新世紀元年7月の陸上自衛隊東富士演習場では、時空融合で日本国内に出現した特殊部隊を集めた演習が行われた。元々"普通の"特殊部隊と共に文字通り"特殊能力"を持つ戦闘集団を集めて彼らの能力を測り、同種の能力を持つ犯罪者への対応方法を探るのが主目的であったが、同時に全ての特殊部隊を登録してテロ組織と区別を付けようとも考えられていた。
 そこで自衛隊でも、現在特殊部隊に所属している者だけでなく過去に特殊任務を経験した者も出頭申告せよ、と全自衛官に命令が出され全員がその演習に参加した・・・筈であった。
 しかし新世紀2年4月、未登録の特殊部隊『オメガ』が防衛技術研究所に存在している事が技研襲撃事件で明らかになった。これが、国家公安委員会の注意を引いた。

新世紀2年4月末日 秩父、防衛技術研究所特殊戦研修センター

 ご存知、技術研究所特殊戦研修センターは時空融合後のオメガチームの本拠地である。そこに柾木国家公安委員長が直々に特別監査部を率いて、オメガチームを逮捕しようと乗り込んでいた。
「いや、帰国したばかりなのに手伝ってもらってすまないね。山野君」
「この程度の事に柾木委員長が実力を出す事は在りませんから」
 この会話の通り、実力行使したのは柾木委員長ではなく、最近帰国した山野浩一こと101である。彼の他にも第一空挺師団から司馬 光 陸将の直率で第二中隊が応援に来ていた。こちらの方は第一空挺師団から持ち出されたままの歩兵ロボット『足軽』シリーズを回収する任務もあった。
 先行して偵察していた第二小隊の隊長、朝倉 隆平 一尉から連絡が入った。
『こちら朝倉。技研から足軽6人全てが出てきました。こちらに向かってきています』
「こちら司馬。足軽が攻撃命令を受けて活動しているか確認せよ」
『了解』
 通信を終えた朝倉は部下に命じて『足軽』から見れば人間と同じように見える囮を近づいてくる足軽達の前に出した。足軽は囮に喰らいついて、銃撃してきた。
「司馬さん、『足軽』の行動をどう見るね」
 柾木委員長が司馬陸将に質問した。
「そうですね。私が命令を出すなら、もう少し慎重に行動させます。どうやら『足軽』の性能を過信して味方でない者は攻撃するように、はた迷惑な命令を出しているようですわね」
 ちなみに国家公安委員長は防衛相と同等の階級に在るとされているが、司馬陸将は上官に対する口調にはほど遠かった。それは兎も角、司馬の言葉通り特殊戦研修センターに接近する国家公安委員会特別監査部の戦力にとち狂った中村三曹が全ての『足軽』を攻撃に向かわせたのであった。

「てめ〜、この馬鹿野郎!国家の使いに刃向かってどうすんだよ」
 特殊戦研修センターの中では、中村三曹が佐藤三佐から鉄拳制裁を受けていた。
 オメガの佐藤三佐は国家公安委員会が何故ここを目指して居るか当に見当がついていたので、自分らが反乱軍に見なされない様に反抗せずに穏便に受け入れる気でいた。しかし、中村がそれを台無しにしたのでその鬱憤を晴らしていた。
 センターの所長、小林陸将も同じく素直に投降する考えでいたが、『足軽』が6台も攻撃に行けば一中隊でも壊滅し相手に生き残りはいないだろうと思い、政府にどう言い訳するか思い悩んでいた。
 だが、事態は直ぐに収拾した。

「私も1対1なら、『足軽』を止める自信はあるんですけど」
 自分が教えた『足軽』の弱点を的確に突いて止めていく山野を見ながら、司馬陸将が感嘆していた。
 101は持ち前の敏捷さで、『足軽』部隊を一人で制圧していた。
 足軽が二人一組で101を挟み撃ちにして、しかも3点バーストで発砲しても、101は機械的な数ミリ秒という僅かなタイミングの差をついて火線から、そしてセンサーからも逃れてしまうのである。宙を舞ったかと思えば地を這い、地を這ったかと思えば背後を取る101に、『足軽』は耳の後ろの強制終了スイッチを押されて、活動停止に追い込まれるのである。
 山野を迂回していた一体の『足軽』が柾木委員長と司馬陸将に密かに近づいた。しかしこの『足軽』も一人応戦した司馬陸将に格闘戦に追い込まれ、彼女の言葉通り取り押さえられた。
 『足軽』が弱いのではない。現に『足軽』の鈴木 太郎 二曹はシベリアで歩兵一個小隊を壊滅させた実績があるのだ。だが超能力者である山野の運動能力は常人の公称10倍(実際は機密)であり、司馬陸将も中国拳法の達人である上に長年特殊部隊サイレント=コアで活動していた経験から鈴木二曹との模擬格闘戦で勝った実績を持っている。この二人を相手にしたら、弱点が知られている『足軽』では敵にならない。
「でも委員長。何故、牛刀をもって鶏を割くような事をするのでしょうか?」
「実地教育じゃよ。司馬さんなら解るじゃろう?」
 戦い済んだ司馬陸将が柾木委員長へ質問した。
「ええ。彼らの今の実力を理解させる為。『足軽』を簡単に制圧した私たちの実力を見せ付ければ、特殊部隊だなんて言える立場じゃないって直ぐに理解するでしょうね」
「尤も己のする事に逃げ隠れする輩の実力は、最初からこの程度の物かも知れんな」
 一戦終えた山野はこのコメントを聴いて、「隠れているのは遥照さんも同じ事じゃないか」と思ったが、比較するのも馬鹿らしいほど実力差が有るので口には出さなかった。遥照さんは柾木 勝仁国家公安委員長の事であり、樹雷皇家王位継承者のひとりでもある。

 さて、てこずるかと思われたオメガの制圧も、全ての足軽シリーズが活動停止した時点で小林陸将と佐藤三佐が投降した事により直ぐに完了した。この時、中村三曹の顔面がでこぼこになっていたが、誰も注意はしていなかった。
 オメガチームは直ちに東京へ護送され、残る特別監査官が資料などを押収していた。


スーパーSF大戦 外伝

インターミッション

加治の怒り

SIDE B


 逮捕されたオメガの目の前に加治首相をはじめとする、安全保障会議の面々が並んでいた。加治首相を中心に、向かって左側に細井 官房長官、土方防衛相、九条 外務相、秋山 経済相、田中 国土相が、向かって右側に柾木 国家公安委員長、土門危機管理担当補佐官、倉知 安全保障政策担当主席補佐官、そして柳田統幕議長と土門陸幕長が座っていた。
 土方防衛相がオメガの責任者、小林陸将に告げた。
「聞く所によると、君等オメガ部隊は防衛庁長官直属の秘密特殊部隊だそうだね。政権が変わってしまったが、現役特殊部隊員および経験者は出頭申告せよと全自衛隊に命令を出した去年はまだ防衛庁でもあったし、その命令を遂行する義務が君らには有ったのではないかね?その命令に反して逃げ隠れしていたそうだな。しかも最近、装備を充実しようと、禁じられている戦闘アンドロイドを調達しようとしていた。これも政府の方針に反している。何か言い訳は有るかね?」
 戦闘アンドロイドの取り扱いも日本連合では次のような方針でいる。
 戦闘で失われる人命が無くなる。これは福音の様に聞こえる大義名分ではある。しかし戦争を抑制する条件の一つが消滅する事により逆に戦争が増える事も考えられる。さらにムーの機械文明が陥ったように、人間が戦闘そのものに対応できなくなり、戦闘プログラムの暴走により人類の方が敵味方問わず滅亡する可能性が有る。
 連合政府は戦闘アンドロイドの有効性を知り尽くしていると同時に、ムーと言う実例からもその危険性を十分に理解している。そのために戦場に出る兵士は苦労するであろうが、戦術的要求より文明論的な視点から人間との戦闘(直接殺傷を行う)目的でアンドロイド兵士を製造配備する事は禁止しているのである。尤もガミアQ3等のロボットとの戦闘は禁止されていないので、その場に居合わせればHMシリーズですら敵ロボットとの直接戦闘に参加するかもしれないと言われている。少なくてもそれを禁止する命令は無い。
 HMの話は兎も角、第一空挺師団が装備している『足軽』シリーズも師団内で保管し、通常は非戦闘目的で動かしているだけであるはずであった。
 それが何時の間にかオメガチームの元で人間相手の直接戦闘行動をとっていたのである。その上、オメガ所属の中村三曹が更に戦闘アンドロイドを調達しようと、統合幕僚本部の戦略補給本部や防衛省調達局、あまつさえ来栖川重工にまで接触していたのである。
 以上の事からオメガ部隊は昨年の部隊申告命令違反行為と、戦闘アンドロイド運用違反、そして装備を正規補給ルートを介さず直接調達しようとした以上3件の統制違反容疑で告発されていた。
 この告発に小林陸将が発言した。
「首相閣下。我々が政府に申告しなかった事はお詫びします。しかし我々は政府に反乱を起こすつもりは全くありません。ただ、オメガの成り立ちと目的から今の首相閣下に必要とされないと判断しました。アンドロイドについては、その情報が部隊にまで届いておりませんでした」
 そこに加治が口を挟んだ。
「申告しなかったのは君らが非合法活動専門の部隊であるからかね。私は時空融合前の活動で君らを処罰しようとは考えていない。それを言ったら、ERETチームも海外で非合法活動をした実績がある」

 これはERETチームすなわち土門補佐官の世界での事件である。南米コロンビアの麻薬組織、マドリン・カルテルが日本政府に別件で逮捕されていたカルテルのボスを釈放させる為に、新型インフルエンザウィルスで日本政府を脅迫した。インフルエンザと侮る事なかれ。ワクチンの無い新型ウィルスでは最悪何十万何百万人の死者が出ることも有るのだ。正に生物兵器と同等の破壊力を持つ。国内の捜査が手詰まりになったとき、ERETチームが南米のカルテル本拠を襲撃し、ウィルス製造工場の情報を得た。
 その経過を加治は土門に聴いていた。その為、ERETも海外での戦闘行動、拷問による情報収集など非合法な活動をした事は知っていたが、それでERETを忌諱する事もなかった。緊急事態で他に手段が無かったという事と、何より既に彼らの存在がその世界で国民の前に公開されていたからである。尤もその活動が認められていたわけでもなかったが。

「私が怒っているのは、完全に秘密裏に非合法活動部隊を存在させようとする、その動機についてだ。私は完全秘密裏の非合法活動部隊によるテロの防止なんて言うのは効果が無いと考えているし、何よりも自分の経験から秘密裏にするのは長期的に見て道を誤らす元となると確信している」
 加治はオメガに理由を告げていった。
 最低、組織の名称は完全公開し、許される範囲でその目的も公開する。完全秘密裏の戦力が抑止力として機能するとは思えないからである。知らないものが脅威として認識されるわけは無い。知らなければテロは繰り返されるであろうし、知られた時点で政権交代に繋がるゴシップとして政治的攻撃に使われるだろう。私がテロ組織のリーダーならそうするぞ。
 確かに非合法活動でしか解決しない状況と言うものもあるだろう。実はこの世界にはたった一人で国家の後押しも無く、しかも個人的な好き嫌いだけで犯罪組織を潰しまわっている男が居るそうだ。無論犯罪行為なのだが、その男を法的に処罰したくても証拠は残していないし、誰もその男を告訴しない。また、その男の破壊活動を幾ら調査しても善良な一般市民が直接の被害者になったという話はないそうだ。また、その男の能力が何者にも換えられないと言う事も有る。
 故にその男は見逃すしかないが、だからと言って私は、その男の存在を理由に政府内に非合法活動組織を許可する気は全く無い。

「は〜っ、は〜っ、はくっしょん、はくっしょん、はくっしょん」
「なんや、南雲〜。われ風邪でもひいたんか。鬼の撹乱ちゅうやっちゃな」
「うるさいぞ草g」
 この時、板橋区の某高校に勤める教師が盛大なくしゃみをしていたらしい。

 更に加治の意見が述べられていた。

 また、自分の父と兄は時の総理の私利私欲による動機で殺害された。恥ずかしながらわが党の総理経験者も在任中に人の死を願う発言を漏らした事も有る。
 そんな者達に非合法活動専門部隊を国民にも秘密裏に与えたらどうなると思うか?犯罪に使われてしかも責任を取る事も無い。圧制の手段に使われてしまうのが落ちである。今は良くても20年30年と進むうちに、そういうことに使い出す者が出てこないとは言い切れない。

「そして君らは自衛官でありながら、昨年7月の特殊部隊任務に有るもの、経験者は演習に参加せよと言う政府の命令を無視して参加しなかった。だからオメガチームは、本当ならば主張がどうあれテロリストと同等の違法武装集団として処理される」
「しかし、我々は一応自衛隊員でもあります。技研襲撃に関係してテロ撃退に参加した実績もあります」
 これには佐藤三佐も反論したが、直ぐに遮られた。
「自衛隊員ならば何故命令に従わなかった!!それに今回の事件、君らがヘリで移動した報告はあったが、テロリストを撃退したと言う正式報告は一件も無い!」
 佐藤三佐は何か言おうとしたが、それよりも先に加治の発言は続いた。
「時の政権にも完全非公開にする部隊と言うのは、こう言うものだ。任務に成功していても名誉も栄光も与えられない。ただ汚れ仕事を押し付けられるだけである。君は良くても隊員たちはそんな状況に何時まで我慢できるかな?」
 ERETの新命隊長も、隊員には栄誉を与えてくれ、と当時の土門官房長官に要望したものである。
 この指摘を受けて、小林と佐藤は考え込んだ。自分たちは栄誉とは無縁の仕事でも「知ってる人が知っていればそれでいい」とやってきたが、政府の最高責任者から面と向かって自分らの実績を否定されたのである。
 隊員たちも今まで考えなかった”名誉”、”栄光”と言うものに興味を持ち始めたようである。
「隊長。貰える物なら、その”名誉と栄光”とやらが手に入る方が、入らないよりは・・・」
「何を言うか。せっかく徳政令でチャラになった借金を、クリスマス商戦でまた膨らました者が手に入れるには百年早いわ!」
 オメガの一隊員と佐藤三佐の場にそぐわない会話を聞いて、加治首相が嘆いた。
「おいおい。話には聞いていたが、借金をまた増やして自分から逃げられなくしているとは思わなかった」
 オメガは多重債務に苦しむ自衛官を集めていた。簡単に言うと自衛隊が借金を肩代わりして、汚れ仕事につかせていたのである。昨年、高橋是清大蔵大臣の経済政策でオメガ隊員の借金も帳消しになったのだが、どうやらまた借金を増やしている者が居た様である。
 呆れながらも加治は土方防衛相に合図した。土方はこれを受けて、オメガチームに政府の決定を伝えた。
「正式な報告は無かったが、技研襲撃事件に於いてテロリストを撃退した実績と、自衛隊員であることから違法武装集団の指定は取りやめよう。しかし自衛隊員である君たちは何よりも政府の命令に従う義務がある。統制違反の相殺は出来ないので自衛隊に残りたければ、佐官以上は二階級その他の者は一階級降格してもらう。部隊も現在の技研所属から、富士教導団特殊戦教導隊預かりの訓練部隊とする。もちろん特殊部隊の資格は全て停止。新人自衛官と同様に訓練をし直して貰う。それが嫌なら依願退職をしてもらうが・・・」
 で、どちらを取る?と言う問いに、オメガは自衛隊に残る方を選んだ。
 続けて土門 康平 陸幕長が発言した。
「君らの今の実力評価は特殊部隊として最低である。実戦経験がある一般普通科よりは実力がある並みの部隊というところだ。実際、君らが隠れているうちに、他の特殊部隊が経験を積んだ為に、置いて行かれてしまったと言うのが正確な所なのだが。君らの進路は私からすればご愁傷様と言うしかない。無事に訓練を生き延びてくれたまえ」
 刑罰に服するより苦しい方を選んだのだよ、と言外に滲ませながらの言葉であった。
 この発言を最後に旧オメガチームの一同は強制的に退室させられ、富士教導団特殊戦教導隊に送られた。

 そして数日後、元オメガチームは陸上自衛隊富士演習場で訓練していた。

「そらそらそらっ走れ蛆虫供!ロボットに代わってもらえなきゃ走れんのか。自力で走れないならここで死んでしまえ!<以下教育上不適切な発言が多数続く為に削除>」
 泥だらけになって這いずり回る完全武装の兵士の頭の直ぐ上、あと1cm下に行けばヘルメットに当たる軌道を銃弾が飛んでいった。なんとまあサブマシンガンを振り回して、音無 誠次が元オメガチームの面々を追い立てていた。シベリアから帰国したこの音無はサイレント=コアを率いていた、そして傭兵会社クライシス・コントロール・コンバット社の上級アドバイザーであった経歴を買われて一佐待遇で富士教導団特殊戦教導隊教官として活躍していた。土門陸幕長が「この世で一番会いたくない人物」と評した男である。オメガ隊員にとっては佐藤が二人に、いや掛け算で自乗したようなものである。

「くそ〜、何時か殺してやる!」

 相変わらず顔面をでこぼこにしている中村一等陸士が叫んだ尻に、訓練弾が降り注いだ。

 中村の悲鳴と共にこの物語は終わる。

T・Mさんの次作へつづく


後書き

 これは元々、T・Mさんの「技研の一番長い日 エピローグ」での技研の暴走に対する加治首相の判断が甘いと感じられて、T・Mさんとメールをやり取りした結果です。坂田主任の主張は、ほとんどT・Mさんからのメールにあった主張でした。
 技研とT・Mさんには厳しい判断かと思われますが、加治首相として検討するとこういう結果になりました。
 T・Mさんも納得してくださったおかげで、今回の作品はこのままT・Mさんの次作のプロローグと使用されるそうです。どんなお話かは、ご本人の発表をお待ちください。自分も楽しみにしています。

感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。





日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ







 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い