「碇 唯 博士、貴方が碇シンジ君にした事は、第三者から見て殺人罪に問われてもしかたが無いことです」
 加治首相が碇 唯へ発した台詞である。挨拶もそこそこに非難された碇 唯は顔面が蒼白になった。
 碇シンジが奇跡の生還を遂げてから一週間後の事である。この日、加治隆介は3度目のGアイランド訪問をしていた。イリス事件でうやむやの内に中止となった碇博士との会談をやり直して、エヴァンゲリオンと使徒の正体を聴く為である。赤城律子と伊吹麻耶が第三新東京市へ帰っていく中、その為に碇博士が惣流博士と共に残っていた。
「やはりシンジ君を排除する決定は、貴方一人で決めるべき話では無かった。その為に首相という最高決断者が居るんですから私に押し付ければよかったんです。サルベージ計画を連絡してくれた時、極秘計画として伝えてくれたら、貴方の決断を肩代わり出来たでしょうに。子供殺しの汚名を着る必要は無かったですよ」
 そう言う加治の表情は最初と打って変わり、哀れみを浮かべていた。
 そして彼らは1時間にもわたる会談の後、大河長官の案内で碇シンジのお見舞いに向かった。


スーパーSF対戦外伝

加治首相の議

第四  


「あんた、何しに来たのよ」
 アスカは碇唯を見つけると、同行してきた人たちには気づかないで唯に噛み付いていった。改善の見えないシンジの容態に絶望していたアスカは、その原因である、とアスカは思っている、唯が目の前に現れた途端、他の事は目に入らずに唯への攻撃衝動に駆られたのである。
「まぁまぁアスカちゃん、落ち着いて。せっかくの首相のお見舞いなのよ。もう少しおしとやかにね」
 惣流響子がアスカを押しとどめた。
「首相?」
「君たちがあのエヴァンゲリオンのパイロットなのだね。はじめまして、加治隆介です」
 加治の挨拶を受けて、アスカは初めてその姿が目に入ったようである。
「はっ、はじめまして。惣流アスカラングレーです」
「・・・」
(ほらっ、あんたも挨拶するのよっ)
「はじめまして、綾波レイです」
 直ぐに挨拶したアスカと違いただ加治を見つめていたレイだったが、アスカから肘で合図されるとアスカに倣って加治に挨拶した。
 加治はその二人に微笑んで頷くと、ベットのシンジに向かった。碇シンジは初めて訪れた人物が傍に来ても何も反応せず、ただうつろな眼差しを天井に向けているだけであった。
「話には聞いていたが、酷い事に成っているようですね。回復の可能性は?」
 加治の問いかけには、大河長官が応えた。
「はい首相。名立たる名医たちが直ぐの回復は絶望と診断しております。何年かかるか長期的に療養を続けていくしかないということです」
 振り返った加治の目には、僅か1週間で看護に疲れた様に髪はぼさぼさで肌がかさかさになったアスカとレイ、二人の姿が映った。
「君たちも疲れきっているようだが、まさか君たちだけでシンジ君の看護をしているんじゃないだろうね」
 その問いには碇唯が応えた。
「響子と私たちも看病すると言っているんですけど、聴いてくれなくて・・・」
「何よ。シンジをこんな目にあわせたのはあんたじゃない!今さら何よ、善人ぶって」
 唯の台詞にアスカは過敏とも言える反応を起こした。
「あんたが、シンジを殺すようなプログラム組まなければ・・・シンジは・・・こんな死んで生き返るような惨い目に会わずに済んだのに・・・」
「アスカ・・・」
「アスカちゃん・・・」
 レイと響子の二人に腕をさすられて、激昂した感情はたちまち沈静化したが今度は深い悲しみに落ち込んでしまった。
 三人を見ていた加治は、続いて唯を見てその表情に後悔の念が浮かんでいるのを見た。
(山野君、碇博士は本当にシンジ君へしたことを後悔しているんだね)
(はい、首相)
 加治は同行していた山野こと101小声で会話し、彼のテレパシーで唯の感情を確認すると、子供たちにこう告げた。
「君たちは、碇博士がしたことに怒っているんだね」
 この発言に子供たちと親達が加治を見た。皆が注目したことを確認した加治はさらにこう告げた。
「碇博士がシンジ君を消滅させようと仕組んだことを恨んではいけない。博士は私が政府全体に出した命令、暴走したエヴァンゲリオンが万が一にも再度暴れだした時に対応できるようにせよ、という指示に従っただけです。碇博士を恨むなら、それより先に私を恨みなさい」
「何ですって!」
 アスカが加治に食って掛かった。慌てた周りの大人が彼女を急いで押しとどめ、加治から離した。
 パシーン!
 大きな音にその場の人々が注目すると、レイに頬を打たれた加治がその場に立っていた。
「あなたが碇君を殺す命令を出したのね」
「言い訳はしないよ、綾波君。大義名分が在ろうとも、14歳の少年を戦いに駆り出し、そしてこのGアイランドを巻き込んでもシンジ君ごと暴走したエヴァを破壊しようと準備したんだからね。だからシンジ君だけでなく君たちにもお詫びしたい。もしかしたらこの場に居た人達を殺す命令を出したかもしれなかったことを」
 加治の言葉を聞いた響子が大河長官に訊ねた。
「長官、首相の仰られた事は本当ですか?」
「ああ、その通りです。しかし、加治首相もその時、このGアイランドに来ていたことも言わなくてはいけません」
「そうです。僕はその日加治首相の護衛に付いたついでに、首相の考えも読み取らせてもらいました・・・」
「山野君」
 大河長官に続いて山野が発言すると、流石に加治も焦ったのか彼の発言を止めようとする。
「いいえ、首相。無理に悪役になることは在りませんよ。渚君の台詞ではありませんが、首相は政治家として珍しい性格をお持ちです。このまま変な噂が流れて首相が失脚するようなことになったら、この日本の損失です」
「彼の言うとおりですよ、首相。私の見たところ今の日本には他にも首相候補は多くいるようですが、年を取っていたり若すぎたり暗かったり、加治首相ほどバランスの取れている方は他には居りません。さあ山野君、今回ばかりは首相の命令を無視してくれたまえ。火摩参謀・・・」
「はい、既に対処済みです」
 大河長官が命令を出そうとすると、何時の間にか火摩参謀に口を押さえつけられていた加治がそこに居た。
「綾波君、惣流君、あの日加治首相は本当に後悔していたんだよ。大の大人が少年を戦いの場に出して、自分は安全な場所にいたことをね・・・」
 山野こと101の口からその日の加治の思いが語られていった。加治首相の世界の過去では日本が東南アジア某国へ派遣した文民警察官が共産ゲリラに襲撃され、自分の後援会長の子息がその犠牲になったことがあった。加治首相(当時は一新人議員だったが)は自分を非難しなかった後援会長の思いを受け止めて現地を視察しに行ったが、同行のカメラマンのミスで共産ゲリラの捕虜となった。カメラマンは直ぐに処刑され加治も人質とされかけたが、ゲリラ思想に疑問を持っていた少年ゲリラに助け出されいっしょに脱走した。その途中で少年の夢を聴き、その援助を約束しながら、しかし少年は事故で死亡し、加治も逃走中病気にかかり九死に一生を得たのであった。碇シンジが戦いの中で一回死亡したことは、加治にその少年を思い出させたのであった。
「もういいよ、山野君、火摩君」
 火摩参謀はおとなしくなった加治を解放した。
「他にもいろいろな経験があって、私は犠牲者となる人間は出さないようにしたいと思いつづけていた。犠牲とするようなことがあっても、後で別の事で救済できるように手はずを整えて、最悪の場面は避けるようにしたいと。だからシンジ君が犠牲になったことからまた少年を見殺しにしてしまうのではないかと思った私は、自分も巻き込まれるのを覚悟で現場に来たわけだ。まぁ、偽善かもしれないがね」
 加治はアスカとレイを見つめながら、話を進めた。
「だが、結局シンジ君を犠牲にして使徒とイリスを撃退出来たことになってしまった。その過程で碇博士もシンジ君を消去するプログラムを仕込むことになってしまったが、シンジ君を心配してGアイランドに来た事実は変えられない。だからシンジ君を殺しかけたことを恨むなら、最高責任者であるこの私を恨んで欲しい」
「そんなことを言われたら、怒りたくても怒れないじゃないですか」
「そうです。加治首相はずるいです」
 加治隆介の言葉に少なくとも怒りは収まったアスカとレイであった。それを見て加治は提案した。
「もし許されるのなら、シンジ君の看病に私のメイドロボを使って欲しい。いいかな?見たところシンジ君だけでなく君たちにも世話が必要だよ」
 加治の言葉にお互いを見詰め合う二人であった。確かに加治の言うとおり髪はぼさぼさ、肌はかさかさであった。二人の沈黙を了解と受け取った加治はメイドロボを呼んだ。
「セリオ」
「−−はい、マスター」
「特別命令です。彼、碇シンジ君が社会復帰するまで彼の看護と綾波レイ君、惣流アスカ君の日常生活の世話をしてください。毎日、そうですね午後6時に定時連絡を私に入れてください。依頼事項が発生した場合は定時連絡に関係なく、随時遠慮なく相談してください」
「了解しました、マスター。これより私は碇シンジ様の看護と、綾波レイ様、惣流アスカ様の日常生活のお世話をいたします」
「よろしく頼むよ、アユミ。3人の心労を少しでも和らげてくれ」
 加治が他には聞こえないような小さい声で、二人の間でしか通用しないシークレットネームでセリオに念を押した。

 メイドロボを購入する際にはユーザーはメイドロボに自分好みの固有名をつけることができる仕様になっている。それはスミレやソニィ、ナナといったアイドルの名前であったり、ユーザーの初恋の人の名前であったりした。
 加治は今までそのセリオだけでなく官邸で使っている全てのメイドロボに固有名を付けてはいなかったが、先日Gアイランドから首相官邸へ帰る途中で寝ぼけてセリオに呼びかけた昔の恋人の名前を、セリオは自分の固有名と認識してしまっていた。
 その次の日、散々呼びかけても直ぐに反応しなかった(セリオには感情表現機能は無いはずなのに、その時の表情は何故か拗ねているように見えたという)セリオにようやく「アユミ」という固有名が登録されていることを突き止めた加治がセリオに命令した。
「セリオ、鮎美と呼びかけたのは間違いだ。取り消してくれ」
「そうなんですか?マスター?」
「あぁ、そうだ」
「−−マスター、一度付けた固有名は容易に変更されない様に、妥当な理由がないと変更できないようになっています。理由を述べてください」
 セリオには感情表現機能は無いはずなのに、その時の表情は能面のように凍りついたように見えたという。
 セリオは理由の入力を求めたが、実際こういう設計ではないことが後日来栖川の技術者と話してばれてしまった。
「・・・・・・ここだけの話、鮎美と私の間には言い尽くせない愛情があった。・・・社会的には不倫関係だったが、サラリーマン時代には関係が冷え切っていた妻の代わりに私の心を満たしてくれた。・・・政治家になってからも要所要所で私の前に現れては、私を励ましてくれた、・・・最愛の人だった。・・・そして彼女が不治の病に罹った時、政治家としての私には総理になる話が持ち上がっていた。・・・そして鮎美は・・・死の直前、最後の力を振り絞り、震える手で総理になって下さいと遺書を残して逝ってしまった。私が総理になる決断をしたのは彼女が促してくれたからと言える。・・・彼女は既にこの世に居らず、私も死ぬまでその事を秘めて行くつもりだったが、セリオが公共の場でも自分を鮎美と呼ばなければ仕事してくれないなら、私と彼女の事がくだらないゴシップのように報道されてしまうことも考えられる。それは私にとって耐えられないことだ」
 途中、彼女を思い出したのか微妙な間を空けながら、加治は理由をセリオに伝えた。その電子頭脳の中でどういうロジックが働いたのか、数秒の沈黙の後、セリオは小さい声で答えた。
「・・・解りました。マスター。アユミと名乗る事がマスターを傷つけるならば、その名前は取り消します・・・」
 セリオには感情表現機能は無いはずなのに、その時の表情は深い悲しみに満ちているように見えたという。
 その表情を目の当たりにした加治は「機械なんだ、機械なんだ」と思い込もうとしていたが、実際その次の日のセリオは第三者が見ても表情は暗く働きも鈍いものなので、とうとう夜になり2人だけになったとき、こう命じた。
「セリオ。人前では使わないと約束できるなら『アユミ』を固有名として登録することを許可する」
「本当ですか?マスター」
 セリオには感情表現機能は無いはずなのに、その時の表情は喜びに満ちて輝いているように見えたという。
「あぁ、セ・・・いやアユミ。二人だけの秘密だぞ」
 それ以来、そのセリオの働きは、当社比2倍になったとか。その代わり他のメイドロボ達の働きが鈍くなったので、全員の固有名を付けている首相の姿が合ったという噂が永田町に流れた。

 閑話休題。

「私は首相付きメイドロボHM-13セリオと申します。加治首相のご命令により、本日から碇シンジ様の介護と、綾波レイ様、惣流アスカ様の日常のお世話をする事になりました。よろしくお願いします」
 加治の命令を受け取ったセリオは早速二人に挨拶をした。
「よっ、よろしく、セリオ」
「・・・よろしく」
 セリオの挨拶に少し途惑ったが、二人は一応挨拶を返した。
「アスカ様、レイ様。何か御用はございませんか?」
「背中がこそばゆいから、様っていうの止めてくんない?呼び捨てでいいわよ、私たちもセリオって呼ぶから」
「でも私はメイドロボです。一時的とはいえご主人様とするお方を呼び捨てには出来ません。『様』というのがおいやでしたら何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ねえアスカ。さん付けでいいんじゃないかしら」
「そうね、レイ。セリオ、それで良い?」
「了解しました。アスカさん、レイさん。お疲れのようですが、お茶をお入れしましょうか?」
 その様子を見ていた大人たちは病室を出て行った。
「では碇博士、明日は安全保障政策会議を開く予定です。議題はゴモラ襲来事件からイリス事件までの反省と対応政策の決定ですが、エヴァンゲリオンの処置ももちろん含まれます。そのためオブザーバーとして碇博士の出席を日本連合国首相として要請します」
 この一週間調査をしていた鷲羽ちゃんらと碇、惣流博士からエヴァと使徒の情報を訊き込んだ加治は、内心エヴァの措置を決めていた。そして碇博士に安全保障政策会議への主席を依頼すると、直ぐにGアイランドから帰還した。

 だからエヴァ調査隊の中でも一番怪しい老人がつぶやいた言葉を、そしてその意味を加治は生涯知ることなく過ごした。
「なあマリア、あの坊主に新しく付けられたメイドロボじゃが、お前と気が合いそうじゃな。加治首相はおそらく知らんじゃろうが、あの御仁を守りたいと思うとる女子の魂が偶然にも宿ったようじゃ。悪霊に成らんように一度面倒見てやらんといかんな」
「イエス、ドクターカオス」

第五話 Aパートへ


Ver.1.0の後書き
 今回は疲れました。構想が肥大して、知識も乏しいのに調査隊の科学者達だのDr.カオスの神秘学講座だのが書きたくなって、最初のテーマを見失うとこでした。
 それでも何とか最初に思いついたことを中心に、何とか落ちまで辿り着けました。しかし途中とは全然関係ない落ちだな。(^_^;)






日本連合 連合議会


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