第20話 エピローグ 





 あるTV局、相変わらず顔を合わせるたびにぶつかるフラワードリーム・ナナとクリィミー・マミのふたりの姿があった。
 そんなナナを黒沢ゆかりは不思議に思っていた。
 あののほほん娘がどうしてあのマミって子にだけ突っかかって行くのか。
 やはりアイデンティティ喪失への危機感だろうか。
 とは云え、ナナは現在別の事が原因で焦っていた。
 フラワードリーム・ナナ、本名は椎崎奈々、皆星女子高等学校在籍中、だがしかしそれすらも仮の名前でしかなかった。
 彼女の正体こそ世間には知られず闇の世界に活躍する怪盗、警視庁ファイルNo.008 怪盗アマリリスであった。
 人に知られると困る代物、盗品であったり密売品であったりを所有する者達から失敬するのが彼女の仕事である。
 そう言った者達は、例え盗まれても被害届を出せば却って自分が摘発されてしまうから騒ぎ立てる事すら出来やしない。また、他人に知られると困る秘密を多く抱えている為、それらを隠し通す為に自費を投じて厳重に警備を固めている事が多いのである。
 余程際立った盗みの技術がなければ手も足も出せないのだ。
 そう言う相手は社会的に悪人と呼ばれる相手が多い事から、彼女はそれらを懲らしめる義賊と考えてしまいそうだが、さに非ず。
 あくまでも他人の所有物を無慈悲に霞み取る泥棒族である事に間違いはないのだ。(泥棒は職業ではない、その証拠に失業保険は効かないし・・・まぁ、失業保険が効かないからと言って職業ではないとも言い切れないが)
 No.008と言う事からも分かる通り、裏の業界に於いて怪盗と呼ばれる程の腕前を持つ者は少なくそれなりに尊敬されるし、それ以上に畏れられているのであるが、正体は若干17歳の少女である。
 彼女は盗品の売買や目標の情報を得る為に必要なそれなりの情報網を持っているし、自らの調査能力も興信所を遙かに凌いでいる、いるのだが、どうしてもマミの正体が分からないのだ!
 得意の変装術を駆使しての尾行に始まり、スガちゃんが開発した超小型にして超高性能の追跡用発振器を張り付けての追跡、情報屋への調査依頼、全てが空振りに終わった。
 一度など、発振器の後を着けていったらいつの間にか小学高学年の女の子の背中に貼り付け替えられていて、散々に振り回された事もあった。
 スガちゃんは「これは一度貼り付けると剥がれるなんて事はないですし、もしも貼り付け替えられても直ぐに分かる筈なんですけど・・・おかしいなぁ」と首を傾げていた。
 つまり、マミは自分がナナに付けられているのを承知している上で知らんぷりしているのだ、そう結論付けた。
 一度挑戦されると燃え上がるのがナナである。
 彼女は再度自ら尾行を行い、その正体を突き止めようしていた。
 尾行の前、彼女は入念なチェックを自宅で行っていた。

「スガちゃん、この発振器の機能は?」
「もうバッチリですよ。その時の情報までが発信されますから相手がそれに気付いて貼り替えても直ぐに対応がとれます。これでダメだったら相手の正体は幽霊かなんかのオカルトでも使ってるとしか思えません」

 それを聞いた途端ナナはそれまでの自信満々な顔を潜めて血の気の引いた声で捲し立てた。

「ちょっとちょっと! 止めてよー、あたしそう言うの大大大の苦手なんだからぁ」
「あ、すみません。つまりそれぐらいの高性能って事ですから。安心して使って下さい」
「うん、アリガト、スガちゃん。じゃあママ、行って来るわ」

 ナナは発振器をスガちゃんから受け取ると、軽い感じで母親である椎崎雪乃に声を掛けた。
 呑気な母さんを絵に描いたようなママさんは今回のナナの行動に疑問を抱いていた。

「ハイハイ、そんなに拘らなくても良いと思うけど・・・」
「なに言ってんのよママ、あのマミは追跡されてるって知っていながら全然に何とも思っていないのよ!? これはアマリリスに対する挑戦よ」
「誤解じゃないの?」
「いいから、ママは見ていて」
「はいはい、言い出したら聞かないんだから。それでナナ、今回は海くんは連れて行かないの?」
「なんでそこで海くんが出てくるのよ」
「だって、そうすればオフィシャルな口実でデートできるのよ。そうしたら勢いの任せてナナのことを、キャー、今夜はお赤飯かしら?」

 自分からけしかけながらもその場面を想像したのか、顔を赤くして過激なことを口にし出した。
 それに対してからかわれたと思ったナナは語気も荒く言い返した。

「しません! させませんっっ!! 行ってきます!!!」

 バタンと音を立ててアマリリスは足音も高く出ていった。
 ふたりの会話を黙って聞いていたスガちゃんは、真に受けて出ていったナナに呆れてしまった。

「ナナさんも冗談だって分からないんですかね」
「冗談? 何が?」
「ママさん本気ですか?!」

 まさか冗談でしょう? と云うスガちゃんのセリフに雪乃は鼻息も荒く力を込めて断言した。

「そうよ、あのナナの正体を知りながら付き合ってくれるのは、最早地球上には彼しか存在しないわ。例えどの様な手段を用いようとも絶対にくっつけて見せます。えいえいおー!」

 まるで背後に燃えさかる炎の姿が見えるようである。
 思わずスガちゃんはタジタジとなった。

「ママさんが燃えている! ・・・でも本当は楽しいからなんですよね」
「もちろんそうよ。ホーッホッホッ!」
「・・・ママさん、芙蓉夫人が入ってますよ」
「あらっ、たまに出ちゃうのよね。映画の撮影から、ほほほ」

 スガちゃんが念の為に確認するとあっさりと肯定されてしまい「あらら」とばかりにズッコケた次の瞬間、突然艶然と冷徹無比な雰囲気を醸し出しながら笑い出したママさんに思わず突っ込んでしまった。

「やれやれ、変わった親子だ事」

 彼女が肩を竦めながら探知機が示す位置をモニターしている画面を見た。
 発振器を持っているアマリリスは歩くにしては速すぎる速度で駅へと向かっていた。

 1時間後。

『スガちゃん?』
「はいナナさんどうぞ」
『これからあの女の背中に付けるからモニターよろしくね』
「これ、ナナ、言葉遣いが乱暴ですよ」
『げ、ママ聞いてたの?』
「当たり前です。いけませんよお友達の事をあの女なんて、」
『とにかく、モニターよろしく』

 通信機から焦った様子の声が聞こえてきた。

「はいはい。こっちはいつでもいいですよー」

 P! と反応がモニターに写し出された。

『目標の背中に貼り付けたわ。モニターして』
「はーい」

 暫くその場で停止していた反応が急に動き始めた。
 どうやら中央線に乗り込んだようである。
 それからの反応は移動スピードが駅に来るたびに加減するだけで何の異常もなかった。
 すると東京都唯一の文教区(風営法特別規制区域)である国立駅で反応が電車から降りたようだった。
 それはそのまま徒歩のスピードで動き始めた。
 発振器からは異常な反応は何も検知されなかった。
 そのまま反応は南へ動き始めた。
 一橋大学の敷地に入り、四ツ池の辺りで少し彷徨いた後東へ動き出した。
 そこへナナから慌てたように通信が入った。

『ねぇ、見失っちゃった! 今反応は何処にあるの?』
「え、今は大学通りから旭通りと三小通りの交差点の中間点を多摩乱坂へ向かってゆっくりと移動中ですけど」
『わかったわ。直ぐ行くから』
「はい。でもナナさんが見失うなんて珍しいですねママさん」
「そうねぇ。居眠りしてたって出来そうなことだと思ったんだけど、本当に何かトリックでも使っているのかしら」
「はは、オカルトのですか? 冗談だったんですけど」
「私はナナをそれなりの実力を持つように育ててきました。そのナナが二度までも同じ失敗を繰り返すなんて・・・普通では考えられませんからね」







『ねぇ、反応は何処にあるの? 今国分寺まで来ちゃったんだけど』
「はいはい。えーと、現在坂を登りきった所です。さっき追い抜きませんでした?」
『マミが変装出来るような体格の女の子は居なかったわ、もちろん男の子もだけど。一〇歳くらいの女の子はいたけど。流石に体格が違いすぎるから』
「はぁそうですか。現在位置は何処ですか? 」
『いそいで戻っている所。あら、さっきは気付かなかったけどあの女の子って・・・気にし過ぎかな。こんな女の子がマミの正体の筈はないのにね 』
「一応チェックしてみて下さい」
『いいけど・・・あ、発信器があるわ。いつの間に・・・』
「ナナさん、一応それ回収してみて下さい。異常がないか調べてみますから」
『いいわ。・・・ちょっと待ってて、気付かれちゃうから、あ、クレープ屋に入ってった。・・・・・・スガちゃん一応回収したけど。あ、私はチョコクレープでお願いしまーす』
「あ、ナナさんいいなぁ」

 今回もアマリリスの挑戦は失敗に終わった。
 マミの正体とは一体何処の誰なのか? それを知る者はまだいない。





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