作者:コバヤシさん


 新世紀2年 8月3日 13:20 北海道石狩管区千歳市 新千歳国際空港

 時空融合後の世界に置いて、日本国内の航空輸送と言うものはかなり制限されていた。ジェット燃料問題も有ったが、それ以上に国内各航空会社が使用している航空機の恒常性が著しく制限されてしまったからである。
 ご存知の通り、日本国内の航空会社が使用している旅客機・貨物機は唯一の国産機であるYS-11を除いて殆どがアメリカ、ヨーロッパからの輸入品である。時空融合によってヨーロッパがエマーン領域に置き換わったため、エアバスを初めとしたヨーロッパの航空機メーカーからのパーツ供給は途絶え、ボーイングやマグドネルダグラス、ロッキードと言ったアメリカの旅客機メーカーも日本国内で使われていたボーイング767以前の機体・・・・・・ボーイング747系列やマグドネルダグラスMD81などのパーツはとうの昔に生産をやめ、在庫ストックも底を付きかけている状態のものが殆どであった。
 エアバス系の機体は中華共同体に同様の国際間航空機開発機構が存在したためパーツの互換性があるかと思われたが、シズマドライブ動力のマッハプロペラ機が殆どであり、もっとも疲労交換率の高いジェットエンジンのパーツはGEやP&Hと言ったアメリカ製エンジンを除いて完全にアウトであった。
 そんな中、唯一西暦2000年ごろの最新鋭機ボーイング777がつい10年前まで製造されていたと言う事でボーイングからパーツを供給され運用が可能な航空会社では主力となっていた。
 この状態は新世紀6年以降、北崎重工や新中島航空機(戦前・戦中の中島飛行機と戦後の富士重工航空機部門が合併した富士重工グループの企業)新中州重工(川崎重工航空機部門と川西航空機の合併)などの高い技術を持っていた航空機メーカーの協力を得てようやく形を見た官民共同開発の大型ジェット旅客機登場まで続く事となる。
 ちなみに融合前、世界のジェットエンジン市場のシェアを大きく占めていたロールスロイスのイギリス国内、ロンドン近郊に出現していた工場が再稼動を始めるのは大分後になってからであり、その頃には神崎重工と新中州重工の共同開発による水素燃料ジェットエンジンや熱核タービンエンジンが実用化され市場をほぼ独占していたため、大きく後塵を拝す事となる。
 英米のメーカーがシェアの大半を占めていた時空融合前とは、全く逆の状態になったとも言えるのは皮肉な話である。
 そのため、国内航空路は札幌→東京間など対抗できる交通機関が貧弱な地域を除いて運行便数はかなり少なくなっていた。


 その日の昼下がり、定刻通りに到着した北海航空のボーイング777(通称:レインボー・ダッシュ7)から降り立った客は、2、30分程するとそれぞれ目的とする所へ向かわんとJRの地下駅、バスターミナル、あるいは迎えの者が待つ駐車場へと散って行く。
 

 そんな中、5人ほどの人影が取り残されたように人影でごった返すメインロビーに居た。
長身に蓄えられた白いあごひげが威厳を醸し出すロシア系の壮年の男。
サングラスで顔を隠しては居るが、長く伸ばした金髪が目を引くドイツ系の若者。
引き締まった体つきとばっさりと切ったショートカットが猫科の動物を思わせる中華系の女性。
容姿はジャニーズ系のタレントでも通用しそうだが、むっつりとした表情と全体から漂う威圧感がそれをスポイルしているまだティーンエイジャーと思える日本人の若者。
長く伸ばしたアッシュブロンドの髪を軽く結い上げた、小柄な北欧系ともラテン系とも受け取れる少女。
その一団を認めた微妙にSF的な印象のグレーのスーツ型軍服を着た銀髪の女性が近寄ると、踵をそろえて敬礼をした。
「ようこそ。陸上自衛隊第二独立空挺機動大隊第1陸戦機動中隊、セルマ・シェーレ一等陸尉です」
その女性を見た一団は、一瞬きょとんとした表情でセルマを見つめた後に軽く敬礼を返す。
『あの士官・・・・何かテッサにそっくりじゃない?』
『俺もだ。一瞬、大佐殿かと思った。声だけ聞いたら分からないぞ・・・・』
『ま、彼女がテッサの同位体って事はないだろ? 血の繋がりは有るかも知れないけど』
トパーズ色の瞳にゆるくウェーブしたアッシュブロンドの髪を持つセルマを見て、小声で彼等は会話を交す。
「はじめまして、『アルギュロス・ジャパン』のアンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンです」
出来るだけ気さくな印象を与えるように笑顔を作り、カリーニンはセルマの手を取った。
『アルギュロス・ジャパン』を名乗った彼等こそ、この5月のお台場事件での影の主役とも言える存在「ミスリル」のメンバーである事をセルマは既に知らされていた。

「ようこそ、DoLLSへ。それでは、こちらへお越しください」


Super Science Fiction Wars Outside Story

鋼鉄の 戦乙女( ワルキューレ )  

第4話 地球で生きてくエトセトラ(中編)

新世紀2年8月3日 午後14:30
北海道石狩管区千歳市
航空自衛隊千歳基地内 陸上自衛隊第二独立空挺機動大隊 第一格納庫

 八月の太陽がじりじりと千歳基地を照らしている。
基地上空でアクロバットを披露するブルーインパルスのF−2が起こす爆音が遠雷のように辺りに響き、それに負けじとクラブのDJばりに声を張り上げるアナウンスと観客の歓声が覆いかぶさる。
だが、千歳基地の中でも目立つその施設は、異様な程の沈黙に支配されていた。
そんな格納庫の中を、5つの人影が歩いている。
外資系警備会社「アルギュロス・ジャパン」・・・・・<ミスリル>特別対応班の視察団であった。

「しかし、見れば見るほどM9に似てるな」

5人の中では若く見える、無愛想を絵に描いたような男・・・・相良宗介が呟く。

「ま、中身はM9程じゃなくて、機動性はせいぜいM6の6割増し程度らしいけどな」

その脇に居た、金髪の長い髪をした男・・・・・クルツ・ウェーバーが答える。

「クルツ、そう思うかも知れないけど、こいつは120mm砲やらヘルファイアクラスのミサイル、はてはレールガンをフル装備してその機動性を出せるって話なんだけどね」

クルツの言葉に、後ろの方にいた活発そうな印象を与えるショートカットの女性・・・・・メリッサ・マオが突っ込むようにして答えた。

「120mmにレールガンねぇ・・・・」

納得が行かなさそうなクルツにマオが畳み掛けるように言う

「あんた、M9が120mmとヘルファイアを12発、さらにマシンガンとショットキャノンを持たせてまともに戦闘できると思う?」
「重すぎて機動性が損なわれるぜ、ましてや走行中に発射しようものならバランサーが追いつかなくて転ぶのがオチだな」
「無理だな。ASに搭載できるサイズの120mmなど初速も命中率も低いし、装填機構も信頼性が低くて使い物にならん」

その言葉にクルツと宗介はしばし考え、納得が行った様な顔を見せる。

「ま、M9にはその必然性が無いから改良もしなかったとも言えるんだろうけどね・・・だけどこの機体は120mmと88mm速射砲を両肩に付けて全力疾走中に同時発射出来る、って話よ」

 そう言って大仰に肩をすくめるマオに、宗介とクルツは唖然とした表情を隠せなかった。
きわめて似通った外見、駆動システムを持つ2つの兵器・・・・ASとPLDだが、運用される主なフィールドの違いがその2つを明確に分けていた。
見た感じ「忍者」と言った印象のM9に対して、機体の随所に取り付けられたハードポイントと様々な補機類を収納する関係上異様に太い太腿を持ち、M9に比べて全体的に重厚な印象を与えるX-4シリーズ。
ASは戦闘ヘリすら凌駕する高い3次元機動性とECSで人形機動兵器最大の弱点である前面被弾面積の高さをカバーしていたが、PLDはその生まれた環境ゆえに同じ目的で開発されたにしても答えの出し方は違うものであった。
元々、惑星オムニは地質タイムスケジュールで行けばジュラ紀に相応する若い惑星であり、人の手が入ってない領域では地球で言えばメタセコイア近似種である30Mを超える高さの巨木が生い茂り、恐竜が闊歩する原始の森が大半を占めていた。
攻撃ヘリも用を成さない森の中で戦車以上の火力を用いたゲリラ戦を行うため、3次元機動力よりも十分な火力と装甲、高い悪路走破性を求められたのである。
やかましい3人を尻目に、他の2人は言葉少なめにハンガーに固定されたPLDを見つめていた。

「確か、26世紀の植民惑星からやって来たと言う話でしたけど・・・・」

 5人の中でもっとも小柄な、アッシュブロンドの髪を纏めた少女・・・・・ミスリル太平洋戦団司令強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」艦長テレサ・テスタロッサ大佐・・・・・・今やこの世界において「ミスリル」の総代表ともいえる地位に居る女性・・・・が呟く。

「『ウィスパード』の存在は彼女らの世界では記録にすら無かったようです」

 その言葉に答えようとした、この集団の中では年長である男・・・・・アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニン中佐は途中で言葉を濁した。意味不明に聞こえるが、この二人にはそれだけで何を指すか分かっていた。
(ウィスパードの存在が無ければ、この時代までこう言った兵器は出現しなかったのか・・・・・)
カリーニンは、その事を単に自分の世界が進歩している証とは素直に思えなかった・・・・・。


新世紀2年8月10日 14:06分
東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所第一研究室

「しっかしまぁ・・・・種々雑多と言うか何と言うか・・・・・」

 そうつぶやいてナミは、モニターに写った人型兵器の画像を見る。
レイバー、WAP、AS、AWGS、HIGH-MACS・・・・・。
現在日本連合で運用されている主要な人型兵器がその画面に写っていた。
第一次要求仕様に基づいた新型PLD、仮称試作三式特殊攻撃車両の開発のため、ナミを初めとした数名のDoLLS隊員と整備班員の中でもPLDメーカーであるレイランドダグラスおよびリッペンバールト、ディジェムからの出向組のメンバー達はここ市ヶ谷の防衛省技術研究所に出向となっていた。

「信じられませんよね、地球上でこれだけ人型兵器が実用化されているなんて・・・・・」

 その脇のコンソールで資料整理を行っていた見た感じ妙な子供っぽさを与える女性・・・・・エリィ・スノウ陸曹長が答える。
そのモニターの上には、ハセガワ製M9ガーンズバックの1/35模型がアサルトライフルをガンダムよろしく構えたポーズで乗っている。  DoLLSとしては大陸ですら平地の少ないオムニでこそ人型、2足歩行は有効な兵器足りうると思っていただけに時空融合後、様々な人型兵器が当たり前のように実用化され運用されている日本連合には軽い眩暈を覚えずには居られなかった。
地球上でも運用可能な戦闘PLD実用化のためにDoLLSがまず始めたのが地球上で運用されている人型陸戦兵器の解析であった。

「その中でも異様なのが・・・・このASだね、タカス中佐」

 たまたまDoLLS基地を訪れている最中に時空融合に巻き込まれてやってきていたレイランドダグラス社技官ケント・ムーアが自分のコンソールの内容をナミたちに見せるようにして振り向いた。PLD開発チーム"ダイブワークス"主任として独立戦争当時の名機X−3シリーズを開発し引き続き"トライフルワークス"主任としてX4シリーズの殆どに関わった彼がここに居た事は奇跡と言っても良かったかも知れない。
その画面には、未だ実戦配備がされていなかったアメリカ製AS、M9ガーンズバックのCADデータを初めこの5月のお台場事件で湾岸を疾走するARX-7「アーバレスト」の画像など、ASに関する情報が表示されていた。

「確かにそうですね・・・・・外見も似ていれば駆動システムもそっくり、運用目的も不整地でのゲリラ戦用兵器と言う点でこのM9と言う機体はPLDと良く似ていると思います」

 そうケントに答えながら、ナミはASと言う兵器にある種の異常さを感じずには居られなかった。
元々PLDは、宇宙空間でのデブリ回収作業用EVAユニットのゼロプレブリース(与圧作業)化とデブリ衝突対策を目的とした大型化によって生まれたものである。
それがたまたま地上でも使える事が分かり、大型化に従ってマスタースレイブ方式の操作系からコマンド入力への変更、独立動力ユニットの搭載、関節部リニアモーター駆動からPAM(人工筋肉)駆動への等の進化を経て今のPLDになったものである。
それに対してASは、1970年代に計画された「ハーディマン」を初めとした「ヒューマン・アンプ」の延長線上にある「純粋な兵器」として人型で生まれた存在である。
 そして何より、それに使われている技術が問題であった。
常温核融合型原子力電池、電磁筋肉、電子式光学迷彩・・・・・。
自分たちの世界ではかなり後になって出現した技術が、殆ど20世紀末の1970年代末から1990年代末にかけて次々と実用化されていたのだ。
単にまだ開発されていなかった、もしくは必要が無かったと言うだけで、陽電子燃料電池や重力圏下で射撃可能なレールガンの実用化も可能だったかも知れない。

「私たちの世界なら、西暦2200年ごろようやく常温核融合を観測できる現象として実証できたのに・・・・・」

 常温核融合の発見自体は、両方の世界とも1987年。アメリカはユタ州立大学でのフライシュマンとボンズの発表がきっかけである。
だが、その後それが再現不能な現象として片付けられたのがナミ達の世界であった。
ナミ達の世界では西暦2000年前後なら常温核融合など「疑似科学」「病的科学」の世界、つまりオカルトと大差ない世界で片付けられ、真剣に研究しようとする研究者は狂人かカルト信者のような扱いをされるのがオチであったのだ。
常温核融合の存在自体が忘れられた22世紀末、とある偶然によって明確に再現可能なレベルでの常温核融合反応が発見され、ようやくナミ達の世界でも常温核融合は本物であると言う判断が下された。
そのときにフライシュマンとボンズの発見が歴史の闇より発掘され、現代のコペルニクスとまで言われたのである。

「まぁ、驚くまでも無い。現に19世紀に解析機関を実用化してたり、1940年代に2足歩行兵器を実用化した世界だってあったんだからな」

 ケントの言葉に、帝都区で見た蒸気を動力とする歯車式階差機関の事を思い出し、あぁそういえばとナミは気づいた。
大概の世界ではチャールズ・バベイジと言えば「早すぎた夢を見た見果てぬ夢の代名詞」だったのだが、帝都区の由来世界ではバベイジと言えば、エジソン以上の天才としてその名を知られる存在であったのだ。
 1940年代に2足歩行兵器・・・・鉄人28号を実用化した金田博士のグループもまた同じである。当時のまだ未熟な性能であった戦車であれば、平地でも十分な装甲強度を持った2足歩行兵器は十分脅威となりうる。だが、他にこれだけ早期に(霊能力などが絡まない)2足歩行兵器を実用化した世界は他に無かったため、開発者である金田博士(故人)、その息子であり鉄人28号初代操縦者、現在新鉄人計画総責任者である金田正太郎、その息子正人は何らかの特殊能力者ではないのか?と言う説を唱える者も居る。
(ミスリルは金田一族が「ウィスパード」あるいはそれに類する能力保持者である確率が高いと見て調査を進めている)

「まぁ、そう言う信じられない世界に比べたら・・・・・遥かにまともな話ですよね」

 そう言った世界よりは遥かにASはナミ達の世界でも説明が付く兵器であり、技術である。
時代が600年近い過去である、と言うことが判断を鈍らせていたとも言えるのだが・・・・・。

「確かにそうですね・・・・私たちの世界は技術発展が遅れていた部類なのかも知れませんね」

 エリィもつぶやく。今までDoLLSはオムニでも最新鋭の兵器を操るもの、と言うプライドがあったのだが、そのプライドもやや揺らぎかけていた。
たとえるなら、我々の目の前に江戸時代初期に作られた、現代でもまともに使るパソコンや自動車が有ったらどう思うだろうか?
話だけを聞けば「何をふざけた事を」と一笑に付すような話題であるが、まさにドールズが感じていた気持ちはその様なものであった。

「まぁ、我々のPLDも決して他に劣る兵器ではないし、我々がアドバンテージを握っている技術はいくつも有る。それらを上手く活かしながらどうにかして行くしか無いのでは?」
「そうですねぇ・・・・」

 ケントの言葉に、ナミとエリィは声をそろえてぼやくように答えた。
パラジウムリアクターと構造的に近しいPFCが量産可能と判断されたのは、パラジウムリアクターに比べると構造が簡素でかつ、日本連合領土内で採掘される物質のみで生産可能であった事が最大の要因である。
ただし常温核融合より遥かに高度な技術の対消滅機関であるにも関わらず、エネルギー効率や連続稼動時間と言う面でASに搭載されていたパラジウムリアクターに劣っているのは事実だ。
 その事もナミ達に取っては異様な事であった。
ナミ達の世界でのパラジウムリアクターはせいぜい鉄道車両(機関車)や小型船舶に搭載できるサイズがぎりぎりであり、それ以上のコンパクト化は出力などの面でまともに使える代物にならず、動力源としては鉄道車両や船舶に使われる程度でPLDの動力源に使おうと考える者は居なかった。
(PFC自体、パラジウムリアクターの小型高出力化・構造簡素化の研究から偶然対消滅反応が発見され、生まれた技術である)
いささか技術的アドバンテージと言う点に置いて、ナミ達が不安になってしまう事も無いわけではなかった。
と、そこに無用心に思えるほどの勢いで二人の人物が入ってきた。

「中佐〜、シミュレーション用のプログラムできましたよ」

 長く伸ばした金髪に眼鏡が目立つ女性、第一小隊「シルバーフォックス」の索敵担当マーガレット・シュナイダー准尉だ。
元々技術畑出身でコンピュータに関しては専門家の彼女もまた、この計画のために東京行きとなっていたのだ。

「技術発展が遅れていたと言う事ですが、やはり600年後のコンピュータは凄かったですね・・・・・ははははは」

 もう一人、何とも軽薄そうな笑い声を立てる技官。第一研究室で密かに故・斎藤弘之主席研究員の後継者と目されている「新人」こと東屋幸武技官であった。
彼は色々と特異な趣味を持っているのだが、それに関してはまた別の話で語る事となる。
(蛇足だが彼に限らず、技研には色々と「特異」な趣向を持った研究員・技官が多々居ると言われている。第3研究室の紐緒技官は高校時代真剣に世界征服を企んでいたとか・・・・?)
 PLDの分析、再設計に関しては技研側ではDoLLSほど深刻に考えて居なかった。
これは単にわずか3ヶ月でWAPを十分実戦運用に持ち込めるレベルまで仕上げられたと言う経験が自信になっていたとも言えるが、今回はWAP開発に関わった技官らが少数の代わりに極秘裏ではなかったため、第3新東京大学よりMAGI3号機を貸し出されていたのを初めとして企業・他の研究機関からも十分なバックアップを得られていたのだ。ましてや処理速度では現行のスーパーコンピュータを遥かに上回るペタフロップス単位の処理速度を持つオムニ軍のメインフレームもある。
 OSと計算方式の違いは有れど、MAGIとオムニ製メインフレームをネットワーク接続し、分散メモリ型運用した場合の処理能力は計算能力に限って言えば西暦2000年代前半に日本にあった高性能スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を優に上回り、日本連合が所有するコンピュータの中でもトップクラスと言えるに違いない。
 シミュレートと機体バランスの取り直しを考えても楽に仕事を進められるだろう、と言うのが技研と陸自側の思惑であった。
技研側としてはWAPの火力不足を補う存在として時速120km以上での巡航を目指した装輪戦車の開発を始めており、PLDが使用する滑腔砲の装填機構を早く解析し、量産にこぎつけたいと言う事も有ったのは事実である。
なぜなら、PLDが使用する滑腔砲の自動装填機構は現在自衛隊が持つ陸戦兵器の自動装填機構としては極めて信頼性が高く、初期型90式戦車の自動装填機構が100発射撃を行った場合のジャム率5%に対して0.005%と言う信じられないほど高度な耐久性を持っていたのだ。
自動装填機構を上手く利用できればMBTの搭乗員数を減らす事が出来、省力化に繋がる。
戸惑うドールズと余裕を持っている技研、事実上技研の単独開発であったWAPと違い自分たちも技術の恩恵に預かりたいと考える篠原重工を初めとする企業。
複雑に思惑が絡み合う中、プロジェクトは進もうとしていた。


新世紀2年8月10日 午後0:30分 
公海上 北緯20度50分 東経140度31分 
ミスリル太平洋戦隊 <トゥアハー・デ・ダナン> 拠点 メリダ島

「ある意味、非常に安定した兵器。と言う印象でしたね」

超国家対テロ組織<ミスリル>の施設の中で、唯一この融合世界に出現を許されたメリダ島・・・。
現在、この世界においてミスリルの唯一の砦とも言える場所である。
その島にしつらえられた軍事施設の会議室・・・・ここに彼らは集まっていた。

「非常に安定した兵器?」
 クルーゾーの言葉に、テッサは言葉を続ける。
 「ASに比べると荒削りな所が多いけど、兵器としての完成度は上でした」
「マスタースレイブ操作方式ではなく、レイバーなどと同じコマンド入力方式でM6以上の機動性を出せると言う点で量産兵器としてのASとPLDを比較した場合、PLDの方が優秀と言えるでしょう」
  テッサに続ける形で説明したマオは、内心「あの時テッサがこれに乗っていたら、あたしはもっと簡単に負けていたね」と以前メリダ島で些細なケンカをきっかけに起こした騒動を思い出した。(短編『猫と子猫のR&R』参照)
マスタースレイブを用いたASの場合、わずか腕を数センチ動かしただけでそれが巨大な動きになる。例えば慣れて居ない操縦兵がバイテラル角の設定がなって無いままの機体に乗り、歩くつもりで足をあげた場合、自機の胸にニーパッドを叩き込んで転倒し、駄々っ子のように手足をじたばた動かしのた打ち回る事になる。
 そう言う点でASの操縦者とはもともとの素質も必要であると同時に、育成に時間のかかる物である。
宗介のように戦場で鹵獲したASを修理してすぐに乗りこなせるような操縦兵の方がむしろ稀有なのだ。
特にミスリルが用いているM9は完全人工筋肉駆動など最新鋭技術をフルに導入しているため、M6に比べてもピーキーな操縦特性を持ち、SRTのメンバーはともかく今後実戦配備先となるはずであったアメリカ軍でも機種転換の難しさが問題になっていたほどなのだ。
PLDやWAPはその点、コマンド入力方式が基本であり、レイバーなどの操縦に慣れたオペレーターなら短期間でその操縦手法を覚える事が可能であった。
これは熟練度の高いパイロットを短期間のうちに沢山揃えられると言う点で非常に重要なファクターである。
さらに、X−5、Xx−10に用いられて居るBEPAMは樹脂系半生体ナノマシンを構造材に用いており、ある程度の筋肉繊維体の損傷であればリキュールと呼ばれる反応剤を供給してやる事で回復が可能である。
前線での恒常性と言う点では、筋源繊維の断裂を防げずかなりの頻度でマッスルパッケージを交換せねばいけないASは不利な話であった。
兵器は個々の性能も重要であるが、「誰にでも短期間で扱える」「恒常性を高いレベルで保てる」と言う普遍性もまた重要なのだ。
太平洋戦争当時の零戦の故事を例に出すまでも無く、パイロットに高い熟練度を必要とする兵器は、パイロットのレベルが下がると途端にその優位性を失ってしまう。ましてや恒常性を保てない兵器はなおさらである。
優秀なカタログデータよりも、そのカタログデータをより多くのパイロットが引きだす事が出来、かつそれを高いレベルで保てる事が量産兵器としては重要なのだ。
 残念ながらBEPAMを製造する松村技研も現時点ではこの半生体ナノマシンを作る事は出来ず、ASのマッスルパッケージに近い電磁筋肉を採用すると言うことであるが・・・・。

「・・・・・量産兵器、としては優秀・・・・か」

 休憩時間となったとき、喫煙所でカリーニンはそうつぶやくと、千歳で見たPLDを再度思い出す。
ASと似ていながら、なぜかPLDにはASに常々感じていたグロテスクさが感じられなかったのだ。

『やはり、<ブラックテクノロジーの産物>ではないからなのだろうか・・・・・?』

 自分は高度技術の存在と言う物をどこかで恐れている、カリーニンはその事を認めていた。
ならば何故AS以上の高度技術が使われているPLDに畏怖を覚えないのか?
幾ら考えても、その答えは無いように思えた。


新世紀2年8月20日 午前11時23分
東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所中央電算室

「やはり機体バランスが微妙ですね・・・。大型キャノン砲の空中発射は諦めるしかないか」

 コンピュータ画面上で試験モデルが何度目かの墜落をするのを見て、ため息混じりにナミは呟いた。

「肩装備型は仕方が無いでしょうね、手持ち式はHIGH-MACSを参考にすれば何とかなると思うんですが」

 東屋技官がナミをフォローするかのように言葉を続ける。
様々な面で戦術が変わってくるだろうこの世界に置いてPLDを使う観点から、様々な兵器の要素を取り込む
必要性があることは早晩、判った結論であった。
 その目的で参考資料と成りうる物の一つがAS、そしてHIGH-MACSだった。

「新中州もホワイトホールの改良に手間取っているって言うし、これじゃあ何のための高性能シミュレータなんだか」

 MAGIにシミュレーション条件が入力され、ペタビット単位の通信速度を持つ光ファイバーでLAN接続されたメインフレームより計算された状況設定が流れ込んでいく。
わずか一月で立ち上げられたこの急作りのシミュレータシステムだが、計算能力では日本でも最高の物と言える環境であった。
 その構成は、第3新東京大学が東芝へライセンスを供給する事によって完成したMAGI3号機を核に、ドールズ基地の予備品として保管されていたオムニ製メインフレームを計6台ペタビットイーサでLAN接続し、分散/並列処理すると言うものであった。
このメインフレーム、業務用冷蔵庫程の大きさでメモリ容量は数百GQ(GQ=ギガクアド。1クアド(quad)=約1万テラバイト)に達し処理能力と言う点では公的機関が有するコンピュータの中では最高峰のものである。
業務用冷蔵庫サイズで数千兆ギガバイト単位のメモリ・・・と言ってもピンと来ないかも知れないが、現時点で我々の世界が持つ中でも最高性能のコンピュータの一つである「地球シミュレータ」が3250平方メートル、高さ17mのスペースを用いて総メモリ容量10TB(テラバイト。1テラ=10の12乗倍。1兆バイト/一億ギガバイト)である事を考えるとその凄さがわかるであろう。
MAGIの供給元である第3新東京大学の赤城奈緒子博士曰く「これだけの環境なら風洞実験も模型実験も要らないわね」と言わせるほど、様々な環境を瞬時に再現し、シミュレートできる能力だ。
シミュレーションのために用意されたコンピュータと言う点で行けば、融合世界でも最高レベルのものである。
日本連合が持つ「モノリスに触れたとしか思えない技術の歪さ」が良い方向に働いた一つの例であろう。

「HIGH-MACSは確かに優秀な機体ですね、あんなのが500年以上前に作られていたなんて・・・・・・。ぞっとしませんな」

 ケントが東屋の言葉に同意するように言う。
習志野基地に実験小隊が二個、さらに北海道にて無人の機体が一機見つかった12式歩行戦闘車・・・通称HIGH-MACSは白兵戦能力が皆無と言う点を除けば、巡航速度98km/h、最高速度230km/h以上。果てはPLDに匹敵する火力とペイロード容量を持ち、戦闘ヘリ以上の高い機動性を持つモンスターであった。
だが、白兵戦能力の無さと言う点や機体強度がWAPやPLDに比べて劣る点が自衛隊側が難色を示し、技術開発参照用として解析を進め、WAPを初めとした陸戦兵器の性能向上の参考とする形になっていた。
だが、高い3次元機動能力とペイロードに目をつけたヘリ部隊の関係者からは、AH-1S「スーパーコブラ」及びAH-64DJ「ロングボウ・アパッチ」の後釜として龍騎兵大隊を中心に配備できないかと言う意見も出ている。

「3軸の姿勢制御が問題ね・・・。東屋さん、例のアレは分析できてるんですか?」
「あれは・・・・・ちと難しいですね。何せ未知の技術の固まりの上に、2機とも彩雲計画でパイロット共々テスト行ってますからね」

 ナミの言葉に、東屋は苦笑いを見せて頭を掻く。
「あれ」と言うのはついこの間まで「パンドラの箱」に眠っていた2機の可変戦闘機・・・・・・YF-19とYF-21である。
戦闘機から人型へ変形すると言う複雑な機構を持つのであれば、それなりに高度な3次元機体制御技術を持っているはず、と思いYF-21のバランサーシステムの解析データを元にバランサーシステムを組めないか、とナミは思っていたのだがデータを手に入れられるのは今しばらく先になりそうだ。

「ですが、21(にーいち)はかなり複雑みたいですよ。何でも異星技術の応用とか聞いてますし」

 YF-21のバランサー・・・・・・キリコメラ式イナーシャ装置は構造自体は単純なのだが、それがどうやって3次元の機体制御を行っているのかの仕組みが理解できないのだ。

「ったく・・・・・・異常すぎよ。こんなのが2040年の最新鋭戦闘機なんて・・・・・・」

 そう言いながらナミはYF-21の現時点で終わっている解析データを移したモニターに向かってため息をついた。


同時間 小笠原諸島硫黄島沖15Km
海上自衛隊第一艦隊第二航空護衛艦群所属 航空護衛艦CV-01 「ほうしょう」艦内格納庫

「えぶしっ!」

 水銀灯に照らされた格納庫内に、文字にすればそう言った印象になる奇声が響く。
防衛省技術研究所客員パイロットにして研究員ガルド・ゴア・ボーマンが、何の前触れも無く放ったクシャミがその正体である。

「っ汚ねぇ・・・・・・手ぇぐらい当てろよガルド・・・・。お前は加トちゃんか?」

 唾のしぶきをモロに後頭部に喰らったもう一人の客員パイロット・・・・・・イサム・ダイソンがいささかうんざりした口調で言う。
まるで自分の頭の上に金ダライが落ちてきたような様子だ。

「いや、そんな訳ではない・・・・・・誰かが噂したような気がしたんだが・・・・・・」

 鼻をグズグズと鳴らしながら、ガルドは再び機体の整備指導に取り掛かる。

「まぁ、気を付けろよ・・・・・・」

 この「噂されるとクシャミをする」事に神秘学的要因が関わっているかどうかは不明である。


再び東京都新宿区市ヶ谷 防衛省技術研究所第一研究室

「まぁ、あくまでこの機体は異星技術の応用って事ですからね。タカスさん達は引け目持つ事は無いと思いますよ」

 どんよりと落ち込んだ雰囲気が漂う中、思わず東屋はフォローになるかどうか分からないが取り繕うように言う。
宇宙人などと言った未知のオカルト的要因が絡まずに人類、つまりはホモ・サピエンスだけの力で作り上げた兵器としては決してPLDは遅れた兵器でもなければ、優秀な部類に入る兵器である。

「そうは思うんですが・・・・・・さすがにここまで高性能な兵器が並ばれると・・・・・・」

 マーガレットがげんなりとした表情でぼやく。
21世紀末から23世紀半ばまでの約150年間、彼女らの世界は火星開発計画などが進められていたが、人々の生活習慣に急激な変化が起こるような技術革新は少なく、ある意味中世的停滞とも言える状態であったのだ。
他の世界では普及していたアンドロイドなども名義上の通貨統合後、発展途上国からの労働人口の急激な流入などで安価に「人間」を雇う事が出来るようになったため廃れ、サイボーグ技術の発展もその影響で遅れていた。
 24世紀になってようやく、オムニにおいて全身機械化サイボーグ技術が成立したほどなのである。
その火星開発計画もすべての完了までに1000年間を要する気の長くなるようなプロジェクトであり、オムニ発見までの間人類非可住地域へ建設されたドームポリスへの人口過剰地帯住民の強制移住なども問題になっていたのだ。
余談だがこれは、「人の手が入っていない所の自然まで人の手で汚すのか」と言う意見と「危険すぎる宇宙移民に比べれば遥かに低コストかつ安全に環境の回復を図れる」と言う意見の対立であったとも言う。
結果、ドームポリス移住を推進していた欧米諸国の意見とこれ以上地球に人を住まわせる事に反対したアジア諸国の意見は、オムニ発見により宇宙移民へ大きく傾く事となった。
 自分たちの世界がむしろ「停滞した世界」だったと言う事がある意味ドールズメンバーにとって衝撃的であった。
考えように寄ってはその「停滞」が複製PLDを程度の低いモンキーモデルではなく、一部ではオムニ製PLDを上回る高性能機として作れる兵器で有った事にもなったのだが・・・・・・。
 ヤオ辺りに言わせると「んな感傷に浸ってる暇が有ったら、そいつらの情報を自分の物にすればいいでしょーが!」と言う事になるのだが、そう言った気分になるにはそれらの技術が殆ど「自分たちから見たら過去のもの」であると言う事がジャマをしていた。

「試作初号機の建造開始まで時間が無いんだから、急がなきゃいけないのはわかってるんだけどね・・・・・・」

 基礎的なコンセプトは固まってはいた。
整備・補給の観点からX−4Sと同様、装備変更で多目的に運用できる汎用型を中核にし、同時にXx−10の様々な特殊任務に対応した特化型機を少数生産する、と言う方向で基本となる汎用機の設計を早期に終わらせ、汎用モデル初号機を年内に完成させると言うスケジュールで設計作業を進めていた。
 だが、ここで設計陣がぶつかった壁が「3次元機動能力」であった。
元々PLDは梢までの高さが30mを越えるオムニの密林山岳地帯で運用される事を前提に設計され、3次元機動能力はさして重視されるものではなかった、がX−4Sの開発当初、3次元機動能力を求める声は無かったわけではない。
だが、X−4S専用降下ユニット(仮称エルフィンフリューゲル)の開発の遅れで有耶無耶にされ、結局3次元機動能力を持ったPLDは誕生しなかったのである。
解決法としてはBEPAMの反射速度向上と関節構造をM9のそれを参考にした形式への変更。HIGH-MACSのそれを基にしたアフターバーナー付き推力変更型ターボジェット「ホワイトホール」の搭載。さらに高い機動性を与えるため、一定時間BEPAMの反射速度と伸縮率を限界まで引き上げる加速装置の搭載などが上げられた。
 新型コンセプトシミュレータを用いれば、大概の試験はコンピュータ上で済ませられる。だがそれだけに画龍点睛ともいえる実機試験は重要なのだ。


新世紀2年8月25日 10:35分
東京都新宿区市ヶ谷 防衛庁技術研究所
第一研究所会議室

「現時点での計画推進状況は、当初予定の60%って所ですね」

 最近発売された薄型タブレットPC、通称「レボード」を片手にした東屋が説明を始めた。
8月初旬から設計を初めて二十日少々。10月中には試作機の製作に入らねばならない情況でこれはある意味辛い状態であった。
このミーティングも、朝から脱力感の漂うものに成ってしまっていた。

「PLDとしての本体そのもの設計は終わっているんですが・・・・・・まだ間に合わない部品が多くて」

 ナミがいささか参った、と言うような表情で答える。
PLDのボディその物は作れても、新機軸である3次元機動を行う上で必要な部品が全くと言って良いほど揃ってないのだ。
試作初号機・2号機はとりあえず水素燃料式ホワイトホールを諦め、HIGH-MACS用ホワイトホールをそのまま搭載して試験運用を行う予定で居るが、もともとの製造メーカーであった石川島播磨重工にこれを生産していた世界の要素が無かったため複製が間に合わず、習志野に有ったHIGH-MACS実験小隊が持っていた予備パーツを回してもらう手立てが昨日付いたばかりだった。
 YF-21のキリコメラ式バランサーも複製を前提にした解析作業の只中に実機が彩雲計画で搬出されてしまったため、データ不足でとてもではないが搭載できる代物は作れない。

「あまり欲張らない方が良いかも知れませんよ。3次元機動テストは二号機以降で行う事にしてしまったほうが良いのでは?」

 東屋がいささか呆れたような口調でナミ達を諌める。

「プランの変更を考えたほうが現実的ですかね・・・・・・」

 既に埼玉県狭山市にある技研製作所にはWAP製作用に開発された大型オートクレーブ(真空・高圧成型釜)が備え付けられいつでも試作機の製造を行える体制が整っていた。
WAPの主構造材・装甲材料がニュージャパニウム合金(『超合金Z』・『超合金ニューZ』は光子力研究所及び要塞科学研究所の登録商標のため両研究所以外では商品名に使えない)からネオカーボンに変わった時点で、製造方法は大きく変わる事になった。
 超合金NZを使用していた試作機は、航空機や鉄道車両に用いられていた大型押出成型で構造を作っていたのだが、ネオカーボンになった時点で、レーシングカー等に用いられている金型にカーボン薄幕を張り合わせてエポキシ樹脂で固着させ、そのまま高熱真空で焼き上げる方式を取る事と成った。このため市ヶ谷の本部が持っている製造設備では増加試作機を生産できず、狭山市に出現していたもう一つの技研本部を製作所として整備するために運び込まれた物がこのオートクレーブであった。
 生産効率は落ちるが、素材の関係上仕方が無いことである。

「姿勢制御系をX4系列そのまま、ホワイトホールをダミーとして割り切って設計すれば12月には初号機の生産は可能だと思います」

 ケントが資料片手に意見を述べた。赤い日本に対する牽制の意味も有って、年内に複製PLDを生産する必要があるのだ。

「でも、所定の性能で行けば正直言って張りぼても良い所では?」

 別の技研研究員の方から声が上がった。日本連合内部で解析可能かつ複製可能な技術であったとしても製作そのものに不安を持つ技術者は居ないわけではなかった。
 3次元機動能力の開発。これが新型PLDを開発する点でどうしても必要な要素である事は確かだ。
 逆にこれの問題さえ解決出来れば、PLDの設計自体はかなり早く終わらせられるとも言えるのだが。

「現に機動性と言う観点で行けばX4S型どころかクリーン状態では汎用型でもXC−10型以上の機動性を持つと算出されています。
 未知の技術が多く取り入れられたこの機体は今のままで一度試作するべきだと思うのですが?」

 ケントがその質問に答える。
 新型PLDの機動性は計算上ではPLDとしては最高峰であり、M9を初めとした第3世代ASと比較しても遅れを取らないスペックを持っている、と言う自信が有った。

「ですが、完成までに残された期間は短いですよ。出来れば初号機の段階で構想部分は完成させて置きたい」

 完成までの時間の無さ、これがPLD開発計画に置ける最大のガンであった。取り込むべき要素が多いのに、ソレを実証して取り込んでいくための期間は短い。
いかに破綻の無い兵器として完成させるかを考えると、試作とテストにかけている時間は短かった。
ところが、それを決定付ける一言は意外な所から舞い込んできたのだった。
会議室の空気を突然鳴ったコール音が遮り、あたりは気が抜けたような空気が流れた。

「はい、こちら第一会議室の東屋です・・・・・・はい。はい?え? あ、ハイ。事故?」

 東屋が受話器を置くと、沈痛な表情で言った。

「・・・・・・初号機用のホワイトホールを積んだトラックが、首都高速で事故ったそうです」

 習志野からHIGH-MACS用ホワイトホールを積んで市ヶ谷に向かっていたトラックが首都高速で事故に巻き込まれて転倒、積荷のホワイトホールも一機は無事だったもののもう片方が梱包ごと壊れ、動くかどうか判らないと言う事だった。

「な・・・・・・」

 残暑厳しいはずの会議室が、一瞬にして氷点下に落ちたかに思えた。
この時、蓮田技官の携帯にセットしてあったバッハの「小フーガニ短調」が突然鳴り響き、さらにその気分をどん底に叩き落した。俗に言う「鼻から牛乳」状態であろうか。

「つまりは・・・・・・」

 しばらくした後、ナミが唖然とした表情でようやく口を開いた。

「ホワイトホールは、とりあえずダミーで完成を急ぎましょう。機体設計作業を優先させます」

 東屋がそう決定案を提示した。

「仕方が無いですね・・・・・・」

 こうして試作機の設計は、大詰めを迎えた。
 後一月足らずで設計を完成させなければならない。
 焦り、闘志、期待、不安。
 そういったもろもろの感情が交差する中、PLD開発計画はひとつの山を迎えようとしていた。

 To Be Continued.


あとがき

 半年振りのご無沙汰でございます、こばやし みちともです。
えらく長い時間を経て「鋼鉄」第5話ようやくリリースしました。ある意味でこの話から本格的に「鋼鉄」の物語は始まると言っても良いでしょう。
この物語では、各作品世界ごとの「技術格差」についてネタにして見ました。26世紀になってようやく特殊な環境で人型兵器が実用化されたオムニ世界と
 正体不明のブラックテクノロジーによって20世紀の内にASと言う人型兵器が実用化されていたフルメタ世界。
もしあなたがこのどちらかの世界の住人だった場合、どういう印象を受けるでしょうか?
 バベイジと言う人物については、今のコンピュータの概念の原点を19世紀に作っていたイギリスの数学者です。
その「プログラム」を元に計算すると言う考えで作っていた解析機関(ディファレンス・エンジン)は理論的には正しかったのですが、当時の工作技術では無理だったのです。
ウィリアム・ギブスンの「ディファレンス・エンジン」に解析機関が実用化された世界の話は載ってますので、一読しておくとよろしいかと。(サクラ大戦の世界って、かなり影響受けてますよ)

 PLDの動力源であるPFC(陽電子燃料電池)がパラジウムリアクターから発展したと言う設定は、オフィシャルで陽電子燃料電池が常温核融合の効率化と小型化の研究から生まれたと言う設定から発展させて見ました。常温核融合に関しての推移は史実を基にしたオリジナルです。やはり今では真剣に研究しているサイトを見るとどこかUFOなんかのサイトと同じ臭いを感じてしまいますね。カリーニンがPLDに恐怖感を抱かなかったと言うのは、密かに彼はウィスパードその物を恐れているのではないのか?と勘ぐって見たりもしてます。「踊るベリー・メリー・クリスマス」で彼が取った行動から察するに・・・・・・。

 PLDとASを比較した際の言葉には反論も有るでしょうけど、量産型兵器として重要な点はやはり「そこそこ優秀なカタログデータを持ち、かつそれを安定して出す事が出来る信頼性を兼ね備え、パイロットを選ばない操縦性を持つ事」だと思うんですよ。そう言う点でマオにああ言った台詞を言わせて見ました。

 で、冒頭部でのセルマとテッサが似ている、と言うネタですが、これは声優が一緒(ゆかな(旧名野上ゆかな)だったためです(笑)実際にはセルマの声はテッサよりはかなり低いトーンで、こっちのまんまの方がテッサの声も良かったような・・・・・・。

 さらに本格的参戦となった「マクロスプラス」よりパイロット二人。
融合に巻き込まれた時期については、今は秘密です(^^;「ミュンは来ているのか?」「シャロンが居たりするのか?」とかは追々・・・・・・。

で、コンピュータの容量単位「クアド」ですが、ピンと来る方は来るでしょう「スタートレック」で使われている単位をそのまま頂戴しておきました(^^;
後々宇宙編でST出したいとか言っておいてそれかい!と突っ込まれそうですが、話中では偶然の一致と思ってください(滝汗)

 あと、小ネタですが「ハセガワ製M9ガーンズバック」のプラモはシャレです、シャレ(^^;そのうち模型ネタはやりたいなぁ・・・・・・。
試作機が実際に現れる時点で模型ネタはやろうかと思ってます。模型といえば定番であるパーフェクトガンダムを世に送り出した「あの作品」も・・・・・・w

すぱこーん!

・・・・・・はっ!?誰だ?
 セルマ「あの・・・・・・声優ネタは良いんですが、私は少なくとも歩いた程度で「ずるべたーん!!」なんて転びませんよ?」
 判ってますよ、エースパイロットの貴方は参謀としても優秀ですし、文武両道の才媛ですからねぇw
 セルマ「・・・・・・はぁ・・・・・・(なんか褒め殺しされてるみたいで嫌な感じだなぁ)」
 ま、今後の展開はいよいよ他の方の作品にも影響を与えそうなネタがポンポン入ってきます。試作機製作作業に関しても自分の持てる知識の範囲内でリアルに描いていこうと思っています。「プロジェクトX風味」と言うとちと違和感有るかも知れませんが・・・・・・。
 セルマ「他の作品が絡むのは良いんですが、次回はもっと早めのリリースをお願いしますね」
 セルマ、退場。
 はいはい。次の話の骨子は大分出来てるんで完成を急ぎます。
 序盤にちょっとでかいイベントがありますけど、全体通してはインターミッション的な軽い話になる予定です。

 ではでは。
 2004年1月19日 札幌にて 
 こばやし みちとも




<アイングラッドの感想>
に代わりまして新世紀10年頃のとある秘密学会に提出された・・・かも知れない物をでっち上げました。
 神秘学研究レポート

 くしゃみうわさ

 「クシュン」とクシャミをしたら誰か噂している、と言う俗説がある。
 時空融合以前ならば研究にも値しない話であったが、霊力やテレパシーの実在が確認された融合世界に於てはまんざら夢物語でもない可能性がある。
 ここでは時空融合後に発足した神秘学に関しての研究レポートから噂話とクシャミの相関関係とそのメカニズム、そしてそこから導き出される個々人の魂の識別を考察してみる。

 まず第一に新世紀4年に○○大学にて行なわれた任意の群集での実験レポートから噂話の対象者は噂されていない時と比較してクシャミの発生数変動を計測。
 実験対象:噂話を行なう程度に親しい人間関係を構築している男女のグループと言う事で、と或る高等専門学校の1クラス40人を選出。実験の趣旨は説明せずに実験に参加して貰う。
 実験方法:実験−1.完全防音の個室一室に一人の被験者を待機させ、他室との会話用に最大1グループ5人の5次元通話が可能なTV電話を設置。会話内容と相手先をモニタリングし被験者達には自由に会話をさせる。
 被験者達の会話が被験者グループ内の特定個人に向いた時、その特定個人がクシャミを行なったかモニターする。

 備考
・実験前の健康チェックを実施。
・個室内の空調設備は適当な温湿度に設定、空気中のパーティクル数は食品用クリーンルーム程度。
・個室間の距離は全体で100メートル四方以内に設置。
・実験時間、前半4時間/休憩1時間/後半4時間。

 実験結果。
 実験区分を無噂状態、噂状態のふたつと対象に対する関心がもっとも強くなると考えられる氏名が出て確定された瞬間、話題が盛り上がった瞬間をピックアップした。
 実験時間内40人中9名が計121回のクシャミを発生。
 内2名が鼻風邪によるクシャミ多発状態で計101回のクシャミを発生。
 その他20回を分類した所、無噂状態時でのクシャミの発生確率は0.5%、噂状態時では2〜20%と高い有意性を示す確率を観測した。
 また、名前が出た瞬間と話題が盛り上がった瞬間プラス1分間マイナス5秒では、更に高確率となっている。
 この事から噂話とクシャミには何らかの相関関係がある物と考えられる。
 また、霊力保持者の予備観測で各個人の霊能力を測定して貰った所、霊力保持者が噂者若しくは被噂者に居た場合の確率が高くなる事も分かった。
 実験−2.個室の遮蔽板に霊力を遮断すると考えられているシルスウス鋼を追加し、後日再実験。
 実験−1.と比較、噂状態と無噂状態との間に顕著な差異は認められず。

 結論、噂話をするとクシャミをすると言う俗説は確率論的に高い再現性を有していると考えられる。
 また、その作用には何らかの形で霊力が関与している物と思われる。
※副次的観測結果、本来の実験以外の趣旨のデーターが観測された。
 以下に記述。
 欠伸の連鎖反応、平均連鎖時間2秒間、平均連鎖回数2.5回。

 ウワサによってクシャミが引き起こされるメカニズムの考察。

 クシャミとは鼻腔奥の嗅覚神経が刺激された時の反射反応であり、肺を急激に収縮させて鼻腔内の異物、刺激物を除去する働きを持つ。
 さて、嗅覚とは空気中の匂い物質を化学反応にて電気信号に変えて頭脳へと送る大変に複雑かつデリケートな作用を利用するシステムである。
 しかも、人間の身体は電気的影響を受けやすい構造となっている事が知られている。一例として、地面の下に埋没している金属や水脈等の電界を全身の神経をアンテナにして受けとめ、その影響で腕部の筋肉が収縮する事を利用したのがダウジングである。
 また、鼻腔奥と言うのは骨によって隔てられているとは言え大脳の直ぐ下にあり、大脳の活動の影響を受けやすい状況にある。
 そして嗅覚神経の上にある大脳の部位は以前から超能力との関連が疑われていた視庄下部であり、超能力関連の活動で活発になる可能性の高い部位である。
 ウワサによる物と考えられるクシャミ発生時の大脳の活動部位を観測した所、やはり視庄下部の活動活性化が見られる。
 よって、ウワサ話を行なった者達を甲乙丙とし噂の対象者をイロハと呼称して説明すると、甲及び乙がイについてウワサした事により甲乙どちらかの霊力が霊力子を発振、四次元側を移動した霊力子は、数有る魂の中から目標のみを選び出し受信させる。
 受信すると視庄下部が活性化され、その電磁気的な刺激によって嗅覚神経に刺激が加わり、結果としてクシャミと云う形で現れるのである。

 この事から次の事実が推察される。
 ウワサによる実験から、正誤率を割り出した所、文章による対象が不明瞭若しくは確定していない場合を除きほぼ100%の確率で正しい相手に届いている。
 つまり、神秘学的には無数に存在する人間の中から確実に対象を識別認識する方法があり、私たちは無意識の内にそれを利用している可能性があるのだ。
 どの様にそれを認識し記憶しているのかは現在の所、仮説も立っていないが神秘学は現在日進月歩で発展しつつある分野なので判明する時が来るのも遠くない事と思われる。



日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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