スーパーSF大戦外典
<もしかするとあり得たかも知れない物語>

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◆ LOSTFILE『帝都暴走』
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「いけいけいけー」

 銀座通りを、両サイドにでかでかと「神楽総合警備」と書かかれた一台の軽トラックが走り抜ける。
 その軽トラックが追いかけているのは、一匹のネコ。一台と一匹は、通り交う路面電車と人の間を走り抜けながら過激な追走劇を繰り広げている。

「田波君、準備はOK?」

 ツインテールの少女が荷台の男に声を掛ける。

「いつでもどうぞっ」
「あっあー、こちら社長。栄子に高見ちゃん聞こえてる?」
「ええ、こっちの準備は終わったわ」
「こっちも」

 無線機からの声に菊島雄佳は、窓から身を乗り出して叫ぶ。

「夕、突貫ーっ」
「ほぃほぃ」

 軽トラックのハンドルを握っている夕は、タバコを吹かしつつアクセルを踏み込む。ネコは慌てて走るが、突然目の前に白いスーツを着た女が立ちはだかる。

「おっと、ここから先はこの紅の流れ星が通さないぜ」
「真紀ー、格好つけてないで撃つーっ」

 雄佳の声に、梅崎真紀はジョン・ウー映画よろしく(残念ながら鳩は飛ばなかったが)、腰から愛用のモーゼルミリタリーM712を抜き両手に構える。

「ミ゛ャーーーー」

 ネコは慌てて左の路地に向かって走る。

「よぉぉぉぉし。田波君、今よ!」
「了解!デリーッ」

 田波がお札を繋がれたノートパソコンのエンターキーを叩こうとした瞬間、車の前に人影が飛び出す。

「田波君、タンマっ」
「いいッ」

 慌てた田波は指をノートパソコンの角にぶつける。

「い、いてぇぇぇ」
「おっと」

 夕は落ち着いた様子でブレーキを踏むと、後輪を滑らせて軽トラを止める。

「どうしたんですか」
「社長ッ」

 路地裏から、桜木高見と蘭東栄子が飛び出してくる。

「どーしたもこうしたもないわよぉぉぉ!折角の獲物をこいつがっ」

 雄佳の指す先には、ネコを抱いた青年が倒れていた。

「いてててて」
「大神さん、大丈夫ですか?」

 大神と呼ばれた青年に、ピンクの和服に袴といういでたちの女性が駆け寄る。

「ああ、何とかね」
「大神さんに何かあったと思ったら、私・・・」
「さくらくん・・・」

 大神は、さくらの肩にそっと手を掛ける。
 ムカムカ・・・
 2人のラブラブな雰囲気に、神楽総合警備の女性陣の面々には殺意にも似た感情が湧き上がった。それは決して、2人のあまーい雰囲気と自分たちの境遇を比べたりしたわけでは決してなく、純粋に仕事を邪魔されたことに対するプロの・・・

「くあああぁぁぁ、2人でいい雰囲気をつくってるんじゃなーい」
「しゃ、社長」

 プロの意識・・・

「田波さん、いいですねぇ」
「いぃっ、高見ちゃん?」

 ・・・なんて物はかけらものは神楽総合警備にはなかった。意味不明な盛り上がりを見せる神楽の面々を、さくらは睨み付ける。

「貴方たち、ネコを車で追いかけるなんて、一体何を考えてるんですかッ」
「へっ?」

 さくらの突然の剣幕に、神楽の面々は呆気に取られる。

「しかも、こんなスピードでっ!常識って物が無いんですか」
「うぬぬぬぬ。小娘が粋がるんじゃないわよっ!こっちだって今日の晩御飯が掛かってるんだからねっ。晩飯のためなら、常識なんてポポイのポイよっ」

 雄佳は中指を立てて張り合う。しかし、見た目が小学生にしか見えない年齢不詳の雄佳のその姿は、滑稽なもの以外の何でもなかった。

「くぅー社長キック、社長キックッ」

 雄佳はそう言いながら、キックを……

「ちょっと、社長何するんですかっ」

 神楽唯一の男性社員兼みんなのおもちゃ、田波洋一に繰り出すのだった。

「田波君が丁度いい場所に居たからよ。何か文句ある」
「んな無茶な」
「あーら、醜い争いだこと」

 割って入る声に、全員の視線が向けられる。大神の腕に抱えられていたネコの輪郭が歪み、一人の全裸の女性へと変化する。

「え・・・」

 唖然とするさくらを無視して、女は大神に向かって微笑む。

「ねぇ、おにいさん。こんな子は置いといて、私と楽しいことしない」
「い、いやぁ・・・その・・・」

 女は全裸で大神に迫る。太正生まれの大神には刺激の強い・・・否、強すぎた。

「お、大神さんっ……何してるんですかッ」

 激昂するさくらの前で、女性は大神に抱きつく。

「あら、怖い」
「い、いや。そ、その・・・・・・」

 必死に抵抗している大神だが、完全に鼻の下がのびている。

「言い訳なんて聞きませんっ」
「あら、おにいさん嫌われちゃったの?」

 女は更に大神に身体を摺り寄せる。

「お、大神さんっ!!!」

 閻魔も裸足で逃げ出すかの形相に、女が一瞬怯む。

「真紀ッ」

 雄佳の声に答えて、真紀が女に向けてモーゼルを乱射する。

「おらおらおらおらおらー」
「ちょっと、大神さんに当たったらどうするんですかっ」

 さくらは真紀に叫ぶ。

「あたいの銃は人を殺したことは無いから大丈夫っ」

 凄いのかどうなのかよく分からない理由を言いながら、真紀は銃を撃ちつづける。

「ちぃっ」

 大神から離れた女は距離を取るために飛び上がる。

「させませんっ」

 高見がバタフライナイフを投げつける。女は必死に飛びかかるナイフを振り払うが、弾いたナイフの柄に付けられていた手榴弾が爆発し、女を地面に激しく叩きつける。

「ぐぅぅぅぅ」

 全身から煙をくすぶらせつつも立ち上がる女に、さくらは息を呑む。頭は半分が吹き飛び、右足も太ももをごっそりとえぐられながら、女は全く意に介してはいない。それどころか、血の一滴も流れてはいなかった。その代わりに、女の傷口は鈍い電気的な光を放っていた。
 なおも逃げようとする女に、蘭東が組みかかる。

「田波君、準備はっ」
「終わってます」

 その声に併せて、蘭東は女の腕を掴み路地裏に投げ込む。

「ほいほい、おまたせ」

 夕が軽トラを路地の入口に止めて道を塞ぐ。

「ッ!!」

 女はあたりを見回す。行き止まりの路地の三方には御札が張られている。そして、今出口を塞いだ軽トラックの荷台にも御札が一枚。完全に四方を囲まれていた。

「神楽ぁぁぁぁっ」
「デリートッ!」

 田波がノートパソコンのリターンキーを押すと同時に凄まじい閃光が路地裏に走る。それが収まった後に残ったのは、大きく球形に削られた路地裏の建物だった。

「な、なんなの・・・」
「さ、さぁ・・・」

 唖然とするさくらと大神に、雄佳は説明を始める。
 彼女たちが追いかけていたのが、科学の発達した世界で生き残るために進化した「化け猫」であるということ。そして、進化した「化け猫」は電話線や電波に乗って移動ができるということ。その「化け猫」を捕まえるには、四方を特殊なお札で取り囲み、ノートパソコンの中にデータとして閉じ込めるしかないということ……
 簡潔かつ分かりやすく説明したが、流石に太正の人間にこの概念を説明するのは難しかった。

「まあ、簡単に言っちゃうと、このディスクの中に化け猫を封じれるってわけよ」
「「はぁ・・・・・」」

 未だに要領を得ない二人に、雄佳は手を上げる。

「社長〜」

 その時、軽トラックから降りてきた夕が声を掛ける。

「どうしたの?」
「あれあれ」

 夕の指差す先には、先程の封印の時の衝撃で半壊状態になった軽トラック。そこからは、燃料が漏れ出している。

「あ゛っ」

 さらに、漏れ出した燃料が流れる先には、外れたバッテリーが火花を飛ばしている。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 大神とさくら、そして神楽の面々は一斉にその場を逃げ出す。

 この日、銀座通りで原因不明の爆発事故が起こったが、怪我人が一人も出なかったのは不幸中の幸い・・・いや、ある意味奇跡だった。
 後に神楽総合警備の使用している御札は、量産可能な初歩的な霊力武器として様々な組織から注目されることとなるのだが、それはまた別の話である。
 そう、今の彼らはその日の晩御飯にもことかく自転車操業企業なのである。
 神楽総合警備はその境遇にも負けず、日々、化け猫たちとの戦いを続けるのだ。
 頑張れ神楽総合警備、戦え神楽総合警備、君たちにもきっと明日はあるさ!








END



 すみません、最近ジョン・ウーやチャウ・シンチーの香港映画ばかり見てたせいで、脳味噌がかなーりふやけています。
 劇中だと、4月の中ごろ・・・まだみんなが混乱中の出来事の頃を考えて書きました。
 じゃなきゃ帝劇周辺を車で暴走したり、銃を乱射したり出来ないですから^_^;





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