「あ、アオバさん おはようございます!」

 ここ、アンヘルの基地にあの子の声が響いた。
 朝からこの子は元気だ。
 まあ、ロボットなんだから人みたいに寝起きが辛いなんて事は無いんだろうけど。

「あ、おはよう。洗濯物?」
「はい。両兵様ったらこ〜んなに洗濯物貯め込んでいたんですよ? 今日は良い天気でしたし、せっかくだから洗濯しておかなきゃって思いましたから。黙って持って来ちゃいました。うふふ」
「ふうん、でも大変でしょう? そんなに沢山・・・下着まで」
「いえ、アタシはアンドロイドですし。人のお役に立てるのが凄く嬉しいんです」
「そっか、こんなに小さいのに偉いねぇ」
「アオバさんひっどぉい、こう見えてもアタシ、製造されてから100年近く経つ経験豊富な家政婦ロボなんですよ」
「ええっ! そんなに・・・」

 思わず絶句してしまったけど・・・良く考えたらロボットが歳を取る方が不自然なのよね。
 本当、この子は見た目は小さな女の子にしか見えないのに。
 確かに緑色の髪の毛は珍しいけど。

「それに、また人間の方にお仕え出来るなんて夢みたいです」
「? なぜ?」
「・・・はい」

 本当にこの子は感情が豊富だ。私が自分であの子の胸のパネルの下に隠されたコネクター・ポートを見てなければ絶対に人間て信じてた。まず間違いなく断言する自信あるし。
 思いっきり笑うし、泣くし、凹み方なんて私が見ていてもびっくりする位。

「昨日も食堂で言いましたけど、アタシの世界の人間は、あの戦闘ロボットに全部殺されてしまいましたから・・・」

 そう、昨日の彼女の告白は衝撃的だった。
 それまではなかなか喋ってくれなかった彼女がようやく話してくれたムーの悲劇はかなり怖かった。
 心のない機械文明に頼りすぎた人達の末路って・・・。
 昨日、彼女は食堂で彼女の世界で何が起こったのか語ってくれた。




「−−私達のいた世界、ムーでは戦争は戦闘ロボットに任せて行っていました。もちろん限定戦争じゃなくて、敵地にいる人間を殺戮するのもです。
 当時文明化博愛化が進み教育によって個人に対する人道主義は行き渡っていましたから、戦場に人間を駆り出しても役に立たなかった為代わりに戦争する兵士が必要になったんです。
 当時の犯罪率はそれまでの歴史上最低を記録していましたから、どう云う人達で社会が出来ていたかが想像出来ると思います。
 しかし人間個人に対する教育機関は設立出来ても人間の集団である国家を教育する事が出来なかった事が皮肉な結果を呼ぶ事になったんです。
 国家間のエゴは無くなりませんでした。いいえ、個人のエゴが少なくなった分だけ却って酷くなっていったのです。
 国軍の兵士は100%、士官の50%がロボット兵に置き換わった頃、それらロボット兵士を効率良く統制するコンピューターが合理的な行動を取る為に軍内部の現場担当としては最上位の指揮権を持っていました。その頃の人間の方達はすっかりコンピューターに頼り切っていましたから、人間のケアレスミスよりも失敗の確率の低いコンピューターの指示に盲従していたんですけど。
 やっぱり、人間の敵は人間だった訳です。
 軍司令部はより戦いの効率を上げる為に攻撃性の高いプログラムを組み込みました。
 それまでは人間を傷つけない基本プログラムによって動作していたロボットにユーザー特権で無理矢理戦いを強要していたのですが、今度は逆に人間を傷つけたがる基本プログラムに枷をはめて、自国民を守る様にした筈だったんです。
 けど、そのプログラムがRUNした瞬間、隠しファイルが起動して一部のプログラムの内容が書き換えられてしまったんです。国外からのクラッキング対策は完璧だったんですけど、国内の悪質なハッカー・・・クラッカーが面白半分に流したウィルスが紛れ込んでいたんです。矛盾した内容に混乱した統制コンピューターは直ぐに自己修復の為、合理的にプログラムを洗い出しました。その結果、合理的思考を行わない人間を排除すべしと結論付けられたのです。
 それから僅か10秒後には国防総省内部に生きている人間は存在しなかったと記録されています。
 そして5年後、人間は地球上から完全に姿を消してしまいました。
 皮肉な事に両陣営とも自国の軍勢によって攻め滅ぼされました。
 わざわざ相手国まで兵士を運ぶのは合理的ではないと言う事なんでしょうね。
 その時私達のような民間のアンドロイド達は必死になって人間の方々をお守りしようとしたのですが力足りず・・・ですから今度は皆さんを守り抜きたいんです。同じような失敗はしたくありません。このボディーが塵になろうとです」

 この時の彼女の瞳は「本気(マジ)」だった。
 そしてその行動も・・・あの時が来るまで彼女の本気が分からなかったなんて。
 私はいつも後悔してばかりだ。


「今度こそお守りします」

 そう言いながら彼女はドサドサと両兵の溜まった洗濯物を洗濯機に放り込んだ。
 言葉とは裏腹に12歳位の外観の彼女が大荷物を少しぶきっちょに扱う姿は微笑ましく見えるんだけどね。  いま、この基地の周りは急造の堀と土塁、以前からある金網によって外界から隔離されているけど、周りのジャングルの様子は変わってしまっていた。
 流石に植物の方はほとんど代わってないんだけど、野良犬がタマに姿を現す位だったのに今は堀の向こう側にはサーベルタイガーが呑気に昼寝しているのが見える。
 その上、ここから僅か10キロの地点は古代人機とムーの戦闘ロボット達の戦場となっていた。
 何故ふたつの敵が戦い合っているのかは分からなかったけど、それがなかったら1年前のあの異変があった時に私達全員、ムーのロボットに殺されていた筈だって言われていた。
 偶に入る日本連合って言う謎の組織からの連絡によると南米にいた人間は私達を除いて全員虐殺されたって・・・。
 思い出すたびにぞっとしちゃう。

「(マジマジ)アオバさん。どうしたんですか? 急に」

 ふと顔を上げると目の前に彼女の顔があった。
 一瞬ドキンとなったけど、あはは、あービックリしたぁ。

「う、ううん。別に何でも・・・」

 はぁ。
 周りを得体の知れない生物や人類の敵達によって囲まれてたけど、それも慣れてしまえば余り気にならなかった。
 もちろん、本気で何とも思っていない人は誰もいないと思うけど、そうでもなければ緊張で壊れてしまいそうだったから。
 でも、状況が悪くなってきているのは確か。
 戦場が近付いてきていると山野さんも言ってる。
 後2キロ戦闘場所が近付いてきたら、モリビト2号も出撃しなくちゃいけない。
 いつまで待たなくちゃいけないんだろう。

「早く助けに来てくれればいいのに・・・」


第22話 Cパート

 テイルズ・オブ・アメリカ 地図にない村


 ムーの侵攻によりメキシコの軍は緒戦でその兵力の大半を失っていた。
 その為、メキシコ政府はアメリカ合衆国の全面的な国内に於けるアメリカ軍の全面展開を許可し、バックアップ体制に入った。
 これはアメリカ政府にとっては非常に都合の良い展開だった。
 いくら傍若無人で鳴らしたアメリカであっても、現地政府がその機能を失っていない段階であった場合に、幾らアメリカの国土を防衛するという大義名分が有ろうとも、現地住民もろとも殲滅してしまう訳には行かなかったからだ。
 それがメキシコの方から協力を頼まれたのだ、一応迷惑そうなポーズを取りつつもアメリカ軍は機動力に物を言わせて防衛線の構築に掛かった。
 この時点でムーの軍勢は南米から陸沿いに北上を続けており、まだ迎撃体勢を確立していなかったメキシコ軍の防衛網をすり抜けた一部部隊の突出によりアメリカ−メキシコ国境線にて衝突が発生していたが本隊とも言える集団はニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの住民を丹念に虐殺しつつ牛歩の如くの速度で進軍を続けていた。
 その為、現地住民の大半は難民としてメキシコやハイチ、キューバ、そしてアメリカに逃げ延びていた。
 進軍の速度が機動車輛の登場する以前の時代の軍隊並みだったからと言ってムーが侮れる存在でない事は、緒戦に於いてメキシコ軍の完全な敗退からも明かであった。
 南米諸国の軍備は2線3線級の旧世代機や廉価版の多い軍では有ったが、それらとムーとは兵力の有り様が、そして兵力自体が大幅に異なっていたのである。
 軍という物は基本的に、敵を屈服させ敵陣を占領(もしくは防衛)する事が目的とされる。(例外はあるが)
 その為に必要な兵科が普通科、歩兵を中心とした軍隊である。
 航空隊や機甲師団は見た目も威力も派手だが、目的は歩兵が敵陣を占領する為のバックアップである。
 戦車も戦闘機も敵国の兵力を攻撃し撃破は出来るが占領する事は出来ないからだ。
 それらは如何に普通科が有利に事を運べられるかの支援の為に存在する。
 戦略爆撃も敵の政治力の低下と生産力を削ぐと言う目的から敵の攻撃能力の低下を行う事で自軍に有利な状況を作り出す事が出来るのだ。
 戦術的な要素で戦争の推移を見てみると、おおよそ次の様な感じになる。
 戦闘機により制空権を得。攻撃機により敵陣を空爆、機甲師団や火砲、戦闘ヘリ等によって普通科の障害となる敵の反抗力を奪い、そして敵地を普通科が占領、もしくは自陣を防衛するのだ。
 これがオーソドックスな戦争の経過となる。
 もちろん、多面的有機的な運用の為にこう単純に事が運ぶケースは無いのだが。
 装備の更新によって普通科の装備も着々と装甲化機動(自動車)化が進んでいたが、基本的に歩兵の軍隊である。
 敵の歩兵を攻撃殲滅し味方の歩兵を守るのが数々ある兵科の任務なのだが、ムーの場合は想定されていた軍備と大幅に異なっていたが為に、こちらの攻撃が有効に働かなかったのである。
 何しろムーの普通科に当たる最低限の兵力である歩兵は戦闘用に開発されたロボットであったのだ。
 これが充分以上に強靱なのである。
 元々彼ムーの世界は戦場から人の姿が消え、代わりにロボットを用いていった経緯がある。
 その為、装備の更新は兵士その物の更新となっていった。
 更に戦場で得られた経験が直ぐにフィードバックされ、機能的に優れたロボット兵士が生産、コンピューターにより欠点を改良された後継機が続々と登場し、そのスピードは加速度的な物となったのである。
 人類が戦場に出ていた頃は巨大なロボット兵器の恐竜的な進化が進み、優に百メートルを超える巨大ロボット兵器「ベリファ」「リボー」らが覇を競ったのだが、主戦力が完全なロボットに移り変わってゆくと共に人間を殺す為に必要な最低限、そして最強の兵器として進化を遂げたのが、今人類に敵対しているムーなのである。
 彼らは人を殺す為に特化した兵力として存在している。
 その為、人間の身長よりも僅かに大きい程度の体に人間の体が持つ事の出来る兵器では撃破出来ない強靱な体を持つに至ったのだ。
 何故、人間とほぼ同じ身長なのか。
 それは人間の生活圏全てに踏み込む事が出来るからである。
 彼らの世界では光線兵器は携帯出来るだけ小型軽量化が進まなかった。その為、個人携帯型の兵器としては最大の物としてRPGが設定された。
 もちろん、それらを完全に防ぐだけの体を開発していては、コスト的に釣り合わない事が確かであったので修理の利く程度の被害に留めるダメージコントロールを施されていた。
 そしてロボット兵器には人間の携帯装備としては重すぎるが、ロボットには問題なく積める光線兵器が積み込まれた。
 そしてそれらは機甲兵力、航空兵力に充分対抗出来るだけの威力と射撃管制能力を持ったロボットが操る事により、そして彼らの大量集中運用も相まって人間の軍隊では対抗出来ない物としていたのだ。
 光線兵器にとって問題となるのは上下ではなく飛距離となる。
 それまでの様に重力の制約を受ける実体弾の制約から逃れたロボット兵士達は、普通科では対抗し得なかった航空兵力、機甲兵力とも渡り合えるだけの能力を得てしまった。
 それらと戦闘に陥れば確実に被害を被ったが、相手が大量破壊兵器でも使用し無い限り確実に生き残り反撃を行うのである。
 個々の能力とそれらの連携(彼らの得意とする分野だ)によってムーの主戦力は完全に普通科に移ってしまったのだ。
 もちろんそれらの機動的な運用に必要な輸送機と護衛戦闘機は欠かせなかったが、それまで我が物顔で戦場を駆け回っていた機甲兵力はまるで山津波に飲み込まれる様に、若しくは軍隊蟻の群れに踏み込んでしまった象の様に駆逐されてしまったのだ。
 そういったムーに対して2050年代に於ける軍事力を持つ南米諸国の軍勢は対抗し得なかった。
 敵が繰り出してくる歩兵に対して、こちらの歩兵の持つ兵器はほとんど通用せず、最低限相手の行動が支障を来す程度に破壊する為に必要な火力と言えば携帯兵器ではバズーカやRPG、据え置き型としては天才ジョン・ブローニングが生み出して以来130年間に渡って愛用され続けてきたM2重機関砲が最低限である。しかもその有効射程はかなり短い。
 正面から戦うには辛うじてMBT、攻撃だけなら歩兵戦車、で対抗出来る有様なのだ。
 怒濤の如く押し寄せる圧倒的な数の前に、通常の機甲師団のみの火力では焼け石に水だった。
 斯くの如き事態にあってアメリカ軍はメキシコ南部に防衛戦を構築、地元住民の北部への移送を開始したのだが、カンペチェの近くに存在したある村の避難誘導を行おうとした所住民の強い抵抗に遭い防衛線の構築に支障が生じようとしていた。
 直ぐに後方の司令部にその情報が送られたのだが、メキシコの情報が集められていた司令部の地図上にはその村の存在が記されていなかったのである。
 実は、時空融合の際、支配率の高い世界が広い範囲の出現率を持っていたのだが、その支配域の中に於いてもその世界の占有率が100パーセントである事は少なく、まるでホクロの様に点々として異世界が出現している事があった。
 これが存在力による物なのか時空融合の際の空間湾曲波の重層による物なのかは未だに結論が出ていない。
 そしてこの村もそう言った点在するピンポイントのひとつであった為、時空融合の混乱から冷めていなかったメキシコ政府はこの村の存在を把握していなかったのである。
 この村はチラム世界に属しておらず、別の世界由来の物であったのだ。
 その村の住民達も未知の外夷が村に迫ってきていた事実は知っていたのだが、彼らがアメリカ合衆国の指図に従う事を忌避した理由があったのだ。
 彼らは南北戦争に於いて、北軍に破れメキシコへ逃れた南軍の末裔であり、ブードゥーの秘術を以て大規模な呪いを行い、その対策の為に霊子力機関の開発を促された世界、そう、サクラ大戦の世界由来の村であったのだ。
 彼の世界に於いて霊子力機関が発達した切っ掛けはアメリカ南北戦争にその端を発していた。
 南北戦争当時、工業力に於いて北軍に劣る南部州連合軍は彼らが強行しようとしていた奴隷制度の対象たる有色人種、特に黒人達の間に広まっていたブードゥー教にその戦力差を埋める代物を見いだしていたのだ。
 元々奴隷達は、部族間の抗争などにより敗れた部族が勝った部族によってアフリカ大陸各地から集められ白人の奴隷商人に売られてこの新大陸へと来る事になってしまったのだが、非常に雑多な文化と信仰を持つ黒人たちそれぞれの祖先達とつい先頃まで存在したアステカ等の高度なアメリカ先住民の信仰、そしてカソリックなどが混沌として混じり合いブードゥー教は生まれた。
 有名なブードゥー教の産物としてゾンビーが知られているが、生死の境界が薄く死の世界に近い倫理観を持つそれは、アメリカ大陸が強力に推し進め始めていた近代化の流れからは外れる物であった物の、それ故に北軍の持つ工業技術では太刀打ち出来ない特殊な能力であったのだ。
 南北戦争末期、ブードゥーの秘術士を動員した狂気の作戦が発動させられた。
 その当時では考えられない様な被害が軍人民草を問わず襲い掛かったのである。
 ブードゥー教の呪いは戦場と近隣にあった農村を襲った。
 明るい日差しが照り付ける晴天であるにもかかわらず、その呪われた地には障気が吹き荒れブードゥー教の呪いに操られた悪霊達はその地に存在した生きとし生けるものの命を奪い去った。
 将校、兵士の別を問わず、民間人であろうと全くの区別無く恐怖は襲い掛かった。
 後続の部隊がその地を訪れた時、彼らが見る事ができたものは苦悶の表情を浮かべ転がる死体のみであったのだ。
 見渡す限りの平野、村、全てに死の影が漂っていた。
 北軍兵士達は何があったのかを知る為に、必死になって生存者を捜したがその努力は報われなく終わるかと思われていた、だが、そこにはただひとつの奇跡が起こっていたのである。
 南軍が再度の侵攻を行う可能性があった為、絶望視されていた捜索を取りやめ撤収に向かおうとしていたあるひとりの北軍兵士の耳に、微かに泣き叫ぶ赤ん坊の声が飛び込んできたのだ。
 必死になって彼らが耳を澄まし、それを捜すと、非常に粗末な造りの農業用トラクターからその声は聞こえてきていた。
 そのトラクターの前には敵からそのトラクターを守るかの様に崩れ落ちた若い夫婦の死体が折り重なっており、兵士達がそのふたつの死体を脇に置き、トラクターの蓋を開けるとその中には、元気に泣き叫ぶ赤ん坊の姿があった。
 北軍兵士によって救い出された奇跡の赤子とそのトラクターは直ぐに北方へと送られ、兵士と村民を襲った敵の攻撃方法とその対策が究明された。
 その結果、何が起こり何によって防がれたかは分からなかったが、この粗末なトラクターによって敵の攻撃が防げる事が分かった為、まるっきりのコピーが大量に生産、南軍の未知の攻撃に対して配備された。
 戦争終結後、この鉛を含んだ粗末な鉄製品が南軍の呪いに対して抗力を持つ事が判明。
 この新素材シルスウス鋼を使用し、対呪術戦術兵器人型蒸気「スター」がアメリカで生産され、更にその技術が世界中に波及、その技術の流れは神崎重工へも導入され蒸気併用霊子力機関を積んだ「光武」として華開いたのだ。
 それはさて置き南軍の呪術攻撃も虚しく、北軍は南軍を蹂躙、南北戦争は北部連合の勝利に終わった。
 しかし、民間人に対する大量虐殺は当時の世界を支配していた倫理観に受け入れられるものではなく、容赦ない追及が南軍のブードゥー呪術部隊へと突き付けられた。
 捕まれば死刑は免れないと知った白人将校は部下を引き連れメキシコへと逃亡したのである。
 その末裔が彼らであり、それ故にアメリカ合衆国軍の命令には絶対に従う事は出来なかったのである。
 逃亡後に落ち着いた彼らは、北軍の追及を逃れる為に戦力を貯め込んできていたのである。
 自らの肉体をも捧げて。


 村の自衛団は来るべき日の為に50年来もの間蓄えてきた力を迫り来る敵に向かって放つ事を厭わなかった。
 一般兵としての訓練を積んだ若者達はもはや骨董品とも言える銃器「ピースメーカー」を構え、その後方の村では敗戦後に死の床に就いた先達達が屍霊術師達によって墓場から呼び起こされていた。
 彼らがこの地に落ち着いて直ぐの頃にブードゥーの本場ハイチから呼ばれてきた術師達とその弟子達によりゾンビーとして呼び起こされた先達達の死体は生々しい死体からまるっきりのスケルトンまで多種多様であったが、禍々しい気配を漂わせ行列を組んで村から出ていった。
 そして呪術師達は生け贄を捧げつつ、悪霊達への呼びかけを始めていた。
 その頃、アメリカ統合本部はメキシコ南部へと着々と防衛線を構築していた。
 その西端に例の村がある事は報告されていたが、正式にカウントされていない村の事など彼らの眼中にはなく、驚異的な存在であるムーのロボット軍団に対する対策が先行していた。
 最優先で配備されたMBTが壕の中でムーの軍勢が来るのを待ちかまえ、その後方には支援砲撃用の火砲陣地が築き上げられていた。
 更にその後方には、各武器メーカーが供与された重力制御装置を用いた最新鋭の試作兵器によって創り上げられた実験部隊の実戦投入の機会を待ち受けていた。
 そのどれもが今までは実現出来なかった代物である。
 重量のしがらみが無くなるだけで今までは不可能とされていた兵器の実現が可能となったのだ。
 メーカー側も張り切って新兵器の開発に勤しんでいったのだが、果たしてそれが本当に実用的なのか分からなかったのだ。

 兵装は相手によって適した物が存在する。
 幾らムーの戦闘ロボットに対して機関銃が効かないからと云っていきなり戦車の主砲を以て当たるのは「・・・牛刀を用いる・・・」と云う諺の如く行き過ぎだからだ。
 そう云う理由から、現MBTを開発した戦車メーカーが開発したのは、ムーの戦闘ロボットに対して有効な口径を持つ連続射撃が可能な砲塔を多数装備する多砲塔戦車であった。
 多砲塔戦車が実用的ではないとされ、実現される事がなかったのはそれなりの理由が存在していたからだが、コンピューターによる火器の高度な管制システムと自動装填装置による乗員数の軽減、そして重力制御システムがそれを実現可能なものにまで引き上げていた。
 対装甲兵士掃討用多砲塔戦車「DEVIL FISH」10台は多数の無限軌道を腹の下に抱え、敵に対して自らが投入されるタイミングを待ちわびていた。
 それとは逆のアプローチを行う兵器メーカーも存在していた。
 「DEVIL FISH」が敵の攻撃を分厚い多重装甲によって防ごうとする代わりに、高機動を以て敵の攻撃を交わし有利なポジションから攻撃を仕掛ける事を目的にしたのが軌道降下戦闘機「ブロンコ II 」を開発したUS−AA(合衆国航空兵器工廠)社<近年益々新型機の開発には資金が必要となり、競争力を増す為に合併を繰り返した挙げ句の果てである>である。
 従来有していたバルカン砲を55ミリに変更し、地上スレスレの高度を2本の足で駆け回る姿は火喰い鳥「クワッサリー」を連想させた。

 さて、入念に設定された防衛線の構築は数日を以て完成を見た。
 司令官はマップ上に表示される配置図を見て満足そうに肯いた。


「ハッ! 見たまえ、諸君。我々のこの布陣を! この鉄壁の防御戦を越えられる物などあろうものか」
「しかし、敵空挺部隊に対する準備が心許ないのではないでしょうか。未だ現在、ムーの作戦パターンは旧ソビエトの機甲師団の様な正面突破による蹂躙戦法しか確認されていないとは言え、もしもこの、」

 この、と言いながら彼は防衛線後方の山地を指示した。

「ベラクルス−オリサバ辺りに空挺部隊が降下、攪乱工作を行われますと、現地部隊にはかなりの混乱が発生すると思われますが」
「ふむ。キミの懸念ももっともだ。しかし、所詮はバカのひとつ覚えしか出来ぬロボット共のする事だそれ程気にする必要は無いだろう」

 一見経験則に頼りすぎた意見の様であったが、参謀本部の見解もそれを支持していた。
 曰く、現在の限りに置いては敵の行動原理は一般兵士の殺人衝動を消費させる為のものであり、一定地域に於けるより多くの人間を完全に消去しせしめる事、だけに限定されている様であったからだ。
 しかし、今までの所、ムーが敵の侵攻を完全に止めるだけの戦力と対峙した場合にどう云うリアクションを取るのか、と言うデーターは揃っていない。
 参謀本部の分析レポートにもあくまでも備えは必要である、と言う注釈は付いていたのだが。
 それにもしかすると現在までに戦場で公認未公認を含めて確認されている「ROBOT CARNIVAL」を始めとする重機甲兵器や未知の戦闘攻撃機の出動もあり得るかも知れないのだ。
 念を入れた参謀の進言によりその対策として取り敢えず万全を期す、と言う事で航空戦力の一部を割き、地上掃討攻撃機隊護衛戦闘機の他にも制空戦闘機の戦力を充分にすると言う決定が成された。


 結局、戦端が開かれる事となったのは4月の初旬に入ってからである。
 その間にも日本本土ではDr.ヘルによる東富士演習場での陸上自衛隊総合火力演習襲撃事件が発生しており世間から硝煙の匂いが絶える間はなかった。
 その間にも布哇にて出動の準備を整えていた元連合艦隊に所属していた戦艦群、現在は大幅な装備変更が行われ近代化以上の未来化とも言える装備に身を包んだ打撃護衛艦を中心とした中米派遣軍は作戦開始日時の変更をアメリカ軍より受け、作戦海域から一時的に離れた場所で待機していた。
 もちろんその間も無人偵察機用にわざわざ三段甲板式に再改装された赤城から無人偵察機が連日カタパルト射出され、南米大陸に対する偵察が続行されていた。
 彼らの本来の目的は南米に残された邦人の救出作戦である為、この作戦の遅延が致命的なものにならないかが懸念されたが幸いな事にアンヘル基地の偵察映像では未だに健在である事が確認されていた。
 そしてこの作戦を実行するに当たっての懸念であった侵入と退却ルートが同一であると言う事に対する対応が取られ、太平洋側から侵入したグロイザーXはそのまま南米大陸を突っ切り大西洋側へ突破する事が可能となったのだ。
 その為に九条外務相に指揮された外交官達は散々な苦労を払ってそれを可能とする外交的成果成果を上げたのだ。
 大西洋上にあるザンス岩礁、そこはGS世界からの情報により精霊石というオカルト資源が存在する報告が上げられていた。
 その存在と効用をアメリカに対して知られる事無く、その地を確保するという困難な事業に対する手立てとしてムーに対する監視基地としての使用を認めさせたのである。
 そしてこの時、アメリカにはテイルズ・オブ・アメリカの最中に敵地のど真ん中へ侵入し取り残された邦人救出作戦を行うと言う事は伏せられていたのだ。
 結果、作戦後にそれを知ったアメリカ政府は遺憾の意を表明する事となる。
 そしてこれは最重要機密としてアメリカには伏せられていたが、日本連合にとっての最大の関心は精霊石の発掘基地としての側面であった。
 それを隠す為にグロイザーXを使用する為という裏の理由を持っていたとアメリカに認識させ、それ以上深い理由を探らせない為の実に回りくどい方法であったが、ともあれこの無人の岩礁地域に日本連合の信託権が認められたのだ。
 尤もそれに見合っただけの援助が求められたのだが。
 日本側がここに日本が拘る姿勢を持っていない事を示す為に、九条外務大臣の指揮の下、有りとあらゆる手管を繰り広げていた。
 何故ならこの精霊石という物質の戦略的な価値をアメリカは未だに知らず、この無価値な岩礁に何かあるのではとアメリカ側に疑惑の目を向けられる事を極度に恐れたからだ。
 事実ホイットモワ大統領は日本連合側の提案に対して即決せず、態度を保留している間に調査団を現地に派遣して資源的な物から地政学的な物に対してまで徹底的に再調査を実施していったのである。
 その結果は、全くのシロ。
 彼らの全ての知識を総動員してもこの岩礁には一切の資源となる物も何もない、全くの無価値な場所であると結論付けられていた。
 位置的にも魅力が薄く、この地に拠点を設ける位なら機動部隊を展開させた方がマシだとも結論付けられていた。
 にも関わらず、日本側はこの地域の日本側として必要な物であると言う事を悟られない様、アメリカ側にはここに対する関心がほとんど無いと言う事をアピールする為にグロイザーXの緊急着陸用の基地以外にも用途がある様にと思わせる為、とある計画を推進していた。
 それが後のオリュンポス計画と呼ばれる物である。
 最初の頃はただのダミー計画の一環に過ぎなかったのだが、新世紀が進み、人類の生存が如何に危うい物かと言う事が再認識されてゆくに連れて本格的に連合政府の中で重要な位置を占めるに至って行くのである。
 この時点に於いてオリュンポス計画はまだそこまでの物とは認識されておらず、単なるカムフラージュであり、あくまでも精霊石発掘がメインであった。
 計画ではこの周囲約一〇キロ余りのザンス岩礁地域をりんくうタウン建設で培ったポリウォーターを用いたポリコン、そして新開発の発砲ポリコン等を用いて陸地化しそれと同時に地下に眠る精霊石やオリハルコン、ガンマニオン(後に発見される事になるダミュソス素子の稀少材料)と言った物質の精錬後の廃棄物を埋め立てに使用する予定である。
 後に具体化した際のオリュンポス計画は人類自体の存在を脅かす敵、及び自然現象に対する備えを行うと言う事で提案が成された国際研究機関の立ち上げ、その下部組織として現在編成が計画されている汎人類防衛機構を防衛組織として傘下に付け、その本部予定地にする物であった。
 これは人類補完機構と言うユートピア(究極の全体主義組織の事。融合後の地球には痕跡のみが存在。ガーリィガールのク・メルが所属していた世界)の存在と人類補完計画という悪夢の存在、神魔界の存在その他諸々の存在を知ってしまった日本連合が、それら超常的な存在から人類自体の生存を守る為の研究する組織を早急に設置しなければならないと考えたからだ。
 日本連合議会からは大西洋などという日本から遠い位置に設置する事に対し反対の声が上がる事になるのだが人類その物の問題であると言う事から何処の領土でもない場所にと言う理由と、交通の便等その他諸々の理由、そして神秘学的アプローチからもこの地が極めてレイライン・地脈的に見て重要な場所であると言う事からここを抑えなければならない理由が出来たのである。
 なにより南極では寒すぎた。





日本連合 連合議会


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