スーパーSF大戦 第19話


アバンタイトル



 時空統合によって引き起こされた混乱はここ、中華共同体でも様々な事件を起こしていたのだが”新”梁山泊を中心とした国際警察機構のエキスパートらの活躍によって、社会崩壊を起こすことなく落ち着きを見せていた。
 そしてこれは大変に皮肉なことだが、世界征服を目的とする秘密結社BF団の圧力によって暗黒街を中心とした社会不適応破滅性思考保持者達(チンピラ&テロリスト)による社会混乱も抑えられていた。
 中華共同体首脳部は、構成各国に働きかけ新たな国際情勢に対応すべく社会整備を始めていた。
 幸いなことに、時空転移後もシズマ=フォーグラードライブのエネルギー生成プロセスに異常はなく完全無公害のエネルギーリサイクルシステムにより時空統合以前と同じ様な安定した社会の維持が可能であったのだ。
 この世界では、紀元前二〇〇年東歴二五〇年頃の漢王朝の劉邦が冒頓単于率いる匈奴(フンヌ)に包囲殲滅されてしまい、たった二年間の短期政権となってしまった。
 そしてこの中華の地は強力な騎馬民族である匈奴の侵入により、秦以前の諸国入り乱れる群雄割拠の時代に戻ってしまったのだ。
 その為、中華諸国は皇帝を中心とした強力な中央集権社会の中国とならず、現在のヨーロッパ諸国のような様々な民族に分かれ様々な言語が話される多様な文化を持つ文明圏となっていたのである。
 それとは逆に劉邦に破れ西方へと進出した匈奴(フンヌ)の一派西匈奴、後のアッティラ大王率いるフン族として知られる一族の侵入がなく、ゲルマン民族の移動という混乱が起きなかったヨーロッパ亜大陸ではローマ帝国が衰退せずに政教一体となった政治体制を確立していた。
 後に中華諸国の植民地政策の犠牲者となり長い圧政の後、ブリタニアと燕が始めた第二次世界大戦の終結後、共産主義のローマ社会主義連邦国(ロ連)として復活した。
 と、我々の世界とは丁度逆の歴史を歩んだ世界がこの世界である。
 さて、今回の時空融合では全てが同一の時代からここに集まったわけではなかった。
 大体西暦二〇〇〇年を中心にプラスマイナス五〇〇年の幅を持っていたのだが、同じ世界であっても引き寄せられた時代が異なるという現象が起こっていたのだ。
 それは特に隣の国、日本連合国に於いて顕著であったかも知れない。
 この日本の存在は、中華共同体政府にとって困惑の中心と言っても言い存在になっていた。
 彼らの世界に於いて日本とは、正式名称を日本及び南蝦夷連合王国と称し、世界に覇を唱えた海洋王国であり世界で初めて産業革命を起こした国でもあったのだ。
 独自の歴史を持ち位置的に大陸から離れていた為に中華文明と言えなかったが、西暦に換算して西暦500年前後頃から交流が盛んになり始め、西暦一〇〇〇年頃には大陸に対してもその影響力は大きくなっていた。
 中央政権の支配が揺るいでいた当時の地方豪族や民間の武装商人が仕立てた貿易船が大陸の海岸線沿いに行う交易が行われていたのであったが、その全てが公正な交易であったことはなかった。
 彼らは利益が上がれば対等な交易を行っていたのだが、利潤が薄いと判断するや一転して手に持つ物を帳簿と筆から武器に持ち替えて海賊行為を行った為、朝鮮から黄海周辺の住民達に「倭寇」と呼ばれ恐れられていた。
 海外に対する植民も、元々海洋民族であると言う利点を活かして極めて初期から行われており、王朝政府が自ら行った大遠征事業は北の海を越えたところに新大陸を発見していた。
 この地は伝説で語られた仙人の住む島「蓬莱」から蓬莱大陸と名付けられ、早速植民が行われていた。
 太平洋沿いに最も北アメリカ大陸に近いと云う利点から、蓬莱との交易を行う為には外洋型の帆船が開発されるまでは日本近海付近を通らねばならずここでも倭寇の悪名は響き渡った。
(何しろ日本近海を通らなければオーストラリア大陸<日本領>を通るか、ローマを通るか、と云う限りなくコストパフォーマンスの悪い選択をせざるをえなかったのだ。)
 こうして世界に広がっていた日本の影響は蓬莱大陸(この世界のアメリカ大陸)の主要言語が日本語であったことから世界共通語として日本語が通用する程の物を有していた。
 そして現在でも王朝を有する唯一の中華文明圏の周辺国(大陸諸国はその有力さから日本王国を無視できずにいたが大陸から離れたこの島を中華文明圏とは考えなかった上に、列島の民も同一視されることを嫌っていた)であった事から、大陸の者達はやっかみも込めて田舎者呼ばわりしていたのだが・・・。
 何故かこの世界に現れた日本は一〇〇〇以上の世界が複雑に絡み合った特殊な地域になっていたのだ。
 しかも、その世界の大半が日本国王ではなく天皇を象徴とした歴史を歩んだ国であった。
 彼らの世界でも遙か昔はその自称を使用していたが、経済交流が広がるにつれて弊害が増えたことを鑑み、あっさりとその称号を放棄して国王を名乗るようになった。
 これは我々の世界と異なり国王が国家権力の実権を有る程度握っていたから出来た芸当だろう。
 我々の世界に於いては一時期の混乱期を除けばもう既に千年も前から象徴天皇制が実 行されていたのだから戦後の新憲法は事実の追認を行ったに過ぎないと言える。
(じゃなければどうして朝廷を無視した幕府なんて言う政治体制が実施できるだろうか。  元々政教一体であったこの国の政府を政治と宗教に分離し自らは実利だけを頂いて朝廷<その象徴である天皇>には権威だけを与え実際的な権限を剥奪し宗教的な部分を担当して貰い敬して遠ざける。  時に権力者達にとっては実に美味しいやり方だったのだが、ヨーロッパやアメリカでは未だに実行できない政教分離が利己的な都合から既に行われていたというのは実に興味深い。  が、深く追及すると分厚い装丁の本が数十冊にもなってしまうので簡単に済ます)
 中華共同体を構成する国々からしてみれば天皇=皇帝という名前は覇王主義として受け止められ、他の国に圧迫感を与えるだけの無意味な名前としか思えなかったのだが。
 そんな事もあり、あの皮肉と剛直した精神の国として知られていた日本連合王国がほとんど消え失せていたのは彼ら中華共同体諸国にとって大変なショックであったのだ。
 もちろん、日本連合の中にも彼らの世界由来の日本は存在していた。
 日本連合王国の首都である(悪名高き大日本博物館で有名な)京都付近、そして博多の一部は彼らの世界由来の世界から来ていたのだ。
 しかし何故かそれは行き詰まったエネルギー問題を解決するために起こった史上最大の悲劇「バシュタールの惨劇」以前の時代であったのだ。
 昭和66年、未だロ連が崩壊せず、フセイン率いる馬来軍のブルネイ侵攻によって起こった南洋戦争に多国籍軍の一員として日本が参戦したその時代の日本連合王国であったのだ。
(余談だが、この世界にも大和が存在していた。しかも実用艦として四十九才という超高齢の彼女は改装に改装を重ね、ヘリ搭載型ミサイル防空戦艦として現役であった。)


 ここ、中華共同体の燕国、北京支部にはGIANT ROBOを格納することが出来る旧原子炉跡の基地があった。
 国際警察機構の”黒旋風”鉄牛と国際警察機構最大の能力を持つスーパーロボット・ジャイアントロボを駆る少年、草間大作はBF団との戦いの合間の一時的な余暇を楽しむべく街へ繰り出していた。
 初めて出会った頃は鉄牛が大作に一方的に嫉妬していた為に関係が悪かったが、同じくBF団に人生を狂わされた2人は「地球静止作戦」から後、一転して信頼を寄せ合いまるで仲の良い兄弟のように行動を共にすることが多かった。
 もっとも、銀鈴が生きていれば「どっちがお兄さんか分かんないけど」なんて言ったかも知れないが。


 銀幕にスタッフロールが流れ初め、エンディングの壮大な音楽が流れ始めると気の早い観客達の席を立つ音がまだ暗い映画館のそこかしこから聞こえてきた。
 5分にも及ぶエンディングが終わるとその映画、燕・日本の共同製作の最新映画「奇跡の乙女・龍騎兵 姫小宝(チーシャオパオ)物語」は幕を下ろした。
 覇王将軍として名高い劉邦飛龍(ルー・パン・フェイロン)が統一中華帝国を目指した時代の時代冒険活劇は映画界にとって昔からのドル箱のひとつであった。
 その中でも最も人気の高かったのが先の姫将軍姫小宝を扱った映画である。
 以前は全員が東洋系の役者で固められていたのだが、最近の研究により彼女が西方に起源を持つ景教(ネストリウス派キリスト教徒)の信徒であり、母が涼に接する遊牧民で白人のシーリン(西鈴)で有ることからここ最近作られる映画の中では姫小宝の役は青い目に金髪をした西洋人が起用されることが多かった。
 混血と言う点からすると銀鈴が髪を金色に染めればそれこそ姫小宝の再来とでも言うべき役柄であったのだが。
 ちなみに大作は姫小宝を題材とした映画を見るのは初めてであった。
 彼の故郷は日本連合王国であったにも関わらずである。
 だが、そこには彼の数奇な人生が絡んでいた。
 「バシュタールの惨劇」とそれに続くエネルギー危機によって引き起こされた社会混乱は大作の元から母親を奪ったのだ。
 男手ひとつで大作を育てていた父の草間博士は、社会混乱の最中世界征服を狙うBF団の手に掛かり息子共々BF団の秘密基地に軟禁されたのだ。
 来るべき最終作戦GR計画の為の作戦機GIANT ROBOの研究を押し進める事を強要された草間博士は大作を人質に取られ、映画はおろか外出さえ絶対厳禁であったのだ。
 そんな大作少年が映画という大衆娯楽に疎くとも、それは致し方ない事ではなかろうか。
 だが、娯楽に飢えていた大作少年はこの映画を見て感動に光った眼で興奮気味に鉄牛にまくし立てた。

「へー、こんな凄い人が昔からいたんですねぇ鉄牛さん」
「なんだ、知らなかったのか? 燕の国で活躍したお姫さんでな、女だてらに馬を駆り、って死んだ姐さんに聞かれたらド突かれちまうな。まぁそのお姫さんは鉄砲を持ち当時の新機軸、機動力と火力に長けた騎乗歩兵軍団「龍騎兵」を創り上げたんだ。そして国に襲いかかる敵をうち倒してきた豪傑よ。最後は車旗将軍にまで登り詰めたんだ。いまでは燕の国だけじゃなくて全中華文明の英雄として慕われて居るんだぜ」
「へー。鉄牛さんて物知りなんですねぇ」
「ちぇっ、こんな事誰でも知ってらぁ。自慢したら恥かいちまうぜ」

 鉄牛はゴツイ体を縮めて照れてしまった。
 体力自慢な彼がこう云う方面で誉められることなどこれまでついぞ無かったことだから不慣れなことに困惑してしまったのだ。

「あ〜、そうそう。姫小宝だけどな、最近までは黒髪の女優がやることの方が多かったんだぜ」

 ここで調子に乗った鉄牛は自分の知っている知識を捲し立て始めた。

「え、だってハーフの方だったんでしょ? 」
「うん、まぁそいつぁそうだったんだけどな。燕の国のお姫様だったろ、それが南蛮人との混血だって言うのはな、国として恥ずかしい出来事だったんだろうよ。当時の常識としてはな、だから燕の歴史書にはそこら辺がハッキリと記されていなかったんだ。それにホラ、銀鈴も混血だったけど黒髪だっただろ」
「はい・・・」
「それを前提にして二四五〇年に東映で公開された映画があってなぁ。それが凄い傑作だったもんで黒髪の姫小宝が定着しちまったって訳だ。昔、一度見たことが有るんだが、李 青玉(リ・チュンユ)が素敵だったぜぇ。うんうん」

 鉄牛が以前に見たその映画のヒロインの姿を思い浮かべていると、彼のとなりに座っていた女性が話し掛けてきた。

「あら、貴方もあの映画を見たんですか? 本当に素敵でしたよね李青玉の小宝の姿」

 映画館の座席は半分方空いていたのだが、その女性は何かを考えるような表情で虚空を見ていたのだが(ボーっとしていたとも云う)、鉄牛が彼女の知る映画の話をはじめた為、意識がこっちに戻ってきたらしい。
 彼女は昔から姫小宝の熱烈なファンで、件の映画の時など映画が終わっても席を立とうとしない響に呆れた友人達が先に帰ってしまった事にも気付かず最終上映まで見続けてしまったほどの熱の入れようだったのだ。
 そんなこんなで小宝については少しうるさい響は、鉄牛のでかい体にも物怖じせずにニコリと微笑み掛けた。
 過去に於いて九州男児と東男を誑かし、政治の中心を京都に留め続けてきた最大の原因、京女の微笑みはこの日本連合王国上院議員鷹司公望卿息女にも無事に受け継がれていたようである。
 今までその乱暴そうな風体から女性には敬遠されてきた鉄牛であったので、この突然の出来事に一瞬呆然としてしまった。
 目が点になっている鉄牛は取り敢えず同意し「ああ・・・」と声を返してしまった。

「そうですか、やっぱりそうですよねぇ」
「え? あ、あのぅ。どちらさんで・・・」

 ついぞ無い気弱な態度で鉄牛は聞き返した。
 歴戦のエキスパートとはいえ、この様なシチュエーションは慣れていないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
 その時、ようやく自分が名乗りもしないでいたことに気付いた彼女は恥ずかしそうに手を離してチョコナンと椅子に座った。

「あ、どうも済みませんでした」

 それまでの勢いは失せ、どことなくおっとりとした口調で彼女は話し始めた。

「わたくし、日本から来た鷹司 響と言います。どうぞよろしくおねがいしますね」

 改めてジックリと見てみると彼女は日本人、いや東洋人にしては珍しいほど長い足をしていた。その他の部分、バランスも銀鈴には劣る物のなかなかの物だった。
 だが、そんな彼女の魅力的な体付きに対して彼女の上官であり彼女が操縦する戦闘ヘリのガンナーで相棒の松浦中尉はそんな彼女を初めて見た時に、当時の相棒に極めて簡潔に述べたことがある。
 曰く、極めて騎乗に向いた体格をしている、と。
 だが、そんな朴念仁の代表格である松浦中尉とは異なった感想を鉄牛は持ったようだった。
 う〜ん、イイ。
 思わず鼻の下を伸ばしてでれーっとしてしまった。

「わたくしはすこし長い休暇を貰いまして、初めて憧れの燕に来ましたの。私のいた時代よりも少し時代が下っているとは言え、やっぱり姫小宝といえば龍騎兵、龍騎兵と言えば燕ですものね。予定では明日から王宮跡や古戦場を観光しようとしてたんですけれども、そうしたら新作の龍騎兵の映画がやってたので思わず入ってしまったのです。けれど・・・。憧れの姫小宝が白人だったので少しガッカリしました」

 その顔は本当に落胆した感じである。

「はぁ、そうですかい。しかし、事実は変えられないしなぁ」

 鉄牛がぶっぴらぼうにそう呟くと響はそれまでのおっとりとした雰囲気を一変させてムッとした顔になった。
 さっきとは異なる鉄牛の意見に「裏切り者」とか思っているのかも知れない。
 ふたりの間に何となくギクシャクした空気が流れた。
 それを察知した大作は話を変えようとした。

「あ、ところでいま日本てどうなってるんですか? ボクは元連合王国だった日本の出身なんですけど・・・」
「あらまあ、珍しいですね。時代は違いますけど私もそうなんですよ。ですけど、どうやら貴方のいた未来の時代の日本は残念ながらこの世界には来ていないようなのです。それでなのですけれど、今の日本の大半がブリタニアみたいな国になってて、とても栄光有る、若しくは斜陽の大日本帝國の面影はありません。そうそう、丁度SF作家、と言うよりもIF歴史物の作家、青木基行って人が書いた世界みたいになっているって私の職場の同僚が驚いていたわ」
「同僚ってお姉さんは働いてるんですか?」

 彼女はおっとりした感じから歳よりも幼く見えたため、良くて大学生と言った感じの女性だった。
 だが、次の瞬間気合いを入れた彼女の感じは変わっていた。

「私は日本連合王国陸軍第一龍騎兵連隊所属攻撃ヘリパイロット、鷹司響少尉と申します」

 彼女の行った敬礼は堂に入った物だった。

「オレは国際警察機構エキスパートの”黒旋風”鉄牛だ」
「ボクも同じく国際警察機構エキスパートの草間大作です」

 その大柄な鉄牛が警察の一員であることには直ぐに納得した響であったが、この子供が警察官!? 労働基準法は守られていないのかしら。等と考えてしまった。

「ええ!? ボクが警察官ですって?!」

 響のいた時代にはまだ中華共同体もなく、勿論国際警察機構もその前身である国際犯罪者相互連絡機構が設立しているばかりであったのだ。
 マジマジと見つめる響の視線に大作は居心地の悪い感じがしてモジモジと身を捩った。

「は、はい。でも正確には警察官ではなくてエキスパートですけど」
「エキスパート・・・特殊戦用訓練を受けた・・・とか?」
「いえ、まぁ。簡単に言えばジャイアントロボの操縦者なんです」
「ジャイアントロボ・・・? 」
「はい! BF団の悪のロボットを打ち砕くためにボクのお父さんが作った世界最強のロボットです!!」
「でも貴方はまだ子供みたいですけど」
「はい、でもボクは父さんからロボを託されたとき誓ったんです。父さんが言っていた「不幸を乗り越えるためには本当に犠牲が必要なのか」を確かめるって。それにロボの操縦はボクにしかできません。だからボクは鉄牛さんや他の人達に支えられながら頑張っているんです」
「それでボク、大作君は、その国際警察機構のエキスパートなんですか」
「はい。鉄牛さんを初め沢山の人達に守られて、悪のBF団ロボットと戦っています」

 大作は響の瞳を見つめながら力強くそう言った。
 それを見た響は何故か本能的に「この子は嘘を言っていない」と確信してしまった。

「ご免なさいね。わたし軍人なのですけどそっち方面の話しに明るくなくて。わたしは東歴2453年から来たから、」
「ああ、それで。じゃあ仕方ないですよ。だって、その頃ボクは姿形もなかったんですから」

 大作は無邪気に笑って見せた。

「でも本当にこの時代になって中華諸国は変わってしまったのですね。エネルギーシステムは私の知らないシズマ−フォーグラードライブと言う物が発展していますし、何か特殊な能力を持つ人達がいるようですし・・・本当に私のいた世界の未来なのかしら」

 響はその柔和な眉を顰めて首を傾げた。

「ああ、何もかもが追いつめられた人類を破滅の底から救い出す為の、画期的エネルギーシステム・シズマドライブを生み出すための一大実験バシュタールを境にして変わっちまったのさ。偉い科学者先生の云う事にゃ、あの事件を境にして物理法則が一部書き変わったという話しもある。まぁ、犠牲は嫌になるほど大きかったんだがな。それまでは確かにアンタのいた世界と同じ世界に間違いないって話だ」
「おかげで、私達の信用はかなり下がってしまったんですよね」
「? どういうことだ、それは」

 響は自分たちの世界が日本連合の中での苦境を説明し始めた。

「はい、それがこの中華共同体と異なり沢山の世界が集まってしまった日本の中で、王国議会だけが中華共同体と同じ世界の物だと言うことで日本連合政府設立の際有利な位置を占めるため使者が意気込んで中華共同体政治部へ乗り込んで来たんですけど、余りにも大陸の社会が変わってしまっていた所為でまともな交渉もできない有様でしたでしょう? それに日本連合を構成する世界の大部分が江戸を中心とした世界でしたので私達、京の都を首都とした私達は冷遇されているんですの」
「へぇ〜。アンタも色々大変なんだなぁ。ん? もしかして今回の長期休暇ってのは」
「ええ、栄光有る王国陸軍第一龍騎兵連隊は、その政治的な理由から一時的に任務を解かれてしまいまして、現在王国近衛連隊以外は次の任務が指名されるまで武装を解除しているんです。わたくしは福岡の部隊でしたので、今はレイオフ中なんです。近々辞令が降りるはずなんですけど、出来れば一緒に亜細亜の治安に貢献したいですね。もしも、私の部隊が解散されなければですけれど」

 そこまで言うと響は口籠もってしまった。
 実際はそれ程単純な問題でもないのだが、貴族で情報収集能力に長けている鷹司家でさえ、連合政府がこの問題に対してどう対処するかが判明していなかったのだ。
 だが、結局彼女の希望は近い将来に意外な形で叶う事になった。

「それで鷹司さんは」

 重苦しい雰囲気が嫌いな為に尚も話を続けようとする大作だったが、ここは映画館。しかも完全入れ替え制だったのだ。
 話の弾む3人の側に偉く迷惑そうな顔をした係員がツカツカと歩み寄ったかと思うと「エヘン!」と大きく咳払いをした。

「お客様、既に入れ替え時間は終わっています。速やかにご退出下さいませんかね!?」

 慌てて3人が周りを見てみるとガラーンとした館内と対照的に、入り口からは殺意にも似た視線が多数彼らに浴びせられていたのだ。

「あ、す、すみませーん!!」
「オウ、悪りぃ悪りぃ」
「あ、はい。大変に申し訳御座いませんでした。すぐに退出します」

 泡を食った彼らは冷たい視線が浴びせられる中、慌てて廊下を走りだしていた。





<後書き>
 初めて中華共同体の話を書きました、が、全然描写していないですね。
 基本的に GIANT ROBO THE ANIMATION.の上海や北京を思い浮かべてもらえれば・・・見てない人には訳が分からないですね。
 えーとですね、服装は基本的に古代中国式から発展した民族衣装(横山光輝の水滸伝や三国志の様な服装です)に、歴史的に匈奴の支配化に置かれたので騎馬民族の影響を大きく受けた為、スキタイ系の服装に良く似た服になっている訳ですね。
 又、この世界においては科学文明の中心がこの中華の地にあった為、メガロポリスの中心部に建つビルディングなどは昔の未来画等に描かれたような形状の物が聳え立っており、更にエネルギーシステムとしてシグマ−フォーグラードライブが採用されているため、基本的に内燃機関が発達していないので(シズマ‐フォーグラードライブは擬似気化燃料としても使用出来る為無いわけではない)雰囲気としては50年代のアメリカ的なデザインの流れも兼ね備えている、として想像してみてください。

 あと、もう一人の登場人物の女性、鷹司響(たかつかさひびき)嬢が出てくる作品の元ネタは青木基行氏が学研から出版した龍騎兵シリーズと言うものがあるのですが、青木氏が商業紙として龍騎兵を出す前に同人誌として出されていた龍騎兵の作品(大まかに分けて西暦一五五〇年代の物と西暦一九九〇年代の2シリーズ)の「龍騎兵 南へ」と言う作品です。
 これは同人誌なので、現在手に入れるのは非常に難しいでしょう。
 本来ならば同人誌の話をネタにするのは不味いと思うのですが、作品として魅力的だったと言う事と、たまたま岡田”雪達磨”さんもこの作品を知っていてファンであった為敢えて私の小説の設定の一部として入れてしまいました。
 ですが、今回の映画として出てきた「姫 小宝(チー・シャオパオ)」を主人公とした小説が前述の学研の歴史群像(新書版)として出ていますので興味がある人は読んでみてください。凄く面白いですよ。




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日本連合 連合議会


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