スーパーSF大戦


第16話 C−Part

 それから4時間半後、GGG諜報部の手によって響子(見た目は20代の35才)と理津子(見た目も28〜30才の30才)、摩耶(見た目は、なんちゃって女子高生でもいけるかも〜の25才)の3名はメインオーダールームへ姿を見せた。
「初めまして惣流響子です」
「赤木理津子です」
「伊吹摩耶です。ふつつか者ですがよろしくお願いします」  ちょっと違うやうな。
 三人が挨拶すると唯の指示により忙しそうに手を動かしていたGGGのメンバー達も手を止めて挨拶を返した。
「こちらこそよろしくお願いします。惣流博士、赤木博士、伊吹博士。私はここの長官を務めています大河幸太郎です」
「儂はここの統括科学技術長の獅子王麗雄じゃ。赤木博士は何やら画期的な電子頭脳のシステムを開発したとか?」
「いえ、残念ながらそれは母の奈緒子博士です。私は今は一介の中学教師に過ぎません。どちらかと言えばこちらの摩耶の方が現在のMAGIについては詳しいはずです。ね、摩耶」
「えっと、MAGIシステムの細かいところについては、ですけど。でも先輩の方が色々な分野に詳しくてネクシャリスト(総合科学者)としては数段上じゃないですか。私なんか一点豪華主義ですから」
「私には独創的な発想を形にすることは出来ないわ。ただのつまみ食いが好きな技術屋よ、それに対して貴女には井の中の蛙という形容が相応しいわ」
「井の中の蛙・・・はい・・・確かにそうですぅ・・・すン」
「え、あ、そうじゃなくって。コホン、摩耶モノを知らないと云うのは悲しい事よ。井の中の蛙、大海を見ずして青空を知るって言ってひとつの物事に秀でた人物は素晴らしいって事なの。分かった?」
「はぁ、そうなんですか。知りませんでした」
 取り敢えず新しいことを知った摩耶は畏まってみた。
「ああ〜、オレはここの作戦参謀をしている火麻檄って言う者だ。よろしく頼むぜぇ」
 火麻参謀は腕の力瘤をモリッと盛り上げながら挨拶した。彼としては自慢の肉体を披露しただけなのだが、どちらかというとジャニーズ系の年下好みである摩耶にとってそれは視覚的な拷問の様な物らしかった。
 ムゥッと口を押さえて目を反らせた。
「おいおい、それはあんまりだろう・・・」    ショボーン
 火麻参謀の盛り上がっていた力瘤はスルスルと盛り下がった。
「えとー、僕は諜報部の統括オペレーターの猿頭寺って言いますー。よろしく」
 猿頭寺はよれよれの制服のまま握手をしようと立ち上がったが、その異様な風体と独特の匂いに3人は引いた。
 それでもスワンの諫言によって以前よりはマシになったのであるが、未だに一般レベルからはほど遠い物であった。
「・・・不潔」
 その的確な言葉に猿頭寺も凹んだ。
 だが、その隣に座っているスワンもうんうんと肯いていた。
「はぁ、どうもすみません」
 伸ばした手のやり所に困った猿頭寺はポリポリと頭を掻いた。途端に白い物が辺りに飛び散った。
「ひぃええええーっ! 」
 潔癖性である摩耶は堪らず飛び退いてしまった。
 同じ仕事仲間として長期間付き合うわけではない摩耶は素直に自分の感情を表したのだが、流石に傷付いたのか猿頭寺はヒョロヒョロと何時にない力弱さで席に戻った。
 次に挨拶したのは獅子王博士直下の科学班オペレーターであるスワン・ホワイトであった。
「どーも、獅子王ハカセの部下でオペレーターのスワン ホワイトでーす。ヨロシクおネガイしマース」
 彼女は弾けるような動作で立ち上がるとアメリカンらしい激しいゼスチャーで挨拶した。
 しかし、彼女のようなグラマーな女性がその様な動作を行うと、必然的に筋肉によって支えられていない箇所の動作が遅れる訳で。
 彼女の日本女性には滅多にない迫力を持つ「何でも出来る証拠」は3人の前でその存在を主張したのであった。
 特に理由もなく第3新東京から来た3人は敗北感を味わっていた。
「私にはダーリンがいるもの。他人なんて関係ナッシングね」
 <スワンの口調が染った>
「チクショウ、美里より」
 <自分もかなりの物だと自負している理津子であったが、悪友の美里に対して密かにコンプレックスを持っていた>
「ふ、不潔・・・・・・
 <ソースを読みましょー> 
 3人がそれぞれブツブツと呟いていると大河長官が代表して残りのメンバー紹介を行った。
「あと、ここには来られないメンバーが残り3人ほど居ます。獅子王博士の息子でGGG機動部隊隊長の獅子王凱、GGG機動部隊担当オペレーター卯都木命隊員、そして整備部主任の牛山一男隊員。そしてこちらの2名がGGG特別隊員の惣流・アスカ・ラングレー隊員、綾波レイ隊員です」
 大河長官が合図すると後ろの扉からアスカとレイが現れた。
 アスカは響子が来ると知ってガチガチに緊張していたし、レイはレイで理津子から隠れるようにアスカの背後に回っていた。
 それに対して響子の反応は、もしやとは覚悟していたが実際に別の世界の自分の娘がこんな危険な事をしているなんて。と、胸を痛めていた。
 片や理津子の反応も普通とは異なっていた。
 蒼髪で赤い瞳、アルビノ形質のレイを見た途端ハッと息を呑んでマジマジとレイの顔を穴が開くような勢いで見つめた。
 レイとしても2代目のレイに感情が発生しないようにと接触を断った接し方であったとは言え、女言葉のしゃべり方や服の着方、食事の仕方等生活の基礎を教えてくれたのは間違いなく赤木リツコであった。
 過去に於いて最も長期間自分に最も近しい人間が赤木リツコと言う女性であったのだ。
 感情の萌芽が見える最近のレイにとってリツコと同位の存在である赤木理津子との接触は恐ろしいと共に、照れや恥ずかしいと云う彼女にとって初めて感じる馴れていない感覚であったのだ。
 正直、レイは自分の気持ちを持て余してしまっていた。


 そんな三者三様の様子を眺めていた唯は大河長官に代わって今回の計画を発表した。
「それでは、今回のプロジェクトは初号機に取り込まれた初号機専属パイロット・碇シンジのサルベージです。基本的には現在初号機の中に取り込まれ意識が拡散しているシンジくんの意識を覚醒させることにあります。そこで、エヴァンゲリオンの制御系からシンジくんがこちらに意識を集中するようなプログラムを流し込むことで、暴走しているエヴァンゲリオンの核となっているシンジくんを取り出すのです。そうすれば、覚醒したエヴァの自意識も自然に沈静化するはずです」
「しつもーん」
「はいアスカちゃん」
「一体何を、どうやって、送り込むんですか?」
 それを聞いた唯は一瞬ゲンドウばりのニヤリ笑いを浮かべると笑顔のまま答えた。
「大変良い質問ね、まずどうやって送り込むかだけど、現在エヴァンゲリオンは拘束具を弾き飛ばして制御系の大半を排除した状態です。元のままの回線からは信号を送り込むことは出来ません。しかし、GGGで改装したエネルギー伝達回路であるGSライドは比較的軽傷で残っています。これは最初の戦闘で中破してそのままになっているのだけれど通信は可能です。理由はGSライドがGストーンと云う無限情報サーキットを内蔵している事によります。そこでGストーンに反応する波長の指向性電波を用いて第3新東京大学のMAGIシステムとリンクさせます。そこからシンジの肉体を構成していた粒子が存在しているエントリープラグ内に私が書いたシナリオを、響子のツールで作成したプログラムを投入しシンジの自意識を覚醒させるのです」
「そう上手く行くのかなぁ。第一どう云うプログラムなんですか」
「ウフフフフ、知りたい?」
 不気味に笑う唯にアスカはイヤーな予感がした。
「やっぱりシンジくんも年頃のオ・ト・コ・ノ・コだし。興味を引く物と言えば。ジャジャーン!!」
 そう言いながら懐から数枚の写真を取り出した。
 それを見たアスカの顔は一瞬で真っ赤に染まった。
「キャーキャーキャー!! 何よそれ一体いつの間にそんな物を隠し撮りしたのねー」
 そう、そこにはいつものアスカの部屋着であるタンクトップノーブラと云う格好よりもすこーしばかりあられもない格好をした明日香の姿が写されていた。
 その場にいた男性隊員達の視線が集まるのを感じ取ったアスカは、一瞬の内に唯の手から写真を奪い取りビリビリに引き裂いてしまった。
「はぁはぁ、人に勝手にこんな写真を撮ってんじゃないわよ全く」
 響子は足元に飛んできたアスカがビリビリに引き裂いた写真の断片を手にとってしげしげと見てみた。
「あ、この写真うちの明日香ちゃんのだわ」
「はあ? つまりなに? アンタの娘はこんな恥ずかしい格好を写真に撮られて何とも感じないっての? 信じらんなーい!」
「別に(真司君以外)誰に見せるわけでもないし、やっぱり娘の成長の記録を付けるのって母親の醍醐味だし。そうは思わない?」
「思うわけ無いでしょ。こんな恥ずかしい事を」
 何? アタシのママってこんな性格だったの? あの優しいママが・・・ううん、これはやっぱり別人なのよ。絶対アタシのママがこんなノリのおかしな人の筈無いもの。アタシのママは真面目で、優秀で、優しくて、ふんわりしてて、とにかく最高だったんだから。
 知らぬが仏。知ってキリスト。
「あらまあ古風なのね、ウチの明日香ちゃんとは大違いだわ」
「でも困ったわねー。その写真を餌に使って「生きていればこんなに良いこともあるのよー、帰って来いよー」ってシンジを釣り上げるつもりだったのに」
 アスカはその無理矢理な計画に激昂してまくし立てた。
「な、な、な、なんですってぇーっ! アタシのシンジにアタシ以外の女のハダカの写真を使ってそんな事絶対許さないんだからぁ!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「言った」
「聞いた」
「私も聞きました・・・」
 その妙に静まった空気にアスカは混乱した。 アタシ何か言った?
「ああ良かったぁ。住む世界は違っても、育つ環境が違ってもアスカちゃんはアスカちゃんだったぁ」
「親はなくとも子は育つの見本ね、響子」
「ちょっと唯、それはあんまりでしょう」
「さぁ?」
「さぁさ、そうと決まれば直ぐに撮影会、じゃなくて資料を採取しましょう」
 そう言うと響子は手提げ鞄から取り出したデジカメを抱えてアスカの背中を押していった。
「ちょっとちょっとどこへ行くのよー」
「え? だからアスカちゃんが言った通り、シンジくんにアスカちゃん以外の女性の半裸の写真を見せないためにアスカちゃんの資料を取りに行くんでしょ」
「そんな事誰が言ったのよー」
「もう、自分が言ったんじゃないの。自分でも気付いて無かったって事は思わず本音が飛び出しちゃったって事かぁ。うんうん、アスカちゃんが言いたいことは分かってるから任せて頂戴」
「分かってなーい!」
 嫌がるアスカの背中を押しながら響子はドアから出ていってしまった。
 すると暫くキョロキョロしていたレイもアスカの出ていった扉から出ていってしまった。
 その様子を見ていたのは理津子だけであったが。
「えー、つまりなんだね、碇博士、エヴァンゲリオンに送り込むプログラムというのは、つまりその・・・、ブルーフィルムに類する物なのかね?」
 今まで彼女たちのやりとりを黙ってみていた大河長官がようやくタイミングを掴んだと言った感じで唯に質問を投げ掛けた。
「ブルーフィルムだなんて、これは人間の生存本能に訴えかける非常に有効な手だてなのです。変な言いがかりを付けないで下さい」
「いや、そう言うことなら・・・いいのかなぁ」
 彼は首を傾げた。



 響子の云う「母親の醍醐味」とやらがどう言う風に晴らされたのかはともかくとして、3人の助っ人達はGGGのメンバー達と碇シンジサルベージ計画の発動のための準備に取りかかった。
 唯の指揮の元、響子は先ほど撮ってきたばかりの素材を加工し、理津子と摩耶はこの地に於いてMAGIのオペレーションが出来るように様々な機器設定を始めた。
 幸いGストーンについての資料は大量に揃っていたため、彼らはMAGIを使い最適な通信域を算出し移動中継車に電波発信機を積み込んだ。
 このアンテナから発せられる電波は画像フォーマットが主になっているが、その受信モジュールとして基本設定されているのは人間の大脳内の視覚野である。
 もっとも、響子の持っていたそれをエヴァンゲリオン用に改めていた為にもしも電波体質の人がそれを受信してしまったとしてもそれを読みとることは不可能。
 完璧な計画だ。
 さて、幾ら響子が中心になってGGGのメンバーがサポートに入るとは云え、サルベージ用のプログラムと云うひとりの人間の人格に呼びかけるという精密なオペレーションのためのプログラムが一朝一夕に出来るわけもなく作戦決行の予定日は全ての準備が整う5日後と言う事になっていた。
 これはあくまでもサルベージ計画だけと言う前提になっていた。
 何しろ重傷を負ったGGG機動部隊の最強勇者ロボ軍団たちは未だに目を覚まさず。
 もし意識を覚醒させたとしても機体の方の修復が1ヶ月単位で掛かることが判明していたせいだ。
 一応予備戦力として自衛隊の火力が使用できたが、もしも相手をするとなった場合ATフィールドという絶対防壁を持つエヴァンゲリオンには航空機で扱える火力は通用しないことが分かっていた。(自衛隊は勿論保有していないが、戦略核を除く)
 また都心部に極近い距離であるため例え放射線を発生させないタイプであろうとも大規模破壊兵器の使用は考えられなかった。
 その為に用意されたのが、先ほどのゼルエルに対して一矢報いた実績のある打撃力と貫通力に秀でた大口径撤甲弾を射出するためのプラットホーム、超ド級戦艦改め打撃護衛艦「ナガト」と面堂家のウェポンコレクションに収蔵されていた旧第3帝国の遺物である大口径列車砲ドーラである。
 もっとも、より大口径であるドーラの弾頭は打撃護衛艦「ナガト」の第一主砲塔の誘導弾頭と違い機動目標に対する効果は期待できなかったが。
 用兵側の願いとは裏腹に、それら凶悪なまでの破壊力を秘めた鉄の柱はその筒先を東京湾上のGアイランドへ向け、その砲火を吹く時を待ちわびていた。


 エヴァのサルベージが失敗したときに備えて着々と戦力が整えられていたその時京都府近郊では不可解な事件が多発していた。
 それは今回の事件とは一切の関係は無いと考えられていた。
 否、それを結びつけられる方がおかしいのだが。
 奥京都にほど近い牧場や馬場、養豚場などの畜産業者では大規模な盗難事件が発生していた。
 盗難の半径は100キロにも及び、犯行現場はまるで大怪獣にでも襲われたかの様に荒らされ、牛などの体当たりにも耐えられる柱は一撃の下に粉砕されていた。
 その犯罪は神出鬼没にして犯行に使用した車輌の特定も出来ないことから警察の発表では大規模な畜産専門の窃盗団の仕業として警戒を呼びかけていた。
 しかし、被害は確実に増えながらもその犯行は一切の謎に包まれていたのである。


 シンジが初号機に取り込まれてから2日目。
 先々日の戦いによって負傷を負っていたアスカとレイは更なる怪我を受けていた。
 戦いの直後、気が張っていた時は気丈にしていたアスカ達であったが流石にその気力も尽き果て、GGGの緊急病棟に入院していた。
 翌日遅くに目を覚ましたアスカは直ぐにでもメインオーダールームへと行こうとしたが流石に体がゆう事を聞かず、隣のベッドで横になっているレイと共に体を休めていた。
 僅かなホワイトノイズが流されている病室はシンジの心配の余り興奮しているアスカの精神を少しずつ鎮静させ、何時しかまた彼女の意識は眠りの中へ引き戻されていた。
 夢も見ない深い眠りではあったが、時折その眠りは浅いところまで引き戻されることがあった。
 午前三時頃、普段ならば静寂に包まれているGGG基地はサルベージの為に一日24時間喧噪が絶えることは無かった。
 ふと、レイの隣のベッドの脇にある机の電灯がついていることにアスカは気付いた。
 朦朧とした意識の中アスカが僅かに視線を向けると、そこには薄暗い照度の白熱灯の前に人影が見えた。
 その時アスカの呼吸は睡眠時の物から覚醒時の物に変わっていたのだが、その人物はそれに気付かずベッドの主であるレイの顔を見続けていた。
 そのままボーッとしていたアスカだったが、その人物の特長がじわりと頭の中に染み込んできた。
 低下した判断力の中でアスカはそれが誰かを割り出した。
<リツコ・・・?>
 ・・・・・・・・・再び引き込まれて行く安らぎの世界への途中でアスカは理津子の顔に浮かぶ後悔と安らぎの表情を見た。











 再びアスカの意識が浮上したのは3日目の午後7時である。
 彼女は何やらゴソゴソとする物音に刺激され意識を覚醒させた。
 眠りすぎでボーっとしていたアスカは音のする方へと顔を上げた。
 すると疲れに少しやつれたような顔をした響子がリンゴを剥いていた。
 彼女は果物ナイフでリンゴを六等分にし、皮に切れ目を入れるとウサギ型に剥いた。
 剥かれたリンゴは皿の上に並べられアスカに食べられるのを、待たずに響子の胃袋の中に消えた。
 何気に不満になったアスカは響子を睨んだ。
 すると流石に食い物の恨みという根の深い怨念を感じた響子はアスカの視線に気付いたのだ。
 青い瞳が自分を見つめているのに気付いた彼女は目を見開いてアスカに抱きついた。
「ああ! アスカちゃん! 良かった。無事目を覚ましたぁ」
 彼女の溢れんばかりの愛情と抱きつき攻撃にアスカは混乱した。
「ちょ、ちょっとま」
「体の方は大丈夫? 不快感とか無い? 痛いところは? 」
 ガバッと体を離した響子はウルウル顔でアスカに質問を放った。アスカの質問は耳に入らなかったようだ。
「特にないけど、わ」
「良かったぁ、もしも何かあったらって思うともう・・・居ても経っても居られなくて、休憩になったら直ぐに飛んできたんだから」
「そ、そう。ありがとう。それよりシ」
「本当に、アスカちゃんがグッタリした時はビックリしたんだから。無茶しないでね」
「だから人の話を聞きな」
「そうそう、シンジくんのサルベージの準備は着々と続いているわ。安心してね」
「ちょっとアタシの話を聞けー!」
 アスカがそう怒鳴ると、急に響子は静かになった。
 ふぅっと溜め息をついたアスカは響子から現在の情報を聞き出すべく真面目な顔で口を開いた。
「ねぇ、シンジの・・・ちょっと」
 だが、アスカが口を開いた相手はいつの間にかアスカのベッドに覆い被さるように眠り込んでいた。
「も〜う、ちょっと勘弁してよ〜。なんなのこの人ぉ〜」
 ほとんど泣き顔になったアスカはヨヨヨと成りながら嘆いた。
 しかし、それも仕方ないところだろう。
 響子はついさっきまで連続三日目の徹夜作業でディスプレイに向かいサルベージ用のプログラムを組み上げていたのだ。
 その間、仮眠、休憩はほとんど無かった。
 ようやく基本カーネルが完成し、後は周辺のアプリケーションに手をつけるだけと、一区切りついたところで最も心配だったアスカの様子を見に来たのだった。
 アスカの元気な姿を見た響子は安堵の余り緊張の糸が切れ、あっと言う間に眠りの世界へ引きずり込まれてしまったのだ。
 意識のない相手を叩き起こすわけにも行かず、アスカは隣のベッドを見た。
 レイはまだ眠りの中にいたが、特に酸素呼吸器などは付けておらず自発的に生命活動を続けていた。
 取り敢えずアスカは小用を片付けるため病室を出た。
 しばらくの間、休憩室でテレビを見ながら自販機で買った白牛乳をすすり時間を潰したアスカが病室のある廊下を曲がろうとしたところ、またもや何処かで見たような金髪さんがアスカ達の部屋からコソコソと出ていくのを見た。
「あ、やっぱりアレって夢じゃなかったんだ。でも、なんで理津子がアタシたちの部屋に・・・? まさか」
 アスカは自分の想像に恐怖した。
「まさか、アタシたちの意識がない内に何か実験のモルモットにされていたんじゃ・・・」
 一気にドヨーンとなった彼女はもぞもぞとベッドに潜り込んだ。
 そのまま寝付こうとした彼女は、何か思いつくとスクッと上半身を起こし自分の病院服の上着を響子の背中に掛けた。
「まったく、世話が焼ける。こんなのアタシのママとは別人だわ。ふん」
 そう言うと睡眠過剰ではあったが、体が休息を求めていた為直ぐにまた眠ってしまった。
 彼女が再び目を覚ましたのは明け方、まだ薄暮の残る頃であった。
 もっとも、地下の病室では確認できなかったが。
「代わり映えしないわね」
 アスカは既に三度目となる目の前の天井を見つめながらそう言った。
 そんなアスカをふたりは優しい目で見ていた。
 アスカが周りを見回すと唯と響子が彼女を見つめていることに気付いた。
 見慣れぬ顔ぶれに一瞬緊張するが、流石に警戒は解いた。
「おはよう、気分はどう?」
「おはよう、アスカちゃん」
「・・・おはようございます。惣流博士、碇博士」
 アスカの返事を聞いてふたりは落胆した。
 だが、直ぐに気を取り直すと響子は果物を剥き始めた。
「はい、食べる?」
「頂きます」
「どうぞ」
 病室にはアスカがリンゴを齧るシャリシャリという音しか聞こえなかった。
「ねぇアスカちゃん」
「はい、惣流博士」
「・・・・・・そんなに畏まらなくても、ママって呼んでくれてもいいのよ」
「アナタは私のママじゃありませんから。イヤです」
 アスカがキッパリと言い切ると響子は黙ってしまった。
「響子・・・」
「ぅうう、アスカちゃんに嫌われちゃったよ」
「勘違いしないで下さい・・・アタシはただ・・・。アタシのママは、死んでいたんです・・・アタシの前で、病室の中で、首を吊って、・・・・・・エヴァとの接触実験で壊れちゃった、ママは、アタシの代わりの人形を抱きしめて、アタシのことを見なくなって、ママを守れるのはアタシだけだったから、イイ子になろうって頑張ったのに、世界最高のエリートに選ばれたのに、人形のアタシじゃなく本物のアタシを見てって・・・言ったのにぃ」
「アスカちゃん」
「だから・・・もう何処を探したってアタシのママはもうどこにもいないの! 代わりなんていらない! アタシのママは!!」
 ガクガクと体を震わせて涙を流すアスカを見た響子は堪らずにアスカをきつく抱きしめた。
「アタシのママはぁ・・・ひとりなのぉ・・・」
 重い沈黙の中、アスカのすすり泣く声だけが響く。
 だが、そんなアスカを響子は抱きしめ続けた。
 懐かしいその感触にアスカも冷静さを取り戻し始めた。
「アタシは・・・いままで必死に頑張ってきた。エリート中のエリート、世界最高のエリートとして。でもこの世界に跳ばされて、ゾンダーの素体にされた時、ふたりの仲間達に助けられて、この世界にアタシたちだけって分かったから、助け合って生きて行こうって・・・・・・。シンジ・・・シンジはどうなったのぉ!? 助かるの!? シンジが死んだら、アタシたち生きていけないわ」
「・・・・・・・・・・・・・」
 アスカの言葉を聞いた響子は腕の中の少女を思い、その人生の苦しみを理解しようとした。
 そして、彼女たちがこの世界へ来て必死で生きようと足掻く様を。
 だからせめて、少しでも彼らの役に立てればと、無性に心を掻き立てられた。
「泣いて良いのよ、アスカちゃん」
 響子は優しくアスカの頭を抱えるとそう呟いた。
「ウッウッウッウウウウウウゥゥー! シンジ、シンジィ! シンジィィ」
 そんな嘆き悲しむアスカを見て唯は決意した。
「やっぱりこのアスカちゃんもウチの明日香ちゃんと一緒ね。早くシンジを取り返さないと。碇ユイ、この子を悲しませるなんて絶対に許さないわよ、シンジの母親としてね」


 初号機に対する作戦の決行準備は連日の完徹で行われることになった。
 GGG基地ではその為の準備として、あちこちで作業が続けられていた。
 赤木理津子もメインオーダールームの予備コンソールに初号機に送り込む「サルベージプログラム」の管制のため使用するMAGIとの回線を繋げようとしていた。
「ねえ理津子」
 エヴァが修理中の今、暇を持て余していたアスカはMAGIとの専用線に端末を繋げる作業を行っている理津子に声を掛けた。
 この前からの理津子の不審な行動に、彼女なりに疑問に思った事を晴らしておきたかったのだ。何より変な実験の被験者にされていたりしたら堪ったモノじゃない。
<マッドはあの麻御って女だけで充分すぎるわ!>
「ん、なぁに惣流さん」
 理津子は配線の接続作業の方へ神経を集中しながらもアスカへ返事した。
 理津子からすれば極平均的な(クォーターという点では珍しかったが)女子中学生である惣流明日香が別の世界では大卒の天才少女、そして命を賭けて戦う美少女戦士(自称)で有るという事実に驚きもしたし、また可哀想に感じていた。
 自分の生徒の惣流明日香はあんなにも天真爛漫でノビノビと生きているというのに、こちらのアスカは必死で生き延びようとガチガチな生活を送ってきたらしい。
 理津子は自分の周りに沢山いたあのガリ勉達と似たような、ブロイラーのように英才教育という餌だけを詰め込まれて生きてきた様な雰囲気をこのアスカに感じていた。
 だから自分に目覚めた教師という仕事・生き甲斐・生き様、その本能のような感覚に忠実に従い自分の仕事を行いながらもアスカに付き合うことに決めたのだ。
「惣流さんだなんて、リツコっぽくないなぁ」
「それを言うなら私のことを赤木先生とか<オールドミス>とか呼ばない惣流さんの方がよっぽど惣流さんらしくないわよ」
「ゲッ、そっちのアタシって命知らずなのね。怒らないの?」
「腹は立つわよ、勿論ね。でも私は教師だから、・・・所で命知らずってどぉいうこぉとぉかぁしぃらぁ?」
 リツコはワザと語尾の方を揺らして喋ってみた。
 すると予想通りアスカはビビッた様だ。
「フフフ、冗談よ」
「リツコがそんな風に冗談言うなんて、そっちの方がビックリよ」
「アラアラ、随分と頭の固いって、まぁ、世界を救うため人生を組織に捧げた偉人とアタシじゃ比べ物にならないわね。アタシは年の若い連中に囲まれているから、その分柔軟に成らざるを得ないわけ。お分かり?」
「う〜ん、イェス」
 アスカは最近通ったふたつの中学校のバカだが活発な同級生達を思い出し、理津子の言葉に納得した。
「そう、で、何か質問でもあったんじゃないの? さっきから教えてプリーズって顔してるわよ」
「え?」
 思わぬ事を言われアスカは思わず自分の顔を押さえてしまった。
「あ、あのね。立ち入ったことを訊くようだけど。どうして理津子は科学者にならなかったの? こうしてMAGIのシステム構築に参加できるって事はやっぱり相当の実力がなければ出来ない筈だもの」
 それを聞いた理津子はピタッと手を止めてしまった。
「それは、確かに立ち入った事よね」
「ご免なさい、別に言いたくなければ」
「良いわ、訊いて頂戴。大して面白くもないし、笑える話だけどね」
 妙にしんみりとした理津子の口調にアスカも神妙に聞き入った。
「まず第1に、私の母親は世界最高の生体工学者にして最新のコンピューター理論の持ち主である赤木奈緒子博士だったこと。これは分かって貰えるかしら、目の前の目標がとてつもなく巨大で越えようもない壁になっていた。それでいて周りの人達は私にそれを越える成果を期待されてね。とてもじゃないけど私には耐えられなかったから諦めたって事。どうしてそっちの私は科学者を続けられたのかしら。」
「確か、リツコのお母さんは私が所属していたネルフの前身、ゲヒルンって云う研究組織の実験場で亡くなったって話しを聞いたことがあるわ」
 実際はそれ以前からリツコはゲヒルンに参加していたのだが、アスカはそこら辺の細かい事は知らなかった。
「そう、・・・・・・第2に、私がプライベートな事で一方的に利己的な契約違反を犯したから・・・、色々と約束事の多い科学者として私は信用できないって追放されたって訳」
 理津子は止めていた手を動かしながら話を続けた。
「これでもね、大学時代は向学心に燃えて母さんに追いつき、追い越せって勉強を続けたわ。もうそれこそボーイフレンドも作らずにね。唯一私の親友だったのが葛城美里って云ういけずうずうしい・・・もしかして向こうの私も?」
 理津子が恐る恐るアスカに尋ねるとアスカは苦笑しながら答えた。
「ええ、ミサトとリツコふたりして結婚もしないで、出来ないで? 仕事に命を賭けていたわよ」
 それを聞いた理津子は顔を顰めた。
 それはそうだろう、いつも悪友悪友と言っていたとは言え、まさか別の世界でまで縁が繋がっているとは。
 しかも結婚に縁遠いところまで同じなんて、環境が変わっても同じ人間がする事に大きな違いは無いって事か。・・・こう云うのも三つ子の魂百までもって云うのかしらね。内心で大きく溜め息をつく理津子であった。
「ま、そんな訳でね、私には母さんみたいに子供を育てながら科学者を続けるなんて考えられなかったから結婚なんて考えられなかったの。まぁ母さんは早く結婚しなさいななんて言ってたけどね。だからかな、一生に一度子供を作っても言いかなって思ってね何を考えたのか代理母のアルバイトに応募したって訳」
「代理母」
「そ、若気の至りって言うか、今にして思えばキャリアウーマンのステロタイプにはまったって感じかしら。子供なんて五月蝿いだけで煩わしかったしこのアタシが子育てするなんて想像も出来なかったわ。でもお金になるし、折角女に生まれたんだし、子供を育てなくて良いからなんて云う軽い考えで応募したのよ。ホント、よく考えないであんな事するモンじゃないわね。一生後悔するから」
 理津子は酷くつらい顔をしながら吐き捨てるように言った。
「子供を産むって事? そんなに辛いの?」
「そうね、すっごく辛いわよ、悪阻は酷かったし陣痛は死にたくなったし。でもね、産まれた子供を見たときすっごく嬉しかったぁ。あぁ私が産んだ私の子供って満足感に満たされたの。意外と子供好きだって初めて知ったわ」
「へぇ〜リツコがねぇ。・・・ちょっと待って、私の子供って」
「そうよ、その子の父親の精子と母親の従姉妹の卵子、科学者として論理的に考えれば私の子供じゃないってことは理解してたわ、でも、でもね私が産んだ、、、」
「理津子?」
「(ぐすっぐすっ)・・・・・・それでね、彼女の両親がお礼に来たのよ。私達の子供を産んでくれてありがとうって、私の子供を奪いに来たのに! そう考えたら・・・居ても経っても居られなくて。子供を連れて逃げ出したのよ。全く論理的じゃないわね人間なんて」
「理津子・・・」
「直ぐに捕まったけどね。その2ヶ月間は私が母親だった、可愛かった、体が弱くて色素が薄い子だったけど私にはそんな事関係なかった・・・・・・。まあそんな訳で私は捕まってあの子は本当の両親の元へ帰っていったし一件落着って訳。良くある話よね、本当バカな女。向こうの人も特に訴えなかったし母さんが裏から色々と手を回してくれたお陰で制限付きで無罪放免になったわ。バレたら大変なことになるけど。そのあと色々噂が流れて学会追放、母さんのつてであの学校には入れなかったら私今頃何してたかしら。水商売とか。なんで母さんがこんなバカな娘の事を見放さなかったのかな、って母親だからかしらね」
「会いに行かなかったの?」
「ふふ、制限付きって言ったでしょ。半径500メートル以内に近寄ったり手紙やビデオなどの書簡を送った場合、期限によらず再逮捕って事になってるわ」
「可哀想」
「同情なんてしないで!!  ・・・ご免なさい、ただの八つ当たりだから気にしないでね。久しぶりに思い出しちゃったから。あの綾波レイって子を見たせいかしら雰囲気が良く似ているのよね目つきとか、そろそろ9才でしょ、可愛くなってるんだろうなぁって。もしかしてコレって親バカ? あはは」
 しばらくの間理津子は涙を流しながら乾いた笑いを上げていたが、急に押し黙って黙々と作業の続きを始めた。
 何か声を掛けようとアスカは躊躇ったが、結局何も言わずにその場を立ち去った。












  後書き

 はぁ、俺って一体何を考えてこんな話を書いたのか。
 理津子さん、不幸過ぎ。
 元々の発想は、この学園版エヴァ世界の設定を考えたときに「転校生レイ」の存在が確定できなかった事に由来します。
 しかし、パラレルワールドである以上、何らかの相似な人物が生まれてくるのは必然っぽくないだろうか。
 と、言うワケで
 綾波レイ=約10年位前に発生、赤木リツコに育てられた。
 以上から10年前に赤木理津子によって産み落とされた。に変化しました。
 また、この様な代理母での問題も(特に亜米利加では多いらしいし)書いてみたかったし、書いてしまいました。
 しかし、特にこのC−PARTはお涙頂戴的な展開過ぎるような気が。
 いいんです。
 同じ作品をずっと同じような作風で書いていたら自分が飽きてしまいますから。
 では、急転直下、疾風怒濤のD−Partでお会いしましょう。




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