新世紀2年4月4日PM1:00

技研襲撃に対処するために大騒ぎだった政府首脳を更なる衝撃が襲った。なんと、福島県福島トンネルが何者かによって爆破されたのだ。
トンネルの両端を同時に爆破され、生き埋めにされた民間人を救出するために東北方面隊の一部分が動員される。
明らかに陽動と分かるこの行動に対し警戒を強める警察であったが、その努力をあざ笑うかのように六十里越トンネルが爆破され更に大勢の人間がトンネルの中に生き埋めになった。
その後、わずか五分の間に宮城県仙山・蔵王トンネルが爆破され、陸上自衛隊東北方面隊は実にその戦力の75%を救出に向かわせることとなった。
しかしテロリスト達に慈悲の心は無く、新潟県鳥井峠、東北自動車道各所などを爆破し救援部隊の移動を徹底的に妨害した。
当然ながら自衛隊にこの非道な連中を生かしておくつもりは無く、山中に潜伏したテロリストを殲滅するためサイレントコア及び第一空挺師団に出動命令が下った。
命令を受けた彼らは、直ちに輸送機に乗り込み福島へ向けて飛び立った。
それすらもが陽動とは知らず・・・・・・・・・


PM1:05 埼玉県某山中

埼玉県内の某山中に技研の出向機関がある。
正式名称は防衛省防衛技術研究所特殊戦研修センター。技研で開発された特殊戦用装備を的確に運用するためのノウハウを得るために作られた組織である。
しかし、実際にその任にあたるのは富士の特殊戦教導隊であることは自衛隊内なら知らぬ者はおらず、その実態は謎に包まれていた。
また、この施設の建造費や設備の購入費などは一切公開されてなく、自衛隊上層部でもこの組織の実態を把握している者は少なかった。
センターに技研襲撃の報が入ったのは12:45。政府首脳に遅れること30分である。
所長である小林元陸将は、その後発生した連続トンネル爆破事件や各地の自衛隊部隊の行動を計算した結果「試作装備研修部隊」に非常招集をかけた。

「失礼します」

佐藤大輔元三等陸佐が所長室に入ってくる。

「技研が所属不明軍による襲撃を受けた」
「確か技研は本省の敷地内にありましたよね?」
「ああ」
「本省敷地内に敵の侵入を許したんですか?」

あきれた顔で佐藤は尋ねる。

「仕方が無いだろう、実戦経験がある兵士は融合後のごたごたでほとんど死んでしまったし、そうでなくともベテランは富士方面に集められているんだから」
「・・・それで自分たちはどうすれば?」
「現在、自衛隊の全ての特殊部隊に出動命令が下っている」
「全部隊がですか?うわー、もし何かあったら大変だ」

白々しく言う佐藤元三佐。
実を言うと彼は既に他の部署の友人からそのことを聞いていた。

「白々しい演技はよしたまえ。やっと出番が回ってきたという顔をしているぞ」

元陸将にはお見通しらしい。

「・・・それで?」
「先ほど『オメガ』復活の許可が下りた。それにより我々の階級は復活する。すぐに部下たちに戦闘態勢を取らせろ、五分後にブリーフィングだ」
「はっ」

佐藤大輔三佐率いるオメガは、特偵隊と同じ長官直轄部隊である。
時空融合後、通常であれば他の特殊部隊と同様に自衛隊に組み込まれたのだが、この部隊はそういうわけにはいかなかった。
なぜならオメガは他の部隊では出来ない非公式な任務――報復テロやスパイの暗殺、テロ組織の殲滅、憲法の枠を超えた任務など――を主任務としていたのだ。
防衛庁(当時)に、試作兵器の実験部隊と嘘の報告をした後、加治政権の動きを伺っていた佐藤は、一連の事件を通して加治政権下でオメガを復活させることは不可能であると悟り、オメガを特殊戦の教導部隊にしようとしたのだが、別の世界から来ていた特殊戦教導隊にその任を奪われてしまい途方にくれる。
そんな時、偶然施設に査察に来ていた斎藤が空挺時代の部下だった中村三曹と出会い佐藤三佐に接触、技研のモルモット部隊として動くことを条件に部隊の存続を約束し現在にいたる。

「全員そろったな・・・よし、それではブリーフィングを始める」

きっかり五分後にブリーフィングルームへ集合した隊員たちを見ながら佐藤三佐が言う。

「今から約一時間前、技研に所属不明軍が突入し施設を完全に占拠した。現在、自衛隊中の特殊部隊を総動員して鎮圧作戦を行っている。それに呼応するように福島県周辺部で所属不明軍によるテロ事件が多発しており、東北方面隊の大部分が救出作戦に回されている」

装置を操作し、ディスプレイに映像を出す。

「今回の任務は、救出作戦中手薄になった重要施設の防衛だ」

画面が切り替わり、福島県の地図が出てくる。

「第一班は福島第一原発、第二班は第二原発だ。公安調査庁の友人によると、最近この地域で例の黒ずくめ軍団らしい連中を見たという情報が上がってきているらしい」
「黒ずくめといいますと例のガミアシリーズと一緒に行動するやつですよね?」

小松という隊員が質問する。

「そうだ、最悪の場合ガミアシリーズによる攻撃も考えられる」
「まじっすか!それはちょっときついですよ!正規の部隊による支援は得られないんですか?」

他の隊員が声を上げる。

「近隣の部隊は現在、福島・関越・蔵王・六十里越トンネルで発生した爆破テロの救出活動に出動しており、辛うじて一個小隊を貸し出せるだけらしい」
「一個小隊!?他県からの増援は!?」
「言っただろ、トンネルが爆破されてるんだ」
「あ」
「一応、鉄道や海路、別の道からこちらにきてもらってはいるが、時間が掛かりすぎる」
「ヘリは!?」
「出せるヘリは全て救出作戦に向かっている。輸送用にまわせる分は無いらしい」
「しかし!!」

食い下がる隊員達。
無理も無い、あのガミアシリーズがいるかもしれない地域に自分達と一個小隊だけで行ってこいというのだ。

「現状報告は以上だ」

冷たく言い放つと画面を切り替える。

「次に作戦区域についてだが、付近には住宅地もある、流れ弾には注意しろ」
「三佐!納得がいきません!いくら新型兵器があるとは言っても相手が悪すぎます!!」
「落ち着け」
「ですが!」
「まあまて、今回は特別に強力な援軍を用意してある」

にやりと笑うと、佐藤三佐は傍らにいた技術者に「連中を連れて来い」といった。
暫くして、部屋の中に六人の男が入ってきた。

「三佐、こいつらは?」

小松が尋ねる。

「助っ人だよ、第一師団空挺師団から借りてきた」
「第一空挺から?うちは正規の連中とは別系統ですよ」
「黙って聞け、彼らは第一空挺師団所属のアンドロイドだ」

途端に部屋中で驚きの声があがった。

「あんどろいど!?」
「アンドロイドって、ガミアシリーズと同じあれか?」
「黙れ」

佐藤三佐の一喝で室内は静まり返った。

「各隊に三人ずつ同行してもらう。左からコードはオメガ50・51・52・53・54・55だ、よろしくやってくれ。
今回の任務は原発の護衛、敵が敵なので武器の使用は無制限とする。作戦開始は五分後。直ぐに準備を整えろ、以上」

すぐさま武器庫へと向かっていく隊員たち。

「それでは自分も現地へ向かいます」

小林陸将に敬礼しつつ佐藤三佐。

「わかった」

それだけ言うと陸将は部屋を出て行った。
懐から携帯を取り出す。

「佐藤だ」
「はい」
「やはり福島に行くことになった、例のもの頼んだぞ」
「それなんだが、やはりまずいような気が・・・」
「あ?お前職を失いたいのか?」
「そっ、それは・・・・・・分かった、何とかしよう」
「そうそう、人間素直じゃないとな、それじゃあ」

携帯を切り部屋を出て行く佐藤。


『パンドラの箱』

最終回

「技研の一番長い日 後編」




PM1:15 福島県国道288号線

佐藤たちオメガが福島に向かって出動したのと同じころ、福島県警機動隊が福島第一・第二原発に警備の為に向かっていた。
いまだに本格的な軍事行動を経験したことの無い福島県警は敵の戦力を過小評価しており、SATではなく機動隊を向かわせていたのだ。もっとも、仮にSATを投入したとしても本格的な軍事訓練を受けた者に抵抗できるはずは無いのだが。

「原発まで後どのくらいだ?」

先頭の指揮車の助手席に座っている島崎警部が傍らの部下に尋ねた。

「おおよそ十分です」
「そうか、各員に銃の安全装置をはずすように言え」
「はっ」

無線をかける部下を横目に島崎は一人憂鬱そうに窓の外を見た。
住民達が消しているのか外の町並みはやけに暗かった。
やがて隊列は町を出て原発に向かう道に入った。
連続して発生した爆破事件によって県内の一般道には交通規制が敷かれていた上に、わざわざこの非常時に原発に近寄る人間もいるわけが無く、対向車の姿は無かった。

「警部、そろそろ原発が見えてきます」

運転している巡査が言う。

「よし、気を引き締めていくぞ」

ヘルメットを被りなおし、そういった瞬間視界の端で何かが光った。

「ん?」

次の瞬間、炸裂したC−4爆薬によって島崎は指揮車ごと吹き飛ばされた。
彼にとって唯一の救いは、痛みも無く死ねたことだろう。
残された機動隊員たちを最初に襲ったのはRPGだった。
弾頭にこめられた成型炸薬は、輸送車のボディーをバターのように切り裂き高温の奔流を車内に流し込んだ。
これによって、ほとんどの機動隊員は死亡した。
RPGの攻撃がやむと、一瞬間をおいて、自動小銃による一斉射撃が開始された。
そして、あたりは怒号と悲鳴が入り乱れる“戦場”となった。


同時刻 防衛省敷地内

<デルタ1より各員、作戦開始>

号令と共に周囲に展開していた部隊から発煙弾が発射される。
ある物は窓に飛び込み、またある物は壁にぶつかって周囲に煙幕を張り巡らせた。
技研の周囲は完全に煙に包まれ、パニックになったテロリストが窓からしきりに小銃を発砲している。
煙に紛れ、二両の89式装甲戦闘車が35ミリ機関砲を乱射しながら正面エントランスに突っ込む。
積み上げられた机や椅子などをテロリストごと蹴散らしながら突入すると、機銃を乱射しながら次々と完全武装の自衛隊員を下車させた。
下車した隊員たちは三人で一組となり、エントランス内の制圧を開始した。

「頭を下げろ!遮蔽物の陰に隠れるんだ!!」

あたりに響き渡る銃声に負けない大声で小隊長が叫ぶ。
各自、柱やバリケードの残骸、装甲車の陰などに隠れ、廊下の向こうから次々とやってくるテロリスト達を迎え撃つ。
各所で衛生兵や助けを呼ぶ声が響く。

「横田一士負傷!衛生兵!!」
「うっ、腕がぁぁぁ!!」
「落ち着け!おい、誰かこいつを車内に連れていけ!!」
「衛生兵!こっちだ!!早く来てくれ!!」
「装甲車!受付を黙らせろ!!」

直ちに砲塔が旋回し、受付に35ミリ弾を叩き込む。
オーク材のカウンターごと粉々に粉砕されるテロリスト達。

「すげえ」

思わず呟いた一士の頭をテロリストの放った銃弾が貫く。

「気をつけろ!上にもいるぞ!!」
「散開!散開!!」

慌てて吹き抜けの死角に逃げ込む。

「96式あるか!?」
「自分達です、これです」

すぐさま古参の陸士長たちがやってくる。

「よし、下からぶち抜いてやれ」
「はっ」

96式40mm自動てき弾銃を、天井に向け発砲する。
たちまちコンクリートが砕け散り、天井を打ち抜く。
すると、撃ち抜いた部分から大量の血が滴ってくるが、激しい戦闘によって感覚が麻痺している隊員たちは単に敵を倒したとしか認識できない。

「よし!反対側もだ!!」
「はっ!」

やはり同様に天井を撃ち抜くが、銃撃はやまない。

「手榴弾!2カウントでいくぞ!!2・1・やれ!!」

素早く吹き抜けに飛び出し、二階部分に手榴弾を投げ込むと、再び死角に飛び込む。
何回か爆発音が響き、上が静かになる。

「やったか?」

ゆっくりと隊員たちが死角からでてくる。
その瞬間、二階部分から爆発したような音が響く。
反射的に身を伏せた隊員たちの頭上をRPG弾頭が飛んでいき装甲車を直撃した。
小銃弾程度なら跳ね返す装甲もRPG相手には役には立たず、装甲車は轟音を立てて爆発した。

「わぁぁぁぁぁぁ!!!」

車内に潜んでいた隊員が火達磨になって飛び出してくる。

「火を消せ!上を黙らせるんだ!!」

10数発の手榴弾を投げ込み、今度こそ完全に敵を黙らせる。
火災に反応し、スプリンクラーが消火を始める。

「・・・駄目です、死にました」

火達磨になった隊員を介抱していた衛生兵が首を振りながら言う。

「そうか・・・よし!負傷者はここに待機!4人残す、2階に注意しろ!残りは俺に続け!」

正面エントランスで戦闘が発生したのと同じころ、ちょうど反対側に位置する資料室の壁が激しく振動していた。
振動は壁全体から部屋中に広がり、やがて壁が崩れ落ちた。
崩れた壁の向こう側から数名の隊員が資料室に忍び込む。

「・・・・・・・・・クリア」

一人がそう呟くと、直ぐに大勢の隊員が部屋の中に入ってきた。
玄関の方から銃声や爆発音が響いてくる。

「一階を確保」
「了解」

地上部分への突入が開始されると同時に、屋上への降下も開始された。
CH−47Jが屋上にホバリングし、次々と隊員を吐き出す。

「ドアをぶち破れ!ヘリ!直ぐに移動しろ!!」
<了解>

ゆっくりと巨体を翻し、建物から遠ざかるヘリ。
直ぐに次のヘリがやってくる。

「参ったな、人が多くちゃ降りられないよ」

屋上いっぱいに人がいるのを見てパイロットが呟く。

「しょうがない、ラベリングさせましょう」

コパイロットが言う。

「そうだな、よし後ろに伝えてくれ」
「はい」

コパイロットが頷いた瞬間、技研の窓から白煙が立ち上るのが見えた。

「やばい!!」

機を急旋回させようとするが、音速で飛んでくるミサイルをよけられるはずも無く、CH47Jは55人の隊員と共に爆散した。

「敵は携SAMを所持している模様!至急ヘリ隊を下げろ!!」

すぐさま指示が飛び、施設上空を旋回していたヘリが次々と離れていく。

「特偵隊のCATジャイロ(MATジャイロの特殊部隊版、CATはCounter attack terrorism対テロリズム攻撃の略)はどうなってる!?」
「富士学校でオーバーホール中です!!」
「直ぐに回せないのか!?」
「駄目です!整備を中止したとしても一時間は掛かります!!」

このとき、日本国内にCATジャイロは試作機の一号機しかなかった。
試作一号機は、実用試験にてパトリオットミサイルの直撃を受けたが、多少装甲に亀裂が入っただけで飛行を続け関係者に速攻で購入を決意させた一品である。
しかし、そのときに出来た亀裂を修復するついでに、機体中を再点検しており今回の作戦への参加は見送られた。
この教訓を生かし、特偵隊を始めとした各特殊部隊に特別予算が計上され、急遽CATジャイロの購入が行われることになった。

「地上班第二波突入!!」

再び二両の装甲車が突入しようとするが、三階から発射されたRPGによって二両とも破壊される。

「車両も下げろ!RPGだ!!」

慌てて周囲を包囲していた装甲車が下がっていく。


PM1:20 中央指揮所

次々に上がってくる被害報告に、さすがの土門康平陸幕長も落ち込まずにはいられなかった。
作戦開始からわずか五分で、既に79名の命が奪われているのだ。
おまけに福島県内では連続爆破事件が発生しており、大勢の人名が奪われているうえに、原発の警備に向かった機動隊が消息を断っているのである。
いくら彼に責任が無いとはいえ、落ち込まずにはいられなかった。

「入間より入電!技研所属のヘリが五機、埼玉上空を栃木方面に移動中!」

オペレーターの報告に指揮所内がざわめく。

「技研所属?間違いないのか?」

先任士官が尋ねる。

「はい、通信を試みたところ自分達は技研所属の特殊部隊であると答えたそうです」
「技研所属の特殊部隊?そんな物あったか?」
「特殊部隊というか、試作品の研修部隊のような物はあったはずです、確か佐藤とか言う人が部隊長をやっていたはずです」
「佐藤だって!?」

オペレーターが答えると先任は大声を出した。
指揮所中の人間が何事かと彼の方を見る。

「おい、それはもしかして佐藤大輔三佐のことか!?」

オペレーターに詰め寄り詰問する先任。

「え、ええ、そうです。佐藤大輔三佐です」

何事か分からずしどろもどろになるオペレーター。

「そうか、野郎生きてやがったか・・・」

先任はなにやら思い出にふけっているようだ。

「どうした先任?」

土門が不思議そうに声をかける。

「あっ、申し訳ありません」

慌てて土門の脇に戻ってくる。

「それで?佐藤ってのは何者なんだ?」
「佐藤三等陸佐殿は、自分が陸自に入隊したときの上官でありまして、自分の世界ではオメガという特殊部隊を率いておりました」
「オメガ?そういう部隊は聞いたことが無いな」
「自分の世界でも秘匿部隊でしたから、こちらでも同様の存在なのではないでしょうか?」
「それにしたって陸幕長の俺が知らないのは問題があるんじゃないのか?」

なんだか無視された感じがして、つい不服そうな口調になる土門。

「はっ、申し訳ありません」

思わず謝ってしまう先任。

「いや、すまん。気にしないでくれ。それで?その佐藤という男は信用できるのか?」
「はい、彼は極めてやり手の自衛隊員であり、また国のことを真剣に思ういい男であります。彼のおかげで命が助かった自衛隊員は大勢います」
「ほう、堅物の君がそこまでほれ込むのだから、よほどいい男なんだろうな・・・よし、君を信用しよう。移動許可をだせ」
「はっ、ありがとうございます!」

嬉々として指示を出す先任を見ながら、果たして自分はここまで戦友に頼られる男だろうかと自問自答してしまう土門であった。

<入間管制室よりヒヨドリ01。移動許可を出す。安心して福島へ向かわれたし、オーバー>
<こちらヒヨドリ01、許可を感謝する入間管制室、これより栃木を福島方面へ移動する、オーバー>
佐藤たちを乗せたUH−60JA五機は最大速度で原発を目指した。


PM1:23 福島県国道288号線

第一原発を目指して陸上自衛隊の部隊が移動していた。
部隊とはいってもわずか二班に過ぎず。ガミアシリーズが攻めてきたら数分と持たないことは分かりきっていた。
高機動車に分乗し、可能な限りのスピードで原発に向かった彼らが最初に見た物は、焼け焦げた警察車両の群れであった。

「スピードを落とすな!!もう誰も助からん!!」

後衛を勤める第一班班長の山口三曹が声を張り上げる。

「は、はぃぃぃ」

ハンドルを握る坂田光男一士が情けない声を出す。

「後ろ!後方警戒怠るな!怪しいのは片っ端から撃て!!」
「りょ、了解」

89式を構えながら後衛の隊員が答える。
やがて警察車両の残骸を越えると、最初の爆発が起きた。

「はんちょぉぉぉぉ爆発しましたよぉ!!」
「いいから突っ走れ!!高速で移動すればRPGは当たらん!!」

100%そうではないが、今はそれを信じたい班長が叫ぶ。

「りょぉぉかい!!」

アクセルを床まで踏み込み全速で高機動車を走らせる。
その周りに次々とRPGや小銃弾が着弾する。
ようやく原発が見えてきたころ、先頭車両が地雷を踏んだ。
凄まじい爆発と共に空に舞い上がる高機動車。

「突っ走れ!!」

叫ぶ班長の頭上を先頭車両が通過し、少し後ろでガソリンに引火し爆発する。

「行け行け行け行けぇ!!」

軽くスリップしながら高機動車が原発前に停車すると、直ぐに玄関からガードマンが飛び出してきた。
口々に助かったとか、帰れると言っている。

「ごっ、ご苦労様です!警備主任の萩原です!!」

年配のガードマンが敬礼しながら走ってくる。

「あ、あの、失礼ながら本隊はいつ頃来られるのでしょうか?」
「我々が本隊だ!もう一台はやられた!直ぐに全ての窓とドアをロックしろ!」

息も絶え絶えに班長が叫ぶ。

「ええっ!本隊があなた方というのは!?」
「現在、我々東北方面隊の主力は県内各所で発生しているテロによる被害者の救出のため展開中だ!よって我々しか来ない!」
「そ、そんな・・・」

余りのショックで座り込んでしまう主任。
無理も無い、くるはずの機動隊はいつまでたっても来ないし、やっと来た自衛隊はわずか10人しかいないのだ。

「いいから直ぐに全てのドアと窓をロックするんだ!残ってる職員は全て制御室に集めろ!」
「ですが・・・」
「いいからさっさとしろ!!!」
「はっ、はいっ!!」

班長の怒号にすくみ上がったガードマン達は慌てて各々の仕事に取り掛かった。

「は、はんちょぉ」

情けない声に振り向くと、坂田一士がへっぴり腰で高機動車から降りるところだった。

「なんだ?」
「よく平気ですね」
「いいから、さっさと装備をおろせ!制御室にいくぞ!!」
「は、はい」


PM1:30 技研四階

突入から十五分後、状況は完全に膠着していた。
多大な犠牲を払って突入に成功した自衛隊であったが、その後後続部隊は施設に近づけない上、三階にかなりの数の人質がいることが判明したのだ。
その数42名。これに先ほど四階に取り残されていた40名を足すと、事件発生当時、技研地上施設にいた人間のほとんどである。
後の調査で判明したのだが、この事件で死亡した技研の職員は、不幸な受付嬢やテレビクルーを含めわずか10名であった。
どうやら、テロリストは方針を変えたらしかった。始めにロビーにいた職員達を血祭りに上げた後、すぐさま残った職員達を拘束し四階に押し込めていたのである。
しかし、特偵隊と特戦教の合同隊が五階を完全に占領したため、テロリスト達は慌てて三階に人質を移動した。ちなみに、この情報はそのときに取り残された人質から得た情報である。
現在、残った人質たちは全員猿轡と目隠しをされて階段とエレベーターの前に並べられていた。

「隊長、どうしますか?」

米軍が開発したワイヤー型遠隔カメラ、通称“ワーム”で部屋の様子を見ながら特偵隊員が尋ねる。

「ふむ、下の連中と連絡は取れるのか?」
「はい、隊内無線で何とか。下の小隊長と繋がってます」

受話器を渡す。

「こちらS1、ブラボー1、送れ」
<ザザ・・こち・・・ブラボ・・1感・・・不調>

妨害されているのか通信状態は極めて悪かった。

「下から突入は出来そうか?送れ」
<ガッ・・・こちら・・・15名しか・・・・ない・・・突・・・入の・・・きは援護・・・・・る、送・・・>
「了解、一三三五(午後1:35)突入する、送れ」
<・・・ブラボ・・・了・・い、送れ>
「以上、通信終わり」

受話器を戻すと、副長に突入時刻を伝える。

「一三三五、突入。総員突入準備」


同時刻 地下九階『パンドラの箱』

一個中隊が丸ごと乗ってもまだ余裕のある巨大なエレベーターで降りた先には、見たことも無い機体が立ち並ぶ巨大な倉庫であった。

「中隊長、ここは?」

部下の小隊長が尋ねる。その顔には好奇心がにじみ出ていた。

「ここはS級秘匿施設だ。無用な好奇心は身を滅ぼすぞ」
「はっ、申し訳ありませんでした」

素直に謝る小隊長。
やがて中隊は上へ向かう研究員用エレベーターと貨物エレベーターの前に着いた。

「各員装填確認。これより地下施設上部へ向かう」

89式にマガジンが込められているのを確認し、エレベータに乗り込む中隊。

上った先は地下八階第8研究室であった。
そこには唖然とした顔の研究員達がいた。

「えっと、自衛隊、ですよね?」

自信なさげに尋ねる研究員。

「そうだ、我々は朝霞の第31普通科連隊所属第四中隊だ。ここの責任者は誰か?」
「私だ」

集団の中から若い男が出てくる。

「第8研究室主任坂田玲人だ」
「中隊長の加藤です。早速ですが、地下に脱出路を確保してあります。急いで脱出してください」
「皆さんは?」
「我々は地下四階の原爆を回収しに行きます」
「ああ、それでしたらご心配には及びません。四階に原爆はありません」
「ええっ!?」

余りに意外な情報に素っ頓狂な声を出す加藤中隊長。

「あれは第一の斎藤さんが考えた嘘ですよ」
「しかし、ここには原爆を始めとした大量破壊兵器が多数あるんじゃ・・・」
「ありますよ、この部屋と下には」

両手で部屋中を指しながら玲人。

「へっ?」

見回してみると、確かに部屋中においてある筒には放射能マークや、バイオハザードマークが書かれていた。

「我々第8研究室の仕事は、下の機体の整備と大量破壊兵器量産化の研究ですから」
「はあ」
「あ、そういえば四階で斎藤さんたちがテロリストと交戦中のはずですよ」
「ええっ!!それを先に言ってください!!直ぐに上へ向かうぞ!!」

慌てて階段を駆け上がる中隊。


PM1:32 技研地下四階階段前

「なんかさっきから上がにぎやかですね」

96式40mm自動てき弾銃を構えながら新人がいう。

「ようやく突入したんだろ」

階段に仕掛けた隠しカメラのモニターを見ながら斎藤。

「なるほど、それにしても一体いつになったら・・・・・・」
「静かに!」

斎藤が鋭く叫ぶ。
その目はモニターに釘付けになっている。

「・・・・・・戦闘用意、合図したら撃て」
「はっ」

慌てて安全装置を解除する研究員達。
モニターの中のテロリスト達がドアの左右に立ち手榴弾を取り出す。
片方の男がドアノブに手を掛ける。

「今だ!撃て!!」

斎藤が叫ぶと同時に、一斉射撃が開始された。
二体の二式強化装甲服に搭載されている15mmガトリングが唸りを上げ、40mm自動てき弾銃が凄まじい勢いで弾を吐き出す。
一瞬で階段のドアは左右の壁ごと粉々に粉砕され、壁に潜んでいたテロリスト達は吹き飛ばされた。

「撃て!撃ちまくれ!!」

自らも89式小銃を撃ちながら叫ぶ斎藤。

恐ろしい勢いで殺到する銃弾に、階段すらもが砕かれていく。
おおよそ四十秒ほど斉射したあと、斎藤は射撃を止めさせた。
ドアがあった場所は見事に砕かれ何も残っていない。かろうじて原形をとどめている階段にはテロリスト達の残骸が飛び散っており、それを見た研究員の何人かは嘔吐していた。

「油断するな、まだ残っているかもしれん」

89式を構えながら斎藤が階段に近寄る。

「・・・・・・・・・・・」

左右を見て、次にうえを見る。

「・・・よし、クリア」

それを聞いて研究員達は安堵の声を漏らす。
その時、後ろから大勢の足音が聞こえてきた。
見ると、完全武装の男たちが大勢やってくる。
銃を構える斎藤たち。
それを見た先頭の男が叫ぶ。

「撃つな!我々は朝霞駐屯地第31普通科連隊所属第四中隊だ!!」


PM1:35 技研三階

「指揮官。そろそろ撤退準備を整えた方がいいのでは?」

サングラスの男が言う。

「かもしれんな・・・って、貴様いつの間に準備を整えてやがる!」

サングラスの男は、既に技研の職員の服を着ていた。

「ふざけやがって!大体貴様らがこんな仕事を持ってくるから・・・」
「おっと、それは言いっこなしですぞ、お互いビジネスパートナーですからな」
「けっ、何がビジネスパートナーだ。お前らが回してくれた海兵隊の小銃が、直ぐに弾が詰まるって部下達が言い出したときから嫌な予感はしてたんだ」
「おちついてください指揮官、いまはこの現状を・・・」

突然、窓という窓から発煙弾が投げ込まれる。

「煙幕だ!!マスクをつけろ!!」

慌てて、マスクをつける指揮官の目の前でサングラスの男が倒れる。

「まさか、毒ガスか!!」

パニックになる。
そうしているうちに自分も気が遠くなってくる。

「・・・畜生・・・・おれも・・・終わり・・・か・・・・・・」

誰も動かなくなった部屋に自衛隊がなだれ込んでくる。

「テロリストは武装を解除した上で拘束しろ!」
「はっ!」

直ぐにテロリスト達から銃を取り上げ、両手両足をロープで縛る。

「この内線は使えるのか?」

傍らの副長に尋ねる。

「はい、もう大丈夫なはずです」
「よし・・・・・・」

地下四階に内線をかける。無事に作戦が成功していれば、31普連(第31普通科連隊)の誰かが出るはずである。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・こちら地下四階、トラ・トラ・トラ」
「よし、こちらS1、確認した。作戦終了」

受話器の向こうから歓声が聞こえる。暫く騒いだ後、落ち着いた感じの男が電話に出た。

「第一の斎藤だ」
「はっ、ご無沙汰しております」

以前、習志野空挺で鍛えられたS1は思わず背筋が伸びた。

「久しぶりだな・・・ところで、地上の犠牲者はどのくらいだ?」
「はい、職員の犠牲はおそらく10名前後と思われます」
「10名?」

斎藤の頭の中で何かが違和感を感じている。

「はい、玄関で少し射殺した後は、逃げ回る職員達を取り押さえて四階に監禁していたようです」
「生存者は?」
「大体80名前後と思われます。被害が少なくてよかったですな」
「ああ」

返事もそこそこに電話を切ると、斎藤は部下を連れて医務室へ向かった。

「あ、斎藤主任。どこかお怪我でも?」
「最後にここへ来た奴はどこだ?」

医師の質問を無視して逆に尋ねる斎藤。

「えっと、彼でしたらそこのベッドです」

医師が指差した先には最後に逃げてきた研究員がいた。

「よう」

MDを聞いていた研究員に斎藤が声を掛ける。

「あ、主任。自分に何か?」

MDを止めて顔を上げる研究員。

「何聞いてるんだ?」
「ミスチルって言いましてね、自分の世界で流行ってたんですよ・・・そうだ、聞かれますか?」

イヤホンを斎藤に渡そうとする。

「地上施設の人質な。ほとんど救出されたらしい」

ぴくりと研究員の肩が震える。

「そうですか、いやぁ〜よかったよかった」

妙に硬い笑顔で研究員が言う。

「それでな、妙なこと言う奴が居るんだよ」
「え?どんな事ですか?」

抑揚の無い声で言う研究員。

「なんでもな、一人の研究員が、テロリストと一緒に銃を撃っていたらしいんだ」

肩が震え出す研究員。

「お前さ、確か下に降りて来た時、全員射殺されたって言ったよな?何で知ってたんだ?」
「だ、だって、一階に居た人たちはみんな撃たれてたし、それに・・・」
「それがよ、テロリストの連中、正面ホールで少し暴れた後、直ぐに撃つの止めて職員を捕らえ始めたんだってよ」

再び研究員の肩が震える。

「そ、それは、自分の前で大勢人が撃たれて、それで」

真っ青な顔で研究員。

「あ、そうか、お前実戦経験ないもんな、そーか、目の前で何十人も撃たれちゃあ混乱もするわな」
「え、ええ!そうなんです!!奴らホール付近にいた何十人もの人を撃ちやがったんですよ!きっとおれ、それで混乱しちゃったんですよ!!」

急に大声でしゃべりだす研究員。

「そーかそーか、でもおかしいな」
「え?」
「あの時、一階にいたのは10人居たかいなかったかぐらいなんだけどな」

にやりと笑う斎藤。

「言ってることが矛盾してるぞ?10人いたかいなかったかのホールで何十人もが撃たれるのを見た?いくらなんでも混乱したの一言じゃあ収まらんぞ?」
「そっ、それは・・・・・・」

さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、今度は口ごもってしまい何を言っているのか分からない。

「大体、お前そんな少ししか見ていないのにどうして全員射殺されたなんて分かるんだ?」
「・・・・・・・・・」
「答えは簡単だ。お前は知っていたんだよ、上の連中が何をするか。だけど、上の連中は方針を変えて人質を皆殺しにしなかった。だから情報が食い違ったんだ、違うか?」

斎藤が言った瞬間、部屋に三発の銃声が響いた。

「ぐ、ごぼっ・・・」

血を吐いて倒れる斎藤。

「主任!!!」

慌てて新人が駆け寄る。

「てめぇ!!!」

激昂した斎藤の部下が研究員に5.56ミリ弾を叩きこむ。
上半身を蜂の巣にされて研究員は絶命した。

「主任!しっかりしてください!!主任!!」

必死に斎藤を揺さぶる新人。
しかし、心臓と肺を撃たれた斎藤が目を覚ますことは無かった。

斎藤弘之技術官。享年34歳。生涯のほとんどを国にささげたこの男の功績を後世に伝えるため、後日、技研の正面エントランスに斎藤の銅像が立てられた。


PM1:40 福島県第一原発

「・・・・・・坂田」

山口三曹が坂田一士を呼ぶ。

「なんすか班長?」
「貴様の残弾どのくらいだ?」
「そうっすね、あと・・・丁度三十発です」
「そうか、他の奴らは?」
「似たり寄ったりです」
「そうか・・・今度来られたら終わりかな・・」
「やめてくださいよ、まだそうと決まったわけじゃ・・・・・・」
「しっ、静かに」
「なんすか?」
「黙れ!」

耳に神経を集中させる三曹。
はるか向こうからヘリの爆音が聞こえる。

「とうとうおいでなすったか・・・」

ヘリはだんだんとその姿をあらわし、次々と原発前に着陸した。

「オメガ1から13と50は左翼へ展開。14から26と51は右翼、残りは施設内だ!急げ!!」

佐藤三佐が指示を出すと、オメガ隊員たちは直ぐに行動を開始した。
施設各所に身を潜め、40mm自動てき弾銃やM2重機関銃を構える。

「あのぉ、どちらさまでしょうか?」

山口三曹が佐藤に尋ねる。

「佐藤三佐だ、貴様は?」
「はっ!第23戦闘班班長山口三曹であります!」
「ほう、貴様、ここまで持ったところを見ると見所があるな」
「はっ!ありがとうございます」
「名前は覚えておこう、持ち場につけ、予備の弾薬をくれてやる」
「ありがとうございます」

敬礼をする三曹。

「いいから持ち場へ行け・・・ヘリ隊は上空支援だ!!直ぐに上がれ!!」

佐藤三佐の指示の元、敵部隊を迎え撃つ準備は着々と進んでいった。

「あのぅ、三佐殿」

山口三曹が佐藤に声を掛ける。

「あ?」
「その、例のガミアっていうの、来るんでしょうか?」
「こねえんじゃないか?東海村の中隊が仕留めたらしいから」

これは後の調査で判明したのだが、このとき東海村を襲撃したのはガミアシリーズの廉価版であった。

「ええっ!!それじゃあ、ここには・・・」
「ああ、お前らが散々倒してきた黒ずくめしか来ないだろうよ」
「よ、よかった」
「分かったらさっさと持ち場に・・・来たぞ」

一瞬で目つきが変わる佐藤。
思わず身震いしてしまう山口。

「ズールリーダーより各員・・・・・・・・・」

敵が有効射程に入るのを待つ。

「・・・・・・撃て」

たちまち大小入り混じった射撃音があたりを覆い尽くした。


PM4:20 福島県第一原発

夕日を背中に浴びて飛び去っていくヘリコプター。
それを見送りながら山口三曹は、先ほどの言葉を思い出していた。

「ここは君達だけで守ったのだ。我々は君らの事など知らんし、君らも我々のことは知らん。我々はここには来なかった。分かるな?」
「はっ」
「よし、物分りがいい奴は長生きするぞ・・・じゃあな」

敬礼をしながらにやりと笑う佐藤。


機上では佐藤が副官の中村三曹にインカムを通して指示を出していた。

「中村」
「はい」
「例のアンドロイド達な、使えそうだ、至急注文しろ」
「はあ、でもどこに頼むんですか?」
「馬鹿野郎!自分で考えろ!!」
「すっ、すいません」
「それと、二式強化装甲服だっけか?あれも五体ほど注文しておけ」
「はい」
「以上だ」

パイロットに命じてラジオを掛けさせると、事件解決の報を伝えるニュースが流れていた。

「やっと終わったか・・・」

その日の夜、記者会見が開かれ事件の全貌が公開された。

エピローグに続く・・・




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