スーパーSF大戦



第16話 E−Part.



 Gアイランドにて順調に碇シンジのサルベージが進んでいた頃、防衛庁には緊張が走っていた。
 中部地方、笠取山レーダーサイトに正体不明の機影が確認されたのである。
 それは突然、琵琶湖のほとりに出現したかと思うとM1.5ものスピードで東京方面へと進路を取った。
 再構成されたバッジシステムにより浜松、小松の両基地よりアラート勤務に就いていたF−15Jが2機とMig−29Jが2機領空侵犯機に対して接近を試みた。
 今回の緊張の度合いはいつもとは訳が違った。
 北方にソ連、及び露西亜があった頃はバックファイアー爆撃機などが領空侵犯を犯し警告射撃をして追い返したことが何度か会ったのだが、今回は全くの正体不明機(アンノウン)であり、しかも既に日本の領土の上空を飛行しているのである。
 該当機が民間機である可能性は直ぐ行われた調査によって否定された。
 電波標識は発せられていなかった上にフライトプランの提出も行われていなかったのだ。
 それに日本上空をマッハ1.5で飛ぶ50メートルクラスの大型の機体は存在しない。
(正確には飛べる機体はあるが衝撃波の諸問題から制限されている。例:ウルトラホーク1号、3号。α号、β号弐番機やマーカライトファープ運搬機など100メートルを超えている)
 高度3000メートルまで満ちた雲を抜けると、そこには雲の海が開けていた。
 2機編隊計4機は北と南の両方向から併走するように接近を試みた。
 レーダーに映る反応は大きく、少なくとも50メートル級の機体であった。
 彼らが無線機の周波数をソ連時代に慣れ親しんだ国際規格に合わせると、未だに視界に入っていない未確認機に向かって警報を発した。
「こちら日本連合国航空自衛隊、未確認機に告げる。貴機は日本国領土を侵犯している。直ちに我に返答をし、指示に従え。繰り返す」
 しかし、再三に渡る警告にも一切のアクションも見せずに未確認機は飛行を続けた。
「こちらパパグース、アンノウンはノーリアクション。エイミーへ指示を乞う。オーバー」
<OK パパグース、フォックス−3の威嚇射撃を許可する。ママグースと共にアンノウンに接近せよ。エイミーよりトルストイへ オーバー>
<こちらトルストイ、感度クリアー オーバー>
<トルストイとミーシャはグースチームを援護、後方10キロを保って不測の事態に備えろ オーバー>
<トルストイ了解 オーバー>
 両チームはいったん未確認機の後方へ回り込むと、スロットルを開き加速を開始した。
 計4機のF−15JとMig−29Jは加速を開始し直ぐに音の壁を突き破って追跡に入った。
 すると前方に、まるで金魚の鰭のような膜状の翼をなびかせて空を斬り裂き進む物体が目に入った。
 それは航空力学を計算して作られた物ではなく、まるで人型の物を飛行に向くように無理に変形させたような航空機としては無理な形状をしていた。
 パパグースとママグースは直ぐに回避行動が取れるように警戒しながらそれに接近していった。
 その物体の左舷500メートルに接近したとき、パパグースのパイロットはギョッとした。
 その未確認機の先端部分に光る球体が彼らの方をギロリと睨み付けたのである。
「こちらパパグース! エイミーへ緊急! 未確認機は航空機に非ず、巨大生物と確認。繰り返す巨大生物と確認。目標の特長は形状は亜人形、角質化した皮膚を持ちジェット推進にて飛行している。指示を請う オーバー」
 そうしてF−15J・パパグースが基地へ緊急連絡を入れると、その怪獣に動きがあった。
 ヒラヒラとなびいていた触手が不意に2機のF−15Jに向いたかと思うと、その先端の鉤爪に灯がともり眩いばかりの光線が放たれたのだ。
 長年のアラート任務の経験から相手の行動を読みとることに長けていたふたりのイーグルライダー達は緊急出力で旋回し、その光線を避けきった。
 だが、安心する間もなく怪獣は次々と光線を放った。
 彼らは必死で、過酷な訓練でさえも行ったことがなかったような技量の限りを用いて機体を左右上下に振り子のように振り回しアンノウンからの距離を取った。
 命からがら雲の中に隠れるとパパグースは基地へ連絡を入れた。
「こちらパパグース、攻撃を受けた。不明機は光線兵器を用いて攻撃を行ってきた。指示を請う」
<エイミーよりパパグースおよびトルストイへ、要撃航空団よりの指示を伝える。航空総隊総司令部は不明機を国家安全に対する重大な脅威と断定し、直ちにこれを迎撃することに決定した。敵は現在東京方面へ侵攻している、アラート任務に就いている4機は全ての兵装の使用を許可の上、直ちに該当機を海上へ誘導せよ。高射部隊のペトリオットによる迎撃を開始する。オーバー>
「こちらパパグース了解。パパグースより各機へ、聞いての通りだ。これより攻撃を開始する。トルストイとミーシャは直ちにフォックス−1を発射しグースチームを援護、グースチームはその間に敵機の前を横切り標的の注意をこちらへ引きつける。敵の攻撃は全方位へ向けられる物と推測される。後ろにいるからって油断するなよ。では状況開始」
 そう告げるとパパグースとママグース(F−15J)は綺麗に旋回し敵に向かって突進を開始した。


 その頃、迎撃機と敵機をモニターしている航空総隊作戦指揮所の大スクリーンにはレーダーから得られた情報が表示されていた。
UNKNOWN/35.04:139.07
RJNK02−8918/35.05:139.05
RJNK02−8933/35.06:139.04
 指揮所の注目が集まるそれを余所にUNKNOWNの進路上にある都市防衛用の高射部隊から連絡が入っていた。
「第15高射隊より連絡。ペトリオットの発射準備整いました。」
「よし、射撃開始せよ」
「了解。こちら作戦指揮所、ペトリオットの発射許可が出た。直ちに迎撃を開始せよ」
 指揮所からの指示が出されると、岐阜の第15高射隊基地で迎撃準備に入っていた地対空誘導弾ペィトリオット(PAC−2・能力向上タイプ)が2発発射された。
「ペトリオット発射を確認。全弾正常に誘導を開始、命中まで後フォーティーンミニッツです」
「了解した」
 指揮官は頷くと画面に目を戻した。
 現在、画面上では敵機と2機のF−15Jがアイコンに表示され、その後方のMig−29Jから放たれた8発のミサイルが接近して行くのが確認できた。
 その内の1発がUNKNOWNと表示されたアイコンと接触した。
 一瞬、電波障害によって反応が消えたUNKNOWNを見て、指揮所に歓声が沸き上がった。
 しかし、次の瞬間、何事もなかったように飛行を続けるUNKNOWNを確認すると失望の溜め息が流れた。
「AIM−7E命中。効果見られず、続けてFOX−1 No.2〜8。目標に接近します」
 だが、ミサイルを受けたUNKNOWNの動きに変化が見られた。
 急速に速度を落としたかと思うと、空中に静止したのだ。
 接近を図っていたミサイルは予想位置から大きくずれたため、急カーブを描いてUNKNOWNの側面に次々と吸い込まれるように消えていった。
「どうだっ!!?」
 手に汗を握って効果が出たかどうかを待ったが、それは失望的な物だった。
 実は前回の怪獣出現時以来、自衛隊は対怪獣戦術に用いるには火力が不足しているのではないかという論議が巻き上がっていた。
 実際、今回の戦果を見る限りではそうとも取れる。
 だが、天然の有機系の生物であるにも関わらず怪獣達には人間の科学と工学をも超えた能力を持つ物が少なくないのだ。
 では、実際の戦闘の場で何が起こっていたのか、それを見てみよう。


 2機のMig−29J、トルストイとミーシャは翼下に吊した計12発のFOX−1(AIM−7E中射程レーダー誘導AAMスパロー)の内、計8発を発射した。
 母機から発せられ、目標に反射されたレーダー波に誘導されたスパローミサイルは急速に敵に接近していった。
 ちなみに、元々ソ連にて開発されたMig−29であったが日本の兵器体系に合わせるため、火器管制装置と共に搭載火器を日本の物と換装していた。
 また、大型の機体である事を利用して「支援戦闘機」としての任務も果たせるようにより多数の火器を搭載するためのハードポイントを増設している。
 さて、緩やかなカーブを描きながら時間差を置いて接近していったスパローミサイルの最初の一発が敵の脇腹に突き刺さり爆発した。
 一瞬の閃光に包まれた敵であったが、爆煙は直ぐに後方へ飛ばされ、無傷の体を現した。
 だが、そこで初めて敵は急速に接近する7つの光点に気付いた。
 まるで迫るミサイルを威嚇するように頭部の光源が一段と強く輝いたかと思うと先ほどの光線を発した鉤爪が複数個輝き始めた。
 すると触手全体に帯電したかと思うと、触手と触手の間の空間に荷電粒子によるエネルギー壁が形成されたのだ。
 7発のAIM−7Eの弾頭は荷電粒子による電磁障害のため、目標の50メートル手前で次々と誤爆してしまった。
 その際に生じた衝撃波と破片のシャワーは全て電磁バリアーにて弾かれて一切のダメージを与えることはなかった。
 怪獣は辺りを電子の目によって索敵し、障害がないことを確認すると再度東京方面へと侵攻を再開した。


「・・・・・・パパグースよりママグースへ」
<OK パパグース、感度良好なれど風強し>
「これより敵前方300メートルを突っ切る」
<了解、FOX−2,−3安全装置解除。敵機ロックオンOK>
「最大戦速で突っ込むぞ!」

 ふたりのイーグルライダーはスロットルを全開まで開くと機体のスピードをF−15Jの最高スピードであるマッハ2.5まで引き上げた。
 レーダースコープ上に表示された敵位置が見る見るうちに接近、併走した時点で彼らは針路を怪獣の目の前を通り過ぎるように1時の方向へ変更した。
「FOX−2、1,2ファイアー」
 彼らは充分すぎるほど近距離まで接近してから九〇式空対空誘導弾AAM−3を計4発発射した。
 赤外線誘導式の国産誘導ミサイルAAM−3は撃ちっ放し可能のミサイルである。
 機体に積まれていた時から赤外線シーカーによって目標を捉えていた彼らは、機体から放たれると同時に目標に向かって突っ走り始めた。
 機体の進行方向から右に進路を取ったAAM−3は躍りかかるように怪獣に接近した。
 しかし、驚いたことに怪獣は電磁バリアーを張ろうともせず、長く延ばした触手を振るってAAM−3四発をまるで蝿でも叩くかのように撃破してしまったのだ。
 流石にふたりのイーグルライダー達は唖然とした。
 彼らの知っている対誘導弾回避方法としてはチャフによる誤誘導と高機動回避であると教育されていたし、艦船の防御方法として対ミサイルミサイルがあることも知っていた。
 しかし、まさか機体の一部でミサイルをひっぱたくとは・・・。
 対怪獣戦闘の経験のない航空自衛隊にとって、今回の戦いは果てしなく未知数の物であった。
 だが、飛行形怪獣に対しては高機動兵器による迎撃が最も有効な戦術であることには間違いないのだ。ただ今回の場合、火力が敵の防御力のそれを下回っているという事実を除けば。
 その様な貴重な経験をしながら2機のF−15Jは怪獣の眼前を挑発しながら全速力で駆け抜けた。
 おまけにまるで尻を振るような機動を見せた後、揃ってインメルマンターンを行って上空へ敵を誘った。
 それまで敵の攻撃以外には反応しなかった怪獣であったが、流石に腹に据えかねたのか一瞬迷ったがその後を追尾し始めた。
 それを確認したF−15Jはそのまま海上へ誘導すべく怪獣の追いつける速度に減速しようとした。
 だが、それは嫌な形で止めなければならなかった。
 減速を開始しようとした途端、怪獣は飛行速度を上げ始めたのだ。
 M1.5から2! 3!! 
 なんと、この怪獣は飛行による戦闘を行うべく設計された西暦二〇〇〇年時点に於ける世界最高の戦闘機を軽く凌駕する能力を持っていたのだ。
 彼らの世界に於いてこれを振り切れる機体は辛うじてアメリカのSR−71<BLACK BIRD>が存在するだけである。
 後方より迫り来る死に対してイーグルライダー達は冷静に対処した。
 それまで並走していたパパグースとママグースであったがいきなり左右に分かれた。
 その途端、物凄いGがふたりに襲いかかったが、一瞬も気絶している余裕はなかった。
 怪獣は北へ進路を取ったパパグースの追尾入った。
 それを確認したママグースはほとんど機体の限界値を超える急速ターンを敢行し怪獣の後方へ付けた。
 そして射撃管制装置が敵をロックオンすると同時にAIM−7E2発を発射、10秒後にAAM−3残り2発を発射した。
 AIM−7Eは撃ち放しではない為敵をロックオンし続けなければならなかったが、その効果はあった。
 後方から接近してくるミサイルに気付いた怪獣は防御の為、前方のパパグースを攻撃しようとしていた触手を後方へ向けたのだ。
 触手の先端の鉤爪から放たれたビームは接近しつつあったAIM−7Eを軽く射抜いた。しかし、その隙を突いて接近したAAM−3の内一発が脚部の付け根に命中したのだ。
 我を失った怪獣はママグースに復讐すべく空中で立ち止まった。
 その瞬間、地上から放たれた<愛国者>ペィトリオットミサイル2発がその顔面に炸裂したのである。
 衝撃を受けた怪獣の顔面の光球から光が失われ、ゆっくりと海上へ向かって落下していった。


 レーダーによって状況を見守っていた作戦指揮所では、目標にペィトリオット2発が命中した途端に高度を下げ始めたことに歓喜の声を上がった。
 所詮怪獣など常識を越えたただの生き物。怪獣何する者ぞ。といった雰囲気が流れたのだが、次第に怪獣の落下スピードが鈍ってきた。
 重力加速度からすれば、大気との抵抗に拮抗するまでスピードは上がり続けるはずだ。
 だが遂に、その速度はゼロになり、その次の瞬間一気にマッハ3のスピードでグースチームに接近を開始したのである。
 指揮所の担当オペレーターは直ぐにパパグースへ通信を入れた。
「パパグース! パパグース! こちらエイミー!」


 ようやく戦闘が終わった安心感と共に巡航速度に戻ったF−15J2機と50キロほど離れた位置にあったMig−29J2機はそれぞれの所属部隊のある基地へと帰投しようと翼を翻そうとした。
 だが、眼下に広がる雲海を割って先ほど撃墜したはずの怪獣が顔面と胸部をギラギラと光らせ、復讐の念と共にF−15Jの前に立ちふさがった。
 一瞬硬直してしまったイーグルライダー達であったが、低下した速度を稼ぐために急角度のダイブを敢行し一気に高度6000メートルから1000メートルまで降下した。
 既に緊急出力や戦闘速度の長時間維持で燃料がエンプティギリギリであったが、最早躊躇している暇はなかった。
 その高出力エンジンのパワーを最大限に生かし、怪獣の追撃を振り切るため速度を上げ続けた。
 あっと言う間にマッハ2を突破したF−15Jであったが、復讐の念に駆られた怪獣にとってその程度速度は障害にもならなかった。
 そう、この邪気とも言える復讐の精神こそこの怪獣、太古に於いて第2期文明によって創造された対使徒用生物兵器「イリス」の制御プログラムに他ならなかった。
 そのイリスの胸部の奥には羊水にも似た溶液に満たされた器官があり、その背部にある巨大な単眼の前に彼、渚カヲルは苦笑したまま過去の創造者達に対して愚痴をこぼしていた。
「ヤレヤレ、<我、名帯びの神と交わりて悪しき魂と戦わん>、か。確かに、あなた方の作り出したこの兵器の精神は邪悪と呼ぶに相応しい存在ですよ。まったく、こんな所でこんな小物に関わっている暇はないって言うのに。言うことを聞かないじゃじゃ馬なんだから。シンジくんが待っているのに」
 カヲルが東の空を見ると、邪気に空を舞う戦闘機に対してビームを吐き続ける光景が浮かんできた。
「まぁこうして遊んでいるわけにも行かないな。イリスにはもう少し僕のことを見直して貰わないとね」
 そう言うと彼は彼に自分の欲求を押しつけようとプレッシャーを掛けてくる怪獣、イリスの精神圧を受け流し、イリスに対して要求を叩き付け、その精神をねじ伏せようとした。
 だがその時、彼がシンクロしているイリスのセンシング機能に何やら急速に接近してくる飛行物体が感知された。
「おやおや、現在の自衛隊の戦闘機ではこのイリスに傷を付ける事なんて出来ないのに、頑張り屋さんだね、好意に値するよ」
 と、イリスを制御しているはずのカヲルは好意的に受け止めていたが、闘争本能に火がついていたイリスの中枢制御回路はカヲルの意向を無視して新たな対象に関心を移していた。
 イリスがF−15Jを追い掛けることを止め、空中で静止し方向転換すると触手を相手に向けた。
 先端の鉤爪にエネルギーが集約を始めると光の粒子が力場によって封じ込まれ、その余剰エネルギーがチリチリとした感じで漏れだしていた。
 イリスは精神を敵に対して集中し、その狙いが完全に定まったことを確信するとそのエネルギーを解放した。
 第3使徒サキエルのエネルギー兵器にも相当するそのビームは急速に接近してきたその機体のダブルデルタ翼の一段目左翼に命中した。
 だが、その飛行機の特殊装甲、新日鉄宇宙工業製の超耐熱合金SC266は最初の数瞬に浴びた多量の熱量に耐えきったのだ。
 次の瞬間、その飛行機は機体の後ろからロールスロイス製熱核融合ロケット/ジェットエンジンHNR−031に特有の蒼白い高温ガスを吹き出すと、第一宇宙速度を突破するような加速で接近を開始した。
 焦ったイリスは矢次早に収束率の低いビーム兵器を連続で放ち始めたが、それらはその機のパイロットの絶妙な機動コントロールによってほとんどがかわされてしまい、偶に当たっても超耐熱合金SC266や対怪獣用に開発されたマットアロー1号2号の耐熱ガラスを完全に凌駕する性能を持つ放射線完全遮断耐熱耐衝撃強化透明合成樹脂製のキャノピーによって完全に弾かれてしまったのであった。
 するとそのお返しだとばかりに今度はその飛行機が高出力のレーザービームを撃ち返してきた。
 レイセオン=豊和工業製航空機搭載用ビーム兵器NLX5はイリスの展開する荷電粒子バリアーを軽々と打ち破り、イリスの触手の1本を破壊した。
 イリスは顔面の光球を苦悶の紅に染めると既に近距離まで接近していたその飛行機に向かって触手を振り下ろした。
 真っ白に光った鉤爪を先端に灯した触手はその機体の中央に命中すると思われた、だが!
 触手が当たる寸前にその機体、地球防衛軍ウルトラ警備隊所属のウルトラホーク1号は3つの機体、α号β号γ号の3つに分離して触手から逃れたのだ。
 空振りしてバランスを崩すイリスを尻目に、3機に分離したウルトラホーク1号はそれぞれの機体に応じた旋回性能を見せると各機に搭載されたビーム兵器をイリスの四方から浴びせ始めた。
 最も身軽なβ号がまるで零戦のような軽快なフットワークで攻撃しつつイリスの関心を引きイリスの触手攻撃を引きつけていると、その間に最も身重だが全翼機の強みを持つγ号が意外な旋回半径の小ささで背後に回り込みイリスの死角から接近すると、牽制のミサイルを放ちながらビーム砲とレールガンのミックス攻撃でイリスのセンサー系を攻撃しイリスを前後不覚の状態に陥れた。
 そして旋回能力に劣る分、高速飛行能力に長けたα号がカナード翼による姿勢制御によりイリスの胸部に対して長時間のビーム攻撃を浴びせ続けたのだ。
 分離した3機による絶妙な攻撃により胸部装甲が破壊されようとしたその時、突然イリスの胸部に8角形をしたオレンジ色の障壁、ATフィールドが形成されα号のビームを弾き返した。
 すると先程まで混乱に猛り狂っていたイリスはその行動を落ち着かせ、ウルトラホーク1号のコンビネーション攻撃に冷静に対処し始めた。
 イリスはウルトラホーク1号のコンビネーションを先読みし、β号の攪乱に引きずり込まれることなくγ号の攻撃を避けてα号の突進を軽くかわし始めた。
 これにはα号とウルトラホーク1号の総機長であるキリヤマ隊長も戸惑った。
 まるで先ほどとは行動が異なる。
 彼は操縦者が交代したかの様な印象を受けたのだ。しかし、一個の生物であるこの怪獣にそんな事があり得るのであろうか。
 事の真相は、それまでじゃじゃ馬なイリスの好きな様に放任していたカヲルがイリスのコントロールを掌握したと言う物であったが、それはキリヤマ隊長の想定外の事実であった。
 相手の行動パターンが変わったことに気付いたキリヤマ隊長は一旦3機を相手の射程外まで待避させると3機を合体させて相手の出方を窺った。
 そのイリスの内部では
「へぇ? 彼らもなかなかやるじゃないか。人類は自らの手で進歩を続けて行く。最早僕のような過去の遺物は必要ないのかも知れないね。だが、そうするにしても過去の因縁は断ち切らなくてはならない。それが僕の生まれた理由なんだからね、そしてイリス、キミのレゾンデートルでもある 」
 彼が静かにイリスに語りかけると、イリスも沈黙してそれを肯定した。
「僕らの守るべきは人類であり、敵は人類の敵エヴァンゲリオン。その為には彼らに退場して貰わなくっちゃ。僕らには時間がないんだ」
 カヲルのセリフと共にイリスは顔をUH−001−05に向けた。
「キリヤマ隊長」
「どうしたアマギ」
 α号の副操縦席で機首のフェズドアレイレーダーから送られてきた情報を監視していたアマギ隊員が緊迫した表情で正操縦席にて操縦桿を握っているキリヤマ隊長に報告した。
「敵怪獣に動きが見られました」
「ナニッ! で、奴は」
「ハ、機首をこちらに振り替えし急速に接近中です」
「良し、では攻撃だ!」
 キリヤマ隊長は躊躇いもなく判断すると、攻撃に最適なポジションを取るべく急上昇を開始した。
 元々ウルトラホーク1号は人類の持てる英知の全てを結集して作られた、万能航空航宙戦闘機である。
 その42メートルの機体は重力制御機関発明以前の全ての技術が使用され、重力制御もブースターも無しに単機にて大気圏外への侵攻が可能な上に、宇宙空間に於ける戦闘時間が25分間も可能なのである。
 機体の全ては新規開発されたレアメタルの塊でα号β号γ号それぞれに航空管制装置火器管制装置が組み込まれており、その他にも新技術である熱核融合エンジン1基と化学燃料式エンジン11基にVTOL専用エンジンを13基も搭載、更に空中分離合体管制専用コンピューターにビーム兵器まで搭載しているのだ。
 勿論その価格も並大抵の物ではなくこのUH−001−05<実用先行量産機>のコストはなんと1兆円を超していた。これは破格の値段と言われたF−2の119億円の84倍にも当たる。
 だが、彼らの世界は科学年齢にて3世代も4世代も進んだ異星人を相手として戦わなくてはならない状況に有ったのだ。
 その為にかなりの高額ではあったがそれに見合った能力を持つとして正当に評価され、量産体制が整えられつつあった。
 そんなウルトラホーク1号は全身を大気との摩擦熱で灼熱に燃やしながら垂直に上昇した。
 高度三万メートルまで上昇すると、機体の各部に設置されている姿勢制御用バーニアにて機体を180度回転させウルトラホーク1号を追跡して急上昇してきたイリスに正対した。
 イリスの方も、相手の動きが読めたのか先ほどのように焦って威力の弱い攻撃は差し控え、2つの触手の間にエネルギーを貯め込み始めた。
 2つの飛行物体は風を超えたスピードで急速に接近しつつあった。生と死の交差する接点へ向けて。
 急降下を開始したウルトラホーク1号は機体各部に軋みを上げながら最大戦速で急降下を開始した。
 先程からα号のコクピットには射撃管制装置から発せられる警告音が鳴り響き続けていたが、キリヤマ隊長はそれを無視して一撃必殺の位置に来るまでトリガーに指を掛けなかった。
 そして相対距離が1キロを切った瞬間、基準値を超えるエネルギーを貯め込まされていたコンデンサーのエネルギーはレーザービーム発振器へ一気に吸い込まれていった。
 熱は空気を屈折させ、レーザーの軌跡を変化させる。
 だが、この高度にある薄い空気ではレーザービームは真空に近い性質を保ち、ほぼ真っ直ぐにイリスの背部へ突き刺さった。
 一瞬、癇癪を起こしそうになったイリスであったが、カヲルの戒めの力は強く、実際にはかなり大きいダメージであったがそれを半端無理矢理に無視して触手に貯め込んだエネルギーを一気に解き放ったのだ。
 キリヤマ隊長は敵怪獣が何かを狙っていることに気付いていたが、自分の放ったビームが相手に突き刺さったことを確認すると内心、「勝った」と確信した。
 しかし、相手は見た目には手酷い傷を負っているにもかかわらず、攻撃態勢を崩さなかったのだ。
 キリヤマ隊長は直ぐに相手の攻撃を避けようと操縦桿を倒したのだが、相手の攻撃が突き刺さる方が早かった。
 また、敵の狙いも巧妙だったのだ。
 ウルトラホーク1号が航空機であることのウィークポイントのひとつ、前面に開口しているエアインテークを狙われたのである。
 イリスの放った光線はウルトラホーク1号の右側のエアインテーク、β号のそこから機内に飛び込んだのだ。
 大気圏内用のエアインテークはβ号γ号を貫いてα号の熱核エンジンのジェット用空気取り入れ口に繋がっている。
 流石に頑丈に作られているウルトラホーク1号であったが、熱核エンジンの炉心に直撃を喰らっては堪らない。
 だが、様々な状況を想定していた設計者達が作り上げたこのウルトラホーク1号には、その場合の対策もきちんと採ってあった。
 多量の熱量がエアインテーク内に検知された瞬間、β号γ号にそれぞれ設置されている空気流入量を調整していた物。
 ラムジェットエンジンの炎をも消し去るほどの多量の空気をセーブしていた装甲ダンパーが一瞬にして閉じられたのだ。
 最悪の事態を回避するためとは言え、ダメージは余りにも大きかった。
 行き場を失ったエネルギーの奔流は機体内部で膨れ上がり、一瞬にしてβ号の大部分とγ号との接続部分を弾き飛ばした。
 そしてα号との合体機構にも歪みが出た為、空力特性に重大な問題が発生し、機体のコントロールは失われた。
 β号は機体の右側が弾け飛び、もはや機体内部の単座コクピット以外は只の瓦礫と化していた。
 だが、貴重なパイロットを保護するために最大限の堅牢さを以て作られたそれはきちんとその役割を果たしていた。
 β号のパイロットであったソガ隊員は縦横に衝撃を受けたせいで気絶してしまっていたが、ウルトラ警備隊隊員用の外部からの物理攻撃を減少させる能力を持つ特殊制服を着装していたためか奇跡的に怪我はなかった。
 γ号のフルハシ隊員はβ号よりも被害が少ない上に、普段から生身で甲殻系宇宙人と格闘できるほどの強靱な体力を持っていたため多少打ち付けた顔面に痛みが走っていたが別段異常はなかった。
 さて、ウルトラホーク1号は機体に大きな損傷を受けたため、機体のコントロールを失っていた。
 これを快復させるにはβ号とγ号を分離放棄するしかないのだが、現在のβ号γ号には飛行能力は一切無いことが診断による結果を見るまでもなく明らかであった。
 幸いなことに、ウルトラホーク1号に手傷を負わせたイリスは、既にウルトラホーク1号に興味を失ったのか針路を再度東京へと向けていた。
 その為、追撃を受けて完全に撃破される恐れはなかったのだが、現在のままではγ号のフルハシ隊員はともかく、β号のソガ隊員の命が危なかった。
 キリヤマ隊長は機内通話でフルハシ隊員の無事を確認すると直ぐに命令を飛ばした。
「良いかフルハシ、良く聞いてくれ。現在我々はβ号γ号に大きな損傷を受けて墜落中だ。今すぐにでも両機を切り離さなければならないのだが、現在β号のソガ隊員が気絶しているようで、このままではソガを犠牲にしなければならない。直ぐにお前は機内連絡通路からβ号に乗り込みソガを救出してくれ。制限時間はあと90秒だ」
 それを聞いたフルハシ隊員はブルッと震えたが、直ぐにγ号コクピット下の移乗ドアを開くとB29の機内通路並みに狭いそこに飛び込んでいった。
 β号に繋がるハッチに手を掛けたときフルハシは中の状態に覚悟を決めていたが、目に入ってきたのは鼻血を垂らして目を閉じている他には異常のないソガ隊員の姿だった。
「おいソガ、大丈夫かしっかりしろ」
 フルハシはソガの足元のハッチから声を掛けるが反応はなかった。
 このままではタイムリミットが来てしまう。
 気は焦ったが、フルハシは努めて冷静に行動した。
 ソガの足を掴むと、狭いハッチに引っかからないように体を捻らせて、どうにかこうにかハッチを閉じた時には連絡から既に86秒が過ぎていたのだ。
「こちらフルハシ」
「キリヤマだ。状況はどうだ」
「はい、ソガは何とかα号内に確保しました。現在通路内です」
「分かった。こちらも余裕がないので、直ぐにβ号とγ号を切り離すぞ。その場で堪えてくれ」
「フルハシ了解」
 フルハシ隊員が返事を返すと同時に、移乗ドアの向こうから物凄い轟音が響き渡った。
 その直後、ギシギシという軋み音と共に機体にGが掛かり始め、自分が操縦していたなら兎も角、周りの状況もよく見えないフルハシは生きた心地がしなかった。
 流石に人類の英知を結集した機体だけ有って、生存性能は一級品だった。
 彼らの乗ったウルトラホーク1号は機体の大部分を放棄する羽目になったが、乗組員全員、無事に帰還することが出来た。
 しかし、作戦行動には失敗した。
 現在、怪獣は浜松の陸上自衛隊の基地上空を飛行しようとしていた。
 現在そこには、基地防衛用と言うには過剰な性能を持つ対空砲。対怪獣戦専用に組織されたGフォースという軍事組織の技術を流用した最新鋭のパラボラ式のメーザービーム砲が配備されていたのである。
 0式の持つ花弁が次々と目標を目指し、空中へとそれを向け始めたのであった。





スーパーSF大戦のページへ



日本連合 連合議会


 岡田さんのホームページにある掲示板「日本連合 連合議会」への直リンクです。
 感想、ネタ等を書きこんでください。
 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。



SSを読んだ方は下の「送信」ボタンを押してください。
何話が読まれているかがわかります。
その他の項目は必ずしも必要ではありません。
でも、書いてもらえると嬉しいです。






 ・  お名前  ・ 

 ・メールアドレス・ 




★この話はどうでしたか?

好き 嫌い 普通


★評価は?

特上 良い 普通 悪い