新世紀2年6月17日 午前0時3分 北海道美深町

「お会いできて光栄です、ヤオ中佐。私はあなたたちの時代から100年ほど経った時代の177特務大隊所属。ナガセ・マリ中尉です!」

 光学迷彩を装備した首なしのPLDから姿を表したパイロットを、ヤオはぎごちなく敬礼しながら見るしか無かった。

「100年後のドールズって・・・・・・・・」
「はい、にわかには信じてもらえませんかも知れませんが・・・・」
「あんたが乗っているローダー見りゃ信じる気にもなるわよ」

 ヘルメットを脱いだナガセの顔を見ながら、ヤオは溜息をついた。いきなり地球に飛ばされたと思ったら100年後のドールズ隊員と出会う、とはねぇ・・・・・。


Super Science Fiction Wars Outside Story
鋼鉄の戦乙女(ワルキューレ)達


第2話 ファースト・コンタクト
作者:コバヤシさん



「フォックスリードよりヒドラウィング。フォックスリードよりヒドラウィング。今ポイントから北へ10km地点で100年後のドールズ隊員と言うパイロットと接触した。光学迷彩を装備したステルスローダーに乗っている」
「こちらヒドラウィング、ハーディだ。こちらでも通信を確認した。すまないがその100年後のドールズとやらに連絡を取りたい。交渉のため出向いてもらえないか」
「了解。これの貸しは高くつくわよハーディ」
「判った、今度びょうきもちで奢るわよ」
「びょうきもち?判った。言っとくけどビール程度じゃないからね」

 珍しく「女言葉」でハーディの苦笑する声がヘッドフォン越しに聞こえた。軽い冗談が言える辺り、自分でも精神的余裕が出来てきているのかも知れない。

「そいじゃあ、ナガセ中尉。我々を100年後のドールズのところまでご案内していただけますかね?」
「喜んで。伝説の英雄を見られると有れば、皆喜びますよ」

 ナガセのローダー・・・・実戦テスト中の試作機であるXD-10装甲隠密歩兵と言うらしい・・・・は機体を起こすと先ほどの亜空間通信センターに向けて歩みを進めた。

「さすがに隠密歩兵とはよく言ったものね・・・・足音がほとんど聞こえてない」

 マルチセンサに映る情報を眺めながら、ヤオは一人その性能に感心していた。ナミが見たらもぉ涙流して喜びそうだね〜。と心の中で付け加えたが。

「確かにそうですね・・・・・RRのパッシブソナーでも辛いんじゃないでしょうか?」

 セルマも前を歩く機体の静粛性に驚きを隠せないようだ。
 X4RRのすねの部分に搭載されているソナーは、歩兵の足音でも聞き分けると言うほどの高性能を誇っているがXD-10の足音を聞いてもそれがPLDだと判断するのは非常に難しいことだというのは容易に想像できた。

「あんまり変わって無いように見えるけど、やっぱり100年先、ってことなんでしょうかね」
「やっぱあんたもそう思う?」
「速度は遅いみたいですけど」

 実際、目の前のXD-10は全速で走っているようだが、ヤオとセルマはスロットルを70%のところで絞っていてもすぐに追いついてしまうのだ。

「うーん・・・・これじゃあ隠蔽性が高くても忍者とは言えないわねー」

 ナガセには失礼と思うが、ヤオは内心つぶやく。
 4・5分ほど歩いただろうか、森が開け、先ほど見えた亜空間通信施設の前にやってきた。
 そこには、先ほどのPLD部隊が二手に別れて整列し、歴史上の英雄に対する敬意を表さんと敬礼していた。

「ようこそ、2600年代のドールズへ。ヤオ中佐」

 その真ん中に立つ、褐色の肌をした黒人と中国系の特徴が混じった女性の顔が通信画面に映っていた。

『私がDoLLS隊長、フェイエン・ノールです』
「先輩より落ち着いていそうですね」
「どーゆー意味よ、セル」

 さりげなく接触回線でセルマがからかってくる、とりあえず突っ込んでおくと、コクピットハッチを開け、機外に顔を出した。

「我々が・・・・」
『存じておりますよ、ヤオ・フェイルン中佐。セルマ・シェーレ大尉。PLD戦術の教則本であなたたちの名前が載っていない本は有りませんから』
「はぁ・・・・・」

 自分たちがおそらくは死んでいるか、おおよそ今からは想像も付かない老婆になっているであろう時代の人間の言葉にヤオたちはただ頷くしかなかった。

「こちらもローダーに乗ったままじゃあ失礼ね。今降りるわ」

「アテンション!」

 フェイエンの号令が夜空に木霊する。

「ハンド・サルート!」

 ヤオとセルマ、おそらくは実際に会えるはずの無い人物二人を前にした30人を越える面々は一斉に最敬礼をする。

「お見事」

 ヤオは手を叩いてフェイエンを賞賛した。

「ここまで鍛えるのは大変でしたよ。ジアス戦役が終わってから100年近く、大規模な戦争が無かったので・・・・」

 フェイエンは黙って苦笑する。事実、軍人家系であった自分も実際にサイフェルトとの戦争が起きるまで、どこか抜けていたと思うところが多々あった。それゆえに自分もなり手が居なくて半ば押し付けられる形で就任したDoLLSを率いて、ようやく軍人として足りないものを手に入れたような気がしているのだった。

「平和ボケ、と言われても仕方が無い問題児ばかりだったんですが・・・・」
「DoLLS隊長はいつも苦労する、って所か」

 ヤオの相槌に、フェイエンは苦笑する。

「総員、休め!」

 ざっ、と音を立てて直立姿勢から体勢を崩す。

「とりあえず、だけど。現在の状況について把握していることをお話いただけます?」
「とりあえず、我々もセンター周囲の状況を調査した結果から言うと、オムニとは思えない所に居るのは確かだと思います。植生、星の状況、月の存在などを見ても・・・・」

 フェイエン率いるドールズ・・・・別名を4thドールズとも言う。の参謀役、マチルダ・メッテルニヒ少佐がRRのセンシングデータを元に製作した地図を元に説明する。上空からの観測ではないため、三角測量を行えても正確さにはやや限界があるが、贅沢は言ってられない。

「うちも出した結果は同様ね。場所を正確に言うと・・・・」
「日本国、北海道北部。ですね」

 見た感じセルマからあどけなさを抜いてきつめにしたような印象の女性、エディタ・ヴェルネル中尉がヤオの言葉をつなぐ。

「としか思えない。幾らなんでも敵の陰謀にしてはシチュエーションがぶっ飛びすぎているし」

 と、そのときだった。
 ヤオのX4Sの無線機が、けたたましいコール音を立て始めた。

「フォックスリード、ヤオ。どうしたの?」
『こちらヒドラウィング、ハーディ、厄介なことになった。こちらに2個戦車中隊がやってきている。申し訳ないが大急ぎでこちらに戻ってきてくれないか?』
「見つかったの?判った。5分以内でそっちに戻る」

 そう言うと通信を切り、フェイエンに向かい合った。

「申し訳ない、ノール中佐。”我々の”ドールズが敵の襲撃を受けている。至急戻らなければ行けなくなった」

 と、そのときだった。

「大変です!所属不明の戦車部隊が接近中!」

 背中に大きな複合センサーらしきボックスを背負ったPLD・・・・おそらくRR型だろう。に乗ったパイロットが外部スピーカーで叫び声を上げていた。一斉に周囲は騒がしくなる。

「総員騒ぐな!メアリー、情報を」

 一気に場が収まる。

「IFFコード・識別グリーン。ですが・・・見たことも無い形式ばかりです!」
「・・・・・気をつけたほうが良いわね。先ほどうちの隊員が陸上自衛隊のヘリ部隊を見たって話しだし」

 ヤオの言葉に、フェイエンたちは顔を引き締める。

「ヤオ中佐、シェーレ大尉。ここは我々で食い止めますので、あなたたちは元の場所へ。無事に終わりましたら、再度の連絡を」
「了解。あなたたちの戦いぶりを見てみたいところだけど、さすがに2個戦車中隊の相手は大変だからね」

 そういうとお互い敬礼を交わし、ヤオは自分の機体へと足を向けた。

「総員乗機せよ!第1種警戒態勢!!」

 テキパキと準備態勢を整える4thドールズたちを尻目に見ながら、ヤオとセルマは戦車部隊の位置を探りながら南へ進路を向けた。

「アストロボーイよりマイホーム、揺り戻し現象の発生地点に到達。地図情報に無い電波施設らしきものを目視で発見」

 OH−1のコクピットでパイロットは状況を報告していた。周囲を横断している国道275号線から離れたポイントに位置しているにも関わらず煌煌とあかりを付けている。

『ザザザ・・・・こちらマイホーム。電波施設周辺の状況はどうだ?・・・・・ピュー』

 マイホーム(旭川司令部管制)からの返信は奇妙なノイズが混じっていた。

「こちら、周辺での大規模なジャミング反応を探知。このジャミングが収まらないことにはブラックジャック(MATジャイロ)による現象の調査は難しいと判断する」

 このジャミングが二つの亜空間通信センターに陣取っていたDoLLSのRR(偵察専用型)が行っていた広域(バレージ)ジャミングであることを後に知った自衛隊は大いに驚愕することとなる。

「マイホーム、光学観測なのでまだ詳しくは判らないが、施設周辺には複数の人影が・・・・いや、建物とのサイズから行くと大型の人型機械・・・・・・おそらくはレイバーサイズのものが多数存在する。この周辺でのWAP部隊の演習予定はあったか?」
『こちらマイホーム、WAP部隊の演習予定はこの地域には存在しない。より詳しい画像情報を送ってくれ。オーバー』
「了解した」

 そのまま南側にある通信施設にOH-1とMATジャイロを近づけ、赤外線カメラでの撮影を開始する。
 位置調整のうえ、MATジャイロに搭載されているレーザー通信によるデータ転送を行う予定であった。

「ブラックジャックよりマイホーム、これより撮影を開始。障害が酷いため電波による送信はできない。レーザー転送による受信の確認を行ってくれ」

 最寄のレーザー受信施設を確認したMATジャイロは、テールコーンに装着したレーザー発信器より不可視レーザーによる回線を開くと、画像を転送し始めた。

「何だこりゃあ・・・・・・」

 転送されてきた画像に、旭川管制室は唖然とした表情でソレを観るしかなかった。
 肩に大型の戦車砲やミサイルを装着したその機体を見て、火力ならWAP以上だな、ということを即座に理解した。

「マイホームよりブラックジャック、問題の人型機械はWAPに有らず。先ほど留萌沖に現れた「ドールズウィング」なる飛行隊との関連性があるかも知れない。引き続き慎重に観察を続けてくれ」
「ブラックジャック了解、診察だけでも報酬は高くつくぞ」

 ブラックジャックのパイロットはそう皮肉を言ってサーチを続けた。

「アストロボーイよりブラックジャック、緊急事態発生だ。朱鞠内湖北側よりMBTを初めとした装甲車両部隊が進入。熱源反応から行って赤い日本の連中だと思う。連中が刺激しないよう気をつけてくれ」
「了解マイホーム、いざとなったらビッグXにやらせる」
「ビッグX了解。5分もあれば方を付けられる」

 だが、ビッグXのコールサインを持つAH-64が自慢の大火力をフルに生かすことは、この一件ではついに無かったのである。
 その頃、南側の亜空間通信施設に陣取っていた元祖DoLLSは突如として接近してきた戦車部隊に対する対応を協議していた。

「どうする。相手が陸上自衛隊と言う可能性はあるか?」

 万が一攻撃を受けた際の対策として通信センター内に移ったハーディがすでに乗機したメンバーに通信を開く。

「先ほどミリィが撮って来た映像を見る限りだと、彼らは我々の知っている世界の日本ではない様ね」
「ですが、先ほどの民間情報を聞く限りでは我々が知っている歴史に近い日本も存在しているようです」

 ハーディの問いかけに、答えたのはファンとナミ。

「だとは思います。あの戦車は20世紀後半のソビエトが使っていたT-80ですから。その他の装甲車なども大方ソビエト製です」

 やはり、か。セルマの影響で歴史に興味を持っているらしいミキの言葉に内心ハーディは呟く。
 DoLLSではブリーフィングの際、こういった階級差に関係なく発言の機会を与えるフリーディスカッションを行うことが定例になっていた。これがより緻密な戦術を立てられ、かつ独立戦争・ジアス戦役を通じて一人の戦死者を出していないという奇跡とも言うべき結果の一因となっていた。

「敵キャタピラー音キャッチ。直線距離にして5000」
「センターの中に資料があったが、一応は複合装甲らしい。だが、我々が相手をしていたM58やM43に比べるとかなりやわな相手だと思った方がいいだろう」

 研究員の中にミリタリーマニアでも居たのだろうか、残されていたパソコンの中に古い時代からの兵器カタログがあった。
 そこに残されていた資料を基にすれば、主砲からのミサイルにさえ気をつけていればリアクティブアーマーを装着していてもリニアキャノンを牽制にして白兵戦に持ち込めば10分もしないで片が付くと言うのがフレデリカを初めとした作戦スタッフの分析だった。

「ミサイル接近中!」
「総員、迎撃用意!迎撃出来ない者はデコイを射出して回避、その後各自に攻撃せよ!!」

 一瞬、レーダーが捕捉したミサイルに向けて火線が一斉に放たれる。SMGやアサルトライフルの断続的な音、ガトリング砲のモーター音に近い発射音。合計20発近く放たれたミサイルは瞬時にして破壊された。

「早速AT-11を放ってきたか・・・・・・」

 これが空挺レイバーあたりが相手なら、何機かの犠牲は出ていたはずである。
 だが、赤い日本の戦車部隊とDoLLSの間には約540年の、移民船団として地球からオムニへ移動していた160年間のタイムロスを差し引いても380年間と言う時間差がある。19世紀から20世紀の間の発展に比べると遅く見えるが、これだけの時間差は大きい。X4RRを中心にリンクしたPLD部隊の対空戦力は、現在で言うならばイージス艦に匹敵するのだ。
 ましてやこちらは防御に適した高台の上に陣取っている。圧倒的有利な状況での戦いはDoLLSにとっては遊びと言っても良かった。

「マギー!リカ!ジャミングをバレージからスポットに変更。リニアキャノンの射程に入ったら一斉射撃を仕掛ける!」

 偵察から帰還途中のヤオとセルマに代わり、シルバーフォックスの指揮を執るジュリアが檄を飛ばす。

「了解!」
「敵戦車部隊、距離4500まで接近。斜面を高速で登ってきているようです」
「MLRSとかの支援は無いようね」

 自走砲による支援が無いことは安心要素とも言えた。

「リニアキャノン、スタンバイ!無照準でかまわん。3点斉射モードで行け!」

 丘の斜面を、ゆっくりと戦車は逆V字のフォーメーションを組んで接近する。
 両翼のT-80に照準が合った。

「射ェーっ!」

 DoLLS全体の戦術指揮を執るファンの号令と共に轟!と発射音というよりは一瞬の衝撃を残して計16本のも光条が戦車部隊に襲い掛る。
 初速はマッハ2を軽く超えるリニアキャノンはリアクティブアーマーと劣化ウラン製増加装甲を突き破り、一瞬のあと戦車部隊は閃光に包まれた。

「命中率70%、敵戦車部隊60%が撃破もしくは行動不能です」

 爆炎が晴れた後、無傷の戦車は一台も無かった。

「よし!一気に畳み掛ける!120mmの射程内に入り次第攻撃開始!フェイス、ジュリア、アニタ、準備OK?」

 ファンの声が白兵戦仕様の機体に乗っているメンバーに届く。通常兵器の砲撃によってさらに戦力を削り、白兵戦で止めを刺すと言うDoLLSにとっての王道とも言える戦術であった。
 X4S、X4+の通常型部隊が横一列になって前進しながら肩に装備した120mm砲を連射する。命中率よりはむしろ牽制を目的にした攻撃方法だ。派手に地面をえぐり返すが、これは生き残った兵士の戦意をそぎ、同時に戦車の進路を妨害しようという意味合いもあった。

「フォーメーションAからBへ、一気に殲滅戦をしかける!」

 ぱっ、とローダーが散会し、通信回線を異様に興奮したときの声が満たす。

「タリホォ〜っ!」

 不正地での高速走行性、国土の70%が森林と山脈で占められるオムニに置いて、それまで荒唐無稽と思われていた2足歩行式機動兵器が実用兵器として用いられた決定的な理由であった。最大の難点であった前面投影面積の大きさという問題も、高さ30mを越す巨木が生い茂るオムニの森林地帯ではそれほど苦にならない。むしろゲリラ戦に置いて今まで運用できなかった重火器を運用できるプラットフォームとしてこれほど理想的な兵器は無かったのだ。
 高速で接近するPLDの群れに、戦車隊はまさに巨人の群れに襲い掛かられたような恐怖を覚えた。恐怖に駆られるがままに主砲を連射するが移動速度に照準が追いついていない。一際巨人の姿が大きくなったと思った瞬間、強烈な衝撃が車体を走り、電装系が一気に吹き飛ぶ。
 PLDが白兵戦を挑んできたのだ。PLDが使用する白兵戦用EMP兵器、スタンポッドの威力である。
 第2次大戦中にドイツ軍が開発した吸着爆雷を先祖に持つこの武器は、相手に押し付けた状態で高圧のパルスを流し込み、相手の活動能力を奪う武器である。前もってEMP対策を施してあるジアスの兵器ならともかく、零距離で小規模な核爆発に匹敵する量のパルスを叩き込まれたT-80が耐えられるはずが無い。衝撃で搭載した弾薬や燃料が誘爆しなかったのが不思議なほどだ。

「ひぃぃいっ」
「退避!退避ぃ!」

 必死でギアを後退最速に入れるものの、ガスタービンエンジンは全く沈黙していた。始動に時間がかかるガスタービンエンジンはおそらく再起動するまでにこの「巨人」達の餌食にされてしまうのが関の山だ。

「は、はわわわわわわ・・・・・」

 あわててキューポラのハッチを開けた隊長の顔面に、口径20mmはありそうな銃口が突きつけられる。X4Sが装備しているP9SLアサルトライフルの銃口であった。
 自分を見据える巨人の目が、南日本製ロボットアニメの主役メカよろしくギンっ、と光る。

「所属と姓名、階級を」

 外部スピーカーを通じて聞こえてきた声はなんと女性の物だった。
 南の連中、何時の間にこんな化け物を作っていたんだ?しかも乗っているのは女?内心呟くが口に出したら最後、おそらくは上面装甲ぐらい簡単に貫けるだろう機関砲の銃弾に乗員もろともミンチどころか血煙も残さずに撃たれるのがオチだろう。
 この時点で陸上自衛隊が保有する2式特殊攻撃車、WAPは実験中隊でのテストを終えた段階で、いまだ量産化に着手していなかった。だが彼ら赤い日本の兵士は意図的に上層部の情報隠蔽にあっており、それの存在を知るはずも無い。
 彼らにとってこのような人型兵器は存在自体が恐怖の対象であった。

「アストロボーイよりマイホーム、南側に出現した電波施設で戦闘発生。赤い日本の戦車部隊と思われる。オーバ」
『こちらマイホーム、電波状況が改善されたがどうした」
「おそらくジャミングを解除したか広域を集中に切り替えたと思われる。オーバ」
『引き続き監視を続けろ。状況不利の際にはビッグXによる援護を許可する』

 だが、上空で観測を続けるうちに援護の必要なしだな、とアストロボーイのパイロットは判断を下す。
 高台の南西部の斜面で行われた戦いは、5分も掛からずに終了した。
 人形機動兵器部隊の圧倒的勝利で。

「アストロボーイよりマイホーム、援護の必要なし。南側施設の戦闘は終了した。繰り替えす、南側施設の戦闘は終了した」
『こちらマイホーム、北側施設の戦闘はどうだ』
『マイティウランよりマイホーム、こちらも戦闘はほぼ終了している。こちらはもっと凄い。一台が戦車を片っ端からひっくり返して行ってるぜ。信じられんよ・・・・』

 北側に出現した施設を監視していたもう一機のOH-1、コールサイン「マイティ・ウラン」の妙にテンションの上がった声が聞こえた。
 一台で戦車を片っ端からひっくり返し、行動不能に陥れているのは先ほどのXD-10と同じく運用試験機であるXC-10装甲格闘歩兵であった。
 従来の白兵戦用ローダーである装甲強襲歩兵が大出力の補助ジェネレータと重装甲による「肉を切らせて骨を絶つ」戦法を目的としていたのに対して、XC-10は軽量かつ高剛性の装甲と格闘戦に特化したフレームとアクチュエーターによって高機動性を実現し、「蝶のように舞い蜂のように刺す」戦い方をコンセプトに置いた機体であった。
 装甲が薄いといえど30mm機関砲程度では傷は付けられず、主砲で狙おうにも瞬発的には時速200kmを越える速度をたたき出す機動性のために未来位置予測すら狂わされる始末。ミサイルを撃っても他の機体の射撃につぶされるか高性能のデコイとチャフであさっての方向に飛んでいく始末であった。必死で逃げようとするところを近寄られ、まるで卓袱台返しのように装甲車をほおり投げ、戦車の主砲を何かの冗談のように捻じ曲げ、引きちぎる。とどめは何かを握ると、PLDの拳から何かがスパークしたような電流が流れ、ハッチから煙が流れ出す。
 それはスタンポッドのEMPで内部の電装系が吹き飛んだことを示していた。
 少し距離の開いた敵に対しては、右腕に装備した粘着榴弾を放つ155mm対装甲ショットガン・スパンカーで上面装甲をぶち抜き、鉄くずに変える。
 それでも後退して間を開けようとしたT-80には、EMPパルスを発射する電磁障害弾と大量の対戦車ミサイルの洗礼が待ち受けていた。
 なお余談だが、このスパンカーは後に陸自のみならず特自のスーパーロボットに至るまで標準的な近接戦兵器として採用されることとなる。
 プロトタイプに比べると脆弱になったマニピュレータの対策として装備された量産型GM用の物はドリルプレッシャーパンチに比べると劣るものの十分な破壊力を持ち、マジンガーブレードを用いた白兵戦に不安を持つ陸自・空自出身パイロットたちからは好評だったと記されている。
 それはともかくとして、観測に出動した自衛隊のヘリコプター隊は見るも凄まじい光景にただただ唖然とするだけであった。

「アストロボーイよりマイホーム、こりゃあ大変だ。赤い日本の連中はすべて壊滅。お客さんは損害なしだ」
『こちらマイホーム、了解した。こちらから交渉のための人物を送る。連絡を付けておいてくれ』
「アストロボーイ了解、とんでもないお客さんだな・・・・。こちらがやられないように気を付けて置く。オーバ」

 これだけの強力な戦闘力を秘めた部隊が敵性体ではない事をアストロボーイのパイロットは祈った。
 殲滅するとなれば今の陸自の戦力を総動員しても犠牲は避けられないだろう・・・・。

「機動兵器部隊のパイロットたちに告ぐ、こちらは日本連合陸上自衛隊である。諸君らの所属と部隊名を告げて欲しい、繰り返す。こちらは日本連合陸上自衛隊である・・・・・」

 覚悟を決めたようにアストロボーイのパイロットは汎用周波数と外部スピーカーで、眼下に広がる部隊へ連絡を取るべく問いかけを始めた。

 To Be Continued.




日本連合 連合議会


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