スーパーSF大戦 第22話 J−Part




 米軍が核兵器を使用してから数時間後、中米陸橋の電波状況が落ち着きを見せ始めて来た事を確認した鷲羽博士を初めとする霊力研究班は予てより用意していた科学実験を兼ねた作戦の開始を決定した。
 その「トリニティー」と名付けられた作戦は中米陸橋を挟んで太平洋、大西洋の両洋に霊力発生源を用意しそれを同調させる事で陸橋自体を覆う広大な霊力励起領域を発生させる、と言う物であった。
 その霊力源として日本連合内に僅かに残っている精霊石の大半とザンス岩礁で試掘した原石の精製した物をかき集め、パンドラの箱で使用用途不明品と分類されていた「キルリアン放射機」の回路を参考に霊力を放射させられる筈と考えられる装置を開発していた。何しろ実験室段階の実験では霊力場の発生に成功していたが、いきなりこれ程大規模な実用品を作らなければならなかった現場の人間の苦労が忍ばれる。
 それも、この後に霊力学の天才と呼ばれる様になる青年の才能と努力が無ければ完成は無理だったろうが。
 そう言う未だに理論が未完成な段階で試作した物であるので動作状態に不安がある上に霊力が励気した場を作り出す事は可能なのだが、如何せん、それを電子回路が作用するEMP効果を持たせられるのかデーター部足であった。
 この霊力開発計画は、総合科学会議で天才鷲羽ちゃんが開発リーダーを務めている神秘学の初歩、霊力−電気相関現象を利用した魔法(霊力)を科学する初の実用品であったが、現段階では技術的なブレイクスルーが発見されておらず数ヶ月後に暗黒大陸としてしられているアフリカのアンノウン領域から出現する某遊撃宇宙戦艦Bの呪術デバイスの機構を解析したデーターが得られるまで実用品と言えるような装置が完成する事はなかったのである。
 だが、科学的に霊力を制御する理論は未だに完成していなかったが、その手の奇跡の業を生業とする存在がこの世界に存在した事から、鷲羽は秘密裏に彼女達とコンタクトを取って人工的な霊力EMPの発生に失敗した時に備えていた。
 とは言え、実際はちょっとした謀が有ったのだが。
 時は作戦の始まる僅か3日前の事だった。
 ここの所顔を見せていなかった鷲羽先生がひょっこりと学校に顔を見せたかと思うと物陰に隠れて砂紗美と美佐緒を手招きし始めたのだ。

「おい、河合。鷲羽先生が呼んでんぜ」

 それに気が付いたクラスメイトが砂紗美達に声を掛けるが砂紗美は黙って首を振るだけでそちらを見ようとはしなかった。

「砂紗美は見てない見てない」

 どうしてもイヤな予感が無くならない砂紗美はそれを黙殺しようと心懸けた。
 すると鷲羽は更に大きく腕を振り出した。

「お〜い、河合ぃ〜?」
「砂紗美は見てないの!」
「・・・でも砂紗美ちゃん、鷲羽先生何か凄い形相だけど。行かなくて良いのかなぁ」

 少し気弱な美佐緒はおろおろとして砂紗美に聞いてみた、すると砂紗美は血走った目で美佐緒の肩を掴んで言った。

「美佐緒ちゃん、余計なトラブルに巻き込まれたくないでしょ。だったら静かにしてなキャダメなの。分かった!?」
「う、うん。そうだね砂紗美ちゃん」
「ホホォ〜ゥ、そ・こ・ま・で・言う。久し振りなのに随分言ってくれるじゃないの、さ・さ・み・ちゃ・ん」
「ギョエーッ! あ、あはははは鷲羽先生おはようございまぁす」
「もうお昼でしょ」
「え゛・・・えへへへへ。じゃあそう言う事でぇ」

 取り敢えず逃げだそうとした砂紗美の肩を鷲羽はガッシリと掴んで放さなかった。

「そんなに嫌わないでよ砂紗美ちゃん。私とアナタの仲じゃないの」
「それって、どう云う仲なんですか?」

 憮然とした顔で砂紗美は聞き返すが、取り敢えずそれを黙殺した鷲羽はニコッと笑って話しを始めた

「それはそれとしてぇ・・・砂紗美ちゃんに美佐緒ちゃん。今度私宇宙に行く用事があるんだけど一緒にどぉうお?! 」
「・・・えっとぉ砂紗美分っかんない」  ニパリン
「勿論行ってくれるわよね」  ニヤッ
「イヤです」  キッパリ
「あっそうなの。皆さぁん、実はこの河合砂紗美ちゃんの正体はプ」
「わっわっわっわぁぁぁ〜行きます、行きますってばぁ」  ワタワタワタッ
「ふふふ、最初っから素直になってくれればイイのにぃ」  ククククククッ
「脅迫されたんですけどぉ」  ムゥッ
「まぁまぁ、細かい事は気にしない、あっ美佐緒ちゃんも一緒に来てねぇ。砂紗美ちゃんも来てくれるって言ってるし」
「あっハイ」  アセアセッ
「ん、よろし」  ヨッシャァ
「砂紗美言ってないモン」

 ってな事があったり何かしちゃったりして。
 それは兎も角、現在鷲羽と魔女っ娘たちは霊力発振源のひとつであり、宇宙空間から地上を観測する役目を兼任した軌道上の機動戦艦ナデシコAに乗り込んでおり、不測の事態に対処すべく待機していた。
 尚、彼女達の存在は鷲羽との契約の際に完全に秘密にする事が確約されていた。
 軌道上の定点で待機していたナデシコは地表で起こった惨禍の模様を観察していた。
 低軌道上から見た爆心地にはペンペン草さえ生えていなかった。
 幸い、と言うべきだろうか。最も核兵器に取り憑かれた軍事組織を持つ米国で開発された戦術核だけあって効率良く核分裂反応が進んだ為に残留放射能のレベルもHIROSHIMA,NAGASAKIに比べると格段に少なかった。
 その為に、未だに核反応による熱によって地面がどろどろに溶けている爆心地に通常装備で生身の兵隊が侵入した場合、即死か数時間で死亡する位まで放射能LVが落ち着いて来ている。(直後は少し離れた場所でも致死レベルであった事からすると、と言う比較でしかないが)
 それの何処がと言うだろうが、不純物の多い核物質で技術精度の低い低レベルな設計で作られた核兵器だったら今頃大西洋一帯が無視し得ないレベルの核物質によって汚染されている筈だ。
 一応核戦争時の対NBC装備が施されているとは言え、もしもそんな事態になっていたら汚染除去作業によって下手をすると被爆者が出る可能性もあった訳で、艦隊司令部では改めて核に対する怒りが植え付けられていた。
 それは兎も角、ナデシコが観測したデーターによると核攻撃によって被害を受けたムーの軍団であったが、その被害はムーの基準からでは作戦の中止を決定する程のダメージではなかったらしく、現在は後方に移動しつつ戦力の建て直しを行っていた。

「以上、地上の敵ロボット兵器の動向です」

 ルリはナデシコ艦橋のメインスクリーンに地上ムーの戦力状況を纏めた物を表示し、それの解説を終えていた。
 彼女の両手のタトゥーはIFS(イメージ・フィードバック・システム)作業中である事を示す様に輝きを放っている。

「うん、ありがとうルリちゃん。そのデーターは中米派遣艦隊と大西洋調査艦隊の方に送っといて貰えるかな」

 ふと気付いた様にナデシコA艦長のミスマル・ユリカはルリに指示する、しかし。

「艦長、それでしたら既に行っていますが」
「さっすがルリちゃん。エライエライ」

 あっさりとルリに返されたにも関わらずユリカは満面の笑みを浮かべたままルリを誉めた。今にも頭を撫でに艦長席から下の階に降りて来兼ねない感じだ。
 ユリカなら本当にやりかねないが。
 だが子供扱いされたのが気に食わなかったのかルリはボソッと呟いた。

「わたし、少女です」
「ウンウン、分かってるよ。恋する乙女は少女だもんね。ルリちゃんがシンジくんにラ・・」
「艦長っ!! 現在は戦闘態勢の筈です。プライベートな話題は謹んで下さい」
「はぁ〜い」  ショボーン

 ピシャリと締めるルリに流石のユリカも眉をハの字にして口を噤んだ。
 だが、この時後の席にいた艦長や副長らは気付かなかったが突然好意を持つ人の名を呼ばれてルリの顔は真っ赤っかに染まっていた。
 特に色素が薄く皮下脂肪も少ない白い肌のルリだけにその際は目立ちまくりである。
 その証拠に左右に座っている通信士のメグミ・レイナードと操艦士のハルカ・ミナトはニンマリとした笑いを浮かべながら両脇からルリの顔を見ていたし。
 ともあれまだ重要な仕事が残っている事を思い出しユリカは傍らの予備座席に座る連合政府の要人に報告した。

「とにかくそう言う状況です。よろしいですか鷲羽ちゃん」
「ん、オッケーよ」

 報告を聞いた鷲羽は地上のムーの本隊が予定範囲内にある事を確認すると右手で大きく○を作った。


 この鷲羽、今まで仕事が忙しく、この世界最高の能力を持つ機動戦艦ナデシコに乗り込むのは初めてだった。
 未来技術による最新の機構は鷲羽に驚きを与えたが、彼女が艦橋に案内された時に更なる驚きが彼女に与えられた。
 鷲羽が副長のアオイ・ジュンに連れられて上級艦橋要員の居る指揮壇に登るとジュンはユリカの横に立ち鷲羽の紹介を始めた。

「ユリカ、今回の作戦のスペシャル・ディレクターの鷲羽・F・小林博士を連れて来たよ」
「あ、ジュンくんありがとう。もう用事は済んだから席に戻ってて」

 ユリカのそんな軽い口調だったが、結構大きいダメージを受けてしまったジュンはトボトボと席に戻る。存在の軽さは辛い。
 だがユリカのその言葉の中には艦の出航作業が忙しく「ジュンくん仕事の方早く手伝ってぇ」と言う意味が込められていた様な感じなのだが、残念ながら彼はそこまで気が回らなかったらしい。
 その瞬間にも彼女は忙しそうに指揮卓から通信士のメグミや操舵士のミナト、総合オペレーターのルリに指示を出し、ナデシコの発進手順を踏んでいたのだが、4〜5分もしてようやく作業を一段落させるとユリカはスックと立ち上がり鷲羽の方に向き直った。

「どうもお待たせしました! 私がナデシコ艦長のミスマル・ユリカです! このナデシコに乗ったからにはドロブネに・・・ってアレ?」

 ユリカは正面を向き宇宙軍式の敬礼を行ったのだがその視線の先には誰もいなかった。

「どもー、こっちこっち」

 と下から声がしたので目線を下げてみるとまるで小学生の様な赤い髪をした小柄な少女が手を振っていた。

「初めましてミスマル艦長。私が今回の作戦の計画立案を行った統合科学会議の鷲羽・フィッツジェラルド・小林です」
「す、すみませーん。てっきりてっちり・・・随分若作りなんですね」 失礼な
「じゃなくて若いのよ! なんてったって12歳になったばかりだしぃ」

 それを聞いて流石のユリカも目を丸くしてしまった。

「へぇー、そーなんだー。じゃあ鷲羽ちゃんって呼んでも良い?!」

 だがそれに続けてユリカの口から飛び出した暴言とも取れる言葉に艦橋にいた人達は「こりゃ激怒されても仕方ないわ。こう云う早熟タイプの人間はプライドの塊なんだから。知〜らない」等と心の中で叫ぶと、突然自分の仕事が人生最大の楽しみだとばかりに目の前の作業に熱中し始めたのだが。

「鷲羽ちゃん嬉しいっ! 私の能力をちゃんと知っていて尚且つ初対面でアタシにそう言ってくれたのってアナタが初めてよ! さぁっすが天才艦長の呼び名高いミスマル艦長だけの事はあるわ」

 鷲羽が怒号ではなく予想外の歓声を上げた事に驚く一同であった。

「えーっ? そんな事無いってぇ、いやだなぁ鷲羽ちゃんたらぁ。じゃあ特別に私のことはユリカって呼んでも良いよ」
「いよっ! 懐が深い! 伊達にでかい胸してないわねぇ」
「えっへん。鷲羽ちゃんだってその内おおきくなるってば」
「当たり前よ! 私のDNAからすればDは硬いわね」

 話が変な方向に進み始めた為、ブリッジにいた男性スタッフは思わず妙なしかめっ面で明後日の方向を向き、女性スタッフはと言えば・・・ひとりは知らん顔、ひとりは胸元のスカーフを睨み付け、ひとりはナデシコBの艦長のデーターから輝けない将来に失望していた。

「おほん! 艦長。そろそろ出発して貰いませんと予定の方が」

 唯一自分のペースを保っていたプロスペクターが話に夢中になっているユリカの関心を艦橋指揮へと引き戻した。

「ヤレヤレ、今日びの若いギャルの会話はオジサンには耳の毒ですなぁ」

 取り敢えずまともな方向へと軌道修正したプロスはそう呟くと算盤型電卓を弾き出しロスタイムがどれだけコスト増に繋がったかの計算を始めた。
 そんな彼の態度に一筋の冷や汗を流したユリカは努めて冷静な態度で声を発した。

「ルリちゃんナデシコ発進シーケンスは何処まで進んでる」
「全て完了しています。いつでも行けますよ艦長」
「うんうん。さっすがルリちゃんエライエライ。ではハルカさん、機動戦艦ナデシコ発進させちゃって下さいっ!」
「はーい、りょーかい」

 巨大なナデシコの艦体は重力制御機関特有の静かな駆動音を響かせてSCEBAI敷地から上空へと昇っていった。
 重力制御機関特有のスムーズさで上昇を開始したナデシコ、その艦橋の中で鷲羽ちゃんは頻りに感心していた。
 僅かなショックは感じたものの、ほとんど慣性力を感じなかったからだ。
 これはきちんと細かい所まで重力制御が働いている証拠だ。
 重力も加速力も遠心力も目を瞑っていれば区別出来ない、それらはある程度なら同じ物として見なす事が出来ると言う理屈らしいが21世紀初頭の科学力ではそこまで説明出来るはずがないので割愛する。
 これから宇宙に上がる訳だが、現在宇宙空間を支配しているインビットの主戦力は第1進化段階のインビットであるイーガーが数百機詰まった機動母艦のシェルドゥである。
 彼らはこれを衛星軌道上に数百基浮かべ、宇宙空間に出てくる一定以上のエネルギーを放出する物体を撃破するべく活動しているのだ。
 一機当たりの戦力は並みなのだが、何しろその数が多い。
 その為、インビットの攻撃を受けながらも宇宙空間へ進出出来るのは防御と攻撃兵装の両方に優れているナデシコシリーズのみなのである。
 流石に重力の井戸へ引き込まれる低軌道へと侵入する事はほとんど無い為、ナデシコは軌道上での戦闘待機を行いつつゆっくりと上昇していった。
 この時のナデシコのスピードは第1宇宙速度を大きく割り込んでいた。
 その為少し時間的に余裕が出来ユリカがここの所気になっていた事を聞いた。

「ねぇ鷲羽ちゃん」
「ん、なぁにぃ?」
「ウチから出向していったキノコさん迷惑掛けてませんか」
「キノコって・・・ああ、ムネタケさんね。元気でやってるわよ、彼なかなかの遣り手だしね」

 鷲羽が素直に感想を述べると艦橋中の人間が「ええ?」と疑問の呻きを上げてしまった。

「あの、元副提督のムネタケ・サダアキさんですよ?」
「うんそうよ。今準備が進んでいる汎人類防衛機構設立の下準備としてこれから先、重力制御機関が発展した時に取られるであろう戦術と戦略、そしてそれに対応するにはどのような兵装が必要なのか、既存の兵装を有効に使うには。彼の広範囲な知識が戦略・戦術思想を確立する為に大変に役に立っているわ。・・・もしかして性格の事を言ってんの?」

 鷲羽は彼らが何を言わんとしているか推察すると、話を振り向けてみた。

「性格もそうですけど・・・、そんなに優秀にやってるんですか? キノコさんて」
「ええ。だって貴方たちの世界の連合宇宙軍で佐官を勤め上げていたんでしょ? 当然じゃない」
「あたしたちから見ると、余り良い印象が無いんですよねぇ。勝手にフクベ提督にくっついて来たのに、ナデシコが地中に埋まって身動きが取れないって分かったらヒステリックになって上の居住地ごと主砲で吹っ飛ばしてしまえ、何て言い出したし、すごく神経質で。ブリッジ要員からするとかなり頭のくる人でしたけど」

 ユリカが何か色々と思い出したのか、顔をしかめながらそう言うと皆んなも「うんうん、そうだった・まったくです・本当に」と肯き出した。
 そこで何を思ったのか彼も有名な軍人の家系であるのだが、ナデシコ副長(あくまで補佐能力を買われて副長になったため、絶対に目立たない宿命を背負わされている。もし目立つ行動を取るとどうなる事か・・・)アオイ・ジュンが皆を代表するように意見を述べた。

「あの人の親は極東方面軍の要職にある切れ者で有名な将官でして、副提督がその親の七光で出世しただけならまだ良かったんですが、時代がそれを許しませんでした。外惑星からの侵略が始まったからです。その前哨戦として行われた火星防衛戦当時副提督は木星トカゲ・・・じゃなくって木連の無人艦隊との艦隊戦では地球側艦隊旗艦の参謀を務めていましたが、結局火星地上のユートピア・コロニーにチューリップを落とす失態を曝し、多数の民間人を死に至らしめました。いくら戦力的に劣勢だったからと言って許される事ではありません」

 アオイはキッパリと言い切った。
 彼も士官学校を次席で卒業し、短い期間であったにせよ未来に燃える軍人として軍に在籍していただけに結果的にであろうとも民間人殺しの片棒を担ぐような真似を行ってしまったムネタケに良い感情を持てないのだろう。
 だが、それだからこそ、本当は彼こそが唯一の理解者になれる筈だったのだが、自分に近い相手だからこそ近親憎悪的に許せないのかもしれない。

「ふぅ〜ん、可哀想ねぇ」
「はい、例え状況が許さなかったとは言え民間人に犠牲を強いる・・」
「そうじゃなくて、ま、確かに民間人に犠牲を出すのは軍人の本懐から外れる行為だけど、彼って本当に職場の人間関係に恵まれなかったのねって同情していたのよ」
「な、なん・・・」

 鷲羽の思いもよらぬ答えにアオイは口篭ってしまった。

「私もナデシコ運用に関して人事面からの考察を依頼されてあなた達の境遇、能力、性格に関してのアンケートを集計した物を見せて貰ったんだけど。彼の事を理解しやすい人物としてはユリカちゃん、アオイくん、そして山田・・・ガイくんかな。この3名は彼のコンプレックスの元となった境遇について共感を持っているはずよ。あっ、ガイくんは性格が似ているから挙げたんだけどね。彼もIFSパイロット養成学校を卒業して予定通り軍のパイロットになっていたら彼と同じ様なストレスに潰されるか、ドロップアウトするかどちらかだったでしょうけど。ねぇ、アオイくん」
「何でしょう、鷲羽博士」
「鷲羽ちゃんっ! ってまあそれは良いとして。貴方のいた時代の軍組織ってどう云う存在だった?」
「もちろん、地球人類の恒久的な繁栄と平和を司る為に治安維持とあり得るかも知れない、と定義されていた外敵からの侵略を防ぐ為に日夜自助努力を行う正義を目的とした」
「お題目は良いのよ。貴方が短期間にしろ所属した事のある軍の組織はどうだった? 貴方がその目で実際に目の当たりにした実態はどうだったのか。正直に答えて欲しいのよ。既に地球上に敵対組織はなく、治安維持を行うには余りにも巨大な兵力を有し肥大を続けていた軍の組織。何故そんなにも必要のない軍事力を構築し続けていたのか、幾らシビリアンコントロールが万全でクーデター自体の心配はなかったとしても。私みたいな異世界の人間から見ても何があったかは一目瞭然でしょ。古来より外夷を駆逐した軍力は内患を有する物だし」
「くっ・・・。だけどそのお陰で技術的に後れを取っていたにも関わらず抵抗も出来ずに敵に殲滅されてしまう事は防ぐ事が出来ました。結果論ですが」
「うんうん。で、話は変わるけど、ユリカちゃんは軍の士官学校に入ったってぇのに、どうしてわざわざエリート街道を捨ててまでこのナデシコに乗り込む気になったの?」
「それは・・・私が私でありたかったから。ミスマル家の長女としての私ではなくひとりの人間、ユリカとして生きたかったからです」
「うんうん。わざわざアンケートの備考欄にでっかく書くだけの事はあるわね。で、アオイくんとガイくんとムネタケちゃんの場合、男の子なのよねぇ。私の分析結果からすると純粋に正義の味方になりたかった。その為に最も有効な手段が軍に入る事だったから、違う? アオイくん」
「・・・・・・そうだけど。だけど、実際の軍の実態は違ったんだ。軍は正義の組織なんかじゃなかった。誰もがみんな知っている事だけど、軍の予算の大半は兵器の購入費として有る特定の企業グループに流れ込み、高級軍人は見返りを撥ねていた。ボクが直接確かめたワケじゃないけど・・・純粋に実力で幹部にまで登り詰める人間なんて僅かなものさ。大概は血筋やコネで将来が決まる軍閥に近い構造が出来つつあったんだ。でも内部からならそんな体質を改める事が出来る、変えられる。木連との戦争で功績を上げトップに登り詰めて腐った軍の体質を改善する、それがユリカなら出来るはずだった。彼らが基準とする血筋の点でも、実際の戦場での実力でもそれが出来るだけの物がユリカにはあったんだ。彼女は一度決めた事は決して変えたりしない、長年付き合ってきたボクには分かる。だからこそボクはユリカに翻意を促し、軍の改革を行おうと説得する為、わざわざ民間の戦艦にまで付いてきたんだ」
「そう、貴方は自分以外に目的があったから、そして短期間だから目標を見失う事もなかった。ムネタケちゃんも父親の威光を汚さない様、そして正義の為に頑張ろうと藻掻いてきた。だけど彼の場合容姿や魅力の点で貴方たちよりチャレンジされていたし、あのムネタケの息子だから七光りだろうとかなんとか陰口や嘲笑が激しかったみたい、丁度今あなた達が主張した様なね、そして負け戦。英雄を求めていた軍はフクベ提督を英雄として祭り上げた為に側近の彼に直接の責はなかったけど無言の重圧は彼を責め付け、閑職へ追いやられてしまった。そこで彼が起死回生の策として取ったのが、・・・ナデシコBの記録で知っていると思うけど強大な火力持つナデシコを内部から占拠し軍に引き渡す計画だった。実際は軍上層部はナデシコの実力を低く見積もっていたので誰も志願する必要もない物として軽く見られていたけど佐世保で見せたその威力から急遽重大な任務となった。あなた達は佐世保で反撃を行っていなかったから実際は軽く見られたままこの世界に来てしまった。そりゃストレスも溜まるって物よね」
「そんな事、一言も言ってなかったけど」
「そりゃそうよ。そんなに器用だったらもっと上手く組織に溶け込んでいたでしょう。ムネタケちゃんはガイくんみたいに盲目的な正義に邁進できるほど純真ではないというか、実際の現状を認識できる位に頭が良いワケだし、アオイくんみたいに別に理想を追う為に自ら泥を被るほどの気力が有るワケでもなかった。だから彼に掛かったプレッシャーとストレスを周りの人間に当たり散らす事でしか発散出来なかったワケよね。周りは迷惑以外の物ではないのだけれど。そう言った彼の置かれた状況を別にすれば彼の持つ能力は劣った物じゃないわ。火星での撤退戦に於いても彼我の状況を認識し、提督の命令をきちんとした形にして艦隊に指令し全滅を逃れているんだから。今彼が準備している汎人類防衛機構はまだ形にすらなっていない、そして加治首相の理念は平和こそが理想。ムネタケちゃんはその平和を脅かす悪の存在から皆を守る為の組織作りの下準備をしているのよ。彼を縛る物がなくなって今は嬉々として実力を発揮しているわ。何たって今の地球上に大規模な重力制御システムを装備した大規模な軍隊を持った事のある組織や国家は存在していない。アメリカは重力制御機構を手に入れたばかりだし、中華共同体は各国家の持つ軍事力よりも国際警察機構の方が実力は上だった位だし、エマーンに至っては軍事力自体が過去の遺物でありそう言ったノウハウはとうの昔に失われている。それ以外は論外だし。で、唯一重力制御機関を保持した軍隊を持っていた世界から来たこのナデシコのクルーの中でもそういった戦術戦略兵站などの軍事上の常識と知識を持つ者は士官学校を卒業したミスマル・ユリカ、アオイ・ジュン、半ば隠居されているフクベ提督、大きい方のホシノ・ルリそしてムネタケ・サダアキの5名しか存在していないんだから。彼の持つ知識と能力は遺憾なく発揮されているわ。職場の皆との人間関係も良好だし。そう、彼は求められている。これ以上ない環境でね、そんな彼が捻くれたままで居ると思うの? あなた達の知る彼の人物像は古いのよ」

 鷲羽がそう言いきるとユリカは嘆息していった。

「へぇ〜、そうだったんですかぁ。全然知りませんでしたぁ」
「まぁ、汎人類防衛機構については機密事項が多いしね、特にザンス岩礁のオリュンポス計画なんか。私も当たり障りのない事しか言えないからここまでにしとくけど」
「そうですか、了解しました。さて、と。有意義な話も聞けたし、そろそろかな? ルリちゃんインビットの様子はどう?」
「はい。現在の所、シェルドゥから発進したイーガーの姿は見えません。ですが、過去の情報と照合するとそろそろ」
「うん。じゃあエステバリス、並びにマジン、いつでも発進が出来る様にスタンバって下さい」
「了解しました」





日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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