スーパーSF大戦 第22話



A-Part



 「アンヘル」が南米で孤立し、謎のロボット軍団の襲撃を受けてから早半年以上が過ぎていた。
 このアンヘルと云う組織の存在する場所、ベネズエラのラ・グラン・サバナと云う地方に100以上存在するテーブルマウンテンという浸食作用によって生まれた特殊な地形があるのだが、それらは生物が行き交う事の出来ない断崖絶壁つまり垂直に切り立つ岩壁に拠って外界から遮断されたテーブル状の台地、その麓にカナイマアンヘル基地は存在した。
 このテーブルマウンテンの上の台地は下界から隔離され、その狭い場所に生育する生物たちは下界の進化に影響されず独特の進化を遂げている。
 それが台地の数だけ存在するという生物学上、遺伝学上の宝なのである。
 だが、いつの頃からかその台地のひとつから通称「古代人機」と呼ばれる謎の機械生命体が活動するようになっていたのだ。
 それに対抗すべく、人機と呼ばれる人型ロボット兵器を用いた対抗組織としてベネズエラ政府によってアンヘルは作られたのだが、その母体は日本の工業会社である高津重化学工業人型特殊機能機開発部であり、現在も組織人員の大半が日本人によって運営されているのだ。
 その裏には、色々あるらしいが明らかになってはいない。
 古代人機を人里へと近寄せない為に防衛網を退いている都合上ラ・グラン・サバナ周辺を取り囲むようにして基地が点在しているのだが、その内のひとつ「カナイマアンヘル」基地には、異変勃発後約1年が経過した現在、基地要員16名(モリビト2号パイロット2名含む)及び回収隊ヘブンズ2名、そしてインカ帝国への使者団のひとりであった拝人主義のムーのアンドロイドが1名存在していた。
 現在彼らは20メートルクラスの人型機械のモリビト2号と72型作業用人機南カスタムを保有しており外部からの攻撃に備えていた。
 現在ふたつの勢力からの攻撃に晒されている彼らの未来は明るくなかった。
 ただひとつ助かった事は彼らの元々の敵である「古代人機」とムーの関係が敵対的だった事だろう。
 双方共に人類の敵で有りながら、反りが合わなかったのか顔を合わせるたびに戦闘を繰り返し、近くに潜んでいる彼らアンヘル迄手が回らないようであった。



 1年前、突然外部との連絡が取れなくなった彼らは取り敢えず無線有線などによって情報収集を行ったのだが、ラジオ、TV等の民間電波のみ為らず軍事用の電波までが完全に途切れている事を知った。
 最初は偶発核戦争(彼らは西暦一九八八年の時代から来た為、未だにアメリカ・ソ連の二大軍事大国間の冷戦下にあったので絵空事ではなかった)によって全ての電気機器が焼き切れたのかと思ったがそうでない事は明かであったし、何よりも如実に異変が起こった事を示していたのが彼らの基地の北方の地平線下より天に延びる人工の建造物であった。
 整備班若手のひとりである川本宏はそれを軌道エレベーターであると看破した。
 軌道エレベーターとは、従来では地表から宇宙へ出る為の方法はただひとつ、第一宇宙速度以上のスピードを出し重力を振り切って地球の衛星軌道上へ上がる事しかなかった、しかし、軌道エレベーターはそれを豪快な方法で回避する方法だった。
 何と地表と宇宙を一本の柱で繋いでしまい、その柱に取り付けたエレベーターで宇宙まで行ってしまおうという物だったのだ。
 これの建造は物理的技術的に想像を絶する物だが、原理は至って簡単である。
 赤道近くの地表から静止衛星軌道の重りまでの間を糸で引っ張るのである。
 そう、軌道エレベーターは重力に逆らって天まで延びる凄まじい建物ではなく、ただ単に地表と静止衛星軌道上の重りを繋ぐだけなのである。
 だが、それだけであるにも関わらずそれを実現するのに要求される構造材の耐久度は想像を絶する物がある。
 最低でもダイヤモンドを超える剛性と様々な角度に掛かる曲げ・捻れ・引っ張り・剪断・座屈モーメントに耐えうる柔性を兼ね備えなければならない。
 しかもそれをどう作るか、という問題がある。
 地表から作り始めて宇宙に到達、と言うプランが没なのは当然だろう。
 逆に宇宙で全部作ってしまい、そろそろと地上に降ろすのはどうだろうか?
 これもまた非常な困難を伴う事は必至である。
 重りと柱を同時に制御し、静止衛星に達するほどの長さの柱の先端をマッハ以下の低速で操作し地表に建造された基盤に問題なく接合しなければならない。
 大気荒れ狂う気象条件の激しい一万メートル以下の対流圏では尚更だ。
 想像しただけで微妙で扱いが難しい問題である事が分かる、しかもそれを静止衛星軌道から外れないようにロケットモーターだけで操るのである。
 少しでも静止衛星軌道の重りが軌道を外れたら、地表側の基盤からエレベーターを緊急パージして宇宙に放り投げなければ確実に重りは地球上に落下してくるのだ、それもエレベーターの総重量に等しい質量の物がである。
 しかも重りの落下地点と基盤の間を結ぶ線にはエレベーターが、周囲には破格の衝撃波が襲い掛かるし、大惨事間違いなしである。
 これらの危険な作業を比較的楽に行う為にはひとつの手段がある、重力制御だ。
 そうすれば基本的に相対速度のみを気にすれば良いのだが、よく考えてみよう、そんな技術があるのなら軌道エレベーター等という物を作る必要があるだろうか?
 いや、無い。
 製造維持管理によっぽどコストが掛かると言うのなら話は別だが。
 つまり、こんな物を作る文明というのはエネルギー的に余程せっぱ詰まっているか技術に全てを掛けた技術オタクに違いないのだ。
 閑話休題、ともかく彼らは外部との接触を試みた。
 その時点で稼働が可能だったのは回収隊ヘブンズの黄坂 南、ルイの2名に加え、先だっての戦闘で右腕を負傷し引退した元モリビト2号下半身操縦担当の小河原源太の3名だけであった。
 準備を整えた彼女らは基地に残った16名に見送られてカナイマアンヘル基地を出発。
 2日後、ラ・グラン・サバナの外れに出たナナツーウェイ・カスタムは湿原のまっただ中で文明人に出会った。
 彼らはこの地に伝わっていた過去の時代掛かった装束を着ている集団を引き連れてノロノロと南下していた。
 ナナツーウェイ・カスタムを見た彼らはそれぞれ酷く驚いていたが、引率していたチームのひとりがナナツーウェイ・カスタムに近寄ってきた。
 その緑色の髪をした幼い少女は慇懃無礼なほど畏まった調子で小河原達に話しをし出した。
 それによると原因は不明であるが、時間と空間に対して何らかの異常が存在し、異なる世界が融合しているしているというのだ。
 信じがたい話しであったが、その少女が自分の胸のパーツを開けた途端納得した。
 少なくとも彼らの世界にこんな精巧なアンドロイドが存在したという話は聞いていない。
 それは人機という人型ロボットを運用している彼らにとって十分納得のいく証拠であったのだ。
 彼女の説明によると、彼女たちの世界は戦闘用のロボットが暴走し既に人が死に絶えた世界であり、その血に飢えた戦闘用ロボットはこの世界で生きた人間を目の当たりにした瞬間からその攻撃本能を満たす為だけに人間を虐殺し続けている。と言う事であった。
 しかもその戦闘用ロボットの群れ、この時点ではまだ秩序だった戦闘行動を取れて無くまさしく手当たり次第と言った感じの集団が直ぐ北にまで来ている言う事であった。
 彼ら引率のムー製のアンドロイド達は、同じくムー製でありながら人間の敵となった戦闘ロボットからこの地に出現した人間、インカ帝国とその支配地に住んでいた人間達を守る為に南へ、そして先行しているアンドロイドと工作ロボット達の手によって作られている船に乗りオセアニア方面へと逃亡するとの事であった。
 少女型のアンドロイドは彼らも共に来て欲しい旨を伝えるが、彼らもまた守るべき物があると云う事でそれを断った。
 そして逃亡の一団が消え去った後には、そのアンドロイドの少女も残っていた。
 彼らムーのロボット達にしてみれば、例え武装していようとも人間は守るべき物であり決して見過ごす事は出来ないのである。
 かといって力仕事の出来るアンドロイドをこの集団から裂くわけには行かないと言う事で彼女が選抜され、情報源として彼らに仕える事になったのである。
 そして小河原達は彼女の言う事が本当なのかどうかその目で確認する事になった。
 数キロ戻った地点に割と規模の大きい湖沼があり、その中にアンブッシュしようと言うのである。
 これはアンドロイドの少女の情報から得られた事実を元に考えられた。
 このナナツーウェイ・カスタムは敵、古代人機から逃れやすくする為マット地の灰色にて塗られているのだが、そこかしこに作業時の危険軽減の為に虎柄や黄色が使われていた為それらをネットと草でカムフラージュし、コクピットを除く機体の大半を沼の中に沈めた。
 暫く待つ事3時間。
 沼の前に開けた草地に約2メートル前後のロボットの群れが姿を現した。
 それらの総数は200体を超えており、ほぼ無秩序に辺りを徘徊していた。
 光り輝く光学センサーが辺りを走査し、草の根を分けての大捜査が行われたのである。
 しかし何故か沼の中への捜索は行われなかった。
 基本的に金属製と云う事もあるのだろうが、実はこの頃のムーの戦闘ロボットの整備状態は最悪であった。
 基本的に彼らは最低限必要な社会規模しか維持しない性格を持っている。
 逆に言えば、それらが必要となった現在、全てをそれらの再生産と維持に回す事は確実だったが。
 然るに彼らの世界に於いて既に人間を滅ぼし尽くし戦う相手を失ったムーのロボット集団の統制装置は現在、最低限のロボットの整備と生産工場のみの維持に当たっており、余剰機械は倉庫に放りこんでいたのだ。
 それが急遽必要となった為、ろくな整備も行われず戦闘に送り込まれていた。
 彼らの戦闘回路は整備不良に対しては不満足な演算結果を弾き出したが、それ以上に人間を殺戮する悦びに満ちあふれていたのである。
 だがその為に、機体の稼働状態に支障を来すような環境である液体、不純物が多量に含有されるH2Oに侵入するのはリスクが大きいと判断し、これを回避したのであった。
 いつまでも続くそれらに飽き飽きした頃、一本の通信がナナツーウェイ・カスタムに入った。
 彼らの基地からラ・グラン・サバナに張り巡らされた対古代人機用のセンサーが古代人機の出現を捉えていたのだ。
 しかも出現位置は彼女たちの位置から僅か3キロの地点であり、毎時20キロでこちらに向かっている、との事である。

「ちょっ、ちょっと待ってよ。こっちは戦闘用じゃないのよ」

 と黄坂南は叫んだが、もちろんそんな事は敵にとってお構いなしであった。
 毎時20キロ、木々を薙ぎ倒し進む古代人機にとって3キロなど9分で走破してしまう距離であった。
 60メートルを超えるピンピンと髭を伸ばした鍵穴のようなオブジェ、としか表現出来ない何かしらが忽然とそこに存在していた。
 見つからぬようにと息を潜めるナナツーウェイ・カスタムの3名+1名の目の前で戦闘が始まった。
 双方とも人類に敵対する機械であるにも関わらず、共闘は有り得ないらしい。
 これがギャングのショバ争いの様な物なのか、それ以外の理由があるのかはともかくとして彼らはそれを見ているしかなかった。
 古代人機はその巨体と内蔵された火器、ムーのロボット兵は両腕に内蔵された光線兵器と人類殲滅戦の際に使われたであろう戦闘車両を以て戦闘を行った。
 文字通り「観戦」する事になった小河原達はムーの意外な戦力に唖然とした。
 無数のロボット兵が放つ光線兵器は少しずつだが確実に古代人機の装甲を灼いた。
 叩き潰しても叩き潰してもそれらの攻撃は止む事はなく、遂にムーのロボット兵の大半を叩き潰した時には古代人機にも無視し得ない損傷が与えられており遂に最後の攻撃、倒れ込む事による押し潰し攻撃によって双方共倒れとなったのであった。
 それらの記録を携えた小河原達はナナツーウェイ・カスタムを基地へと向け、帰路に就いた。



 それから約1年の間。
 この辺り一帯はムーと古代人機の戦闘領域と為っており、それに紛れる形で彼らは生き延びる事が出来た。
 この頃、南米大陸に生存している人類は彼らだけであり、他の人間達は運良く逃げ延びる事が出来た者以外は全滅していたのである、不幸中の幸いと言えるかも知れない。
 だが、そんな彼らだからこそ、この南米大陸で起こっている事態の異常性に気付いたのだ。


 ムーのロボット兵と接触してから約6ヶ月後のある日、モリビト2号下半身担当パイロットとなっていた津崎青葉14才が朝の散歩に基地内を彷徨いていた所、基地のフェンスの向こうに4メートル位の動物が佇んでいた。
 両方ともハッとして息を呑んだまましばらくお見合いしていたが、青葉が悲鳴を上げるとその動物は逃げていった。
 青葉の悲鳴を聞いた基地のメンバーが駆けつけると青葉は動物が逃げていったを指差しながら「く、熊が出たんです!」と喚いた。

 しかし、

「熊だぁ? おいおい、ここはメガネ熊のいる所から随分離れてるぞ? 見間違えたんじゃないのか? メガネだったらいるけどな」

 モリビト2号上半身担当パイロット、つまり青葉のパートナーの小河原両兵(小河原現太の息子)は眼鏡を掛けた川本を見ながらそう言って青葉をバカにした。

「それともジャイアントフットでも見たのか?!」

 彼が北米で有名なUMAの名を挙げると基地の全員が吹き出して笑ってしまった。

「ひっどぉい。ホントに見たのに!!」

 青葉はそう憤慨していたが、羆や白熊の多い北米と異なり南米にはメガネ熊ただ一種しか存在していない上に、生息域がちょっとずれていた。
 SFだけではなく、小学生の頃には通称生物博士でもあった川本は青葉にその事を説明したのだが、それでも彼女は自分が見たのは熊だったと言って憚らなかった。
 それから3日後にその件については決着が付いた。
 やはり同じように朝の散歩に出ていた両兵がフェンスの向こうに5〜6頭の巨大な動物が歩いているのを発見してしまった。
 筋肉質で4つ足であるにも関わらず前肢が腕のように器用に使える生物はそう居ない。
 青葉が熊と間違えたのは仕方がない所だろう。
 両兵に呼ばれてその動物を見に来た川本は、一目見た途端に部屋に駆け戻った。
 皆は呆然と川本の行動を見守ってしまったが、暫くすると一冊の本を持って戻ってきた。
 彼が持ってきたのは「絶滅動物百科」と云う随分と読み古された本であったが、彼はその中の一ページを指差しながら興奮して話し出した。

「こっこっこっ、これを見て下さい。あの動物は一万年前にアメリカインディアンがアジアから移住してきてから千年で滅ぼされてしまった地上棲の巨大ナマケモノです!」
「「「 ナマケモノ〜!? アレが? 」」 どう見ても熊よねぇ 」
「凄い、話しには今から100年前の南米大陸の最南端パタゴニアでつい最近まで生きていた巨大ナマケモノの一種ミロドンの毛皮が発見されて以降、姿を見たという噂だけが流れていたという未確認生物だというのに! ああ、本物だぁ」

 そう言うと彼はフラフラと近付こうとしたが、フェンスに阻まれた。
 その向こうの大ナマケモノの一種、ミロドンはそんな彼の事を見ていたが特に逃げると云う事はなかった。
 実を云うと食肉目の熊と違ってミロドンは貧歯目に属する。アリクイの仲間だったりする。完全な草食動物なのだ。
 だが、熊のかぎ爪に匹敵するそれから繰り出されるパンチは簡単に人を殺せるので注意が必要だ。
 その時はこうしてこの騒ぎは収まったのだが、それから日を経るに連れて段々と見た事もない動物が増えている事が確認されていた。
 中には毛の生えた恐竜にしか見えないピンク色の2足歩行の動物が駆けていった事もあれば、プテラノドンの様な10メートルを超える翼竜が上空を滑空していた事もある。
 かと思えば、犬に似た腹に袋の着いた肉食性有袋類のボルヒエナやバクと象の中間のようなアスラポテリウム、3メートルもある亀のような装甲を持つアルマジロ、そして最も有名な剣歯虎であるスミロドンも姿を現したのだ。
 そして遠目には暴君竜や雷竜の姿すら確認された。
 過去、この南米大陸に棲息した全ての生物が現れたようである。
 後に時空融合現象の解析学で第三派として確立された「世界間種族保存現象派」が唱えた、自然の持つ大進化現象に伴う自然現象として発生した、自然淘汰の坩堝としての時空融合現象に拠るものだそうだ。
(つまり、平行世界毎に異なる生物相が存在しても良いような物なのに、ほとんど似通った生物種が存在している事から、何らかの原因により世界の壁が自然に緩む事があるのではないか? と言う説。とは言え、エマーン世界の動物種などの存在がある事から、その説の限界が示唆されている)
 調査結果によるとほとんど人間の存在しない地域、南アメリカ大陸、アフリカ大陸中央部及び南部、アジア大陸北東部に於ける大型哺乳類及び恐竜類の発生率が高い事が確認されているという。
 ファーイーストリサーチ社調べ。



 兎も角、古代人機とムーのロボット兵に加え、自然動物の脅威にも備えなく成らなくなった「アンヘル」の面々はモリビト2号を温存しながら作業用人機ナナツーウェイ・カスタムを使ってフェンスの周りに土塁を築きそれらが侵入する事のない様に備えつつ、籠城を続けた。
 既に南へ逃げようにも、この地域を除き周囲は全てムーによって包囲されているとの事であり、外部からの助けをどうにかして得なければならなかった。
 そして彼らの頭上を3回ばかりターポンが通り過ぎた頃、ようやく外部との連絡が取れた。
 基本的にムーという存在は海洋に関して関心が薄い傾向が見られる。
 その為、中華共同体が派遣したシズマ−フォーグラードライブ搭載型の潜水艦によって構成され、太平洋側から接近した潜水艦隊の無人偵察ドローンは夜陰に紛れて南米大陸への侵入を果たしたのである。
 その無人偵察ドローンは極低空を軌道エレベーターに向けて飛んでいた。
 軌道エレベーターは非常に目立つ存在であり、世界中が関心を寄せていたのだ。
 無人偵察ドローンは予定通りのコースを辿り無事に発進した潜水艦隊に回収された。
 事態が動いたのはそれの解析が始まってから直ぐの出来事であった。
 彼ら自体も期待していなかったが、一般無線周波数のデーターの受信も偵察ドローンに行わせていた、しかしそこにハッキリとメーデーが入っていたのだ。
 最初はムーの欺瞞通信かとも思われたのだが、人間との交渉を一切持とうとしないムーにしてはおかしな行動であるし、ハッキリと日本人であると明言していた為、彼らは軍の上層部にそれを緊急で連絡した。
 その情報を受け取った軍部は中華連合政府に連絡し、政府首脳は外務省を通じて日本連合政府へとその情報を引き渡したのであった。
 この間、僅かに1時間。異例の猛スピード決済である。
 そして南米に日本の邦人が取り残されている事を知った加治首相は色めき立った。
 直ぐにでも救助チームの派遣を命令しようとしたが、その任に当たる事の出来る性能を持つ機体が存在しない事がネックになり、命令を掛ける事が出来なかった。
 その他、現在ムーと交戦中のアメリカ合衆国政府にもコンタクトを取ってみたのだが、けんもほろろに断られた。
 現在彼らは一大軍事態勢(全国民に対する兵役の復活と娯楽施設の活動の制限、夜間外出禁止令を含めた厳戒態勢の発令。初めて自国が侵略の危機に立たされた事による一種のパニック状態と考えられている。自由の国崩壊の兆しはこの頃から見え始めていた)を確立し、エマーンから手に入れた重力制御ユニットを戦車等装甲車輌に搭載した龍騎兵(ドラグーン)部隊によって一大反攻作戦を計画していた。
 それまでは旧式化した装備をフル動員してムーの尖兵の侵攻を前線にて食い止めて置かねば為らず、とてもじゃないが本拠地近くへ特殊部隊隊員を送り込み他国の国民の救出等に自国の戦力を裂く事など不可能である事と共に日米安保に基づく対ムー戦争への自衛隊の参加要請と軍事物資の無償提供の要請、そしてハワイ群島の返還を要求してきた。
 もしも要求を断れば現在合衆国内にいる日本人とその財産は保証しないと言う顧問官(政府に対しての責任を持たないが、政治の実行に深く関わるロビィストの一種)の私信まで付けてである。(わざわざ私信として付けてるのは、大戦前夜に中国の市場開放を推進してきたオレンジ計画に基づく政治的追及でWW II 開戦の直接原因になった、日本政府が絶対に呑めない最終要求を突き付けたハル・ノートの様に、正式な文章の場合公文書として残し合衆国国民に公表しなければ成らないが、ただの書き付けならばそれを行う必要がない為に、外交的恫喝にアメリカが多用してきた政治的手法のひとつである。他にもスーパー301条とか国家利益の保護を理由にしたパナマ侵略とか、世界の警察を自認する団体だからであろうか、かなり強引な外交政治を執り行った過去が存在する事も忘れてはならないだろう
 実際、アメリカ政府はこの時点、外的にも内的にもかなり追い詰められていた。
 このストレスが外的に向かったのが数ヶ月後に発生したメキシコとカナダへの武力制圧であり、内的に向かったのが来年度に発生する事になるペンタゴン主導で発生した軍事クーデターである。
 それも50年前から続く軍縮で新造できない為に保存して置いた、既に製造日時より70年近く経つ腐りかけのビンテージ品である多弾頭各個多目標誘導戦略核ミサイル攻撃も止む無しと云う戦線限界ライン寸前にまで敵の部隊の侵攻を許してしまっていたからだ。
 これら米国側の要求に対して日本連合政府は彼らと条約を結んでいた先進国同盟の一角として権勢を誇っていた日本政府がこの世界に出現してない事を楯にそれを拒否したのだが、要求を受け入れなかった興進国と化した日本に対しアメリカ合衆国は対日感情を悪化、両国の間にギクシャクした物が流れる事になった。
 加治首相は健全な民間ベースでの交易を主張したのだが、50年も技術レベルが遅れてる日本に対して歴史的経緯の鬱憤もあったのか彼らはそれを拒絶した。
 この様な経緯もあってベネズエラの邦人救出には日本政府が直接行動を起こすほか無かったのである。







日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


スーパーSF大戦のページへ


SSを読んだ方は下の「送信」ボタンを押してください。
何話が読まれているかがわかります。
その他の項目は必ずしも必要ではありません。
でも、書いてもらえると嬉しいです。






 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い