スーパーSF大戦 外伝

ある偵察隊員の帰還


 南米のとある山中で、ブランケットで身を隠している二人の人影があった。彼ら、否、彼女達が見ているのは目の前の谷間を東に向かって飛んでいく一機のレシプロ機であった。
「最近良く見かけるのと同じタイプね」
大人の女性が直ぐ隣に潜む相棒の少女に向かってつぶやいた。
「はい、シノブさん。これで七機目です。それにあのコースだとアンヘルの近くを通過するパターンを取っているようです」
 二人はそのレシプロ機が尾根に隠れて見えなくなるまで、身動き一つせずに観察していた。レシプロ機が見えなくなるとゆっくりと身を起こしかけた。その瞬間、周囲500mに展開していた警戒センサーからの警告が彼女たちの耳に入った。再びその場に伏せた彼女たちの目の前を、ムーの戦闘ロボットの群れが通過していった。ブランケットに備わるステルス性の為か、戦闘ロボットの群れはシノブ達に気付くことなくそのままレシプロ機を尾行する様に飛んでいった。
「拙いわね、あの偵察機がこのまま気が付かないと、アンヘルまで案内することになるわ」
「どうします?シノブさん」
「そうね、モーム。そろそろ覚悟を決めて外の勢力と接触した方が良さそうね」
 彼女が持つ装備ならば、南米上空を通過する軍事衛星を通じて警告を出せる能力は持っていた。ただ、それを行うとムーの戦闘ロボットをも呼び寄せる危険があるために、今まで連絡を取る事は避けていたのであった。
 彼女らは観察場所を離れると、隠れ家に戻った。

 この二人、ムーンベース36分隊女性報道官のシノブ竹内とムーのモームタイプアンドロイドが知り合ったのは、インカ正規軍がムーの戦闘ロボットと戦い、虐殺された戦場の跡であった。
 シノブ竹内はマルスベースからの第2次地球奪還軍に先立って偵察任務を受けて地球に降下して来たのであった。日本経由でアメリカに行ったスティック・バーナード中尉と同様に時空融合に巻き込まれて、気が付いたらムーの戦闘ロボットが工場で機械材料を加工すると同じペースでインカの戦士を虐殺していくシーンを冷静にビデオカメラに収めていた。幸か不幸か偵察用モスピーダのステルス機能はムーにも通じたようで、彼女は気付かれずに虐殺が終了するまでその場に固まっていた。訓練を受けていたとは言え、大量の殺戮死体が出来ていく場面を見続けた事で、彼女は思考を止めていたのである。
 そんな彼女が再び動いたのは、ムーの戦闘ロボットが消え去ってから何時間経過した頃だろう。狼や山猫に似た肉食性の動物が御馳走にありついていた死体の山の中から、突然血まみれの姿が立ち上がった。それは周りを見渡すと、こちらを向いて立ちすくんでいたシノブを見つけレーザーガンを向けた。先ほどの戦いで偶然投石が当たって故障した戦闘ロボットが、再起動したのである。
 シノブは思った。
(あぁ、私はこの機械に殺されるのね)
 シノブに狙いをつけたムーの戦闘ロボットは照準が合うと、動力部を打ち抜かれて爆発した。爆炎が消えると自分の身長の倍ほどもあるライフルを構えた少女が見えた。全滅したインカ軍支援アンドロイド隊とは別行動を取っていたアンドロイド達が、生存者を探しにやってきたのである。
 この少女がこの後シノブと行動を共にし続けたモームタイプのアンドロイドである。
 九死に一生を得たシノブはやはり戦場神経症になっていた。モームに看病されながらインカの人々と避難を始めていたが、あくまでも自発的に動くことは無かった。
 それが変わったのが一体の戦闘ロボットに襲われたときであった。
 混乱の最中にシノブを見失ったモームは、仲間のアンドロイドがようやく戦闘ロボットを破壊した後にカメラを回しているシノブに気がついた。
 正常に反応を返すようになったシノブにモームは喜んだが、直ぐに怒り出した。シノブが人間を庇って倒れた仲間のみならず、目の前で殺されていく子供まで冷静に撮影していた事に。
 モームの怒りにシノブは主張した。
「戦いの正確な記録をムーンベースに送るのが私の仕事です。それをあなたにとやかく言われるいわれはありません」
「でも時空融合に巻き込まれて、もう仲間と連絡取る事は出来なくなったんでしょう?それなのに何でそう冷静に撮影できるんですか?目の前で人間が死んで行くというのに」
「私の任務は偵察なのよ。確かに貴方の言うとおり、私が本来属していた仲間にこの記録が届くことは無いでしょうね。でも、南米以外にも大勢の人がいるんでしょう?その人達も事実を見なければいけないわ。事実が人を見ているから」
 シノブの言葉はモームのロボット三原則第0条(ロボットは人類に危害が掛かるのを見過ごしてはならない)を刺激した。
「解りました!シノブさんの行動は人類全体のためなんですね。私もシノブさんをお助けします」
「えっ!?ちょっ、ちょっとモーム・・・」
 急に態度が変わったモームにシノブの方が焦ってしまった。

 こうして後にどんな情報も収集するという伝説となった、たった二人だけの偵察隊が誕生したのであった。
 そして1年、ベネズエラに出現したムーの本拠地や機動エレベータなど、各国が咽喉から手が出るほど欲しがる情報を収集しつづけていた。

 隠れ家にしている岩影のシェルターには先ほど観察していた無人偵察機の同型機が置かれていた。
「モーム、この機体の整備は終わった?」
「はい、何時でも飛びたてます。どうするんですか?」
 この機体は、数日前に彼女達の目の前でエンジントラブルを起こして不時着したレシプロ機である。彼女達はこの機体を山中に隠して、無人機が記憶していた情報をも調べていた。無人機の名称は、零戦改A6M−RF。日本連合が派遣した中米派遣艦隊から、ムーを偵察する為に飛行してきた機体の一つである事が判った。同時に日本連合からアンヘルに向けた放送をも傍受しており、かなり正確にアンヘルをめぐる南米の状況を把握していた。
「これを囮に使うわ。警告を放送させながら飛ばして、私たちはその隙にアンヘルへ飛び込むの。私たちもムーの偵察を成し遂げても、このままでは脱出できないからアンヘルの人達と一緒に助けてもらいましょう」
 この計画で彼女達は直ちに行動に移った。目論見どおり、警告を放送して飛行する零戦改にムーの戦闘ロボットが群がり、彼女達はその隙にアンヘルに向けて移動を始めたのである。

 行動開始前にシノブはモームにデータカセットのコピーを手渡して言った。
「この情報はムーの本拠地が今何をやっているかを突き止める重要な手がかりになるの。私の事が危険になっても私以外の人たちの為に、これだけはアンヘルに救出に来る人たちに届けてね」
「でもシノブさん」
「良いのよモーム。私は任務のために目の前で死んでいく人たちを見捨てて記録していたわ。貴方には怒られてしまいましたけどね。私たちがこの一年ムーの動向を偵察し続けたのは、この情報を仲間の元に届ける為よ。そのために必要なら私も囮になるわ。今度は私の番になっただけ。良い?モーム。人間はね、自分が誇りに思うことならば死地へ飛び込めるのよ」
 そこでガラっと口調が変わって明るく言った。
「それにねモーム、まだ死ぬと決まったわけじゃないわよ。1年泥に塗れていたんだから、今度はいい男とめぐり合うためにも私は生きて帰るわよ!」
(性格が変わってませんか?シノブさ〜ん)



後書きの一言

 なんか原作と違って、明るい女になってしまいそうです。(^_^;)




<アイングラッドの感想>
 モスピーダからシノブ竹内さんの登場です。一話限りのゲストキャラとしては非常に目立っていたキャラクターです。
 話中ではかなり厳しいキャラクターですが、確かに明るい性格に変化しているような気が・・・。
 そう言えばモスピーダ関係の人間も出さなくちゃ、レイやフーケは良いとしてアイシャをどうしよう。
 ミントも、・・・モームと会わせたら面白いかも。同じ声と言うことで、シャミーと幽遊白書の〜ぼたん〜でしたっけとかも一緒に出したりなんかして。
 あとイエローとソルジーもインビット関係で絡めるとして。
 現時点で実質的に制宙権を握っているインビットの動向は重要ですからねえ。
 唯一の地上拠点であるレフレックスポイントは、軌道エレベーターと同じ位重要な戦略拠点となっています。
 現時点でインビットは地球の存在がシャダウかレイトウかを見極めるための調査期間として、人間タイプのアイシャやソルジーを使って秘密理に接触調査を行おうとしている所です。
 こっちも早く形にしなければなりませんね。・・・気長にお待ち下さい。
 スーパーSF大戦の終結には最低でも後5〜10年は掛かる筈ですから。・・・わはははっ!
 これも私の筆の進みが遅い為です。海より深く反省。
 ではでは。




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