スーパーSF大戦

第23話−アバンタイトル


清音無用?!



 時は始まりの時に遡る。
 ここ、岡山県岡山市内某所にある安アパートの一室に彼女達、ギャラクシーポリスの刑事として活躍してきたふたり、真備清音と九羅密美星の一級刑事達が極貧に耐えながら生活を続けていた。
 この地球は特別保護地区の為、現地政府に対するギャラクシーポリスの干渉は基本的に無し。
 そんな場所であったから樹雷皇家の皇女がふたり、しかも宇宙海賊として名高い魎呼とマッドサイエンティストとして名高い鷲羽のふたり+現地民と同居するなどと言う事がなければ彼女たちが駐在員としてこの地に封じられることもなかった筈である。
 しかし、任務は任務、駐在員としてふたりの一級刑事が樹雷阿重霞皇女と砂紗美皇女の身辺警護の任務を帯びてここに住む込む事になったのだが・・・現地政府とのコネクションが一切無いという事は当然彼女たちの活動は非公然活動と言う事になり、ギャラクシーポリスによる現地での支援は一切無い状態だったのである。
 それは経済的な面に於いても例外ではなかったのである。
 極貧。
 それは極度の貧乏と言う意味である。
 宇宙戦艦オルクスを擁する侵略企業ゲドー社の現地駐在員とどちらの方が貧乏だろうか。
 だが、そんな彼女たち、正確に言えばその努力の甲斐無く常に不幸に見舞われる女性である清音。その彼女にこれ程までの悲劇が訪れようとは神様でも思わなかっただろう。

 時空融合があったその日の深夜、ギャラクシーポリス、略称GPの敏腕刑事として知られていた一級刑事真備清音は呆然とし、そして焦燥感に駆られていた。
 何故なら、午前0時になるその前に相棒である美星一級刑事が「ちょっと出掛けてくるわね清音」といってフラッと外に出ていったっきり戻って来ないのだ。
 現在の時刻は午前3時。
 女性がひとりで出歩くにはあまりにも危険な時間帯である。
 しかも美星が外に出て行って数分後に宇宙生活の長い彼女でも体験したことのない様な感覚が彼女を襲っていた。

 目の前の空間が歪み、精神が捻れる様な不快感が彼女を襲ったのだ。
 ようやくその異常な感覚が消え去り、一息吐いた頃突然停電があり、辺り一帯の電気が全て数十分に渡って消えたのである。
 取り敢えず彼女を襲った異常感覚の原因を調べようとしてGP刑事が標準で装備している手首の通信機兼用のアナライザーで調べた所、彼女の内的疾患、および栄養不足による幻覚ではない事は分かったのだがその原因は不明のままであった。
 しばらくの時間アナライザーに掛かり切りになって分析を続けていた清音だったが数時間が過ぎ、ふと気付くと、美星がいつまで経っても戻ってきていないことに気付いた。
 清音にとってはこう言うのも酌であったが、美星は女性の立場から見ても見事なプロポーションである。
 そんな健康的な肉体美を誇る美星が夜中に出ていって何の脈絡も無しに戻ってこない。
 しかも、先程の停電騒ぎで興奮状態になった暴力的な倫理観の少ない連中が美星を見つけていたら・・・美星の身に良からぬ事が起こったのではないかと想像しても無理からぬ事では有った。
 一応GPの一級刑事であるという事実も、普段のボケボケな彼女の姿を知るものにとっては何の気休めにも成らなかったのである。
 清音は慌てて身支度を整え外へ出てみたが・・・外は静寂の帳に包まれており、ほとんど一切の物音が聞こえてこなかった。
 だが、そんなに異様な感じも美星への心配に支配されていた清音の耳には届かなかったのである。
 清音は出掛けに美星が言っていた言葉から、おそらく捜査の中心的となる場所は近所の公園だろうと当たりを付け、その道薄暗い道(「チカン注意」とか看板が立っている道)を急ぎ足で向かった。
 だが、ただ単に急いだだけでは無かった。
 ほとんど漆黒の闇に包まれた路地裏に、乱暴されて身動きが取れなくなっている美星が倒れていないかを注意しつつ公園正門へと駆けていった。
 しかし、公園に着いてからもそれ以前の路地に於いてでも、懸命になって目を凝らしている清音の目には一切の生存の証拠すら残っていなかったのである。
 それから数時間後、眩く輝く朝日が昇っても美星の姿は消えたままであり、そして腕に付けたアナライザーを以てしてもその消息は一切不明のままであったのだ。
  一婁の希望を托し部屋に戻った清音であったが、やはり部屋には誰もいなかった。
 流石に力尽きた彼女はいったんは布団に潜り込んだのだが、あせる気持ちをもてあそび、早々と6時には目が冴え渡っていた。
 目を醒ます為に熱くて濃いお茶を一杯と行きたいところだったが、さ湯で我慢し一呼吸させて落ち着きを取り戻した。
 そして検討の結果、 第一保護対象である樹雷王家第一皇女「阿重霞」と第二皇女「砂沙美」のいる柾木家へと向かったのであった。
 この岡山では時空融合現象による目立った異常が発生していなかったのが彼女のこの後に振りかかる不幸の元となるのだが、この時点において彼女、清音は時空融合現象が発生した事に気付いていなかったのである。
 海に近い市内に暮らす清音達と違い、少し山間に入ったところに柾木家はあった。
 極限状態の家計簿とにらめっこした清音は、何とかバス代を絞り出そうとしたのであったが前日のアルバイト先での美星の破壊活動に伴う弁償金が響いており、ここでバス代を使ってしまうと月末までの2週間食事は塩スープと無料のパンの耳だけという結果になるので残念ながら、歩いて行くことに決定した。
 実際のところ、自転車ならまだしも歩いて行くにはかなりの距離があったのだが何とか彼女は柾木家にたどり着く事ができたのであった。
 岡山の山間の地にある柾木家。
 家の前には広い池があり、建築家を営む家長が設計した意欲的な造りの家で長男の柾木天地を始めとして、銀河を3等分する海賊王たる樹雷皇家の長女の樹雷柾木阿重霞皇女とその妹の樹雷柾木砂沙美皇女、そして宇宙海賊魎呼とギャラクシーポリスの刑事九羅密美星、そして銀河系最大のマッドサイエンティスト白眉鷲羽が生活していたのである。
 清音は屋敷(家よりは正しい表現だろう)の形に違和感を感じていたが「どうせまた、鷲羽博士が修理したんだわ」と思い、気にせず玄関のチャイムを鳴らした。
 ピンポーンと呼鈴が鳴り、インターホンから可愛い声が推何してきた。

「はーい。どちら様ですか?」

 清音にはその声が直ぐに砂沙美の物だと分かったので、インターホン越しに返事を返した。

「私、清音です。こっちに美星来ていませんか?」
「美星さんだったら確かにいますけど、〜〜〜〜」

 それを聞いた清音は内心では<美星め〜、やっぱりこっちへ来ていたかぁ〜! いつも勝手に動いて私に迷惑掛けさせて、どういうつもりなのよ! まったく! >と叫んでいたのだが、何かいつもの様子と違い歯切れの悪い返事をしてきた砂沙美に清音は違和感を感じていた。
 現に今もマイクロホンの向こうで何やら話をしていてそれをマイクを押さえる事で聞こえないようにしているらしく、くぐもった音がしてくる。
 待つ事しばし、ようやく結論が出たらしく、玄関の曇りガラス越しに砂沙美らしき小柄な人影と他数人の影が見えた。
 ガチャガチャと音を立てて鍵を開けると扉が開き、その向こうに美星がいた。
 そのおどおどした態度に清音の堪忍袋の緒は一気にぶち切れた。

「美星! あなたはいっつもいっつも勝手に行動して私に少しは悪いとか思わないわけ?」

 開口一番、清音はそう言って美星の事をこき降ろし始めたのだ。
 突然怒鳴りつけられた美星は目を白黒させながら口をパクパクと開け閉めするばかりであった。

「大体いっつもあなたはそうなのよ。まったくいつも自分勝手に馬鹿な行動して周りの人間、特に私に迷惑ばかり掛ける癖に自分はちゃっかりと犯人を捕まえたりして私ばっかり不当に低い評価を浴びるのよ。この前のファミレスのバイトの時だって私が一所懸命に働いて働いて、皿洗いをしているのに、あなたはウェイトレスを言いつけられて、しかもお客様の頭にお冷やを掛けるわスパゲティーは投げるわ迷惑ばっかり掛けて結局私も連帯責任を取らされて止めさせられて、一所懸命仕事していた私の方が馬鹿ばっかり見ているのよ。すこしは申し訳無いとか思わないの? いつも脳天気にヘラヘラと笑ってるかドジ踏んでベソ掻いているかどっちかじゃない。あなたもギャラクシーポリスの刑事なら、いいえひとりの人間として自分のしている事が凄い馬鹿らしいって事くらい判るでしょ。だったら勝手に夜中にいなくならないでよね。私本当に心配して一晩中あなたの事を探しまわっていたのよ。それなのにあなたはのうのうと天地さんのところに行ってて・・・もうやってられないわよ!」

 彼女の中に溜りに溜まっていた感情が爆発したように美星に向けられた。
 しかし、当の美星は当惑の表情こそ浮かべていたが、「申し訳無い」といった感情は浮かんでいなかったのだ。
 更なる感情の高ぶりが清音を襲いそうになったのだが、次の美星の次の台詞には激高するよりも呆気に取られてしまった。

「あの〜ぉ。すみませんけどぉ、どちら様なんですかぁ? そんなに一度に言われても困るんですけけどぉ・・・わたし、あなたとは初対面ですしぃ」

 丸めた手を口元に当てながら美星はおどおどとした声で清音にそう言ったのだ。
−−私がこの手の掛かる女と知り会ってから始まった腐れ縁て何年目だったかしら? あんなに私の事を頼りにしてきた癖に、初対面ですって? ふざけんじゃ無いわよ。 ぼけ過ぎて脳味噌腐っているんじゃないの?
 と、内心には嵐のような感情が逆巻いていたのだが、流石に口に出すのははばかれたのか言葉にする事はなかった。
 だが、その美しい顔を構成している中でも感情を如実に表わす構成パーツである、その柳眉を逆立てて清音は美星をにらみつけた。

「ふっふっふ、美星。あなたこの私を忘れたというの? あなたと私はギャラクシーポリスの刑事で、ずぅぅっと前からコンビを組んで捜査に当たってきたでしょう? 」

清音は美星の胸に指をつきつけ、彼女にとっての厳然たる事実を美星のボケボケに叩きつけた。
 美人の怒りの顔にはかなり迫力があるため、鈍感(と思われている)な美星はたじたじとなった。

「え〜っとぉ・・・。ごめんなさい、やっぱり分かりません。私の昔のパートナーは酒津さんですしぃ。何かの間違いじゃぁ・・・」
「そんな訳ないでしょ!? あなたみたいな人間が何人もいたら、それだけで宇宙の破滅は間違い無いわ」

 言い切る清音に美星の後ろに控えていた一同は「うんうん」と肯いた。
 実際、この家で受けている美星の評価とは正反対なのであるが、美星のその能力は計り知れない程有能なのである。
 もしも彼女がポニーテールを解いたら・・・目覚めた天地に匹敵する程の能力を持ったもうひとりの彼女が目覚める訳で・・・
 流石、鷲羽さんの子孫のひとりと云う事実は伊達ではなかった。(真・天地無用 3巻参照)
 だがポニーテールをしている今の彼女は、抑え切れずに溢れだしている自分の能力に振り回されているだけである。
 その為、ほとんど超能力と呼んでも良い程の非常に優れた洞察力を持っているにも関わらず、単なるボケキャラと周りの人達に認識されてしまっている。
 だが、彼女の真価を知る者達はおしなべて彼女に対して畏怖に近い評価を与えていることは確かである。それは銀河最高の諜報機関、樹雷皇家の諜報機関の長である船穂のセリフからも明らかだ。
 だがしかし、表面上は確かに唯のボケボケである。
 清音もその表面に騙されて、自分の知る美星とこの美星が同等と考えてしまっていたのだ。
 その内に手酷い判断ミスをする可能性があるだろう。
 しかし、それはまだ先のことであり、今の美星はと言うと・・・。

「ひどいですぅ。わたしはこれでもギャラクシーポリスでも数々の難事件を解決してきた敏腕刑事なんですよぉ」

 ぷんぷん。 単純な天然の人にしか見えないのは確かである。


「とてもそうは思えませんけどね」

 ボソッと背後から聞こえてきた阿重霞の言葉に美星は傷ついた。
 うるうると大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼし出すとそのままのモーションで後ろにいた唯一の男性、天地に抱きついたのである。

「うえええええん、天地さぁん! みんなが、みんながイジメるんですよぉ。えーんえーん」
「あの・・・美星さん(汗)」

 天地は後頭部から大粒の汗を垂らして狼狽した。
 しかも彼には、後ろの女性陣から嫉妬の入った非難の視線がチクチクと当たっていた。
 特に阿重霞と魎呼からは「殺意」すら篭った視線が二人に投げ掛けられていた。
 とりあえず美星に振りかかるであろう二人の攻撃の矛先を反らすために天地は話題を変えるべく見知らぬ訪問者に話し掛けた。

「えーと、すみません。お名前なんでしたっけ?」

 その言葉に清音は唖然とした。
 おバカな美星はともかくとして、あの生真面目な天地さんまで・・・これには何か理由があるはず。
 そう推理し出したまではよかったのだが、その後の方向がまずかった。
−−多分、天地さんには外的な干渉があった筈。という事は・・・! はっ、そうか! 今ここにいない人物。つまり鷲羽さんのいつもの実験のせいで皆から私の記憶が消されているのね。危険。あまりにも鷲羽さんの才能と性格の組みあわせは危険過ぎる。
 と言う方向へとつながってしまったのであった。
 そうとなれば、という事で彼女はまるで初対面の人間に相対するかのように恭しく自己紹介を始めた。

「私はギャラクシーポリス刑事課に所属する真備清音と申します。よろしく」

 そういうと実に魅力的な微笑みを浮かべた。
 100万ボルトの笑顔であったが、天地は清音の名乗りにビックリしてそれどころではなかったのである。

「清音・・・さん。オレの母さんと同じ名前だ・・・」

 そのつぶやきを聞いて清音は驚きを隠し切れなかった。
 彼女が知る天地の母親のなまえは「阿知花」、以前のギャラクシーポリス消失事件の際に彼女自らが過去に赴いてその本人の女子高校生時代の護衛に就いたのだからまず間違いはないはずだった。
 その事を確認しようと口を開いた瞬間、階段の上からドタドタと騒がしい足音が近づいてきたかと思うと階段を転げ落ちるように一人の壮年男性、彼女が過去に戻った時の護衛対象のひとりであった信幸が降りてきた。

「清音だって? 清音ぇ! おおっ、どこにいるんだ清音ぇ!」
「親父落ち着けよ! すいません清音さん。むかしから俺の死んでしまったお袋と同じ名前を聞くとああなるんです。恥ずかしながら・・・」

 天地は清音から目を反らし、どこか遠くをみつめた。よっぽど父親の奇行が恥ずかしいようである。
 だが、清音としてはそんな事はどうでもよかった。
 まず確認しなければならない事が出来たからだ。

「あの、天地殿?」
「はい?」
「確か、あなたのお母様の名前は阿知花さんだったのでは・・・?」
「・・・アチカ? それって日本の人なんですか?」

 ガーン! まるで吊りがねの中に入り込んだ時に鐘を突かれたような衝撃が彼女を襲った。
 いくら鷲羽がマッドサイエンティストだといっても、知り会いの記憶、しかも母親の記憶を改変するなどという事があるだろうか。・・・・・・心の底ではその可能性を捨て切れずにいたが・・・流石にそれはないだろうと思われた。
 だとすると、この天地の反応と、そして美星の反応が意味する事は・・・・・・! まさか! まさかまさか! まさか!!
 清音は自分の思いつきを拒絶した。 まさか、いなくなったのは美星ではなく、私がこの世界に紛れ込んだのだとでも言うの!?

「そんな事、ありえないわ!」

 突然の話の飛躍に周りの人間は引いてしまったが、それまで姿を見せていなかった人物が階段下の扉から顔を出してニマッと笑いながら言った。

「そぉのまさかだったりしてぇ!」

 その人物の赤いカニのような髪型を視界に広げつつ、清音の意識は急激に途切れてしまった。
 危ない! その人物の前でそんな事をすれば実験動物を差し出すようなものだという事が分からないのかぁ!?
 清音が目を醒ましたのは、体感時間にして数分後の事だった。
 彼女は清潔な白いシーツのベッドの上で、であれば良かったのだが・・・・・・何故か雑多な機械類が所狭しと並ぶ見知らぬ空間に立てられたサンプル観察用ベッドに張り付けにされており、彼女の頭部にはピコピコと音を立てて明滅するヘッドセットが取り付けられていた。
 それを確認したとき、清音は自分がどのような運命に従っているか正確に把握したという。
 むざむざ気絶した私を鷲羽さんの魔の手に落としてしまうとは・・・天地の押しの弱さに逆恨みする清音であった。
 だが、となりに下着姿で(大変に残念ながら清音はきちんと服を着用している)同様の姿をしている天地を見た瞬間、その憤りは胡散霧消してしまったらしい。
 うるうると涙を流す天地に同情しつつも彼女は問い掛けてみなければ納得したくない事が多すぎた。

「あの、天地さん?」

 控え目な呼び声であったが、天地はきちんと反応を返した。

「はい、清音さん・・・でしたよね」
「ええ。ここは・・・この世界は本当に私のいた世界とは違うんでしょうか。私以外、誰も変わり無いような気がするのに・・・何故? 本当に? どうして私だけが・・・」
「あ、あのー。昨日新聞かテレビのニュース見ました?」

 うっ・・・、と清音は唸った。情けなさ過ぎる程の極貧生活を送っていた事実を、出来る事なら自分も好意を寄せていた天地には知られたくなかった。
 その為、なんとかごまかそうと話を続けた。

「い、いえ。昨日は・・・って、あれからどれくらい経ったんですか?」
「はは。清音さんは貴重な時空融合のサンプルだって、興奮していた鷲羽ちゃんが徹底的に調べるって言ってて。まるまる24時間位経っています。あれから」
「24時間・・・」

 とは言え、どこかを改造されたりサンプルとして切り取られたりしている訳ではないようなのでひとまず安心した。

「天地さん。私の事を本当に・・・・・・知らないの・・・?」
「うん。ごめんなさい」
「皆でいっしょに樹雷の星へ行ったり・・・」
「知りません」
「ギャラクシーポリスの重犯罪人が過去に戻って天地さんの存在を抹消するためにあなたの・・・いえ、私の世界の天地さんのお母様「阿知花」さんを消そうとしたので、みんなで過去へ行ってその敵と闘った事も」
「それも知りません」
「そして・・・わたしと二人っきりで地球の過去、恐竜時代に飛ばされて長い間ふたりっきりで支え合って生き延びた事も・・・全部?」
「うん・・・僕は昨日まであなたに会った事はなかったし。あなたは僕の母の異世界での同一存在でもないって鷲羽ちゃんが言っていた。・・・ごめんなさい」
「ううん。あなたのせいではないもの。きっと悪いのは私。美星と知り会ってからツいてない、ツいてないって考えてたけど。ここまでついてないなんて。かえって笑えるわ」
「その事なんだけど・・・」

 何か歯切れの悪い口調に引っ掛かった清音は直に聞き返した。

「なにか・・・あったの?」
「うん、一昨日の夜中」
「美星と私がはぐれた時?」
「はい。あの時、自分の知り会いとはぐれたのは清音さん。あなただけではないんです」
「何があったの?」
「俺もさっき鷲羽ちゃんから聞いたばかりなんだけど・・・この世界にいる人たちは皆・・・自分達のいた世界からはぐれた者達なんだって」
「えっ?」
「つまり、・・・うーん。あの時、一度世界がバラバラになってしまって。そしてその時に自分をしっかりと把握していた人間達とその知り合いが生き残ってこの世界に出現した。そう鷲羽ちゃんは考えているんだって」
「それじゃあ、元の世界にいた美星は? 天地さん達は? 私の故郷の人たちはどうなったって言うの?!」
「それは僕にはちょっと」

 自分が答えられない質問に天地は頭を下げた。
 先程から、と言うより昨日から驚愕するような事ばかり起こっていたが、これはその質が違った。
 自分が唯一の被害者かと思っていたら、何と事実はその逆で、自分が唯一の生き残りかも知れないと告げられたのだ。
 単純に生き残った事を祝うと言う選択も有ったのだが、彼女の一級刑事としての正義感がそれを許さなかった。
 しかも、腐れ縁とは言え、長い間相棒として組んできた彼女の世界の美星とはタッチの差で行き違い、永遠の別離となったという。
 これは堪えた。
 清音は縛り付けられたままの姿で泣いた。もしかすると永遠の別れとなるかもしれない元の世界の知り合い達に。

「清音さん・・・!?」

 天地にはその清音の姿が新鮮に映った。もしかすると不幸なのかもしれないが、彼の周りにいる美女達(見た目は少女もしくは若い美女だが、実年齢が・・・)5名+1の強烈な個性と比べると常識と言うものを自ら認識しつつ、それに従うだけの良識を持つ清音と言う存在に魅かれる物が有ったとしても仕方が無いのではないだろうか。
 後が怖いけどね。

「そんなに悲しまないでください。清音さん。僕で良ければ力になりますから。頼りないとは思いますけど」

 突然の天地の告白に(異義アリ!! by.柾木家居候一同)清音は思わずその顔を赤らめた。

「そんな事無いわ。天地さんがついているなんて、こんなに力強い事はないもの。不束者ですが・・・今後とも」
「「「ちょっと待ったぁぁぁっ!!!」」」

 どんどん妙な雰囲気になっていく事に不安を感じた「覗き見一同」は居ても立っても居られずにその場に乱入した。

「ちょっと清音さんとやら。天地さまが優しい言葉を掛けて下されたからって言って図に乗らないで下さいません事?」
「そうだそうだ。天地はアタシの物なんだゾ」
「ちょっと魎呼さん、それは聞き捨てなら無い言葉ですわね。一体いつ天地さまがあなたのものになったと言うのです」

 魎呼の言葉がストレートに決まった阿重霞は、隣りで自分と一緒に清音を非難している魎呼にその攻撃の矛先を変更してしまった。
 だが、魎呼はそんな阿重霞の攻撃にも余裕の笑みを浮かべて言い放った。

「ふっふーん。聞きたい? あっ、そう聞きたいんだ。私と天地がどれだけ深い仲なのか」
「ふ・・・ふぅ、ふぅうううん。どうせいつものデマなんでしょ。いちいち真に受ける必要も有りませんわ」
「つまり・・・負けを認めるんだな。アタシと天地の決定的な、で・き・ご・と・の事」
「う、うそ」

 魎呼の如何にも何か重大な関係をアタシと天地は結んでいるのだ、と言わんばかりの態度に阿重霞はたじろいだ。

「そんな、嘘です。天地さまがアナタのようなアバズレに何かするはずがありません」
「へっ、そんな態度だからアタイに勝てないのさ。お嬢様はよ。そう・・・あれはアタシと天地が同じ布団で眠っていたあの夜の事」

 それまでいつもの事だとあえて介入を控えていた天地だったが、突然覚えの無い体験談を語り出した魎呼に思わず口を出してしまった。

「ちょ、ちょっと待てよ魎呼っ! 俺がいつ」
「まぁまぁ、話は最後まで聞けって。寂しかったアタシは泣いて布団に潜り込んだ天地に凄く同情しちまってね。一晩中慰めてやったのさ」

 「一晩中」の言葉に阿重霞の怒りゲージはMAXまで吊り上がっていたが、天地は覚えが有るのかひとつ質問を投げ掛けた。

「なぁ魎呼、それって一体いつの事なんだ?」
「なんだ、覚えていないのかよ。アタシと天地が同衾したのは・・・」
「イヤァアアアッ! ウソです、天地様と魎呼が同衾だなんてぇぇ!?」

 とうとう耐えきれなくなった阿重霞は絶叫を上げて魎呼の言葉を遮った。
 誰だって自分に都合の悪いことは聞きたくないし、言いたくもないものだ。

「有る冬の日のこと。天地の母親、柾木清音が病気で死んでから少し経った頃の事さ。あの頃のアタシはまだ封印されていて実体が無かったんでアストラル体だったから、天地もアタシのことに気付いちゃいなかったけどね。こ〜んな可愛らしいモノしかもっていなかった頃の天地に添い寝していたのさ。ずーっと昔の話。おやぁ? 阿重霞お嬢ちゃんは一体何と勘違いしたのかなぁ? んん〜?」

 こ〜んな、の所で人差し指と親指で数センチの表現をした魎呼はニマーッとした笑い顔を浮かべて阿重霞に向き直った。
 勝ち誇った魎呼の笑みに阿重霞は「してやられた!」と臍を噛んだ。
 もちろん魎呼の言う通りのことを想像していたからに他ならないからだが、一応立派なお姫様である阿重霞は清純派を自認しているので口が裂けてもそれを認める訳には行かなかったのだ。

「わ、わ、わ、私はもちろん天地様を信じておりましたわ。天地様とアナタがせ・・・あうっ」
「せ? せの続きは何て言うつもりだったのかなぁ。砂紗美は分かるか?」

 慌てて自分の口を手で塞いだ阿重霞を意地悪い目で見ていた魎呼はいきなり話を砂紗美に振った。
 実は最近(第2部に入ってから)色々知っている砂紗美はあくまでお子様のスタンスを崩さずに疑問を浮かべた表情になった。

「砂紗美はまだお子様だから分っかんないヨォ。おとなのお姉さまには分かるかも知れないけど」

 と、さり気なく姉を追い詰めてしまう妹姫の砂紗美王女であった。
 そこへ話を振られなくて寂しかったのか、美星が口を出して来る。

「んーとぉ。わたしもう大人ですけどぉ。分かりませんけどぉ」
「美星、アンタには期待してねぇよ」
「あううっ、酷いです魎呼さん」

 と世界は違っても同じ様なことをしている天地一党を見て清音は思わず吹き出すと同時に妙な安堵感を持っていた。

「あん? なに笑ってるんだ?」
「だって、皆さん私の知っている本人じゃないのに、いつも通りの事をしてるんですもの。何だかホッとしてしまって・・・ふふふっ」

 その笑みは本心からのモノであった。

「なるほどねー。パラレルワールドに於ける社会への適応パターンと類型には有る程度の関連が見られると。つまり例えるならば、違う監督が同じ題材を元に同じキャラクターを用いて話を作るとシリーズ自体が異なるとしても、自ずと似てくるって所かしら」

 まるでタイミングを測ったかの様に、この研究室の主が姿を見せた。
 それこそが数多の世界に存在するマッドサイエンティスト鷲羽ちゃんズの中でも鷲羽 オブ ザ 鷲羽の名を欲しいままにした最高のマッドサイエンティスト、白眉鷲羽その人である。
 しかし、私個人の意見としてはOVA版は最高として、TV版の評価はそれなりにだし、新に至っては・・・無言・・・であると考えています。同じ題材だから似ているとしても、それから受ける印象は愕然とする程異なるのだと、嫌と言う程思い知らされました。
 プリティー・サミーは・・・、いっそあそこまでやって貰えれば傑作ですな。
 脱線はそこまでにして置いて、清音は鷲羽の登場により再度緊張し始めた。
 世界が異なれば設定・・・性格も違うだろう。
 しかしこの研究室の様子を見る所、マッドなサイエンティストである事は確実の様だ。
 もしも、私達の世界と違って本心からのマッドサイエンティストであったらどうしようと考えてしまったのも無理からぬ所である。
 そう言った疑念の眼差しで鷲羽を眺めていたのだが、その視線に気付いた鷲羽はニッと笑うと指を鳴らした。
 すると清音を抑えていた拘束具がスルリと外れ、清音は床に足を付けることが出来たのである。
 清音は暫しの間、こんなに簡単に解放されるなんてと半信半疑の眼差しで見ていたが、「やっぱりマッドだわ」と確信する様なこともするのである。
 床に立った清音の頭上から弱々しい主張が発せられた。

「あのぉ。鷲羽ちゃん。こっちはほどいてくれないのかな?」

 苦笑しながら天地がそう主張したが、鷲羽はけんもほろろに突っぱねた。

「ああ、天地殿はまだ調べたいことが沢山残っているからそのままで待機していてね」
「していてね、って言われても・・・とほほぉ」

 何を言っても、どうせ聞き入れられない事を確信していた為あっさりと引き下がったが、天地のその眼から滝の様な涙が流れ出ているのが哀れを誘った。
 この後、清音は鷲羽から今この世界で何が起こっているかを聞いた。
 驚くべき事に、この白眉鷲羽は時空融合から2日しか経っていないと言うのに既にこの時空混乱についての原因を突き止めていたのである。
 当の本人たるアメリカ政府が調査団を設けて結論を出したのが、時空融合後2ヶ月も後のことだったと言う事を考えると、流石マッドの中のマッドサイエンティストである白眉鷲羽である。
 伊達に2万年もの長い人生を科学に捧げてきてはいない。
 しかし、その彼女の超科学力であっても今ここにある資材だけでは直ちにこれを修復することは不可能だと言う事であった。
 彼女の持つ研究室はじつはとある恒星系にある惑星に存在する。
 元の世界にいた頃はそこへチャンネルを開いて空間移動していたのだが、この時空混乱の余波を受けてさしもの鷲羽ちゃんの技術力でもその回廊を維持できなくなり、現在コンタクトが取れなくなっていた。
 その為に今はポータブルな亜空間装置を作って空間を拡張して研究室としているだけなのである。
 もちろん彼女の科学力は道具に頼った物でなく、一からその頭脳内に蓄えられた知識と技術だけで再現、再生するだけの能力を持っているのだがそれにはある程度の時間が掛かると言うことであった。

 因みに時空融合の真相は柾木陽照樹雷こと柾木勝仁に託されたが、彼の口からそれが伝えられることはなかった。
 彼は自分が只の優秀な人間として選ばれたからこそ政府の人間として使われているのであって、彼の特殊能力や人脈を当てにされているのではないと考えていたからだ。

 結局の所、彼女は自らの手で時空修復を手掛けることは無かった。
 それは自分の同位体である鷲羽・フィッツジェラルド・小林の行動を観測し分析する為であった。
 自分の過去について謎を抱えていた白眉鷲羽にとって彼女の行動はその謎に迫る為に必要な恰好の研究材料と成るはずだからだ。
 何故、自分の同位体がこの時代の、この地球に存在するのか。それは理由があるのか、単なる偶然なのか、研究の対象としては大変に興味深い物があるのである。
 彼女の探求心は自らが危害を受けようとも、多少の困難によって挫ける物ではないのだ。
 さすが鷲羽ちゃん、凄いぞ鷲羽ちゃん、例え趣味に生きていても。

<後書き>
 ちなみに天地と清音が恐竜時代に飛ばされて、と言うエピソードはTV版には有りません。
 Ashさんから頂いたSSを参考にしたものですので、そちらをご覧になって下さいね。
 ではでは。




日本連合 連合議会


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