時空融合後、日本連合国として歩み始めた日本。
 それぞれの文化同士がぶつかり合い、歩み寄り、それまでにない状況を作り出していた。
 現在海外との貿易はようやく軌道に乗りだし活発になってきていた。
 当初、日本の科学水準の遅れから当初の見通しは暗い物であったが、活況に刺激された日本の人達はより以上に頑張り、今では多様な文明文化を元に開発された製品が各国に受け入れられ始めていた。
 メインの貿易相手は中華共同体の各種企業であったが、最近ようやく通商条約を結んだエマーン商業帝國のファトクリー達の姿もチラホラするようになってきていた。
 その特色なのだが、中華共同体との貿易の場合輸出入を取り扱う商社を通じて国内市場に商店を経由して流通。その製品が消費者との接点になる。
 その為に基本的に日本で普通に生活を行っている消費者の目の前にその本人達の姿は見えてこない物であるが、エマーンの場合、彼らは直接通商隊・ファクトリーがハウスという慣性制御技術の結晶とも云うべき移動店舗、若しくは倉庫だろうか、そのハウスを直接居住地近くの広場などを借りた上で一時店舗として直接現地民や地元商店との商売を行うのである。
 その為にハウスの中にはその土地の相手と商売を円滑に行う為に現地語を直接脳内に覚え込ませる装置すら存在するのだ。
 一応、日本国内に入る際には税関にて検査を受け、売買が禁止されている物や日本の社会通念上問題がある物の持ち込みの禁止、若しくは封印を施すことになっていたが、国内での彼らの行動はエマーン人の本能に近い「商売」と言う行動理念を満たすために行われる。
 この様な直接商売は地元商店街の利益が一時的とは言え急落する事もある為に地方によっては反発も大きいのだが、逆にお祭り騒ぎにして商売の活性化を図る商業組合も出て来るなど対応は千差万別であった。
 だが、エマーンのファクトリーが決定的な商売敵となり得ないのは彼らが基本的に流浪の民だからだろうか。
 もちろん、エマーン本国に彼らの故郷はあり、商売に必要な様々な工業製品を続々と生産しているのだが、商売を行うファクトリーの行動は気まぐれで必ずいつ何処に定期的に現れると言う事がないのだ。
 その為、彼らの様な小規模なエマーンのファクトリーに依存した商売という物はリスクが多すぎたし、消費者にとっても同様であった。
 ひとつの場所で商売心を満足させるまで働いた彼らは直ぐにその場を立ち去ってしまう、その際にも直接本国に立ち帰るわけではない。
 彼らは一時滞在地で商品を売るばかりでなく本当に価値のある特産品などを買い入れ次の場所に移る事で長い旅を続けるのが商習慣なのであった。
 この直接貿易は「海援隊」などの大小商社の大きな商売敵と成って行くのだが、1〜2隻のハウスしか持たない小さなファクトリーとは違い船団を組む大キャラバンの場合は彼らの背後にあるエマーンの有力家を通じて通常の企業と同様に大量の商品のやり取りを行うことが出来るのでエマーン=商社の敵とは必ずしも言えないようだ。
 なにより、エマーンの基本的な科学力は世界一を誇っているのだ。もちろん部分的には例外もある。その数多くの部分を日本が保有しているという事実がエマーンの牽制に成っていることも事実なのだから。
 だが、エマーンのファクトリーが残して行くのは彼らが売り捌いた商品だけではなかった。
 エマーン人達は進化の途上で身に付けてしまったとある生理的事情により男女比が1対2とその差が格段に大きく、しかも契約を重んじる彼らの性格から厳格な一夫一婦制を貫いていたのである。
 その為に彼らエマーン世界の地球では、常に男日照りの女性が有り余っている社会だったらしい。
 さて問題です。
 そんな彼女たちの前に男女比が11対10と大量の男が存在する国があると分かった場合に彼女たちはどう云う行動に移るでしょうか。
 しかも彼女たちの適齢期は15歳から19歳ととても短い。
 そして日本に移り住んだ最初のエマーン人女性、シャイア・メーソンが日本の新聞記者の高垣進策の押し掛け女房となってから3ヶ月後の9月、彼女のおめでたのニュースがエマーン中を駆け巡っていた。
 大量のエマーン人が遊覧旅行として、ファクトリー構成員としてこの地と中華共同体を訪れることになったのは云うまでもない。
 もちろん、基本的に商売がメインの目的であるが。
 それまで低迷していた国際線の路線が急に活気付いてきたのは中華共同体との商売に行き来する企業人以外にこの様な事情により利用者が増えた為なのであった。


スーパーSF大戦 第20話  アコシトマ パッタキクル ウン ウウェタシタサ





 新世紀元年12月30日
 大晦日を明日に控えた今日この日、日本各地で大きなイベントが行われていた。
 臨海副都心にそびえ立つ東京ビッグサイトでは昨日から第1回大同人誌即売会「ソビーク」が開催されており、本日は最終日を迎えていた。
 本来ならこの場所ではコミケ(=コミックマーケットの略)が開催されるところなのだが、流石に開催者不在で勝手に名前を使うわけにも行かず、設立に関する有志が集まりようやく新世紀中の同人誌即売会の開催が可能になったのだ。
 もっとも、大量の人が集まるため治安の維持や警備の都合上、人出を取られてしまう所轄の警察署である湾岸署(通称−空き地署)の面々は渋い顔をしていたが。
 特に湾岸署の署長は予算がどうの、今日は忘年会なのにだのとブツブツと呟いていたという。
 しかも今日は他にもここお台場で大きなイベントが行われようとしていたのだ。
 某TV局ビルの前に仮設された巨大なテントでは新世紀初めての年末を記念してアイドルを一堂に集めた大コンサートが行われる事になっていた。
 時空融合によって、この日本には様々なジャンルのアイドルが出現し、一体何が日本のミュージックシーンの主流に成り得るのか全く予想が付かない混沌とした状況であった。
 何しろ、演歌系アイドルと云えども刈り込んだ朴訥な青年風の青年も居れば、長髪でスマートなスタイルの少年もいると云った具合だった。
 1950年代から2010年代までの全てのアイドルが一堂に会して、それぞれの魅力を競い合ったわけである。
 流行とは、新しい物が常に全ての人に受けるわけではない。
 しかも、この世界は様々な年代から人々が集まっているのだ。
 それら全てに受け入れられるような歌手は少なく、大概は自分のスタイルが受け入れられる地方へと納まっていったようだった。
 だが、その様な状況下に於いてもほぼ万人に受け入れられるような真の実力者達は存在した。
 この当時、日本各地方のマスメディアは、まだ系列立てられておらず、混乱していたがそれにも関わらず日本全国に様々なメディアで顔を知られている数少ない者達がそれである。
 上向きの景気に人々はやる気を以て日夜労働に励んでいたが、それ故に娯楽は常に民衆に求められていた。
 時空融合後、半年以上が過ぎてくるとマスメディアを通じて流される情報から、馴染みの強い系統に人々は惹かれたがその反面、今まで接した事のない様な文化に触れカルチャーショックに近い衝撃を受けそれに惹かれる者、たまたま聞いたラジオの曲に自分の理想とする物を見つけた等、様々な感性を持つ者達の関心は自然に、いつの間にか限られた真に実力を持った者達に絞られてきたのだった。
 今回このお台場で開かれる大コンサートには、それら様々な出身の視聴者達からのアンケートを元に出場歌手が選ばれていた。
 それは演歌アイドル歌手からロックンロールまでと幅広いジャンルであったが、ここに本日の出場歌手の一例を挙げておこう。

 星野スミレ、正統派の清純派アイドルで歌に演技にと幅広い実力の持ち主である。
 ソニィ & NOVA、メインボーカルは帰化アメリカ人のソニィ そしてバックバンドのNOVAのメインギタリストにてソニィの婚約者であるバード(鳥飼)は64ビートという超々絶技巧を持つ、現在人気絶頂のバンドである。
 黒沢ゆかり、人間の限界を超えた喉を持つ現在日本最高位の歌唱力を持つ歌姫、ナナのライバル。
 帝國歌劇団、女優に歌手に踊りにと幅広い芸風を誇る彼らは又、宝塚等の少女歌劇団と人気を2分していた。
 そして、どちらが先と言うことはないのだが、キャラクターが似通っていた為、お互いに激しく切磋琢磨し合うふたりのアイドルが居た。
 ひとりはパルテノンプロに所属するクリィミー・マミ、年齢本名出身地その他の経歴、全て不詳。
 ひとりはアーサープロに所属するフラワードリーム・ナナ + アマリリス騎士団である。
 このふたり、髪型から服装までキャラクターがかち合ってしまった為事有る毎に激しくぶつかり合っていたのだ。
 今夜のコンサートも無事に済めば良いのだが・・・、現場で顔を合わせたお互いのプロダクションの社長達、パルテノンプロの立花慎吾とアーサープロの麻丘雅は溜め息をついていた。

 さて、本日はその他にも大きなイベントがもう一つある。
 時空融合の混乱で乱れてしまった物の中にスポーツ界もあった。
 下位リーグを設定してあったサッカー等は早々に順位決定総当たり戦を新世紀元年に始めていたのだが、プロ野球はそうも行かなかったのだ。
 何しろ、それまで2リーグ12球団制だった所にそれ以外の球団が出現し、スポンサーの問題等様々な問題が発生し、試合の開催が全く行われなかったのだ。
 これには世間がガッカリした。
 日本国民の国技とも言えるプロ野球が今年は見れない! 経済の伸び率が経済コンサルタントやシンクタンクの予想を僅かに下回った原因はこの性かも知れないと言う説が流れたほどである。
 だが、ようやく来年度のプロ野球開催日程が決定し、そのエキシビジョンマッチとしてオールG軍対選抜チームの試合が後楽園ドーム球場で行われようとしていた。
 少し不利な試合ではないかと思われるかも知れないがこのG軍、その選手層が尋常ではなかった。
 各世界の各時代から狙い澄ましたかの様に名選手が集まっていたのである。
 その陣容はと言えば、V9を達成した川上監督を筆頭に投手陣だけでも悲劇の投手影浦選手、全盛期の江川投手、大リーグボールを駆使する星飛雄馬投手、エビ反り分裂魔球の番場蛮投手、まだ少年ながらレインボーボールを投げる童夢くん他多数。勿論打撃陣にもON砲が現役である。
 それを迎え撃つは花形自動車工業の跡取り息子の花形満選手、堅実な打撃に定評のある左門豊作選手、物干し竿で有名なあぶさんこと影浦選手、秘打白鳥の湖の殿馬選手、名捕手山田太郎、頼れる助っ人バース選手、 etc...他多数である。
 史上最大の対決が今夜東京ドームにて開催されようとしていたのだが、あいにくと筆者余り野球に詳しくない為試合の模様は他の機会に譲ることにしよう。と言うか誰か書いて下さい。


 新世紀元年12月30日12時20分
 東京都国立市くりみヶ丘、国立駅からロータリーを左、旭通りに入り三岐路を多摩乱坂へ、坂を登りきったところから国分寺市との境界の間に彼女の住む町はあった。
 今、その狭い歩道を駅に向かって懸命に走る女の子の姿があった。
 小脇に2匹の子猫が入った篭を抱えて足に履いたローラースケート(ローラーブレードに非ず)を交互に動かして焦った様に急いでいた。

「あ〜ん、遅刻しちゃうよぉ」

 ヒィヒィ言いながら女の子は走るが、その他に声が聞こえてきた。

「おいおい、まだ大丈夫だなんて言ってたのは誰だっけ?」
「なーに言ってるのよ。アンタだって随分余裕が有ったじゃないの」
「仕方ないだろう。時計が止まってるなんて知らなかったんだから」
「わたしは何かあったら困るからって早く行こうって言ってたでしょ! 間に合わなかったらどうすんのよ」
「役に立たなかったら同じさ」
「まーっ! そんな事言うのはこの口か、この口かぁ〜っ!!」
「ひて、ひてて。止めてくれよ、悪かったよ」

 彼女はひとりで走っているのに、何故か聞こえてくるのは3人分の会話だった。
 これが腹話術なら一刻堂も真っ青だが、実際は違った。
 彼女は息を切らせながらも籠の中の子猫たちに声を掛けた。

「もぉー、ポジもネガも静かにしてよぉ。人が見たら変に、思われちゃうよぉ」
「お、悪い優、ポジの奴が過ぎたことをいつまでもよ」
「ちょっとネガ! アタシが悪いって言うの!? アンタいい加減にしないと怒るわよ」
「もう起こってるジャン」
「なんですってぇ」
「静かにしてよぅ、もう駅なんだからぁ」
「お、悪ィ悪ィ。ホラ、ポジも静かにしろよ」
「アンタこそ」
「「 フン! 」」

 ともあれ静かになった籠を下げて女の子は特徴のある駅舎に入っていった。

「えっと、ユリカモメは・・・レインボーブリッジとか云うのが無くなっちゃったから、有楽町線に乗り換えてぇTWRとか云うのに乗り換えてぇ、それから乗り換えだったよね」

 こうして森沢優は中央線に乗り、お台場の特設会場を目指した。
 だが、初めて行く所の上にうろ覚えの路線の為、ちょっとした勘違いをしてしまった。
 TWRの終点で降りると優は次の乗り換えはどこかと迷ったのだが、一緒に降りた乗客達は一斉に或る建物目指して歩き出したのである。それはもう迷いもなく。

「あれぇ、コンサート会場ってここだったっけ? 結構大きな建物だし、ま、いっかぁ! 入ってみよっと」
『おいおい大丈夫かよぉ』
『本当よねぇ、時間もないのに大丈夫かしら・・・』

 小さな声でポジとネガのツッコミが入ったが、それには構わず釣られるような感じで優はそこへ入っていった。
 入場券を取らなかった時点で「あれぇ? おかしいなぁ?」とか思ったのだが既に凄い人混みでその流れに沿って一緒に歩くしかなかった。
 長い廊下を渡ってエレベーターに近付くと一階の幅広い廊下を挟んでその両側にイベント会場が見え、そこにたむろしている人達の奇抜な格好を見た瞬間、ここがどこか優は悟った。

「あ、ここって、あれだぁ、アレ」
「アレって何だよ」
「ほら、自分で作った本とか売ったり買ったり、自分が好きなキャラクターの格好したりする所よ。うっ・・・・・・・・・・・・・・・」

 と絶句する優の目の前をペルシャの格好をしたコスプレイヤーが通り過ぎた。
 ただし、男、しかも30代と思われる。私も実在するアレを見たときは絶句した物だ。
 それは兎も角、集合時間まで残りは僅かだった。
 しかし小さな少女には、この人波は酷だった。背も足りなかったため人波を掻き分ける所か、今どこでどこに行けばいいのかさっぱり分からなかったのだ。

「どうしよう。このままじゃ間に合わないよぅ」
「じゃあ、変身すりゃあ良いじゃん」
「えぇ? だってぇ・・・」
「どのみち向こうに行ってから変身する場所を探してたんじゃ間に合わないかも知れないぜ。ここで変身しちまえよ」
「そうよ優。躊躇ってたら本当に遅刻しちゃうわよ」
「うーん、仕方ないかぁ」

 そう言うと優は時間がないため仕方なく唯一の個室、トイレに入った。容易ではなかったが。

「じゃあ行くヨ、プリティーミューテイション! マジカル・・・あれぇ?」
「おい優、巫山戯てるのか?」
「えへへ、久しぶりだったからぁ。えーっとぉ、テクマク・・・じゃなくて、テクニカ・・・じゃなくて、ベララルゥ・・・・・・ペルッコ・・・マハリクぅうううう・・・・・・あっそうだ! ピンプル・パンプル・パムポップン! パンプル・ピンプル・パムポップン!!  ・・・あれ?」
「「優、逆だろ(でしょ)・・・」」
「あ、そっかぁ。てへへぇ。パンプル・ピンプル・パムポップン! ピンプル・パンプル・パムポップン!!」

 省光量モードで変身した優は彼女の16(?)歳の姿とも未来の娘の姿とも云われている姿に変化していた。

「どぅお? 大丈夫かなぁ?」
「オッケーオッケー」
「バッチリよ」
「うん、それじゃあ行きますか!」

 20センチほども背丈が延びた彼女はステージ衣装そのものの格好で出てきた。
 すると、そこにいた人達は彼女の姿を見咎め、次々に注意し始めた。

「ちょっとアンタ、トイレでコスプレの着替えは禁止でしょ!」
「何考えてるのよぉ、マナーを守りなさいよねぇ」
「あんたの勝手のせいで私達まで迷惑するのが分からないのぉ?」

 次々浴びせられる言葉に優、いやマミは平謝りに謝った。

「は、はぁ〜い! ごめんなさぁ〜い!!」

 それを避けるようにマミは直ぐに走り去ってしまった。

「まったく・・・。でも、今の娘、凄く良く似たコスプレだったな。 本物かと思っちゃった」
「あ、あたしも! もしかして本物のクリィミー・マミだったりして」
「あはは、まっさかぁ」

 ヒラヒラの衣装のままマミは東1号館を横切り、もと来た方へ戻っていった。

「はい、そこ走らないで下さーい」
「ゴメンナサーイ」

 急いでピューっと走って行く彼女は目の前に集中しすぎていたため、人影から出てきた人間を避けきれず、そのまま正面からぶつかってしまった。
 ドン、と音を立ててマミと彼は尻餅を付いた。

「あいて!」
「ゴ、ゴメンナサァイ。急いでて、気が付かなくて、済みませんでした!!」
「いえ、大丈夫です、あなたは・・・って、どうしたんだろう、あんなに慌てて」

 尻餅を付いていたシンジは立ち上がりながら急いで走り去って行くマミを呆然として見守ってしまった。

「大丈夫ですか、シンジさん」
「うん、大丈夫だけど、どうしたんだろうねあんなに慌てて。気になるなぁ」
「・・・・・・さっきの人、・・・美人でしたものね・・・」
「えっ! いや別にそんな積もりじゃ」

 シンジは急いでルリの言葉を打ち消すが、ルリは信じていない様子だった。

「(幾ら資金稼ぎと足のためとは言え、こんな所にシンジさんを連れて来るんじゃありませんでした。でも、こうでもしないとあの人達まで付いてきてしまいますし・・・、やっぱり仕方ないですね。ヒカルさんとヤマダさんのゲキガン本かタカヤさんのヤマト本が売れたら明日シンジさんと一緒にTDLかデジャヴーランドか友引メルヘンランドか、それが混んでいるようだったら群馬ヘンダーランドでも文句は言いません。ああ、明日はシンジさんとデート。シンジさんの一日所有権を一回保留して置いて良かった) ポッ」
「あの、ルリちゃん?」
「はい。明日が楽しみですね」
「う、うん・・・とにかくサークルに戻ろうよ。店番しなきゃ」
「そうですね。でもあの人達ほとんど出歩いてばかりで私達ばっかり店番してるんですよ」
「きつい? 確か今日の朝まで製本していたって聞いたけど。無理っぽかったら天野さんに言って帰らせて貰おうか?」
「いえ、大丈夫です。直ぐに戻りましょう」
「うん。でも、無理しないでねルリちゃん」
「はい。ありがとうございます」

 そう言うとルリとシンジは少し行った所のサークル・ネルガルとスタジオ・トップに戻った。
 今回、このコミケ会場内にはナデシコ組の天野ヒカルと山田二郎、お手伝いとして昴リョーコがサークル・ネルガル、そして宇宙最強の宇宙駆けるオタク・タカヤノリコがスタジオ・トップ部隊の合体サークルで参加していた。
 そしてそこに星野ルリと何故か碇シンジはいた。
 サークルの人手不足の補充と引き換えに、静岡から東京までの足と若干の謝礼に惹かれたルリがシンジとデートしようと、2回分の一日独占権を楯にアスカ達からシンジを引き離すことに成功したのである。
 尚、山田とヒカルのゲキガン本(それぞれ個人誌。ガイは設定資料+名場面集、ヒカルはそっち向けのアレな本)であるが、ゲキガンガーはナデシコが行った超弩級要塞2015のイベントでゲキガンガーのことを知った海援隊のメンバーがアイデアを出して例の超弩級要塞2015の特殊シナリオとして後にシナリオ集が一般に販売されたため最近マニアの注目度も高く、同人誌もそこそこ売れていた。
 その後も色々な特殊シナリオ(グロブロー内部に秘匿されていた隠し属性ファイルと云う設定である)は販売を続けており、好調なセールスを続けていた。
 所で、シンジはあれ以来何度目かの碇シンジ一日独占権の賭の対象となっており、この所、ゆっくりと休日を過ごした憶えが無くなっていた。
 今日はルリが以前に保留していた分と合わせて、シンジを二日間続けて所有権を行使していた。
 シンジ談「ねぇ、ボクの自由はどこへ行ったの?」それは誰も知らない。というか元々無いような・・・自覚はなかったのだろうか。


 そんな会話が交わされていた頃、マミは無事にユリカモメに乗り込んで元の新橋方面(レインボーブリッジが時空融合に取り残された為、存在していなかった。その為、現在対岸へまでの路線が途絶しており途中までしか路線がない)に有る某局前駅、そこに設置されている大コンサート会場へ向かっていた。
 だが、車中の彼女は乗客達から思いっきり目立っており、あちらこちらからひそひそ話が聞こえてくる。
 ハッキリ言って悪目立ちしている。

 さて、その頃、銀河連邦警察捜査官にして、連邦史上最凶の犯罪者クリステラ・レビを追い続ける鉄腕バーディーことバーディー・シフォン・アルティラは、肉体を共用している相手、千川つとむに主導権を委ねてチケットを握り締めながら会場の周囲を警戒していた。
 消息筋では有ったが、レビが地球に降り立った目的と目されている「スピリット」を使用している犯罪組織がこの会場で騒動を起こすという情報を得ていたのだ。
 実際信憑性は薄かったし、下手をするとバーディーをはめる為の罠の可能性すら有ったのだが、この所全くと言っていい程レビの情報が途絶していた為、敢えて彼女はそれに乗ったのである。
 情報と共に送られてきたコンサートチケットを懐に仕舞いつつ、バーディーはつとむに指示を与えながら地元警察に目を付けられない程度に不審な箇所に調査を入れていた。

「なあバーディー、本当にレビとか言う奴が出てくるのかよ。どうもウソっぽいと思うんだけど」
<んな事、私だって分かってるわよ。仕方ないでしょぉ? アイツを捕まえるのがアタシの仕事なの。たとえ尻尾だって良いの。奴との接点を失いたくないの・・・お願い、つとむ>
「・・・チェッ、仕方ないなぁ。頼むから無茶だけはしないでくれよな」
<分かってるわよ。それからね、情報からすると今回起こるかも知れない事件には多分アイツは出てこないわ。ただ単にレビの作ったスピリットを取り引きしただけの地球の犯罪組織よ。絶対とっつかまえてゲロさせてやる>
「おいおい・・・気負いすぎないでくれよ」
<分かってる。あ、つとむ、なんかあそこの店が妖しいなぁ。ちょっと中調べてみてくれない?>
「この店かぁ・・・? っっっ何言ってんだバーディー! 入れる訳無いだろう!?」
<え、やっぱダメ?>
「じょ、女性用下着店に何か入れるかっ!! 第一レビって奴は男だろうが、何の関係があるってんだよ」
<そうかなぁ、何か引っかかるんだけど・・・ね、少しで良いから替わってよ>
「ダーメ」
<だってさっきからつとむばっかり、アイス食べたりジュース呑んだりしてるじゃない。不公平だわ>
「それはさっきからキミがこの店が怪しい、この店が怪しいって言うから仕方なくだろう」
<・・・それは結果論だと思うわ。で、つとむ?>
「何だよ・・・」
<さっきからランジェリーショップの前でひとりで喋ってるから・・・凄く目立ってるんだけど。いいの?>
「え゛っっ」

 くるぅり、と一見回し。

「ちょっとちょっと、さっきからあの子一体何なのかしら。変質者じゃないの?」
「警察呼びましょうか」
「うんうん、お願い」

 店の中では店員の女性達がつとむを見ながら何やら相談していた。
 それを見てつとむはシクシクと涙を流し、その場を後にした。

「バーディー! おぼえてろよー」
<おっほっほっほ>
「キミ、性格変わったな・・・」
<世界がこのままなら連邦警察から孤立した私達は未来永劫このままだもんねー。自棄にもなるわよ>
「頼むからボクで憂さ晴らししないでくれよーっ!!」
<あ、また独り言を叫んでる>
「・・・・・・」

 何が悲しゅうて、ボクがこんな目に合わなくちゃならないんだ。理不尽な思いを噛み締めてつとむは泣いた。
 頑張れつとむ、明日はきっと今日より良いことあるさ、つまりこれまで以上に今日厳しいことが起こるって事なんだが。
 そして数分後、つとむがいなくなった事を確認した店員は店内にいた客達にお詫びをしていた。

「済みません、お客様。さっきからおかしな子が外で騒いでいまして・・・」
「いえ、この季節柄ですからね。気にしないで下さいな。では、行きましょうかサラマンデル」
「−−はい、レビ様−−」
「ありがとうございました、お客様」
「ありがとうございましたぁ」

 クリステラ・レビとそのお付きの男性型純正アーカソイド・サラマンデルが店を後にすると店員達はお辞儀をして見送った。

「だけどさ、今のお客さんすごい美人だったねぇ。・・・兵藤まこみたいな声してさぁ」
「それよりもあの男の人、恋人って感じじゃなかったし、あの人、あのお客さん良い所の出身でその使用人とかじゃないかしら。ほら、旧華族の人とかさぁ。あの男の人、この店の中に入っても全然気にしてないみたいだったし・・・執事? って奴じゃないの?」
「ただのむっつりスケベだったりして」
「それよりももしかしてもしかしてさぁ・・・ホモだったりしてぇ」
「やーだぁ! ありそー」
「あはははは」

 しかし、外観に反して、サラマンデルは男ではなく無性であるし、レビなぞ昔は普通の男だったのに今の外観は女性を模している。とても怖い事です。
 ちなみに、バーディーにその情報源を流したのはレビの配下であり、そしてレビについて自らの論理に基づいて調べている男、そのゴメスがどれくらい地球の犯罪組織が提供したスピリットを有効に使いこなせているかの実戦テストとして、敵対しているバーディーに情報を流してその実力を図ろうとしていたのだ。





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