スーパーSF大戦



第16話 D−Part



 初号機サルベージ計画は碇唯博士指導の元、予定通り行われた。
 計画ではGGGが用意した装甲車の上に、電磁波発生器を取り付け、そこから初号機に唯一残された通信回線であるGSライドへとダイレクトリンクさせてMAGIシステムからサルベージ用のプログラムを制御させる事になっていた。
 響子が苦心惨憺の結果、ようやく組み上げたサルベージプログラムは既にデバックが終了しMAGIのメモリーにインストールが済んでおり、その管制用プログラムは現場の指示があればいつでもエヴァの中に溶け込んでいる碇シンジの精神に訴えかけられるようにスタンバっていた。
 その初号機と言えば、依然として何を考えているのか分からない様子でGアイランドの丘の上に居座っていた。
 視線は辺りを睥睨していたが、特に何をしようと言う意志は感じられなかった。
 それら全ての状況はGアイランド地下に設けられたメインオーダールームにて監視されていた。
 現在、メインオーダールームにはGGGの最高指揮官である大河幸太郎以下、GGG作戦参謀の火麻檄、GGG研究部長の獅子王麗雄、GGG諜報部メインオペレーター猿頭寺耕助、GGGオペレーターメカニック担当の牛山一男、研究部オペレータースワン・ホワイト、GGGオペレーター機動部隊担当(獅子王凱担当)の卯都木命のGGGのメンバーに加えて第3新東京大学の関係者でエヴァンゲリオン初号機から碇シンジをサルベージするために臨時で編成された対策委員会のメンバー、碇唯博士、惣流響子博士、伊吹摩耶博士と赤木理津子、エヴァパイロットの惣流・アスカ・ラングレーと綾波レイそしてモーディワープの都古麻御が詰めていた。
 サルベージ要員達は臨時に第3新東京大学のMAGIに直結させた予備コンソールに就いて作戦開始を待っている。
 既に準備は万端整い、後は作戦開始時刻である正午になるのを待つばかりとなっていた。
 作戦5分前、地下格納庫へと通ずる昇降機から特殊装甲車が姿を現した。
 遠隔操縦で所定の位置に着いた装甲車は、指向性アンテナをエヴァ初号機へと向けた。
 そして5分後。
 秒針が12時ジャストを指した瞬間、GGG長官の大河は大声で作戦の開始を宣言した。
「よぅしっ!! それではエヴァンゲリオン初号機のサルベージ作戦を、開始するっ!!」
 それを受けた赤木理津子は予備コンソールに指を走らせると、指向性アンテナから微弱な電波が発せられた。
 その電波がエヴァ初号機に付けられたGSライドの通信機構に達すると、それは返答を返してきた。
「通信状況は良好です。行けます!」
 理津子が返答すると唯は肯き返し、一連のコマンドを打ち込み正面のディスプレイに表示されたエヴァ初号機を睨み付けた。
「碇ユイ! 幾ら自分が人間の姿を捨てて永遠の孤独の中に生きていかなければならないとは言っても、幾ら寂しいからと言って自分の息子を取り込むなんて母親としてアンタは最低の存在だわ。アナタは自分の信念を貫くために最愛の夫と息子を捨ててエヴァを取ったのでしょうが。それを今更、自分の子供の自由を奪い、息子だけでなくその恋人まで悲しませるだなんて、同じ碇唯として私はアナタを軽蔑します。最初から出来もしない事をしでかしてしまったのなら、せめてその被害を防ぐのが筋って物でしょうが、それを、・・・まったく。さぁ! 今すぐシンジを解放して永遠の世界に還りなさい」
 ポチッとな。
 唯がユイに対して呼びかけながらサルベージプログラムをエヴァンゲリオンにアップロードした。
 MAGIに拠る管制を受けながら、サルベージ用の管制プログラムに続いて様々なデーターが初号機の中に流れ込んでいった。
 それらの電気信号はエヴァンゲリオンの内部に浸透し、最終的に碇シンジの要素が残っているエントリープラグに集中していった。
 グルグルと唸り声を上げる初号機であったが、そのプログラムを黙って受け入れた。
 実は、異質な信号を受け入れた初号機が暴れ出す可能性も高かった為、取り敢えず静かにしている初号機の状態を見てメインオーダールームには安堵の溜め息が漏れた。
 しかし、伊吹摩耶がモニターする初号機内部の状況には、劇的な効果を示す状況は現れていなかった。
 その様子を注意深く見守る一同であったが、大河は現在の状況を唯に聞いてみた。
「で、どうなのかね。シンジくんは助かりそうなのか?」
「いえ、これは即効性のあるプログラムではありませんから。しかし、必ずシンジを救い出せると信じています」
「そうですか。早く効果が出てくれると良いが・・・」
「ええ、しかし今はこれが精一杯です。でも、」
「でも?」
「彼がシンジである以上。必ず、答えてくれるはずです」
 唯がそう言うと、一同は初号機のモニターの状況表示に集中していった。









 その時、エントリープラグに漂うばかりの碇シンジだった液体は、希薄になった存在に触れる物を感じていた。
 今の彼には眼球も、いや、光を受ける網膜すらなかったが自分の周りの状況が見えてきた。
 それはまるで皮膚感覚みたいな光景で、上下左右360度全ての感触を見られるといった、まるで異質な状況であったが、彼はそれを違和感なく感じていた。











「あ! 見て下さい! エントリープラグ内の自我境界線が確立して行きます」
 それまで、マイクロ単位で状況をモニターしていた摩耶が、最初の兆しに気付きそれを報告した。
 それを聞いた唯達は色めき立った。
 まずは、彼らの問いかけを受け止める自我がなければ雑音領域、ホワイトノイズと言う無限情報の中に漂う碇シンジという個人をサルベージする事は不可能だからだ。
「では自我境界線が人間の覚醒レベルにまで達したら作戦の第2段階に入ります。」









 一時的に復調したシンジの意識であったが、それを引き止めようと包み込む暖かく包容力のある意識が彼の意識を再び白い微睡みの中に引きずり込もうと触手を伸ばしてきた。
『ダレ・・・?』
『もうダレもアナタを傷つけない。このままゆっくりとおやすみなさい、かわいいシンジ』
『うん、わかったよママ』
『イイ子ね、シンジ』










「大変です! 自我境界線がねじ曲げられていきます。このままではあと650秒でシンジくんの魂は完全に吸収、消滅してしまいます!」
「何ですって! おのれユイ! そこまでする?! 実の母親が! 理津子さん、至急LV3のデーターを送信、シンジの意識をこちらに向けさせるのよ!」
「は、はい! データーファイル13号送信・・・受信を確認。摩耶、どう!?」
「未だ効果は現れていません。魂の消失まであと630秒、注意域に突入します!」
 彼女たちはコンソールに向かってGUIを用いない古典的なコマンド入力を驚異的なスピードで打ち続けていった。
 GGGのメンバーもそれをサポートする形で懸命に情報の処理を続けた。
 だが、未だシンジの意識は向こう側から帰ってきておらず、折角引き上がってきた自我境界線もジリジリと後退してっいっていた。
 アスカとレイは後ろに設けられた席から皆の作業を見守っていた。
 彼女も自分を知り、誇りを持っていた人間のひとりである。
 確かに一般人から比べたら驚異的な実力を自分が持っている事を知っていたが、現在の状況に自分が入っていっても情報処理の超スペシャリスト達の邪魔になるばかりであると言うことを認識していた。
 今彼女に出来るのは、皆の作業をジッと黙って見守るだけである。









「さっさと起きなさい! バカシンジ!!」
 全身を包み込むような幸福感の中でただ何もせずにぼうっとしていたシンジの目の前に唐突に彼女は現れた。
 しかし、シンジの瞳は焦点を持たずに何処も見ていないようである。
「まったくもう! 世話が焼けるわね! アンタがそんなだからいつもアタシが苦労するんじゃないのよ」
 その少女、勿論アスカの形をした彼女はシンジの顔を両手で挟み込むと自分の方へと向けた。
「シンジ! 私を見て!!」
 アスカがそう叫ぶとシンジの瞳に光が戻って来はじめた様に感じた。
 しばらくすると、まだボーっとしていたが、シンジの視線はアスカの方を向いていた。
 それを確認するとアスカはいつものAKIMBOな姿勢で胸を張り腰に手を当ててシンジを見て不敵な笑いを浮かべた。










「あっ! シンジくんの自我境界線が、急速に覚醒に向かっています」
「よぅし! 計算通り!」
 唯はガッツポーズを取るとニヤッと笑いを浮かべた。
 それは正に、悪辣な悪魔の笑みであったと言っておこう。









 脳味噌が痺れるような眠りの中から覚めかけたシンジの目に入った物は、ショーゲキ的な物だった。
 思わず頭皮の毛穴が開ききってしまうような感触を感じながら彼はマジマジと目を見開いた。
「シンジ、私とひとつになりたくない? それはとっても気持ちのいいことなのよ。だから早く帰ってきなさい」
「ア、ア、ア、アスカァ???」
 彼の目の前には、アスカそのものの映像が余すところなく再現されていた。
 先日、響子が採取したアスカの映像サンプルはその威力を余すところなく発揮していた。
 ただ、一糸纏わぬアスカの姿はシンジにとって刺激的でありすぎるようであったが。
 だが、すぐにそのアスカの後ろからアスカと同じ格好をしたレイが胸を強調するような姿勢で近付き微笑みながら口を開いた。
「シンジくん、私とひとつにならない? 心も体もひとつにならない? それはとてもとても気持ちのいいことなのよ」
 グビッとひとつ唾を飲み込むとそのままシンジはふたりの姿に見入ってしまった。










「今回の作戦は、碇シンジという人間の生存本能に直接訴えかける物です。現在のシンジを取り巻く環境は完全に理想的なまでにリラックスした環境でしょう。しかし、そんな環境では人間は生きて行けないのです。そして、シンジは男です。そんな偽物の幸福感に包まれるよりも素晴らしい物が現実に存在する事を再認識させれば自ずとシンジは、母親よりも彼女を選びます」
 自信満々に言う唯の今回の作戦のコンセプトを聞いた獅子王博士はそれに肯いた。
「ははぁ、なるほどなぁ。しかし唯博士、それではシンジくんは色ボケになってしまうのではないかな?」
「あら?! あの年頃の男の子なら当然のことでしょう? 別におかしな事はありませんわ。ご自分達の事を思い出していただければお分かりだと思いますけど」
 唯のそのセリフを聞いた途端、突然風邪でも引いたのか、男性陣は一斉に咳払いを始めた。
 だがアスカはその唯の主張に少し反発を覚えた。
「ちょっと唯博士! アタシたちのシンジは違うわよ。今までアタシとレイがかなりラフな格好してシンジの前でウロチョロしてたけど今まで一回も手を出してきたことなんてないんだから」
「あらまぁ・・・それは少し心配ねぇ・・・・・・まさか、そっちの気があるとか」
「ちょっとぉ! そんな訳ないでしょ! ユニゾンの特訓した時だって、アイツはアタシの・・・何でもないわよ!」
「そ、よかった。奥手なのね、シンジくんは。ウチの真司なんかもう明日香ちゃんとラブラブでもう当てられちゃってるけど。どっちにしろ問題ないわね」
 その場にいたダレもが、この理解のありすぎる母親に絶句していた。
 だが、ひとりだけそれに言葉を返した人が居た。
「不潔・・・・・・」  男とするなんて。って摩耶さん、君はホンモノなんだな。









 ふと気付くと、シンジはただ真っ白に何処までも続く地平線の一角に立っていた。
「どっちが出口なんだろう」
 だが、見晴らす限りどこまでも変わりない。
『何を願うの?』










「シンジくんの自我境界は完全に確立しました」
「分かりました。それではサルベージ計画をフェイズ3へ移行。これより肉体の修復へ移ります」
「了解しました。フェイズ3へ移行します」
「エヴァンゲリオン初号機とのシンクロ率400%から毎分30%の割合で降下中。サルベージ計画は順調に遂行中と認められます」
 その報告を聞いた一同はホッと一息ついた。
 しかし、流石エヴァのことについて詳しい碇唯博士がメインに就き、バックアップに赤木奈緒子博士がステップアップを繰り替えし続けた本物のMAGIが会っただけのことはあった。
 本編のような失態は犯さずに済んだのだ。
 緊張の糸が解れたとは言え、まだまだ作業の続く大人達を尻目にアスカは今回の計画について感想を言い始めた。
「でもさぁレイ、この計画って結局シンジに女の子の良さを再認識させる物って事でしょ」
「ええ、ワタシとアスカのね」
「でもそれってさぁ、やっぱ男よりも女の方が良いやなんてことになったりしてね〜」
 等と軽くなったアスカの口から言葉が飛び出した瞬間、唯は思わず大声を出してしまった。
「あっ!! その可能性があった・・・け・・・」
 メインオーダールームはシーンと静まりかえった。
 それは軽口のつもりで喋ったアスカに最も大きな衝撃を与えたようだ。
 彼女は硬直した表情のまま瞬きひとつせず計画の主任実行者である碇唯博士を凝視し続けていた。
 唯はその無言の圧力に歪んだ笑いを唇の端に浮かべながら、言い訳にならない様な事を口走り始めた。
「えっと、だだだだいじょうぶじょぶ、あ、あの、ほら、それよ。つまりワタシも女の子が欲しかったし、そうなったらそうなったで嬉しいわよね・・・」
「う・・・」
「う?」
「嬉しいわけないでしょーがー!!」
「アスカ、暴れないで。まだシンジくんがサルベージ中なんだから」
「ウッキー!!」
 レイに背後から羽交い締めにされたアスカはジタバタと暴れ始めた。
「ハハ・・・で、唯博士?」
「はい?」
「実際の所どうなんだね? そんな事があり得るのかね? どうも私にはそんな事は有り得ないことのような気がするのだが」
「まぁ、通常は有り得ないでしょうが。人類史上、液化人間なんて者が存在したことがない以上、可能性はあり得ます。また、その場合の人体に作用するメカニズムも大体は想像できます。基本的に動物の肉体は雌を基本とし成り立っています、それを発生胚の初期に於いて男性ホルモンを分泌することによって染色体の男性部位が活発化し生殖器が発達、更にそこから分泌される性ホルモンによって男性的な体に変化して行くのです。ですから、昔からオリンピックのセックスチェックに於いて遺伝子的にはXYを持ちながら、男性ホルモンに反応しない遺伝子欠損によって女性形へと変化してしまった人達が引っかかると言った事態が多発し始めたわけです。現在のシンジの場合は、遺伝子の段階から分解してますので、彼の意志次第で再構成される肉体を構成する遺伝子からXXとなってしまうこともあり得ます。なにしろ参考にする遺伝子には事欠かないわけですし。ともかく、シンジが男性となって戻ってくるか女性となって戻ってくるかはシンジ次第ですね。ただし、XXであった場合、それは既にシンジという個人ではなくなってしまっているわけですけど」
「はぁ、成る程ね。取り敢えず戻ってこなければ分からないと」
「そう言うことです」
 唯は肩を竦めた。



 ピリリリリリ!
 和やかな雰囲気が流れ始めたメインオーダールームであったが、それを一瞬にして吹き飛ばすような凶報が入ったのはその次の瞬間であった。
 その時、一番手が空いていた火麻参謀は、電話が鳴り響くと同時に受話器を取り上げ応答した。
「ハイ、こちらメインオーダールーム。・・・・・・・・・ナニィ!! 未確認の巨大生物がこっちへ向かっているだと!? 」
 正にタイミング的には最悪であった。
 もう少し早ければ暴走したエヴァ初号機が対処したであろうし、遅ければ少なくともエントリープラグ内のシンジは救出することが出来たはずだ。しかし、このタイミングではシンジは身動きの取れないエヴァ初号機と共に嬲り殺しにされるしかない。
 碇シンジの運命は如何に!!





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