雲を消し飛ばした。
 そして電離層上層の大気をプラズマ化させた上に高エネルギーを付加し、広範囲に渡って太陽よりも強く発光を引き起こし、夏の明るくなり始めていた暁の空を昼間に変えた。

 自然現象を超えたビーム一発の威力にそれを観察していた一同を絶句させるには充分すぎた。

「少し、想定外の威力だったな、うむ」
『それじゃ済まないと思いますわコーチ』

 オオタが冷や汗を滝の様に流して呟くと、聞き咎めたアマノが突っ込みを入れた。

『直ぐに関係各所から事実関係についての報告を求められると思いますし、それに・・・』
「それに?」
『バスタービームはどこまで飛んでいったのでしょうね』
「予定では熱圏で拡散されるはずだったが」
『それじゃ済まないと思いますわ』
「ぐぬぬ」

 後日、鷲羽・F・小林博士が監督する観測班から関係各所へ報告があった。
『観測史上初めて相克界がたわんだ』
 時を置かずして神界を代表して小竜姫から日本連合政府に抗議の文が届けられた。
『神界への影響の大きい攻撃は世界の崩壊に繋がりかねないので、直ちに封印する事を《強く》要請致します』
 相克界に対して強い負荷を掛けた為に、この後に揺り戻しを始めとする時空融合現象が多発する要因になった訳である。
 ただし悪い事ばかりでは無かった。この夜は関東地方を中心にDr.ヘルや他の武装テロリストが暴れ回っていたのだが、時空融合を経験して危機に対する感度を上げていたのは政府や民間人だけではない。
 悪の組織もこの発光現象が武力行使をして目的を達するよりも早く、我の壊滅に繋がる危機である、と認識していた。
 都内各所で暴れていた機械獣や怪人、戦闘員は潮が引く様に姿を消して行き、使徒襲来を機に発生した同時多発武装テロ事変(警察力では納められない程に混乱、拡大した騒乱)は終結した。
 たった一晩の出来事であるが、まるで10年以上経過した様な多労感を否めない。
 今後、使徒迎撃は従来通りエヴァンゲリオンを中心に計画され、バスターマシンはパンドラの箱に封印された。
 連合政府にも手痛い教訓を残したのであった。

「えっ?! これで終わり? まだ私活躍してないんだけど」
「しょうがないよアスカ、今回はディフェンスに専念なんだから」
「むぅ~、納得行かなぁい!」




 これで第23話のメインストーリーは終了です。他のエピソードについては20~30年以内に書きたいなと思う所存。
 ではでは。



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