作者:EINGRAD.S.F

スーパーSF大戦 第23話


C−PART



 −地獄の蠢動−

 真の第五使徒動く。
 この情報は直ちに各種機関へと伝達された。
 各国の政府機関はこの災難に備えるべく各々の役割に従い行動を始めたのだが、この情報が届けられたのは何も各国の政府機関のみではなかった。
 この段階で民間へ情報が漏れれば避難体勢が整う前にパニックが起こり収拾がつかなくなる、社会経済的にも株価の下落は間違い無かったし、その点に関しては政府の機密機構も正常に働いていた。
 だが、人類を裏から操ろうとする者達の耳に入るのを防ぐ事は叶わなかった。

 裏社会と言ってもそれらは単一の存在では無い。
 人類滅亡を図る秘密結社、世界征服を策謀する悪の組織、魔法使い達の生きる領域や妖怪達の生きる闇。
 そのどれも、人目に触れそうになるのは極低辺に過ぎない。その真髄は目の前に有りながらもそうとは気付かれない様に存在している。
 その中でも最も俗な組織、言い換えればもっとも勢力の強い組織が動きを見せていた。
 彼らは利によって動く、その単純な理由に惹かれ数多くの者が望んでそこに参加していた。…もしくは知らない内に下部組織として利用されている。
 そしてその構成員も多種多様であり、有る意味現在のこの世界で最も平等な競争関係であるかもしれなかった、暴力の名の元にではあるが。
 だがそれ故に、己等の利に反する者達に対しては苛烈なまでに反応する。
 人類滅亡を企むゾーンダイクや、同じく世界征服を策謀するもビッグファイアーに対する忠誠心によって固められたBF団などはその最たるものだ。
 この組織の母体となったのは融合以前から世界的な組織であった物が多い。
 自らの遠い父祖である「来訪者」の遺跡を管理する「ミュージアム」、地球人類社会発展の道筋を描く事を自認する「管理者」、卑合金、水銀合金を自称する「アマルガム」や、その他の名前すら知られていない組織達が時空融合によって更なる融合を遂げたのが、「ダマスカス」。
 様々な性質を持つ金属を打ち合せて作られた奇跡の合金の名を冠した、人類社会の闇に強い影響力を持つ組織である。
 余りにも混沌として組織の人間ですら全容を掴めているのか知れなかったが、その中枢に最も近くにいる男が日本に滞在していた。
 都内の某一流ホテルの一室にサラリーマンがひとり訪れた。
 最近のホテルは単なる宿泊施設ではなく、ビジネスパーソンの活動拠点としても利用される事が多いので取りたてて珍しい事ではない。
 グレーのスーツに七三分け、少し猫背気味でメガネを着用、どこから見ても日本の普通のサラリーマン然としている彼がドアをノックする、すると中から返事が返って来た。

「どちら様?」
「亜細亜中東商事の者でございます。ペルシヤ絨毯の件で伺わせて頂きました」
「ああ、旧シリアの首都域に出現していたって云う。先程ご連絡のあった方ですね、ちょっと待ってください」

 そう云う返事と共にロックの外れる音がし、ドアが開いた。

「はい、どうぞ。お入り下さい」
「失礼致します」

 中から顔を見せたアッシュブロンドの若い男が彼を部屋へ招き入れた。


「これがお見積もりと周辺情報です」

 応接間のソファーに腰かけたサラリーマンがカタログを鞄から取り出し、アッシュブロンドの若い男に差し出した。

「はい、どうも。ふーん、これが…何か前に出た物に似ているけど?」
「ええ、前の出物とそっくりなんです。不思議な事ですが、まあ、私どもには選り好み出来ない物ですし」
「それもそうですね…。青い四角形ですか」

 彼の見詰めるカタログに貼られた写真には四角錐の物体が写し取られていた。

「なるほど、了解しました。ではこちらに情報を流してくださいませんか? この人達が、ちょうどこういう物件を欲しがっていましたので」

 彼は一枚のメモに何かを走り書きしてそれを手渡した。

「はぁ…ええっ!? 本当にこいつらで良いんで…コホン、了解しました」
「よろしくお願いしますね」

 若い男はニコリと魅力的に笑った。

「しかし…私のような下っパが口に出すのはおかしいのですが。こんな大きな物件に手を出して、市場が大きく変動し過ぎて、我々も損をする事になってはしまいませんか?」

 恐る恐るしたサラリーマンの疑問に若い男はあっさりと答えた。

「ええ、確かに。ですが、これであの社長に一泡吹かせて上げられます。彼は確かに立派な手腕を持った人物ですが、それ故にここで勢力を削いでおく必要があるでしょう? 彼らに任せる以上少しばかり荒療治になりますが、ね。よろしいですか」
「はい、これで心配せずに動けますです。はい。それでは失礼します」
「お気を付けて、あっそうだ」
「はい?」
「好奇心、猫を殺すって言葉知ってます?」
「…はい…」

 若者に見送られたサラリーマンは急ぎホテルから出ると雑踏の中に消えて行った。


 数刻後、太平洋上某所に浮かぶバードス島。

「アシュラよ」
「「ハッ! アシュラ男爵お呼びにより参上しました」」
「ブロッケンよ」
「ハハァッ、吾輩はここに」

 暗闇の中に立つ老人が老いを微塵も見せぬ激しい口調で配下の幹部へ声を掛けた。

「うむ。アシュラよ、例の計画は順調に進んでおるか」
「「はいドクターヘル、既に機械獣達の建造も予定通り進み、今冬に計画されている…」」

 アシュラは計画通りに事が進んでいる事を自慢気に報告し始めたのだが、ドクターヘルは手を上げてそれを制した。

「「ドクターヘル? 」」

 アシュラはいぶかしげな顔でドクターヘルの顔を見上げたが、次の台詞を聞いて驚愕の表情を浮かべた。

「計画は中止だ」
「「ええ?!」」

 それもそうだろう。ドクターヘルの野望である世界征服への道は遠く、卓越した技術力を持つ彼らであってもそれは困難を極めていた。
 特に自ら以外にも人類の管理…つまり世界征服を目的とした悪の秘密組織が存在すると知った今、最大限の効果を持つ作戦を効率良く行う必要があった。その為に現在は彼らの主戦力である機械獣の生産に専念し、弓を引き絞る必要があったのではなかったのか?

「「ドクターヘル、一体どう成されたと云うのです。よもや世界征服を諦められたのでは…、私はまだ、前回の汚名を挽回しておりませんぞ」」
「バカを云うな。人類はこの私、天才科学者たる私の手で管理されてこそ真の繁栄を極められるのだ、忘れるでない」
「「ハハッ、申し訳ございません。ドクターヘル」」
「まあ良い。確かに今回の事は急であったからな、腑に落ちんのも無理は無い。アシュラよ、機械獣の補充は何体まで完了しておるのだ?」
「「ハッ、現在までの所ガラダK7が五機、合計15機程で御座います。ただ、その内の10体は例の企業がコピーした二級品でありますが…」」
「ふむ、”軸”か…まぁ撹乱には使えるだろう。ブロッケン」
「はは、何なりと」
「新兵の”補充”は計画通り進んでいるのであろうな」
「…実は、日本連合は警戒が厳しく素材を拉致するのに手間取っておりまして、」

 彼らドクターヘル軍団の歩兵と言えば脳改造を施した死人である事は有名である。よって彼らの新兵補充と言えば当然の事ながら営利誘拐及び殺人罪に当たる。
 わざわざ志願してくる者がいる訳無いのだから、ブロッケン伯爵自らが陣頭指揮をとって人間狩りを行っているのであるが、ゾーンダイクに対する警戒から日本近くに上陸するのは大層危険で、母艦もろとも海の藻屑と成りかねなかった。
 次に矛先が向いたのは中華共同体だったが、多量の人民の失踪と不審な団体の活動を聞いて警戒に出て来た鉄牛を初めとする国際警察機構のエキスパート達、更にはダマスカスと敵対関係にあるBF団のエージェント達との戦いもまた熾烈を極めた。
 加速装置を内蔵したサイボーグであるブロッケン伯爵と言えども苦戦は免れなかったのだ、一般兵士では太刀打ちも出来ない。
 そうした事から、最近まで新兵の補充は遅々として進んでいなかったのだが、例え現在が計画の予定外の時期とは言えドクター・ヘルにはそれが怠慢と写った。

「つまり、間に合わないと言うのだな?」
「い、いえ。で、ですがご安心下さい。既に入手先を変更して、新兵の素材は大量に入荷して居ります。最近は供給過剰で人間改造工場もフル操業を続けておりますので、直ぐに必要量は確保できるかと存じます」
「ほう、あいつらに借りを作ったと言う訳か」
「申し訳御座いません」
「ふむ、所詮は利益追求の為の奴らよ。精々利用するが良いわ」
「ははぁ」
「それで、現在の供給元はどこなのだ?」
「は、大量の難民が流れ込み、その対処に苦慮している国家、アメリカで御座います」
「なるほど。政府にも話はついていると見て良いのだな」
「はは、一応、紛いなりにも民主国家ですが実質は特権階級が幅を効かせる拝金主義国ですからな、あの国は。一部の裕福な、そして有力な国民達は難民の庇護を申し立て、大多数の中流以下の者達は失業率が跳ねあがる事を危惧し排斥を訴える。国家機構としては大混乱しております。イヤハヤ、政府関係者達もご苦労な事で…その大多数を軍人に仕立てる様なプロパガンダを始めていますが、経済状況の悪化には目を瞑る訳にも行かないと言う事でしょうなぁ」
「綺麗事を並べ立てても所詮は…ならばこそ我らのような絶対者が必要だと言う事が分からんのだから、愚かな者よ」
「全くで御座います」

 彼らは自らの価値基準でその様に断じた、が、一面の真実を突いてもいた。
 一国以上に匹敵する多量の難民はアメリカに政治不安を引き起こしており、政治的に非常にデリケートな問題と化していたのだ。
 だがしかし、彼らの主張をそのまま具現化したような動きが、国防省内にあるとは彼らは露ほどにも知らなかった。
 この軍事クーデターには少なからずダマスカスがサポートしていると言うのにである。
 所詮は中枢から外れた外郭団体と言う事なのであろうか、現在の彼らは表立った武力行使に都合が良いという理由からその軍事力がダマスカスにコントロールされた上で利用され、僅かにおこぼれを貰っているような物である。
 武力行使の見返りとして、現在ブロッケン伯爵率いる鉄十字軍団がアメリカ国内で治安が低く犯罪の多発している難民キャンプで人さらい紛いの行動をしても、彼らの根回しが済んでいる現地警察機構も見て見ぬ振りをした。
 何処の誰かは知らないが余計なお荷物を減らしてくれる救世主、としてすら見ている始末だ。
 ダマスカスを初めとする彼ら犯罪者にとって、この混沌とした状況は実に都合の良いものであった。

「おお、そう言えばドクターヘル」
「なんじゃ」
「実はあの組織から斡旋がありましてな。とある秘密結社で製作した改造人間の運用テストと言う事で、改造人間を一体受け取りましております。いでよ、電波人間タックル!」

 ブロッケンが合図をすると扉の外で控えていたのか、顔面を覆うヘルメットから伸びた2本のアンテナ、黒地に赤の水玉模様のプロテクターに身を包んだ歳若い女性が現れた。その表情は凍りついたように硬い。

「ほほう、改造人間とな。どのような能力を持っておるのじゃな」
「えー、仕様書によりますと。人造電波人間となっております」
「電波人間? 妙な電波でも受信するのではあるまいな」
「少しお待ち下さい。ふむ、秘密結社ブラックサタン製の試作型奇っ械人、電波人間タックルとありますな。本来は電波で一般人を操る目的で開発されたが、試作の電波発振機が予定の性能を満たさず…」
「なんじゃ、失敗作では無いか」
「はぁ、ただ、電気制御型の機械を自在に操れるだけの能力を持っているようで御座います。流石に硬化処置を施した物には効果が無いようですが、使いようによっては…」
「分かった。では鉄十字軍と一緒に運用するが良い」
「ははっ」

 本来の世界では仮面ライダー・ストロンガーと共に戦った悲劇のヒロイン、タックルも時空融合による悪戯でその本来の姿で完成を見ていた。
 親友を殺された城茂がブラックサタンの企む「世界征服」の野望を嗅ぎつけ、非力な生身の身体を戦闘に耐えられる様にする為、自らブラックサタンの基地に乗り込んだ。
 組織に志願すると見せ掛けた彼は、自ら志願して自らの身体をブラックサタンに改造させ、その後に反旗を翻し「仮面ライダー・ストロンガー」となったのだ。
 本来ならば、ブラックサタン基地からの脱出の際に岬ゆり子としての自我を保っていたタックルを共にしていたはずであった、だが、時空融合の悪戯によって城茂はここには現れなかったのである。
 時空融合の混乱によって悪の組織も複雑化した。そのひとつに組織間の技術交換がある。
 ライダー世界の歴代組織「ショッカー」「ゲルショッカー」「デストロン」「GOD機関」「ゲドン」「ガランダー帝国」「ブラックサタン」「デルザー軍団」「ネオショッカー」「ドグマ王国」「バダン」「財団」「ネオ生命体ドラス」「フォッグ」そして「暗黒結社ゴルゴム」・・・はその組織立ち上げ状態で現れていた。スーパー戦隊の組織が壊滅直前後の状態で現れたのとは好対象である。・・・もっとも、組織中枢が南米に存在した為に現在ムーとの死闘を続けているゲドンの様な存在もあるのだが・・・。それらとは全く行動原理が異なる為に独自の行動を取る「未確認生命体/グロンギ怪人」や「アンノウン〈Unknown〉」の存在も確認されている。
 (これらの事は、地球人が中心の組織と外世界や異分子を中心とした構成の違いに原因が有ると言われているが、はっきりとした事は分かっていない)
 それら組織の黒幕を背後から操っていた「ショッカー大首領」(打ち滅ぼされたショッカー総統の更に裏から黒幕的指導を行っていた謎の存在である)の命令により行われた技術交換によって人体改造技術(サイボーグ技術)は向上を見せていた。
 そして彼女の改造はじっくりと時間を掛けて行われただけに性能に磨きを掛けており、電波投げ一本に絞られていたあのタックルよりも高い完成度を見せたのであった。
 余談だが、この電波人間シリーズは後に秘密結社ブラックサタンの改造人間ブランド・「奇っ械人」シリーズを代表する改造例と成る。
 何しろ、自在にあらゆる波長の電波を操り盗聴・欺瞞放送・通信妨害を行う、別名「歩くECM」であり、更に電波により誘導電流を対象の内部に発生させ、電気制御回路を破壊、又は直接電流を送り込んでモーターを操るなどの芸当を行う事も出来た。
 これは星野ルリ達IFS強化体質のマシンチャイルドや草薙素子等の電脳データーリンク形式のサイボーグ達が相手の電子回路に潜り込み、プログラムによって優先権を得て行動を支配するといったソフトなやり口ではなくまるで強姦する様な荒っぽい手口である。
 その強電作用は特にデリケートなナノマシンや電子回路を持つIFS能力者やサイボーグ達にとっては恐怖の的であり、「IFS殺し」や「サイボーグ・キラー」と呼び慣わされ忌み嫌われる事に成る。
 後にSOCの私設軍隊(SOCは警備隊と言っているが、その装備からしてどう見ても傭兵による私設軍隊以外の何物でもなかった。が、Sekai Okanemochi Clubは財力を以ってその主張を押し通していた)が電気を操るサイボーグ体の採用を公表した際に業界に動揺が走った。  それほど迄に高い悪名が轟いていた訳だが、彼等は自社のサイボーグ技術の一任者として有名であった臼羅丘兄弟のサイボーグ技術を採用したのだと言って押しとおしたのだ、がしかし、疑念の声は消えなかったのだが。
 そうした悪魔の兵器第一号として完成してしまった彼女の頭脳には、今、悲しみは無い。





日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
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