スーパーSF大戦

−裏側の勇者達− エピソード:会議は踊る。





1.線路は続くよ

 「それでは、今再び発車する新幹線ひかり号の門出を祝って、加治首相及び田中国土相にテープカットをお願いいたします」

 司会の声に合わせ、加治隆介首相と田中角英国土相は、目の前に貼られた紅白のテープに鋏を入れた。
 カットされたテープがホームに落ちると同時に、車体の塗り色も眩しい砲弾型の列車が、するすると動き出した。
 それは日本の鉄道が、完全に復旧したことを告げるものであった。

 「いやあ、長かったですな、首相」

 東京駅から官庁へ向かう車の中、田中国土相はそう加治首相へ話しかけた。
 後ろに見える東京駅は、どこかちぐはぐな印象であった。全体的に懐古的な景色の中、八重洲口のビル街と新幹線の線路のみが妙に浮いている。

 「ええ、路線は思った以上に早く復旧しましたが、肝心の車両が全くありませんでしたからね。おまけに経営母体のJRがものの見事に消滅していましたし」
 「JR……私の元の時代では国鉄でしたがな。まあ、今となっては関係ありませんか」
 「鉄道はまだまだなくてはならないインフラですからね。国土の開発と合わせて、きっちり整備・開発して行かねばなりません。以前のように莫大な累積赤字を出すようなことにならないようにせねば」
 「新世紀大徳制令……マスコミも上手いこと名付けたものですな」
 「問題も多かったけれど、逆にチャンスにもなったわけです。我々の責任は重大ですね」

 加治首相は、微かに見える国会議事堂を見ながらそう呟いた。

 融合初期、当然のことながら経済界は大混乱に陥った。株をはじめとする既存の有価証券がすべて無価値になってしまったのである。同時にすべての貸借関係が事実上無効化してしまったのだから、混乱するなという方が無理である。
 これに対して、臨時政府当時大蔵大臣だった高橋経済企画庁首席補佐官は大英断とも言える大鉈を振るった。

 「預金を除くすべての証券・保険・債務をなかったことにする」

 ある意味とんでもなく無責任な政策であった。
 当然金融界を中心として非難囂々であったが、高橋氏のたった一言がすべてを押さえ込んだ。

 「証明できないことに無駄金をつぎ込むひまがあったら、今のうちに新規の顧客を捕まえた方がもうからんか? ここで出遅れたらそれこそ立ち直れんぞ」

 何しろ目の前の人物が本当に金を貸した人物かどうかを証明することが出来ないのである。いくら本人そっくりでも、本当にそれが貸した相手かどうかは解らない。相手にそんなものは知らないと言われたらそれまでなのである。
 実際この時空混乱の中、混乱前のつながりにこだわるのは全く無意味であった。いち早くそこに気付き、新規に顧客を取り込むことに成功した企業のみが、後々生き残ることになったのである。
 それはどんな業種でも変わりはなかった。

 ちなみにこの大英断で一番得をしたのは誰であろうか。
 実は他でもない。国である。
 融合前の日本のうち、他者の侵略を受けていなかった、ごくごく平凡な日本国は、ほぼ例外なく莫大な財政赤字に悩まされていた。国鉄やJRのような赤字の公社・準民間会社も結構あった。
 それが全部チャラになったのである。そう考えれば、今回の混乱は財政再建のまたとないチャンスになった。
 加治首相もそれを見逃すようなことはしなかった。
 今でこそ混乱しているが、この混乱が収まれば、急激に景気が回復する。これが政府の見解であった。
 バブル的に運用されていた架空の資金がすべて消滅し、現在の財貨はすべてが実在する資産のみとなっていた。損害も大きいが、日本中からすべての不良債権が消滅し、また居住地・現存施設以外の不動産は、ほとんど所有者が不明になってしまっていた。これによって崩壊しかかっていた土地の価値が再評価され、正常に戻ったのである。
 不換紙幣がすべて兌換紙幣になったようなものであった。総量は目減りしても、価値はかえって高まっていた。
 また同時に今回の件で家屋・耐久消費財をはじめとする資産を失った人も多い。
 つまり潜在的ではあるが、国民の間には莫大な需要が存在していた。第二次大戦後の日本を想像すると分かり易いであろう。
 現在は失業などによる生活不安のため、国民の大多数が生きるのに精一杯である。だがひとたび収入が安定すれば、その時こそためにためた購買意欲が爆発する。ましてや市場には今まで見たこともない新しい文明の産物が溢れるのである。これで好景気が来なかったら嘘であろう。
 そして加治首相はそれらの対応の大半を民間に任せた。ある意味混乱初期に文字通り私財をなげうって物資の供給を続けてくれた多数の財閥組織に対する恩義があったとも言える。しかしそれ以上に加治首相は経済を政府が統制することの愚かさを知っていた。この状況下に置いては、政府は『商取引の出来る環境』を整え、呼び水となる最初の一滴を垂らすだけでよい。

 「餅は餅屋に任せるのが一番ということさ」

 首相はそう側近に語ったと言われているが、真実は不明である。

 「本当に長いことご苦労様でした」
 「いやいや、実際それほど苦労はしとらんよ。新しい今の世の中の仕組みを憶える方がよっぽど大変でしたわい。特に鉄道は、軌道施設だけはほぼ完璧に残っておりましたしな」

 二人は今、これから始まる会議の会場へ向かっていた。ある意味今の日本、いや世界にとって大変重要な会議であった。

 

『時空融合現象解析・第一回報告』



 この大異変そのものを、様々な面から調査・分析した結果が、ごく一部ではあるが報告できる段階に達したというのである。
 緊急度は低いものの、重要度は安全保障会議に匹敵する。
 当然加治首相も強い関心を持っていた。

 「そういえば国土相も今度の会議には何か重要な意見を具申したとか」
 「意見、て言うほどのことじゃないですわ」

 国土相はあたりに人がいないのを見定めた上で、懐から扇子を取り出し、広げてあおぎ始めた。そろそろ秋も深まろうという時期だったが、雪の多い地方出身の彼にはまだ暑いのかも知れない。

 「ちょっと失礼……いやね、国土相に就任して、鉄道やガス・水道など、各種インフラの整備状況を再確認したとき、妙なことに気がつきましてな」
 「妙なこと、ですか?」

 加治首相の問いに、国土相は大きく頷いた。

 「ええ、復旧が早すぎるのですわ。首相は確か、元の世界で震災にあった都市を見とりましたな」
 「神戸を中心とした関西圏ですね。確かに見ています」
 「なら分かるじゃろうが、今回は震災なんぞとくらべものにならん大災害の筈なのに、復旧があまりにも早い。パズルみたいに無数の世界が入れ替わったはずなのに、電線がほとんど切れとらんのですわ。水道管もしかり。さらに上野や銀座界隈なんぞは、どう見ても大正年代の時空が出現しとるのに、そこを走る鉄道路線は、それだけは20世紀末のもんじゃった。
 上野駅や東京駅など、基本施設はそっくり大正時代そのまんまなのに、ホームの配置と路線だけは1990年代のもの。架線が消えていて電車は走れなかったがの。それでいて新幹線の設備だけがどかんと残っとるから違和感がすごかったのう」
 「そういわれてみれば何か変ですね」
 「とどめが地下鉄じゃ。信じられん話じゃが、調査した結果、東京都下の地下鉄は、路線に限って言えばほぼ無傷で全部存在しておった。ただ、各駅の地上との連絡口かかなりの割合で消滅していたがな。
 特にさっきも言った銀座界隈は完全に全滅じゃ。掘り直そうにも浅草や銀座付近は帝国華劇団の秘密基地とぶつかってしまうのでどうにかせにゃならんらしい」

 地上の鉄路は官民共同の暫定運用から、民間への軌道払い下げにより生まれた新たな鉄道会社へと移り変わっており、最後まで残っていた東海道新幹線が営業運転を開始したことによってすべて復旧したが、地下鉄はこの問題があって一部路線を除いて復旧が遅れていた。銀座界隈は他に美観の問題もある。住所・行政区分再編ののち、帝都区と呼ばれるようになるこの地域のたたずまいは、出来るだけいじりたくないと言うのが共通の認識だった。

 「……それはちょっとまずいですね。防衛会議の方と共同で対策を考えましょう」
 「それはよろしくお願いいたします。ま、それはさておき、こんな風にバラバラに出現したはずの街が、綺麗にまとまりすぎとるっちゅうことを、調査委員会の科学者さん達に言っただけじゃよ」
 「そういうことでしたか。納得いたしました」
 「よっしゃ、よっしゃ」

 国土相は、大きな声で笑うと、再び加治首相に話しかけた。

 「まあ、これで今度の日本からは、見事に国鉄が消えましたな。地元住民の足となる都市型の鉄道は許認可権を各地方自治区に委譲、運営は第三セクターか私鉄に。そして新幹線をはじめとする都市間連絡鉄道は別会社として分離。昔の国有化政策の反対を行きますな」
 「ええ、鉄路や道路の設置は都市開発と密接に関連するものです。昔の日本は中央集権化のためにこういった事業を国有化しましたが、本来は市場原理に乗っ取って構成されるべきものです」
 「問題点があるとすれば、こういった官民融和型の組織は汚職の温床になりやすいことだが、これはある程度仕方があるまいて。しやすい環境ではあるが、するしないは結局人の問題じゃし。江戸川さんに頑張っていただくしかないですな」

 国土相は新設された公権力横領捜査部代表の名をあげた。

 「せっかくの機会です。最初に綱紀を引き締めないと、後々の世に禍根を残す」

 加治首相も、強い声で言った。

 「しかし今回の鉄道路線の競売で政府にいわゆる日銭が入った。これで景気回復への道がまた一つ出来ましたな」
 「そうですね。何とか国民に過度の負担をかけない政府を実現したいものです」

 こんな話をしているうちに、二人は会場に到着した。


2.時空融合現象解析・第一回報告会議

 総合科学技術会議が主催したこの会議の出席者は、安全保障会議とほぼ同一であった。
 ある意味これは当然とも言える。問題の重要度がほぼ同等なのだから。司会と進行役が違うだけである。
 今回の会議は、主に鷲羽ちゃんが司会進行をつとめることとなった。発言者側にはこのほかに水原夫妻と岸田博士、獅子王博士が参加していた。

 「さて、お集まりのみなさん。今回はご足労様でした。我々の努力が実り、このたび私達の世界を襲ったこの異変、『時空融合現象』について、分かったことを説明させていただきます。専門的な話も出てきますが、具体的な数値などは聞き手のみなさんには不要だと思われますので、得た結論を私中心に、分かり易く説明したいと思います」

 と、普段の鷲羽ちゃんとは思えぬ仰々しい口調の説明から、会議は始まった。

 「ま、ぶっちゃけた話、『何が起こったか』はある程度見当がついたんだけど、『何故』それが起こったかは全然なんだわ。だからその辺は突っ込まないでね」

 ……単なるかっこつけだったようだ。
 そして、最初の報告は、水原博士からのものであった。

 「GGGの方々の協力も得た結果、今回の時空融合の原因について、推測ではありますが結論が出ました。結果を先に言うと、今回の時空融合は、超次元レベルでの地震、『時空震』とでも名付けられる現象だと見られます」
 「時空震?」

 加治首相をはじめとする高官たちの間から聞き返すようにその言葉が出た。

 「それは地震のような災害と考えていいのかね?」

 そう問う加治首相に、水原博士は頷きながら答えた。

 「自然災害なのか、あるいは何者かが引き起こしたものなのかは不明です。ですが、今回の現象が、ある一面に置いて、地震による災害と極めて似た性質を持っていることが明らかになりました」

 そこまで語ると、博士は手元のコンソールを操作した。
 設置されたプロジェクターに、幾つかの図が表示される。

 「例の一つとして、地層をモデルにした模式図で説明させていただきます」

 そういいつつ、ビームペンで図の一つを指し示した。そこには正方形の紙に丸く地球が描かれたものが、何枚も重なっている様子が描かれた図があった。

 「シートの一枚一枚が、元有った時空だと思って下さい。我々の時空は、このように無数の平行世界が、超次元的に仕切られて存在していました。そんなある時、一つの次元で異変が起きます」

 水原博士が操作すると、重なる図の一点に光がともった。

 「時空のある一点で、何らかの原因……自然現象か、あるいは科学的な手段により、強力な時空のゆがみが弾けます。地層のゆがみが限界を超えて地震を起こすのとほぼ同等の現象です」

 同時に図の方では、先ほどの一点から球状の波紋が広がる様子が映し出されていた。

 「地震はある点から発生した衝撃波が地殻の中を三次元的に伝わり、これによって振動や断層を引き起こします。そしてこの波動は、三次元どころか、恐らくありとあらゆる次元方向に、その衝撃をまき散らしました。まさしく超次元的な地震です。そしてこの波動によって、まさに地層がずれるように、超次元的な地滑りが生じました」

 図の紙に亀裂が入り、ずれていく様が表示された。

 「この図では単純に表現されていますが、実際の波動はもっと複雑で、結果いくつもの平行世界が、改めて組み上げられてしまった模様です」
 「ううむ、まさに地震というわけか」

 田中国土相がうめく。

 「この件に関して質問はありますか?」

 締めくくりに水原博士がそういったとき、手を挙げたのは加治首相であった。

 「宜しいでしょうか」
 「どうぞ」

 博士が頷くと、首相はよく通る声で語り始めた。

 「この件については大体理解できました。特に今後の政策にも影響はないでしょう。で、質問ですが、この理論からすると、それほど多くの世界が融合するとは思えません。ちょうど諸外国のように、ある程度大きなブロックが融合するのが自然に思えます。ならば何故日本だけが、このような特殊な融合をしたのでしょうか」
 「それについては私がお答えしますわ」

 そう言ったのは鷲羽ちゃんであった。

 「流石は加治首相。次に説明しようと思ったことにもうお気づきとは。日本が特別なのは、やはりこの時空震そのものに原因があります。それより、ここから先の話は、日本の防衛にもかかわる話にもなりますので、心を引き締めて聞いて下さいな」

 弱年ながらしっかりとしたその言葉に、聞き手一同は改めて居住まいを正すのであった。


3.『存在力』

 「まず最初に、日本が何故特別な融合をしたかについて説明いたしましょう」

 そして鷲羽ちゃんは、手元のコンソールの上で手を動かした。
 プロジェクターの映像が切り替わる。今度は3D表示された地球が映し出された。

 「さて、その訳だけど、それはどうもこの時空震の震源地のせいらしいのよね」
 彼女がコンソールを操作すると、ちょうど南米のあたりに光点が生まれた。
 「時空震の波動はそれこそ時空のありとあらゆる方向に超次元球面を描くように広がるんだけど、逆に言えばこの三次元空間内にも広がるのよね」

 映像の光点から、地球表面に沿うように、同心円上の波紋が広がっていった。

 「三次元空間は超時空的に見た場合、重力によって歪む。で、重力場のそばをこの波動が通るとその影響で、ちょうど今見てるように地表に沿うような感じで波動が伝わるのよ」

 地球の図が波紋を表示したまま、ゆっくりと回転を始めた。約半回転してその動きが止まる。

 「で、波動は三次元的にぐるっと伝わって、重力場の中心を対称にした、このあたりで収束するわけ。で、よりによって……」

 アニメーションする波紋は、地球のある一点に収束していた。そこにあるのは……

 「そこに日本があったのよ」

 日本の中心近く、富士山のやや南東よりのあたりで波紋は収束していた。

 「SCEBAIやGGGで観測されたこの時空のゆがみを逆算して、地震の震源を求める要領で計算してみると、どうも震源地の三次元的な座標は、南米のあたりなんだよね。どの時空のだかは、まあさっぱり分かんないけど。時空震の性質からして、今そこに出ている時空と決まったもんでもないし」

 そこで鷲羽ちゃんはため息を一つついた。

 「ただ間違いないのは、三次元レベルで波動が収束した日本近辺は、単なる地滑りを起こした他の部分と違って、桁違いの時空振動が発生したのよ。結果いわば時空の地層が、液状化現象を起こすくらいまで衝撃を受けたみたいなんだわ。ずれたんじゃなくって、混じっちゃったのよね。他とは桁外れに多い時空が出現したのも、ある意味必然、ってわけ。納得した?」

 皆はただ頷くばかりであった。
 それを見て鷲羽ちゃんは、改めて皆に言った。

 「じゃ、ここまでで質問ある?」
 「たびたびすまないが、宜しいですか?」

 手を挙げたのは、やはり加治首相であった。

 「いいわよ。何がわかんなかったの?」

 彼は図を見ながら、ゆっくりと言った。

 「あなたの言うことは恐らく本質的には間違っていないと思う。なら何故我々は無事に出現できたのだろうか。そこまでの衝撃を受けたとしたら、何というか、時空の狭間に生き埋めになってしまうような気がするのですが」
 「くう〜〜〜〜っ、加治ちゃん頭いいっ! さすが首相やってるだけあるわ」

 いきなりちゃん付けで呼ばれて、加治首相は思わずしかめっ面になった。

 「あ、めんごめんご。まあそう怒らないで」

 あくまで軽く、鷲羽ちゃんはいう。と、その雰囲気がいきなり一変した。

 「と、冗談はここまで。その答えは、ちょっと洒落にならない理由なのよ。証明はまだだからあってるかどうかは分かんないけれど、これからの話はあたしの知能と科学する心に誓って、多分間違ってないと言える。そのぐらい可能性の高い推測だと思って」

 その様子に加治首相も再び居住まいを正した。

 「あたしも最初、そこが引っかかってたの。この現象が解析されるに当たって生じた、第一の疑問点がこれ」

 そう言って鷲羽ちゃんがプロジェクターに映しだしたのは、航空写真をつなぎ合わせた、今の日本の全体図であった。

 「さてここでクイズです。この写真には一つおかしなところがあります。それはどこでしょうか」

 その言葉に参加者はしげしげとその写真を眺めた。だがそれはどう見ても今の日本の写真であり、どこにもおかしな点は見られなかった。

 「降参です。その写真にはどう見てもおかしな点がありません」

 そう答えたのは、土方防衛相であった。
 が、鷲羽ちゃんはそんな彼にこういった。

 「はい当たり。意地悪だったかな? 正解は、『どこにもおかしな点がないのがおかしい』でした」

 全員の腰が砕けた、ような気がした。

 「どういうことですか?」

 すかさず体勢を立て直した加治首相がそう聞く。それに対して、得意満面そうに鷲羽ちゃんは言った。

 「こんだけの世界が融合してるのよ。それなのにこの写真を見る限り、まず日本が日本のままの形をしている。海岸線にも、土地の高低にも、一分のずれも無い。まあ三浦半島みたいな例外はあるけど、それすら整合性が取れすぎている。一言で言えば綺麗すぎるのよ。もし時空融合現象が地震のようなランダムなものなら、もっとこの写真には乱れた所がなきゃおかしいのよ」

 その言葉に一同はあっとなった。言われてみればまさにその通りである。

 「田中国土相からの報告もそれを補完していたわ。インフラの速やかな復旧……電線や電話線、ガス管や水道管、道路や鉄路……いくら平行世界とはいえ、こういったものが全然ずれたり切れたりしてないってのは充分に変よ。供給源が消えたり、途中に銀座みたいなそもそもそういうものが全然ない世界が挟まったところ以外は、システムを再起動するだけで復旧しちゃったくらいだし。実際水道管みたいに基本的に動かないものはともかく、電線みたいに宙にぶらぶらしているものが融合時にその境界面で切断されないなんていうのは、不確定性原理からいってもまずあり得ないのよ……ランダムな事象にはね」

 ランダム、を強調して、鷲羽ちゃんは言った。
 そして次の瞬間、今度はまがう事なき衝撃がみんなの間に走った。

 「では、この時空融合は、ランダムなものではなく、何かの法則があるとでも?」

 誰ともなく上がったその声に、鷲羽ちゃんをはじめとする科学者一同は、そろって頷いた。

 「最初は物理的な、そう、時空科学的な法則があるのかと思ったわ。でもそれはむしろ否定された。さっきも言ったとおり、物理的にはどんな法則があろうとも、むしろある程度のランダムさが出なければおかしいという結論になった。次に魔法的な可能性を調べてみた」
 「魔法……?」

 土門補佐官がいぶかしげな声を上げた。

 「まあ、信じられないのは分かるわ。あなたの元いた世界では、魔法なんていう物は存在していなかったんでしょ。でもね、今のこの時空の中には、魔法は確かに存在するわ。私の専門も元々そっちだし、科学者の目で見て、明らかに物理法則を超越した現象を起こす『何か』の存在を、あたしは科学者の目で確認している。みなさんも今のうちに心しておいた方がいいわ。
 今の時空には、今までの物理科学では理解できない、超物理的な力が存在している。それも今までの物理学とは、全く違うアプローチでなければ解析できない類の力がね。この先そういうものを見たら、否定する前にまず認めることをお薦めするわ。疑うことは必要だけど、否定し続けたら絶対精神が失調しちゃうから」

 奇妙な静寂がその場をおおっていた。

 「でも」

 その沈黙を破ったのも、また鷲羽ちゃんであった。

 「それはちょっと置いといてね。調べてみたけど、時空融合に、魔法的な力は介在していなかった。魔法ってのは、物理法則すらねじ曲げる力だけど、それだけに物理的なものとは別の形で痕跡が残るの。今回の時空融合に、その形跡はなかった」

 ここまで言うと、鷲羽ちゃんはまわりをぐるりと見渡した。

 「ここであたしの研究は行き詰まったわ。でも突破口は思わぬ所から開けたの」
 「ここからは儂の出番じゃ」
 言葉を引き継いだのは、岸田博士であった。

 「きっかけはうちのMAYUMIじゃった。儂等はその大容量と高速性、そして推論によって無駄を省けることを利用して、時空融合の情報整理をしておった。融合した時空を分類整理するために、自分の元の時空に関する、膨大な量のアンケートをMAYUMIを使って整頓していたんじゃ。そうしたらMAYUMIがこのアンケートの中にあったある法則に気がついたんじゃ」
 「それはどんな」

 そう問いかける加治首相に、岸田博士は気持ちよさそうに答えた。

 「首相、今この時空には、あなたの知り合いの議員が結構いましたな。融合時にあなたとは別の所にいたにもかかわらず」
 「ええ、思ったより多くの仲間と連絡が取れて、あとになって驚きましたが」

 妻子とは別れ別れになったものの、議員や賛助者としての同志は多くがこの世界に来ていた。おかげで随分と助かったのは事実である。

 「さて、ここに一つのアンケート結果がある。全国から約10万のサンプルを採ったアンケートじゃ。さっきも言ったが、このアンケートは本来、出現した時空の数を計測する目的で行われたもので、日常の色々なことにまで質問が及んでおった。そんな中に、政治家に関する一連の質問があった。総理大臣をはじめとした、知っている議員の名前を書いてもらうところじゃ。そこに一つの妙な有意性があったんじゃ」

 ここまで言うと、岸田博士はプロジェクタに20人ほどの人名を表示した。
 その中には加治首相や竹上氏の名前が挙がっていた。

 「これはアンケート内に上げられていた総理大臣の名前じゃ。今この場、この世界に存在している人もいれば、どこにも存在が確認されていない人もいる。だがこの二者の間には、ある明確な差が存在していたんじゃ」

 会場に騒然とした雰囲気が流れた。

 「これから言うことは別に総理大臣に限ったことではない。一般の議員や都道府県知事などの地方議員にも共通して見られたことじゃった。存在する人物としない人物……その二つをくっきりと分けていたのは、本人の知名度じゃった」
 「知名度、ですか?」

 加治首相は真っ直ぐ岸田博士を見て言った。

 「そうじゃ」

 それに答えるかのように博士が頷き返す。

 「いい悪いはともかく、現在この地に現れた『元議員』の方々は、ほぼ例外なく、このアンケート内に名前が存在していた。つまりもとの世界でそれなりに名が知られていた人がほとんどなのじゃ。
 現存する議員の元の世界の社会情勢をアンケートから逆算した結果、良くも悪くも国民の間の政治的関心が極めて高まっていたことが判明しておる。逆にある意味平穏で、国民が政治に関心を失っていたり、また侵略者のようにもっと差し迫った事情があって、いちいち政治家の名前など憶えていられないような時空から来た政治家はほとんどいない。
 ちなみにこの件の有意性は50%を超えておる。条件を秘書のような『その周辺の人物も含む』にすると有意性は90%を越す有様じゃ。とてもじゃないが偶然とは思えん」
 「そしてこれはそれだけじゃなかったのよ」

 鷲羽ちゃんもため息をつきながら言葉をつないだ。

 「この件がヒントになって、時空融合した今の時空に存在する物を、元の世界との情報レベルでの関連を見たら、とんでもない結果が出ちゃったわ」
 「それは、どのようなものだったのですか」

 加治首相はせかすように言った。

 「結論から言えば、一応日本限定だけど、今この時空に存在している人は、ある明確な理由の元に存在しているわ。運でも偶然でもない。ある必然性の元にね」
 「それは、我々が選ばれたと言うことか。何かの目的のために」

 そう言ったのは、土門補佐官であった。その目には、微妙な憤りが見て取れた。
 それは神に対する怒りであろうか。
 だが、鷲羽ちゃんは軽く首を振った。

 「幸い……というか、そんなたいしたもんじゃないわ。運だと思いたければそう思える程度の必然性よ。この地に出現したのは、ほぼ例外なく『力あるもの』を中心としているのよ」
 「力、ですか」

 それでもやや怒るような姿勢を崩さず、土門補佐官は言った。

 「そう。あるところでは軍事力。あるところでは経済力。あるところでは魔法力だったりする。でもね、一番大きく影響したのは、カリスマ性と目立とう根性。平たく言えば、『俺はここにいるぞ!』とでもいう風に、周辺に己の存在を主張していたものほど、より多くのものを伴って、この時空に出現した。そして本人が主張するだけじゃなく、周囲がそれを認めれば、その力はよりいっそう強くなった。
 あたしはこれを、自ら在り続けようとするする力……『存在力』と名付けた。そしてこれを仮定して現在の日本における時空の出現状況と照らし合わせてみたら、怖ろしいほどに現状に一致したわ」
 「具体的には、どんな感じかな、鷲羽ちゃん」

 そう言ったのは柾樹公安委員長であった。そのとたん、何故か鷲羽ちゃんはぶるぶるっと体を振るわせ、ちょっと潤んだ目で委員長の方をじっと見つめた。

 「な、なんじゃ」
 「柾樹委員長……完璧(はぁと)!」
 「なななっ!」

 思わず引いてしまう柾樹委員長であった。無理もないが。

 「ああっ、タイミング、抑揚、響き、ここまで理想的かつ芸術的に『鷲羽ちゃん』って呼ばれたのは初めてよ(はぁと)。よっぽど普段から練習していないとその響きは出せないわ。どうやって身につけたの」
 「い、いや、その……」

 地元にあなたそっくりの人がいます、とはとてもじゃないが言えない委員長であった。
 ちなみにこのあと、彼は何かと鷲羽ちゃんにつきまとわれることになる。南無南無。




 「……ごめんなさいね、ちょっと余計な時間取らしちゃって」

 それから10分後、狂態から覚めた鷲羽ちゃんが珍しくみんなに謝っていた。

 「まあいまさら仕方在りません。それより先をお願いします」

 何故か何となく優しげな目をしながら、加治首相はそう言った。卓越した頭脳とエキセントリックな言動にごまかされていたが、よくよく考えてみれば彼女はまだ11歳の少女なのである。難しくなっては来るが、同時に親にも甘えたいはずの年頃である。その事を思い出したのだ。
 あとで後悔する羽目になるとも知らず。

 「さて、説明を続けますね。存在力のことだけど、これは概念的なことより、具体例を挙げた方が判りやすいと思うわ。そこで幾つかの段階に分けて、存在力がどういう風に働いたかを説明していきます」

 そうして再びコンソールを操作し、表示されている資料を差し替えた。
 最初に出たのは、融合初期の経済状況を中心としたデータであった。

 「まず最初に、財閥を例に取るわ」

 そう言って鷲羽ちゃんは、企業名リストのようなものをビームペンで指し示した。

 「融合初期、政治や経済の大混乱と、ゾンダーや使徒の一連の襲撃を受けたにもかかわらず、今この日本国が財政的に沈没せずに何とかやっていけるようになったのは、これらこの時空に出現した超巨大財閥が、文字通り私財をなげうって支援してくれたおかげだっていうのはみなさん理解していますね」

 一同はそろって頷いた。もし彼らが支援に動いてくれなければ、まず流通の混乱による市民の暴動、そしてそれが暴徒化、またそれが鎮圧されたとしても、資源の不足による経済・防衛力の低下と飢えによる社会危機を乗り切ることは不可能であっただろう。
 推定では日本の総人口は最高でも300万程度まで落ち込むという怖ろしい結果が出ていた。

 「まあ彼らにしても、ここで支出を惜しんだ所で『孤独なる王様』になるのが見えてたし、貨幣も有価証券も価値が激減してたから、最終的にはここで腹をくくるのがいいってことぐらい分かっていたとは思うけどね」

 そう言って視線を再びリストに戻す。

 「自分の元いた時空にも、大企業や財閥はいっぱいあったと思うけど、ここに現れた財閥が、どれも極めて特徴的だってことぐらい、みんな気がついてるよね」

 今度頷いたのは、全体の約半数であった。

 「これだから軍人さんは……っていってもはじまんないか。さて、現存する財閥組織を見ると、幾つかの特徴が浮かび上がってくるわ。全部とはいわないけどね。
 まず一つ、規模。
 初期の混乱の中でも、特に大きな役割を担ってくれた三大財閥……面堂、中川、神月。この三者は単独で世界経済の半分を押さえることの出来るくらいの力を持っていたわ。残念ながら海外資産が完全に消滅したため、規模は小さくなったっていうけど、それにもかかわらず、面堂家の提供してくれたものだけで全盛期の日本を一年運用できるってんだからあきれたもんだわ。それも貨幣や有価証券無し。物資での提供でこれなんだもの。元の世界でどれくらい権勢を誇っていたのか、想像したくもないわね。それだけでもすごいのに、あと二つこれと同規模の財閥があるってんだからびっくりするわ。
 そしてそこまでいかないものの、水小路、六道、白鳥、来栖川、城戸、神崎……まだまだたくさんの、超がつく大金持ちがいっぱい出現している。でもね」

 そこで鷲羽ちゃんは一息区切りを入れた。

 「それに匹敵するといわれたはずの企業体……三井・四菱・蓮田など、何故か近代的な財閥はほとんどが消滅している。で、双方を見比べてみたとき、何が分かると思う?」

 答える出席者はいなかった。なぜなら彼らはほとんど、消えてしまった財閥の所属していた時空の出身者だったからである。知らないものの特徴を答えることは出来ない。

 「こうしてみると分かるけど、出現している財閥は一族支配……血縁者などでがっちりとまとまってる『家』的な所が多い。そしてもう一つ、こっちは薄々感じていると思うけど、目立つのよね、彼ら」

 みんなの顔に、何とも言えないものが走った。
 例えば面堂家。この混乱期にも莫大な資産を保持し、復旧のかなり進んだ今では食堂やコンビニのチェーンを押さえ、同じ所に影響力を持つ中川グループとしのぎを削っている。それだけならまだよく見られる光景だ。それを何とも異様にしているのは、面堂系の企業が掲げているマークであった。元フジサンケイグループのマークも目立ったが、面堂家のそれはその上をいく。

 タコひょっとこ なのだ。

 何故、と聞かれても困る。そうなのだからとしかいいようがない。
 それがコンビニの店舗からそこで売られている商品にまでついているのである。おかげで今ではこのマークを知らない人の方が少ない。

 「中川さんは、現在総帥代理で、次期総帥の中川圭一氏が、何故か現役の警察官、それも巡査をしてるってことで有名だし、神月家は、当主が美少女で、しかも天下無敵の格闘家ですものね。ありゃあ目立ったでしょう」

 ここで先日行われたとある格闘大会の結果を報告しておこう。
 完全無差別級アルティメットヴァリー・トゥード格闘大会。
 神月財閥主催の、冗談抜きで無差別・何でもありの戦いであった。
 急所攻撃可。勝敗はノックアウトかギブアップのみ。リングはあるがリングアウトは無し。中央はマットが引いてあるが、周辺は固い地面である(わざわざ土を入れてある)。つまりこれは逃げ回れないようにするためだけのリングである。出場制限一切無し。エントリーすれば赤ん坊だろうがプロレスラーだろうが出場できる(さすがにアンドロイドやサイボーグは無理だった。現にR・田中一郎がエントリーしてはねられている)。
 こんなまさにルール無用の戦いであったが、意外にエントリーの数は多かった。だが観客が真に驚愕したのは、その大会決勝戦である。
 何と決勝に残ったのは、二人とも女性だったのである。それも若き美少女二人。
 しかも二人とも、きっちり予選大会から、自分の何倍もあるような大男や歴戦の格闘家を、その手で葬り去ってこの地に立ったのである。
 断じていかさまやヤラセではなかった。
 おかげでこの格闘大会の注目度は凄まじいものになっていた。
 一人は主催者でもある、神月かりん。
 対するは元エクストリームチャンピオン、来栖川綾香。
 両者ともほとんどの対戦者を秒殺してきた強者であった。
 そして二人の対峙は、30分後、僅差で神月かりんが勝利を収めたのであった。

 「……負けたわ」
 「あなたも大したものよ。私をここまで追いつめた女性は、あなたが二人目」
 「……えっ、そんな人いるの?」
 「……ええ。この大会には残念ながら出てませんでしたけど、その人は私を実力でうち破っていますわ。そして、世の中にはそんな彼女や私達を子供扱いする実力者がまだまだたくさんいますの。本当はこの大会、そう言う人達にこそ出てきて欲しかったのですけどね。最初は私が簡単に優勝してしまって、あとで陰口をたたかれるだけに終わってしまうのではないか心配していましたけど」
 「……よく言うわ」
 「あなたのおかげで盛り上がりましたわ。今回の勝敗も、たまたま運が味方しただけ。以前の私なら、こんなわずかな差を誇ったでしょうけど、今の私は、無敵であるより、自分をうち負かせるかもしれない相手がいることの方を喜びと感じていますの」
 「……あたしもね。そういう子が知り合いにいるわ。今度は負けないわよ」
 「こちらこそ」

 大会は空前の盛り上がりのうちに幕を閉じ、第二回の開催が各方面から熱望された。

 「……あれはすごかったな。私はERET隊員の訓練方法を、根本から見直さねばと思ったよ」

 土門補佐官がそう相槌を打った。

 「しかも主催者にして優勝者の彼女がいうには、世の中には自分より強い者がまだまだたくさんいる、と言うのだからな」
 「……とんでもない話ですな」

 実はその一人である柾樹委員長も頷いた。

 「まあ、それはさておき」

 ずれかけた話を鷲羽ちゃんが元に戻す。

 「とにもかくにも、今ここに現れている組織ってのは、こういう風に良くも悪くも個性的なのよね。で、ここがもひとつ重要なんだけど」

 鷲羽ちゃんは表示されている図を、日本地図に切り替えた。

 「彼らが財閥として存在できたのは、地元以外の日本各地にあった、倉庫や工場群が、そっくりそのままこの地に転移してきていたせいなのよね」

 地図に幾つかの色が付いた。

 「面堂財閥は石油をはじめとする各種工業原料や食料、日用品などの膨大な在庫を収めた倉庫群が、中川グループは全国に散らばったトラックなどの輸送手段が、そして神月財閥は人工衛星をシリコンチップから造って打ち上げられる設備を持った九州工場をはじめとする、ハイテク施設がそっくりそのまま来ているのよね。それぞれ、元の世界で一番得意としていた分野だったらしいわ。さらに来栖川財閥のメイドロボ研究所と工場ラインのように、企業の顔とも言える分野の施設はそっくり転移していることが多いの。これは明らかにこの時空融合がランダムなものでないことを示しているわ」
 「なるほど……こうしてみると確かに説得力がありますね」

 加治首相は力強く言った。

 「特機……スーパーロボットなんかがやたらに来ているのも、こうしてみると納得いくでしょ。彼らは元の日本で、希望であり、象徴であった。結果存在力が強くなるのは当たり前だもの。自衛隊にしたって、この地に現れたのは、ほとんど融合時点で何らかの作戦行動についていた部隊だったでしょ。つまり、『自衛隊員』としての自意識が強く出ていた人達が優先的に出現しているわ」
 「むう……言われてみれば確かに」

 土方防衛相が唸った。

 「ついでにね。一般家屋にもやはり法則性があるわ。都内で特に顕著なんだけど、中規模のマンションがほとんど全滅してるって気がついた? 超高層マンションか、下町的なコミュニティがほとんどだって。片ややたらに目立ち、もう片方は住民同士ががっちり結びついてる。特に、何か目立つ建物や特徴的な住民がいた地域の出現率が高い。新宿の都庁とか池袋のサンシャインビルとか、こういうものの存在力に、特徴のない建物とまるでつきあいのない、空気みたいな住人が勝てるわけないのよね」

 田中国土相の顔に苦いものが走った。

 「まあ、辛気くさい顔しなさんなって。逆に言えば、気質的にしっかりした子が増えるからね。上手くやれば、いじめみたいな問題はずっと減るよ」
 「心得ておきましょう」

 加治首相はそう言って頷いた。

 「最後に人の住んでいなかったところだけど、これはもう自然の一人勝ち。これも航空写真見れば気がつくと思うけど、ゴルフ場が殆ど無いでしょ」
 「「あっ」」

 何人かの声が同時に上がった。個人の名誉のために特に名は秘す。

 「基本的に人の住んでいない地は全て豊かな自然に溢れているわ。沿岸も同様。東京湾なんか綺麗なものよ。木場の近くで朱鷺を見たって報告もあるわ」
 「ええ、すぐ保護しようとしたら、群で飛んでいて担当官が腰を抜かしたとか。レンジャーの設立がなされたのもこういう事例が増えたためですし」
 「そうよ加治ちゃん。せっかく豊かな自然が戻ったんだから、安易にゴルフ場なんか作っちゃ駄目よ。あと産廃の処理も考えてね」
 「産廃については幾つか腹案があります。何とかなるでしょう」
 「よろしい」

 そう言うと鷲羽ちゃんは、大きく息を吸い込んだ。

 「さて、ここからがあなた達の分野になるわ。この理論から推測される懸念が二つあるの。聞いてちょうだい」
 その迫力に、加治首相をはじめとした一同は、思わずつばを飲み込んだ。



B−PART

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