作者:コバヤシさん

新世紀2年6月16日 午前1時20分
北海道上川郡美深町


「機動兵器部隊のパイロットたちに告ぐ、こちらは日本連合陸上自衛隊である。諸君らの所属と部隊名を告げて欲しい、繰り返す。
こちらは日本連合陸上自衛隊である・・・・・」

 全周波数受信モードにセットした通信機から流れ出した通信に、一方的な戦いの光景はひとまず終わることとなった。
「来たわね、ハーディ」
 上空を飛ぶヘリの飛行灯を見上げながら、ヤオは通信を開いた。
「そうなるか・・・・あの『100年後のドールズ』の連中はどうするか、ね」
 いまだ硝煙の匂いがくすぶる戸外へ出たハーディは、おもむろにマイクを取ると通信を開いた。
 戸外のひんやりとした空気が、頬を刺激する。
 燃料系を打ち抜かれたT-80から上がる炎が、ちろちろと周囲を照らしていた

「こちらはオムニ独立軍軍総省統合作戦本部所属第177特務大隊総司令、ハーディ・ニューランド大佐だ。
『日本連合』陸上自衛隊のヘリコプター、交渉を持ちたい。よろしいか?


 Super Science Fiction Wars Outside Story
鋼鉄の 戦乙女( ワルキューレ ) 第3話 日本連合

新世紀2年6月16日 午前10時00分
東京都千代田区永田町 日本連合首相官邸

「なるほど・・・・報告は読みました」
 加治は報告書を片手に、土方に向き合った。
「はい、26世紀および27世紀の植民惑星オムニの特殊部隊ということです。説得に応じて現在は我々の指揮下に入っていますが・・・・」
「人形陸戦兵器を駆る女性ばかりの特殊部隊・・・・ですか」
 美深町に出現したDoLLS陸戦部隊はその後、出現地点から名寄の第25普通科連隊駐屯地に移されていた。
 現在、三沢に誘導されて着陸した同じDoLLS航空隊が自衛隊監視の下、千歳基地に出現した専用輸送機で回収に向かっている最中だ。
 千歳基地に出現したこれら輸送機は操縦系は理解可能であったものの、レーダー・航法関係といった支援システム関連が難解であり
(実際のところはかなりの面でオート化されており、オムニ軍で使用されている輸送機はパイロット一人で十分運用可能なほどなのであるが・・・)
航空自衛隊のパイロットには荷が重過ぎるとのことから、やむを得ず三沢基地で拘束されていた同じDoLLS航空隊のパイロットを使うしかないと判断されたのである。とてもではないがPLDの様な大型兵器を輸送できる垂直離着陸機など、この時点の航空自衛隊には存在していなかったのだ。
(全高6m〜7mもある人型ロボットが60体近くである。とてもではないが運べたものではない)
 取石葉月一佐から回収任務にハミングバードを使ってくれと連絡があったが、いまだ年は若いが天才的センスのパイロット集団とはいえ今まで存在してなかった大型ティルトローター機及び大型ヘリコプターの操縦は問題があると判断されていた。
「出来れば彼女らを説得して我々の戦力としたいところなんですけどね」
 土方はそう呟くと、加治から視線をそらす。第2師団所属のMATジャイロが送ってきた情報は、あまりにも衝撃的であったのだ。
 陸戦レイバーとも戦車とも桁違いの機動性と重装甲を持つWAPの基礎戦術はいまだ模索中の段階であり、日夜教導中隊では様々な敵に合わせた基礎戦術の試行錯誤が続けられていたのだ。
 時空融合直後に日本連合へ恭順したヨーロッパ各国の艦船を初めとして、これ以上の大規模な軍事組織の出現経験は無いわけではない。
 だが、今までとは訳が違う存在に、土方は判断を付けかねていた。



新世紀2年6月17日 午前8時30分
北海道千歳市 航空自衛隊千歳基地


 ここ千歳基地に突如として出現した巨大軍事施設の主、オムニ独立軍第177特務大隊ことDoLLSは4日ぶりにこの基地に戻ってきた。彼女らを襲った突然の事件から3日目のことである。
「いやー、まさかコレが一緒に出てくるとは思わなかったわね」
 千歳基地に降り立ったヤオが開口一番放った言葉である。
 原因は不明だったが、上手いことにDoLLSの根拠地となっていた施設そのものがほぼ完璧な形で千歳基地に現れていたのだ。
 DoLLSの装備、整備班などのバックアップ環境なども含めてである。
 これが後に陸自に置いて彼女らが独立権限を確保できるだけの余裕がもてたことの要因であろう。もし隊員のみの出現であれば、得られる情報も半分以下に減っていたと思われる。
 現に彼女らを美深町からここまで連れてきたのは三沢基地からやってきたエアパーソン達が操縦するPCH50輸送ヘリと4thドールズ達のVC213垂直離着陸機だった。自衛隊が持つ装備では彼女らの機体を輸送する手段が無かったのだ。
 後に第一空挺師団習志野空挺機動中隊や特殊機動自衛隊5121中隊でも用いられた新型PLD、3式特別攻撃車輌の試作もここの施設を持ってして成し遂げられたものであり、この地は様々な面で陸戦兵器の質的向上を図るきっかけになった箇所となるのである。

 輸送ヘリのタラップを降りたドールズメンバーを迎えたのは、千歳基地所属警務隊が向ける銃口と陸戦レイバー、97式ハンニバルの構える35mm長口径ガトリングガンであった。
「・・・・まだ信用されてないみたいね、ハーディ」
 その剣呑な光景に、ヤオは思わずぼやく。
「仕方が無いだろうな・・・・あれだけ派手な大立ち回りをやってしまったんだから」
 出現早々DoLLSが壊滅させた「赤い日本」の戦車中隊だが、それ以降赤い日本が何らかの行動を起こしたと言う情報は意図的に封じられているのだろうか、ハーディ達には入ってきていなかった。
「ハーディ・ニューランド大佐ですね。陸上自衛隊北部方面隊司令、斉藤三弥陸将です」
 DoLLSメンバーに日本語が通じるということが解っていたのか、北部方面隊総司令を名乗った男は通訳を介せず直接口を開いた。
「オムニ独立軍第177特務大隊司令、ニューランド大佐です。斉藤閣下、以後よろしくお願いいたします」
 オムニ軍式の敬礼をすると、斉藤も同様に敬礼を交わす。

「まずはこの状況に関する説明から始めたいと思います。今あなたたちが存在しているここは、あなたたちの世界の地球ではないことはすでにご理解されているとは思います」
 ここは陸上自衛隊東千歳駐屯地。そこの大会議室に2つの時代から現れたDoLLSメンバー、総計65名。千歳基地に出現した整備班を初めとしたバックアップ要員160名、合計225名が座っていた。
 状況説明を勤めるのは水瀬とか言う三十代末ごろの佐官であった。
「解っています。私たちの歴史には地球に日本連合などと言う国家が存在したと言う記録はありませんから」
 代表して4thドールズの隊長、フェイエン・ノール中佐が答える。少なくとも地球とのリアルタイム通信が無かったオムニ独立戦争・ジアス戦役当時にも日本は地球連邦政府下の自治国家「日本国」であり、日本連合などと言う国号を持つ国家は存在していないことが伝えられていた。
「それだけでは有りません。この世界は今、様々な世界、時間が融合した状態で存在しています。これは地球全体に及んでいるのです」
 水瀬の説明に、多くのドールズ隊員たちは頷いた。この世界に出現した直後からの情報収集作業で、あまりにも時代があやふやな印象が有ったのだ。このことが判断を一時期迷わせたが、その中で世界の主流が日本連合であったことを推測したDoLLSメンバーの判断力と言うのは極めて優れて居たというべきであったろう。
 ただし、彼女らの目の前に現れた赤い日本の戦車中隊が交渉を持とうとせず、いきなり攻撃を仕掛けたことも原因の一つであったかも知れないが・・・・。
 交戦後、捕虜にした赤い日本の戦車兵らから聞いたところに寄れば、彼らは出現したDoLLSを日本連合(彼らは「南日本帝國」と呼んでいた)の機動兵器部隊だと思って攻撃を仕掛けたらしい。
 だが、必殺を狙って発射したミサイルは1個中隊でイージス艦並みの防空能力を持つPLDの前には形無し。
 その後は機動性の高さで照準を合わせられず、懐に飛び込まれ白兵戦でEMPを叩き込まれると言う自衛隊に対してDoLLSの強さを誇示するための示威行為の材料にしかならなかったのだ。
「ですが、我々以外にも地球以外の星から現れた世界というのは存在しているのでしょうか?」
 挙手の上質問をしたのは4thドールズのエレン・シュターミツ少佐だ。元々宇宙軍で超次元理論を研究していただけ有ってもっとも早くこの事態を理解できた一人であろう。彼女は後にDoLLSから総合学術会議に出向することとなる。
「現時点では約2週間ほど前にアフリカ大陸にて、6万光年向こう側から現れたゾイド連邦と言う国家の存在が明らかになっています。ですが時空融合後、最近までアフリカ大陸は殆どが侵入不可能な雲に覆われ暗黒大陸化していたため、わが国もいまだ状況を掴み切れて居ません」
 その回答を聞いた瞬間、DoLLSメンバー達の間でざわめきが起こった。

「落ち着け!諸君!」
 それまで聞き役であったハーディがあわてて場を抑える。さすがに鍛えられた精鋭部隊だけあってすぐさま場は収まった。
「申し訳ありません、水瀬少佐。続きをお願いします」
「私は3佐ですが・・・続けましょう」
 水瀬の説明は続いた。一番古い時代としては数億年前の古生代から人間の存在が確認されている世界としては古くは15世紀そして新しくは120世紀まで様々な時代・世界が統合され混沌としている日本連合全体について。
 現在日本国内に存在する敵性体に関して。
 特に水瀬は、 地獄( ヘル )一味の機械獣とゾーンダイクの上陸兵器「ウミグモ」に関しては必要以上に時間を割いた。
 PLDの戦闘能力ならWAPの配備を待たずに十分に対抗出来るかも知れない。と言う目論見があったのだ。
 すでにWAPを中核にした機動中隊の編成計画が進行していたが、実戦段階へ入るにはあと半年はかかるかも知れない。
 だが、彼女らならすでに実戦経験豊富であり、少なくともWAP中隊が軌道に乗るまでのつなぎにはなるだろう。
 DoLLSの戦闘能力について報告を受けていた土門陸幕長直々の通達であった。
「水瀬三佐」
 大方の説明を終えた時、ハーディが水瀬に向かい口を開いた。
「何でしょうか、ニューランド大佐」
 自分より10歳も若いのに階級は二つも上だという女性の気迫に推されながら、水瀬は答えた。
「我々の扱いについては、あなたたち北部方面隊のみでは判断しきれないと言うことはわかります。ですが、今の時点で言えば我々は今すぐにでもオムニへ帰れるものなら帰りたい」
「現時点では元の世界に帰還する方法と言うのは全く不明です。何らかのきっかけで揺り戻しが発生するのか。このまますべてが固まってしまうのか・・・・」
 ハーディの言葉に水瀬は自分の知っている範囲で回答する。
 この時点では、時空融合の原因がこの世界に出現したアメリカが時空振動弾を使用した結果発生したと言う事は国家機密の扱いになっており、末端の将校である水瀬が知ることではなかった。と言うよりこの事実を知っている人物は首相である加治以下限られた人々のみであった。
「解りました、出来れば一度我々だけで状況を話しあいたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
 ハーディの冷静を絵に描いたような表情に、水瀬は内心を図りかねた。だがしばらくの間を置いて了承することとした。

「解りました。30分ほど協議の時間を与えます」
 そういって水瀬が退室した後、おもむろにハーディは壇上に上がった。
「諸君、あまりにも突発的な事態でいまだに心の整理が付いてないと思う、特に我々の姿を見た4thドールズの諸君は。我々とて貴方達が100年後のオムニからやってきたということがにわかには信じられないぐらいだからな」
「えぇ、いまだに夢なら覚めて欲しいと思っているほどです」
 ハーディの言葉にフェイエンが答える。だがその表情は何処と無く嬉しげに感じられた。
「だが、今までの時間に発生したことをトータルしてみると、残念だが現実ということを認めるしかないだろう」
 多くのメンバーが頷く。
「と、なると・・・・我々がここでどうするか、ですね」
 4thドールズの参謀役、マチルダ・メッテルニヒ少佐である。
「そうなりますね、名義上の総司令をどうするかですが・・・・・」
 話を繋ごうとしたファンをフェイエンが遮ると答えた。
「我々としては、司令権限をニューランド大佐に一任したいと思います。すでに我々の意思は固まってますので」
 戦闘後、ジアス戦役当時の元祖ドールズが出現していたことを知ったフェイエンたちは即座に会合を開き、ハーディにすべての指揮権限を委ねることを決めていた。
「良いのか?」
「構いません」
 その言葉を聞いて、ハーディはなんとも灰汁の強そうな4thドールズの面々を見つめた。
「了解した、出来るだけ早くお互いの世界に戻りたいものだな」
「はい」
 お互いに視線を交わすと苦笑する。
「それでは・・・今後我々がどうするか、についてだが・・・・。今自衛隊から説明を受けた事と、現在我々が掴んでいる情報を照らし合わせるとこのまま日本連合に所属することを良しとするか、それとも他の国へ亡命するかのどちらかになると思う」
 ハーディは一応、メンバーの意思を考えて口を開いた。オムニリング(開拓当初からのオムニ住民:言うならばアメリカのWASPに近い)出身者が多いドールズにとって、「地球」と言うだけで敵対意識を持つメンバーも多い。それだけに何の因果かわからないが地球に来ていると言う事実を再認識させる必要が有ったのだ。
 ハーディの言葉に、しばしドールズメンバーの間にざわついた空気が流れた。
 言うならばこれは、暗にこの場でのDoLLS解散を意味していたとも言えるのだ。
「司令、確率論的に言えば我々は一纏まりで居た方が確実に帰還できる可能性があると思います」
 エレンが答える。何らかの形でここにいる面々がバラバラになる事は出来るだけ避けるようにしたほうがもし「揺り戻し」で帰還できる可能性がある限りは良いだろうと言うのが彼女の判断であった。
「だと思うわね。それに現在把握している情報を見る限り、帰還のきっかけを掴む可能性としては日本連合が一番可能性が高いと思われます」
 ファン・クァンメイが肯定するように言う。日本連合は技術レベルでは遅れているようだが、この事件に対する研究深度と言う点ではもっとも研究が進んでいるらしいことが判明している。それに出現した地点でもある事を考えると当然だ。

 諸外国の状況はわからない要素が多かったが、少なくともアメリカは謎の侵略を受けて右傾化・鎖国化傾向にあり、とてもではないが危険だと言うこと。エマーンは高度な技術を持ってはいるもののあまりにも文化・思想が違いすぎて生活できないだろう。と言うよりこの2勢力では良いように扱われ、捨て駒程度にしかならないだろうということは少なくとも予想できていた。
 残るはソビエトと中華共同体、それにゾイド連邦と言った所であるが、ソビエトの住人が熊から進化した(?)人間だと言う話を聞いた途端DoLLSメンバーは一斉に青ざめた顔を見せた。この時点でソビエトは彼女らの頭の中から候補としての立場を消した。
 中華共同体は日本連合以上に安定した政治体制に見えたが、かつてのヨーロッパ以上に政治が一本化しておらず、つかみ所の無いその姿はいかんせん政治的・技術的・経済的なバックアップを必要としたDoLLS達にとっては不安に思えたのだ。
 ゾイド連邦はいまだ詳細が明らかになってない地域の上、DoLLS達の時代からさらに未来の世界であり、技術的アドバンテージを取れる可能性が低いという結論から候補を外れた。
 究極目的をオムニへの帰還と定めたDoLLSとしては、政治体制が積極的にバックアップについてくれる必要があるのだ。
 その点で日本連合は積極的にバックアップについてくれる可能性が有ると見えたのだ。
 それに約束を取り付けるだけの交換条件もこちらにはある。
 西暦2000年前後の時代を中核としているのであれば、民需・軍需問わずPLDを初めとしたDoLLS関連の装備に関する技術を特許化すれば、飛びついてくる企業はあるだろう。どちらにしても異なる二つの時代の組織が合わさって存在している今のDoLLSには早急に共通仕様のPLDが必要となるのは目に見えていた。
「・・・・他の皆には異議は無いか?私としては今の時点で考える限り日本連合に付くのが得策だと思われるが・・・」
「異議はありません!」
 綺麗にメンバーたちの声がハモった。アメリカ系の人物が多い初代DoLLSであったが、現在のアメリカに関する報告を聞いた瞬間彼女らの顔に浮かんだのは明らかな嫌悪感であった。規制と似非エコロジー主義、訴訟にがんじがらめにされた一番嫌な時代のアメリカに行こうとする気持ちはさすがに生まれなかったらしい。これは翌年のチラム政権樹立後に日本連合や中華共同体に亡命したアメリカ人らが抱いた気持ちと同じであった。少なくとも彼ら亡命アメリカ人はアメリカの正義と自由を信じていたのだ。後に彼ら亡命アメリカ人達に協力する形でDoLLSメンバーの何人かはチラム国内の反チラム主義運動に参加する事となる。
「解った、我々ドールズは今後オムニ帰還の方法を見つけるまでの間、日本連合および自衛隊への協力を行うこととする」
「了解!」
 不安だらけではある。だが、いつか帰還するための努力は惜しまない。
 たとえそれが自分達の生きている間で無くとも。
 自分達には故郷に帰ることを許されず、オムニの自然と闘ったオムニリングたちの血筋が流れている。
 侵略の建前ではない、原始の自然を相手にして戦った本物のフロンティア・スピリットがオムニリングの誇りでもあった。

 壇上に立ったままハーディは、自分の中に熱い物がこみ上げていることに気づいていた。


新世紀2年6月17日 午前6時30分
東京都千代田区永田町 首相官邸

「彼女らの自衛隊編入、同意を得ました」
 会議用モニターに写る斉藤の報告を見ながら、加治と土方は頷いていた。
「彼女らの受け入れ態勢が大変ですね」
 アユミ=セリオの入れた玉露を啜りながら加治は呟くように続ける。
「千歳に彼女らの基地らしき施設が出現していたのが不幸中の幸いです。協力を得られれば我々の戦力強化にもつながります」
「美深町に出現した通信施設も、早急に分析が必要ですね。どうやら恒星間のリアルタイム通信を可能にする施設のようですから」
「そうですね。彼女等を自衛隊で用いるとなると、所属をどうするか判断をつけないと行けませんが・・・・」
 なにせ一個大隊の中に陸戦兵器から支援砲、輸送機、戦闘攻撃機までそろえている部隊である。陸自、空自、特自間で熾烈な駆け引きが行われるのは目に見えていた。
 だがそれ以外にも、土方にはいささか引っかかるものが残っていた。
 その気持ちを察してか、加治が言葉を続ける。
「ですが、2個戦車中隊が壊滅したにも関わらずあの連中が音沙汰なしと言うのは不気味ですね」
 『あの連中』とは、赤い日本のことである。彼ら赤い日本がこれだけの打撃を受けたにも関わらず一切合財動きを見せないのは異様に不気味に思えて仕方が無いのだ。昨日中からナデシコA・Bを交代で道北上空に待機させ監視を続けているが、全く動きが無いと言う報告のみが定時に入ってくるだけであった。
「逆に言えばラッキーだとも言えます。監視を続ける以外に選択枝は無いでしょう・・・・・」
 加治は頭が痛い。と言った感じで苦笑する。彼らが報復措置に出た場合、彼らがここでのんびりと会議をしていられないのは確かで有った。下手をするとすでにこの世の人間ですらなかったかもしれないのだ。
 彼らは密かに、赤い日本に冷静な戦略家がいたらしいことを神に感謝した。
「出来れば彼らとは戦いたくない。ギリギリまで話し合いを出来るように説得したいものです」
 赤い日本の求めるものはただ一つ、日本全土の赤化。
 強力なカリスマを持った指導者川宮勝次の下、共産圏随一の豊かな国であった彼らにとってはそれが理想なのだ。
 だが、すでに多くの人類にとっては共産主義の理念が画餅に過ぎず、実際には特権階級(ノメンクラトゥーラ)による停滞と堕落しかもたらさない事を知る加治らにとってはどうにかして彼らに現実は違うことを教え、日本連合に加わることを望んでいた。
 彼らはムーやゾーンダイクとは違い、少なくとも同じ人間であり話合いの通じる相手だ。それだけに問答無用で排除することはためらわれるのである。

「明日以降、彼女らの扱いや所属などに関しては首脳部と協議に入ることとします。出来るだけ早いうちに装備の分析などもしたいところですね」
 特に一部のスーパーロボットを除いて緊急展開能力で劣る特機と散発的に続く戦況を抱える北部方面隊はこれだけの装備と戦闘能力、緊急展開能力を持つ連中を引き込もうと必死になるに違いない。
 今から口角泡を飛ばして議論を戦わせる土門と剣の姿が目に浮かぶようだった。
 土方は週末は丸つぶれになるな、と内心思いながら湯飲みに残った最後の玉露を飲み干した。

新世紀2年6月20日 午後11時20分
北海道札幌市南区定山渓温泉 定山渓ビューホテル


「いやとんでもないのが転がり込んできたね、黒崎君」
 ここは札幌の奥座敷と言われる定山渓温泉。
 その中でももっとも高級と言われるホテルのスイートルームである。端から見ると能天気なほど朗らかなように思えるその男は又とも無い機会を与えられたと言った顔でテレビに見入っている。
 傍らのノートパソコンには各種新聞のニュース速報と、融合後管理人とアメリカにあったサーバが現れなかったため閉鎖状態であったが有志によって最近復活した巨大匿名掲示板「2ちゃんねる」の融合問題に関するスレッドが表示されている・・・・のだが、今はスクリーンセイバーが作動してトトロがくるくると踊っていた。
「・・・・・課長、又何か仕掛けるつもりですか?」
 黒崎と呼ばれた目つきの鋭い男が呆れた口調で答えると、男はその笑顔をこれ以上ないほどに輝かせて答えた。
「彼女らの事をちょーっとばかり調べさせてもらおうかな、ってね」
「赤い日本の戦車中隊を10分足らずで全滅させた連中ですよ、たとえグリフォンとバドが居ても返り討ちに遭うのがオチでは?」
 バドの事を気に入らなかった黒崎であったが、彼の実力は認めていた。
 だが、今バドは全く持って消息不明である。警察に保護された後時空融合に巻き込まれ、いまだに消息が掴めていない。
「改良はするさ、機械獣のデータは十分調べさせてもらったしね。今回運んでいるものを彼らに渡したら近いうちに仕掛けてもらおう」
 そういうと美味そうに傍らの陶器製マグに入ったビールを飲み干す。
「くぅ〜っ。小樽の地ビールは美味いねぇ。どうだい黒崎君、君も一杯やらないかね?」
「遠慮しておきます」
 またこの人に振り回される事になりそうだな、と思いながら黒崎は内心溜息をついた。

To Be Continued.


あ・と・が・き

第2話掲載からしばらく時間が空いてしまいました。こばやしみちともです。
「鋼鉄の戦乙女」第3話、遅ればせながら送らせていただきます。
推敲作業中に引越し準備などもあって、色々とどたばたしていたんで・・・・申し訳ないです<m(__)m>
埼玉転勤となったため北海道の状況については書きにくくなりましたが、更新ペースを上げて作業を
進めて行きたいと思っています。

とりあえずは日本連合に加わる事となったDoLLSですが、この先には色々と悲喜劇こもごも様々な事態が起こります。
なぜ?と思うかも知れませんが地球を「敵」とみなして戦争していた経験持っている彼女らが地球で暮らしていくと言う
かなりの難題が山積していたりします。自衛隊での所属も問題でしょう(^^;海自はまあ別として陸自・空自・特自
いずれにも当てはまる存在ですからね・・・・・・。4・5話はPLDの評価試験を初めとして彼女等が地球で暮らして行く
上での様々な戸惑い等も描写していく予定です。融合世界製PLDの出番は何時に成るかはお楽しみに(笑)
まだ詳細を煮詰めている最中ですし、動力源の問題をまず解決せねばいけません(汗)技研式ハイドロエンジンの
仕組みがわからないのが余計に・・・・・(汗)

で、第一話で張ったいくつかの伏線に関しては第7話以降になるかな・・・・・。

「・・・・・・意外と先の事を考えていたようだな、考え無しの様に見えて性格の悪い」
あ、これはこれはニューランド大佐・・・・いや一佐では無いですか。どうなされたので?
「自衛隊式の階級呼称はどーも性に合わないな・・・・。まぁそれはそれとして一体何話ぐらいで終わらすつもりだ?」
んー、一区切りとなる赤い日本を巡る戦いはひょっとしたら第2部に食い込む可能性もありますからね。意外と長い話になるかも。
「第一部の結末も解らんのにそんな伏線はっといて良いのか?(汗」
まぁ、それはそれ。これはこれ。最近SSFW全体がスーパーヒーローさん達が活躍しすぎてこう言ったミリタリーSF路線の影が薄い
感じがしていたんですよね。そんなんでDoLLSには頑張って貰わないと。
「うーん・・・・・言いたいことは解らなくも無いけどな」
実を言うと他の作品のキャラでドールズ入りして欲しいキャラも居たりするし。そう言ったキャラのスカウト話なんかも
書いてみたかったりします(笑)
「スカウト?また妙な事を考えるな・・・・・確率論的にオムニ帰還の可能性が低くならないか?」
うぐっ!(汗)そこら辺は考えとかないと・・・・・。
「ひょっとして・・・・・まさか・・・ひでぶっ!
はぁ・・・・はぁ・・・・メガロマックス級にヤバイネタバレをするところだった・・・・・。
「コバヤシさ〜ん、たいちょの方片付けておきますね〜」
あ、エヴァンス准尉。片付け願います・・・・・・。

それでは、次回を楽しみに待っていてください<m(__)m>
つーわけで次回も少々戦闘シーンなどの派手な演出は少なかったりします。申し訳ない<m(__)m>
これも話を充実させるための事とご了承願います。

ではでは。






<アイングラッドの感想>
 どうも掲載お待たせいたしました、アイングラッドです。
 コバヤシさんからDollSの最新作を頂きました。
 異星の戦場とは歴戦の彼女たちの参戦は日本連合にとってどう云う影響を与えるのか、さて、ニューランド一佐が漏らしてしまいそうだった秘密とは一体何だったのか、謎は深まるばかりです。
 あと、戦闘シーンが少ないことですが、問題はありません。民間人が住む空間で連日連夜戦争が続く様な異常事態にまで社会状況は悪化していませんし。ひとつの強大な組織が力を発揮するためにはそれなりの準備期間が必要なのは当然ですから。
 あと、細かいことですが年月日を明記して戴いて大変に助かりました。いつもは文中から「ここいら辺かいな?」と推測しながらですので。
 では、コバヤシさんの次回作を期待してお待ちしております。

日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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