その日、地上から約2,000mの地下では総合科学技術会議メンバーの水原誠・イフリータ夫婦が、専門の時空間物理工学とは少し違うが、第3新東京大学の考古学者やウルトラ警備隊と共に、最近発見された遺跡の調査していた。
「見てみぃ、ここにも弾痕や穴のあいた衣服はあるが、死体は骨一つ無い。いったい何があったんやろ?」
 水原誠がライトで照らしている先には、中身があれば寄り添うように倒れている死体が有りそうな形で、幾つもの穴が開いた制服が並んで落ちていた。中にはちゃんと下着も入っている。制服の形状と中の下着から男女一組の物と判ったこれらには後で血痕と判明した染みも付いていた。このような制服が数え切れないほど散らばり弾痕で飾られた廊下や焼け焦げた部屋、破壊されたシャッターを幾つも過ぎると、戦艦の艦橋にも似た構造物が聳え立つ大空間に出た。
「誠、見て。あそこになにか描かれているよ」
 イフリータのライトが照らした先にはマークが描かれていた。


GOD'S IN HIS HEAVEN. ALL'S RIGHT WITH THE WORLD.

 この一文が書かれている、無花果の葉を象った真っ赤なマークが。




スーパーSF大戦 外伝

加治首相の議

第5話 安全保障会議

 



 安全保障政策会議は、午後に入りエヴァンゲリオンに関わる諸問題に議題は移り、新しく参考人が呼ばれた。
「あなた!?なぜここに?」
 声を発したのは碇 唯博士。現れたのは碇 源道であった。ファーストチルドレン綾波レイと共に。
「うむ。黙っていてわるかった。極秘事項だったものでな」
 唯の問いかけに源道が応えた。
「初耳の方の為に説明します」
 加治首相がこの場にいる人に説明した。

 地球防衛軍極東基地では、時空融合直後から周辺の状況を調査していた。すぐ隣に未知の都市を発見したときはインベーダーの侵略かと過剰対応しかけた事もあったが、調査員の投入やGGGとの情報交換でその都市が時空融合で出現した第三新東京大学を中心とした地球人による学術都市であることが直ぐに判明した。後日の連合政府との交渉もあって今ではT.D.F.の補給拠点や福利厚生の場として第三新東京市を利用する他に、T.D.F.研究部門と第三新東京大学との間でも学術交流が盛んになりつつあった。
 そんな中、第三新東京大学の考古学研究所から第三新東京市の地下に直径10,000mを超える巨大な球体が埋没している情報を聞き込んだT.D.F.は直ぐに大学側に問い合わせた。
 学長の冬月教授、曰く。
「我々も調査したいんですが、大深度地下である上にそこまで掘り進む予算が無くて出来ないんですよ。他にも金を食う研究が多くてね」
 そこでT.D.F.と第三新東京大学との間で連合防衛協定、日本連合政府とGGG・T.D.F.・青などの国際的防衛組織が交わした相互協力を取り決めた協定、に基づく合同調査隊が編成される事になった。それに連合政府側代表として科学技術省の委託を受けて総合科学技術会議から水原夫婦が調査に参加することになったのである。

「大きな乗り物ですね、ファトラ様」
「そうじゃな、アレーレ。エル=ハザードでもこんな乗り物は無いな。だがそれは、エル=ハザードで地底を移動するにはこんな大げさな乗り物は必要ないからな。地底を動きたければミューズに頼めばいい」
 T.D.F.が誇る地底戦車マグマライザーの前で、こんな会話を交わす女性2人がいた。主人と御付きの侍女らしい。主人の方はファトラ・ヴェーナス、エル=ハザードに在るロシュタリア王国の第2王女である。静かに佇んでいれば長い黒髪と相まって清楚な深窓の令嬢として通るほどの美人なのに、口を開けば先の様な男勝りの口調である。その上に美少女狩りの趣味がある事で、姉のロシュタリア王国第1王女ルーン・ヴェーナスの頭を悩ませている困った女性である。時空融合の悪影響で途切れがちになるエル=ハザードとの連絡も地球社会の混乱も表面上気にせずに、侍女であり愛人でもあるアレーレと共に水原誠の後をついて廻っている。当人によれば「地球の社会見学じゃ」と言い訳している。今回も普通ならば部外者である二人が付いて来れないはずのT.D.F.極東基地に無理やり付いて来たのである。
「なに言うとるんですか、ファトラはん。無理なところを通してくれたT.D.F.の方に失礼やないですか」
 ファトラ姫に苦言を呈したのが水原誠である。水原誠はエル=ハザードに行っていた3年前、ファトラ姫に瓜二つということで女装、もとい影武者にさせられていた。しかし今では線の細さは無くなり、成人男性のたくましさを見せている。
「単なる幸せ太りじゃない」
とは、誠の幼馴染の陣内奈々美の意見ではあるが、エル=ハザードの大神官シェーラ・シェーラやアフラ・マーンは別の意見を持っている様ではある。
 今回、水原誠を始めとする合同調査隊の一行がT.D.F.極東基地に来たのは、T.D.F.が誇る地底戦車マグマライザーで例の地下の球体に一気に進入しようと計画されたからである。数ヶ月の時間がかかるボーリングやトンネル掘削ではなく、短時間で遺跡に到達できるマグマライザーを使う事になったのは、最近起きたエヴァンゲリオン初号機の暴走事件が遠因となっていた。関係情報を収集するにあたり、何よりも時間を優先する命令が政府各機関に出されていた為であり、第三新東京市の地下に在る事からエヴァンゲリオンと何らかの関わりが有るのではと推測された為でもある。

 ファトラに苦言を呈する水原誠の背後から一人の女性が近づいてきた。
「誠、大きな乗り物ね」
 彼女こそエル=ハザードで最強の鬼神と恐れられていたイフリータである。けれど今の彼女はそんな気配を微塵も見せることなく、初々しい人妻となっていた。
「そうだねイフリータ。僕の地球でもエル=ハザードでもいろんな乗り物を見たけど、土んなか自由に移動する乗りもんは、トンと見かけんかったやなぁ。ファトラはんを助けにバグロムの要塞に乗り込むとき、ミューズさんに地中を移動させてもろうたけどあれは乗りもんとちゃうからな」
「私が自由を取り戻したあの時だね」
 人妻は夫が自分を解放してくれたあの時を思い出し、遠い目をしだした。その表情はあまりにも気高く美しく色気に満ちていた。ファトラ姫も宗旨替えしたくなるくらいに。そして彼女に相応しい美男子に成長した誠がそっと寄り添う図は、1枚の名画と化していた。でもそんな時間も容赦なく過ぎ去る。
「あの、水原博士。そろそろミーティングが始まりますので、ミーティングルームへおいでください」
 T.D.F.の警備員が一人おずおずと、綺麗な空間を壊すのを恐れるように話し掛けてきた。
「はい、今行きます。行こうか、イフリータ」
「はい、誠(は〜と)」
 水原誠は愛妻と共に、ミーティングルームへ移動した。そしてファトラらもその後をついていった。

「地底レーダーを使用して問題の球体を解析した結果はお配りした資料のとおりです。GGGで保護されている綾波レイさんから得たNERV本部の大まかな構成と一致している為、例のエヴァとも何らかの関わりが有る可能性が高くなりました」
 今回マグマライザーのパイロットを務めるウルトラ警備隊のソガ隊員が、資料を提示しながら予定進路を説明し始めた。
「ごらんのとおり球体の外郭は多層複合装甲らしい材質なので、マグマライザーでも突破は難しい物と考えています。その上内部は人口建築物の地下が若干解析出来たものの、残りのほとんどが、全体で約85%が何らかの妨害で情報が取れず解析不能でありました。その為そこに直接突入する事は我々にも球体内部に存在するはずの遺跡にとっても危険と判断しましたので、地上に若干影響が有りますが上部0.9Kmの溶岩と思われる火成岩の部分に突入することも考えました。しかし更に詳細に解析した結果、1箇所水路跡らしい穴を解析不能部分と火成岩の境界から外郭まで発見いたしました。我々はそこを通って球体内部に進入し、人工建築物を目指します」
 この説明の後、一行はマグマライザーで地下球体を目指して出発した。途中、イフリータが何かに集中していたことを除けば何事も無く、彼ら調査団は予定通り水路跡を通り、一気に球体内部の人工建築物へ進入した。
 そこで彼らは戦場と大量虐殺の跡が生々しく残るが、同時に長い年月が過ぎ去った無人のネルフ本部を見出したのである。


 ネルフマークを発見した二人は、構造物のひな壇を次々に調べていき、そこでまだ生きているMAGIシステムを発見した。
「これはすごい発見や。でも、急いで調べるには僕らの手に余るな。やはりMAGIを調べるには製作者に見てもらうのが一番やな」
 水原博士の判断で調査団は直ちに第3新東京大学を通じて赤木奈緒子博士にMAGIの調査を依頼した。依頼を受けた赤城博士は取る物もとりあえずに地底のMAGIの前にやって来た。
「あら、あなたたち幸運だったわね。自律爆破決議が2対1で賛成になっていたわよ。全会一致でしか発動しないようだから不発に終わったけど、爆発したら上の街毎吹き飛んでいたわね」
 赤木奈緒子博士は軽く調べると、最初に水原たちが侵入したときに自律爆破決議が起こっていたことを見つけた。否決したのはMAGI−MELCHIOR・1であった。科学者としての赤城奈緒子博士の思考パターンが移植されているメルキオールが、侵入者たちの正体を見極めるまで早まった行動を取るべきでないと否決したようである。
「さてっと、やっぱりこのMAGIにも私の人格が移植されているようね。もう一人の私さん、ここで何が有ったのか教えてちょうだい」
 赤城博士は鼻歌交じりでコンソールを操作しだした。そして彼女は驚くべき事実をMAGIに残るデータから発見した。
 そのデータ分析は水原博士と共に碇源道も行うことになり、その分析結果が碇源道の手により今日の安全保障政策会議に提出されたのであった。

「碇源道博士、解析したデータの報告をお願いします」
 データを持ち込んだ碇源道に対して、加治が報告を促した。
「では。発見された地下球体は、この綾波レイを始めとするあの子達の世界の未来から来たものでした。それも最悪な結末を迎えた・・・」
 碇源道の報告が始まった。発見した事実の重さに一層口が重くなった源道はそれでも報告しだした。
 発見された地下球体、これからはネルフ本部と呼ぼう、は人類補完計画つまりサードインパクトが発生しておよそ1000年が経過した世界から来たものであった。サードインパクト後、数世紀が経過した頃に富士山が大爆発してネルフ本部は溶岩に沈み、唯一残ったMAGIもそのまま封印されていたのである。
 遺されていたMAGIには全使徒の戦闘記録と共に、第18使徒"人類"の秘密も含めサードインパクトの出来事が記録されていた。

 その記録が安全保障政策会議の出席者達の前に、次々と提示されていった。





全世界のMAGIレプリカから本部のMAGIオリジナルへのハッキング
戦略自衛隊のネルフ本部への侵攻
非武装無抵抗のネルフ職員への、そして投降する者への虐殺
殻に閉じこもる碇シンジ。
弐号機が起動し、地上の戦自への反撃
狂気に彩られるアスカ。
成す術も無く、中隊単位で死んでいく戦自侵攻部隊。
N2爆弾の投下。
量産型エヴァの飛来
陵辱される弐号機。
初号機の起動
サードインパクトの始まり。
綾波レイとリリスとの融合
巨大な綾波レイの出現。
巨大なレイに飲み込まれる初号機。
人類の消滅




































そして時間の経過が不明となった後に、赤い海のほとりに碇シンジと惣流アスカが出現。










































そして彼らが絶望の中で死亡するまで。




















 発見されたMAGIのデータから再生されたサードインパクトの映像は、見ていた人々に衝撃を与え冷静さを奪い取っていた。
 無抵抗の者を虐殺していく戦自の攻撃記録はその後のROE(戦闘基準)の制定に影響を与えたが、それさえも人類が消滅していく映像の前には些細な出来事である。
 エヴァの危険性が認識され、政治家達の意見はエヴァの破棄に傾いていった。
 さらに子供たちがやった事と、特に綾波レイが実は人間で無いと言う事実に子供らも排除しようかと言う強行手段さえ発言された。
 それを聞いて衝撃を受けたのがレイであり、イフリータであった。
 綾波レイが受けた衝撃は彼女の火蜥蜴に伝わり、火蜥蜴はエヴァと子供たちの措置を議論している政治家たちの真っ只中に飛び込んできた。

 火蜥蜴が飛び込んできた混乱の最中、水原イフリータは突然にゼンマイを構えて綾波レイを守る様に彼女の前に立った。ゼンマイの先端が発光しながら加治首相に向かう。これを見た議事録を取っていた女性秘書官達が、ディビジョンMの正体を表して加治首相の前に立ちふさがった。インナータイプのボディーアーマーを纏う彼女たちの自分達の体を盾にしてVIPを守る行動では在るが、イフリータのゼンマイの前では防弾壁としてスポンジ並の効果も無かったが。
 ともあれ、彼女の行為は混乱する室内に一時の静寂をもたらした。
 この静寂を再び破ったのは、イフリータが愛する夫の呼びかけであった。
「イフリータ!」
「ごめん誠。でもこの子は私と同じなんだ。私も服従回路に縛られていたとはいえ、一つの文明を滅ぼし多くの命を奪ってしまった存在だ。でも私は誠に受け入れられた。この世界にも受け入れられた。ではこの子はどう?あの記録ではこの子も一つの世界を滅ぼした原因になっていたが、でもこの子はまだ何もしていない。」
 イフリータは自分で言ったように、先エル=ハザード文明を滅ぼした経験がある。それは既に誠やエル=ハザードの人達から許されてはいたが、ここに自分と同じように世界を一つ滅ぼすであろう力を持っている存在がいることを知り、綾波レイに自分を重ねて見ていた。そして綾波レイがまだ何もしていないのに周りで彼女を排除しようとする議論が始まった途端、この子を守りたいと言う衝動に駆られ、気が付けばゼンマイを構えていたのである。
「今もあの記録を見た時にこの子に浮かんだ感情は悲しみだけだ!あの記録と同じ能力を持っているだけの理由でこの子を殺そうというのなら、世界を滅ぼす力を持っている私も何時かあなた達と争うことになるだろう。だから今」
「戦うと?」
 加治首相がイフリータの台詞を遮った。
「と・に・か・く、全員落ち着いて席に座ってください!
 加治の一括でその場に居た人々は、イフリータすら自分の席に戻っていった。レイの火蜥蜴達もレイの体に留まっていった。
「まずイフリータさん。あまり早まったことはしないで下さい」
「はぁ〜、申し訳ありません」
 加治首相は全員が席に座ったことを確認すると、自分の考えを述べ始めた。
「さて、皆さん。時空融合からこっち、この日本の住人は地球産ホモ・サピエンスだけでは無い事が判明したことは十分ご承知のはず」
 これを聴いて某公安委員長が内心冷や汗を流したが、流石に表情には出さなかった。
「私たちはこの事実を踏まえ、彼らと平和裏に暮らす為に国籍法を改正しました。もう一度国籍法の人権を認める知的生命体の基準をおさらいしましょうか?私達は人類以外の知的生命体の基準を次のように定めました。意思の疎通が出来、互いに尊敬できる存在であること。そして我々と共に平和裏に生きていく意思があるならばヒトと認めて日本国籍を取得できるようにしました。ただそれだけです。今時人間ではないというだけで排除できないでしょう?」
 加治はここで一旦息を告いだ。そして綾波レイの方に向いて問い掛けた。
「そして綾波君、貴方は私達と共に生きる意志をもっていますか?」
「はい!何より碇君やアスカと一緒に生きていきたいです」
 レイの言葉を裏付けるかのように彼女の火蜥蜴たちも首を縦に振りつつ鳴き声を響かせる。
「では貴方はこの記録に在るような、人類補完計画を実行する意志は無いですね」
「はい、確かに私はこの世界に来るまで何時かは全てを無に帰す事が自分の使命と思っていました。碇司令としか絆が無いと思っていましたので、司令の言葉に従っていたからです。でも碇君と知り合い、この世界に来てからもいろいろな人との絆が出来ました。何より碇君とアスカは使徒の力を持つ私を一人の人として受け入れてくれました。もしこの世界でも元の世界でも人類補完計画を実行したら、絆を自分から切ってしまいます。もう私は一人でいるのはいやです。人類補完計画は絶対に実行しません」
 レイの発言は最後の方には涙声になっていた。彼女を慰めるように女王火蜥蜴のゴールディがレイの涙を舐め取っていた。
 大河長官も綾波レイの擁護にまわった。
「皆さん、我々GGGの者たちと綾波君たち3人とで上野公園に出かけた時、妖魔に襲われた事があります。拳銃が役に立たない相手の為に、うちのオペレータの女の子がもう少しでやられる所でありましたが、その時綾波君は自分が使徒と同じ力を持っていることが仲間たちに知られるのを承知の上で、自分が仲間たちから拒絶されることを覚悟して、彼女を助けるためにATフィールドを使ったのです。だからと言うわけでは有りませんが、どうか綾波レイ君を一人の人間として拒絶する事の無いようにお願いします」
 続いて碇源道が、サードインパクトに関わる部分を報告した。
「既にサードインパクト発生プロセスは解明されています。第1使徒アダムもしくは第2使徒リリスと合体しなければサードインパクトは始まりませんし、この世界の第三新東京市には、地下のネルフ本部にもリリスは存在していません。あらたにそれらが発見されない限り、物理的にサードインパクトは起きません」
 そして碇唯が続けて発言した。
「レイは既に一人の人間として感情を持っておりますので、自分からサードインパクトを起こす恐れは無いと思います」
 綾波レイを知る人たちを始め、加治首相自らレイを受け入れる発言をした。さらにレイの涙によってその場の人々は、先ほど排除する発言を漏らした者も、彼女を受け入れる気になっていった。
「さて、結論は出ましたね。綾波君、貴方の法的立場は変わりありません。碇君も惣流君も同じです。この子達を排除することは日本連合の基本理念に反する行為に他ならないと思います。皆さんもあまり早まった行動は取らないでください」
 加治の発言でチルドレンたちの処遇は決まった。
 土方防衛相がエヴァの措置を質問した。
「首相、子供たちを計画どおり江東学園で保護する事を進めるとして、エヴァンゲリオンはどうするんでしょうか。方針をお聞かせ下さい」
 加治はその質問に答えた。
「私はエヴァンゲリオンは破棄するしかないと思っています。サードインパクトの発生は無いとは言え、あまりにも不安要素が多すぎます。こんな制御も不完全な上に何時暴走するかどうか分からない危険な兵器は破棄して、2度と触るべきではないしょう」
 だが、加治のその意見に反対するものが現れた。科学者たちである。
「破棄って言っても、一度存在を始めたエヴァンゲリオンは容易に消滅させることは出来ませんわ」
「それに首相、言っちゃぁ悪いが、今の装備で使徒が出たとき、対抗できんぞ」
「そうね。渚君の言い方によれば今まで出現した使徒は全部出来の悪いレプリカだって言うし、それにも苦労したのに本物が現れたら、こりゃ排除できないわね〜」
「けれど使徒の存在が確認されたわけではないでしょう?」
「いいえ、加治首相。僕たちは浅間山に使徒を発見しました」
 水原誠が爆弾的発言を投げ入れた。

 それは会議の前日。浅間山火口近くの展望台に水原誠率いる調査隊がきていた。
「いい眺めですわね、先生(ハート)」
「ミーズさん生徒が見ています。あまり抱きつかんで下さい」
「え〜そんな、私をお嫌いになったんじゃぁ」
 調査隊っと言ってもメンバーは水原誠とエル=ハザードの仲間たちであったが、一同は藤沢とミーズのお約束をほっといて火口を見下ろしていた。
「火山観測所は有るんやが、MAGIの記録に有ったようなマグマん中潜らせる観測機はもともと無いそうや。やはり直接見に行ってもらはなあかんが、大丈夫かイフリーナ」
「大丈夫ですぅ、誠様」
 誠の傍らには黒髪の鬼神が宙に浮いていた。
「こいつの台詞を聞くたんびに思うんだ。本当にこいつはうちらのイフリータに相当するんかって」
「ほんまどすな」
 火の大神官シェーラ・シェーラと風の大神官アフラ・マーンである。二人が嘆いた先には水原イフリータより幼く見えるが、同じくイフリータの名を持つ鬼神がいた。
「二人とも何悩んでるんですか〜。もっと明るく活きましょうよ〜」
 大神官たちの悩みとは関係無く、脳天気な笑顔を見せているイフリーナであった。
 今イフリーナと呼ばれているその鬼神は、時空融合直後にこの世界に現れたのだが、その後の調べで水原夫人となったイフリータの平行世界存在であることが確認された。彼女と初めて出会ったときはどちらも驚いたが、イフリータは妹が出来たように喜び、平行世界のイフリータも、お姉さま、と懐いたので二人の間では問題は無い。ただ同じ名前だと紛らわしいので、妹となった方はイフリーナと呼ぶことにしたのである。
 その後の調査で時空融合の影響の為か、地球とエル=ハザードを結ぶ「天空の回廊」も、幾つかの平行世界のエル=ハザードと繋がってしまっているのが確認された。イフリーナもこの場にいるエル=ハザードの一行とは別のエル=ハザード、その世界の誠は同い年のルーン王女と相思相愛になっていたが、そのエル=ハザードに出現した天空の回廊に巻き込まれたのであった。でも根が脳天気なイフリーナは今も明るくイフリータ姉様の後をついて廻っているのである。
 ともあれ、今の地球とエル=ハザードを結ぶ絆は不安定なものとなっていた。信号のやり取りはほぼ確実に届くのだが、人間を含む物質を送ろうとするとどの平行世界のエルハザードに行ってしまうかやって見なければわからないようになってしまっている。

 閑話休題。

 ともかく、話を浅間山に戻そう。

「イフリーナ、無理をするんじゃないよ。使徒とか云う物がいるかどうか確認するだけで良いんだからな」
「はい、お姉さま」
 そう会話を交わしながら二人は火口上空に浮かんだ。
 始めはイフリータが潜るつもりであった。
「せっかく地底移動を覚えたのに〜」
 イフリータはマグマライザーに乗ったとき、その地底移動システムを覚えた様であったが、「お姉さまはお年病弱なんだから無理しないで」と言ったイフリーナが代わりに潜ることになったのである。
 人一人潜れる大きさの穴を溶岩に開けるため、イフリータがマグマライザーで見覚えた超高周波振動を使った。ちなみに T.D.Fの秘密兵器、地底戦車マグマライザーの前方に突き出ている円錐状の部分は、実はドリルではない。超高周振動波放射掘削システムである。もう一つの秘密システム、重力位相差や超音波反響をコンピュータ解析する地底レーダーで見つけた地底内の洞窟や溶岩流跡といった掘り易い処を超高周振動波放射掘削システムを使って予想よりかなり速い速度で地底を移動するのである。ネルフ本部に向かう最中、イフリータが集中して見ていた物がこの2つであった。
 そして開いた穴に向かってイフリーナが降下を始めた。
「じゃぁお姉さま。あっ、誠様見て見て。ジャイアント・ストライド・エントリー!」

ガコッ

 かかとを溶岩に打ちつけた音である。これを見た一同は、ごっつう不安に駆られた。
「ふぇ〜ん、誠様〜、痛いですぅ〜」

「記録どおり、まさしくさなぎ状態の使徒を確認しました。観測を終えた後は使徒を刺激せんよう引き上げましたが、それでよかったんでしょうか」
「ええ、今すぐ活動しないなら、攻撃手段の無い今は監視に留めましょう」
 水原誠の報告に加治はこう結論付けた。
「水原君の報告通り、この世界にも使徒が存在していると考えた方が良さそうです。こうなると、本物の使徒に対抗できるのはやはりエヴァしかいない、と言う碇博士たちの結論に従うしかないですか」
 前日Gアイランドで碇唯たちと面会していた加治は、『使徒に関する脅威が完全に無くなっていない以上、エヴァンゲリオンを何時でも使用できる状態にしておくことが望ましい』と言う鷲羽ちゃんを始めとした彼女らの意見を聞いていた
「碇博士、先ほどアダムとリリスが新たに発見されない限りは、と仰いましたが、まさかこの世界にも居るという可能性が有るんですか?」
 加治は碇源道に最後の質問を出した。
「我々の世界、そしてこの子達の世界でも南極の永久氷の下でアダムを発見しました。この世界でも南極に出現している可能性が有ります」
「では使徒が現れたとして、南極に向かうのですか?」
「いいえ、確かに使徒はアダムに惹かれる性質を持っておりますが、南極の地下に眠るアダムより地上に出ている初号機に強く惹かれるでしょう」
 使徒の存在が確認され、初号機に惹かれて日本に現れると聴いた加治は最終結論を下した。
「また子供たちに頼ってしまうことになりますが、他に使徒への対抗手段が考えられない以上嫌でもエヴァ保存の結論を受け入れるしかないでしょう。ただ、運用には危険が伴いますのでエヴァンゲリオン以外に対抗手段が無くなるまで出動は控えることにします。さらにGGGがエヴァに施した改造は全て取り外し、原型どおりの装備に戻すことにします」
 この決定を聞いた岸田博士は、またあの台詞を嘆いた。
「この岸田の科学する心を無視しおって」
 誰も取り合わないまま、加治の決断が続く。
「次に子供たちですが、エヴァのパイロットに情緒不安定な少年を採用していた理由は既に判明しました。子供たちをそのままパイロットに採用しつづけるのは残念ながら仕方有りませんが、我々も愚かなるゼーレのように子供らを精神的に追い詰めるわけには行きません」
 既に人類補完計画の実行には碇シンジの精神を追い詰めることが必要であることを聞いていた一同であった。
「岸田博士、我々の計画では子供達の教育は貴方の担当になりますが、エヴァとチルドレンに関わる謎が解明された今となっては責任はこれまで以上に重大です。追い詰められた精神状態でエヴァを操縦する事態にならないように、普段から精神的ケアを怠らないようにしてください」
「おう、任せとけ」
 岸田博士の返事を聞いて、加治はこの議題を終了した。
「では各員の了承をお願いします」
 こうしてエヴァンゲリオンと子供たちは、条件付ながらそれまでの計画どおりSCEBAIと江東学園に引き取られることになったのである。

 そしてエヴァンゲリオンが議題から外れると碇夫婦と綾波レイは首相官邸を後にした。

「あの、碇博士・・・」
 帰りの車の中でレイが唯に話し掛けた。
「なに?レイちゃん」
「一つ聴きたいことがあります。GGGで初めて出会ったとき、なぜ私の名をご存知だったのですか?私が存在した時には既に貴方、いいえ私の世界の唯博士は既に初号機に取り込まれていたのに」
「それはね、レイちゃん、うちの人は私が妊娠した時にこういっていたのよ。『男の子だったらシンジ、女の子ならレイと名付ける』って。初めて貴方を見たとき私の子供だと思ったの。だからレイって呼んだのよ」
 こう言うと唯は、レイと視線を合わせてさらに言葉をつないだ。
「今回の事件で、シンジや貴方たちを苦しめてごめんなさい。でも私たちは貴方たちも自分達の子供と思っているわ。いつか許してくれる時が来たら、みんなで何時でも遊びにおいでね」
「ええ、いつかは」
 綾波レイは微笑みながら碇唯と約束した。その約束が果たされるのには、またかなりの時間が掛かったが。


後書き Ver.1.1

 長らくお待たせいたしました。
 さて裏舞台を書くのも大変です。
 本編と矛盾してはいけないし、物語としても面白くしなくては。
 でも、5話も後2パート。議会の方で話題になった、特殊部隊のROEについての話も1パート使って書くつもりになっています。相変わらず何時完成するかは解りませんが。(^_^;)

感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。



<アイングラッドの感想>
 岡田”雪達磨”さん投稿ありがとうございました。
 この話を読むとゴールドアームさんが書いた「会議は踊る」での鷲羽ちゃんの言葉がどう云う意味を持っていたかが良く分かりますね。
 うーむしかし、イフリーナはともかくあのお方まで来ていたとは!
 女性陣、危機一発(誤字にならないな、あのお方の場合)。
 取り敢えず目に付かない様にしなければ。
 おっ、そうだ。美少女の宝庫エマーンの事を知らせれば・・・外交問題になり兼ねませんね。没か。
 しかし、これだけ質・量ともにボリュームがあると本編よりも面白かったりして。
 だから洒落にならないって。
 こんなに楽しい話を投稿して戴いてありがとうございました。
 ではでは。
 追伸・・・岡田”雪達磨”さん、イフリーテスは出てくるのでしょうか? わくわく。
ver.1.1 バランスをオリジナルに戻しています。




日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。

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