GGGの参謀である火麻 激は瀬戸内海に面する呉軍港へと派遣されてきていた。
先日未明、一機の双発のレシプロ機が離発着便の激減した羽田空港へ着陸した。
その軍用偵察機から降りてきた海軍将校は、最近拡充整備されたばかりの空港の広大な設備やジャンボジェットを見て絶句していたが、空港の係員が近寄ってくると軍刀を振り回し暴れ出した為、機動隊を呼んでの鎮圧騒動となったそうである。
その後、軍人の取り調べを行った所、第2次世界大戦ただ中の連合艦隊に所属する海軍軍人であることが分かった。
たまたま呉に集合していたGF(連合艦隊)が時空融合現象に巻き込まれたらしいのだが、連合艦隊の方でも状況が分からなかった為、連絡員と偵察員を派遣してきたとの事であった。
しかし、(連合)日本政府にとってこれは扱いに困る事であった。
現在の日本国内には駐留米軍がGFとの60年前後の技術的格差を持って存在していた。
彼らGFが、こちらの都合も考えずに米軍と戦闘状況に入ってしまっては友好関係にある米軍との間に亀裂が生じるだろう。
要するに自分の軍の手綱も締められないような日本政府との間に信頼関係を築くことは出来ないとの事だ。
その為、直ちにGGGに声が掛かり火麻参謀がGGGの盛装に身を包み、捕縛された海軍将校を引き連れヘリにて直ちに呉へと向かった。
目的は現在の世界状況の説明を行い、日本政府の管理下にGFを置く事である。

スーパーSF大戦 第7話

「踊り子を装うもの」

アスカの病室内。
本来の主は今は姿を消していた。
そこに左腕を本来あり得ない場所から曲げ、全身を赤い液体に濡らして床に倒れている碇シンジのからだに、綾波レイが普段からは想像もできないような取り乱し方で取りすがっていた。

「碇くん碇くん碇くん」

はじめの内、全く反応を見せなかったシンジだったが微かに唸るとハッと目を覚ました。

「綾波? …うっ! 痛てて! 」

シンジは見た目ほどのダメージを感じさせず起きあがったが、左腕に激痛が走り再度床に転がった。
苦痛に顔を歪ませるシンジにレイは先ほどの取り乱した顔を一変させ、落ち着いた表情でシンジに告げた。

「大丈夫、左腕の単純骨折の他には、鼻腔からの出血と内出血、軽度の打撲位しかないから。落ち着いていいの」
「えっ? あ、そうか、ボクはアスカに殴られて」

シンジは自分の右腕を見た。
彼の下腕、上腕、袖口は赤い液体で濡れていた。

「ち、血!? 」

シンジの頭から血の気が引き、貧血で倒れそうになったがレイの言葉に現実世界へと帰ってきた。

「違うわ。それ、トマトジュースと野菜ジュースよ」
「へっ? 」

思わずシンジは腕についた赤い物の匂いを嗅ぐと確かに野菜の匂いがした。
アスカが誤解した大量の流血はトマトジュースであったのだ、ハハハ、オレってサイテーだ。バレバレ?

「あ、本当だ。あ〜良かった」
「そぅ。良かった。私は看護婦を呼んでくるから、じっとしててね」
「うん、分かったよ綾波。…アスカは?」
「逃げ出したわ。今弐号機パイロットが何処にいるか知らない」
「直ぐに探さなくちゃ!  あ痛て! テテテテ」
「ダメ、動いちゃ。私が連絡するからじっとしてて」

シンジがレイを見ると真実心配しているのが見て取れたので、彼はその言葉に従うことにした。

「うん、ありがとう綾波。やさしいね」
「なにをぃぅ…ょ…。構わないわ。急ぐから」

レイは最近暴走気味の感情によって頬を赤く染めながらナースステーションの方へと駆けていった。


惣龍・アスカ・ラングレーは靴下のまま道路を駆けていた。
手足とスカートはシンジの返り血(実はトマトジュースちょっと鼻血)によって赤く染められていたので、彼女の姿に気付く人がいれば彼女を呼び止めたのであろうが、夕闇迫る市街地には驚くほど人影がなかった。
その為に彼女は誰にも誰何されることもなく自動車のスクラップ工場の裏に来ていた。
息を切らせて彼女は壁に手を突いた。

「ハァハァハァ、うん。ハァ、ハァハァハァハァ。ふん、生意気なのよバカシンジのクセに。いい気味だわハハハ」

息を整えると彼女は力無い笑いを浮かべて立ちすくんでいた。
夕陽が瞬く間に陰ってゆき、辺りは急速に暗くなってしまった。
それにともない、街灯が点々と灯きはじめる。
アスカはしばらくの間立ち尽くしていた。

「はぁ、これからどうしよう。わたしにはもう何もない」

アスカは思わず心中を吐露する、したら唐突もなく女性の声が湧いて来た。

『あらぁ、それなら私がどうにかしてあげましょうか』

「誰!?」

驚いたアスカが誰何すると、電柱の陰から豊満な体に、赤い帽子と赤いバレリーナのような衣装に身を包んだ女性が姿を現した。
彼女はクルクルと踊りながらアスカに近付いていく。
アスカが警戒して身構えると、赤い唇を妖艶に歪め笑った。

「フフフ、怖がらなくてもいいのよ。私はプリマーダ。全宇宙の知性体をストレスによる荒廃から解放して回っているの」

それを聞いてアスカは莫迦にしたように笑いを浮かべた。

「何よ、守護天使様を気取っているってわけ? ふざけんじゃないわよ! 第一、アナタがANGELって云うのなら…私の敵だわ」
「うふふふ。可愛いわねぇ…。だけど勘違いしないでね、私はゾンダリアンであって天使なんて者じゃないわ」
「あっそ、それでアタシに何か用なの? オ・バ・サ・ン」
ぷっつん
「アナタはだいぶ無理をしているようね、ストレス物質の匂いがプンプンしているわよ」
「まるで犬ね。それで? わたしはアンタなんかに用はないの、サヨナラ」

アスカは踵を返すと来た道を引き返そうとした。
ポフ! 
アスカの顔面は弾力のある素材によって弾き返された。

「なに ?」

アスカがそれが何かを確認しようと顔を上げると、いつの間にか後ろにいた筈のプリマーダ彼女の前に立ちはだかっていた。
ただし、先ほどまでのような服ではなく、赤い帽子の代わりに丸いアンテナを生やしていたし、レオタードのような素材の服に自動車のタイヤのような物をスカートのように身にまとっていた。
ただでさえ妖しさ大爆発であったのであるが、今では町中の変態さんと変わりない。

「逃げちゃダメじゃないの。フフ、負けたくないんでしょ。アナタは」

今にも駆け出そうとしていたアスカだったが、その耳がピクッと震えた。

「アナタはもう誰にも負けはしないわ…、さぁ、アナタのその心の応力に力を、このゾンダーメタルを受け入れなさい」

プリマーダの瞳が怪しく輝くと、銀色に輝くゾンダーメタルをアスカの額に押しつけた。

「あああああああああーっ!」

アスカの絶叫と共にその姿は光に包み込まれていった。


翌日。
アスカの入院していた病室には引き続いてシンジが骨折のため入院していた。
シンジの骨折は単純骨折だったため、比較的短期で完治が可能との事であったが、左手にはギプスが固定され、その姿は痛々しい物であった。
シンジはベッドに横たわっていたが、その横ではレイが寝ずの看病をしていた。

「碇くん…」
「うう…ん」

レイが呟きを漏らすと、微かにシンジが身じろぎをした。

「碇くん! 」
「ん、あ、 綾波? 」
「碇くん、大丈夫? 」

レイが質問するとシンジは自分が骨折していた事を思い出し、ギプスに覆われた左腕をみた。

「うで、動かせないや。・・大丈夫だよ、綾波」
「本当なの・・。」
「うん、痛みもないし、本当、平気。」
「そう。よかった。」

レイはホッとしたのか、ヤシマ作戦時に見せたあの笑顔を浮かべた。
シンジはそれを見て顔を真っ赤に染めて照れた。

「うん、ありがとう、綾波がいてくれて助かったよ。………。ところで、アスカは? 」
「弐号機パイロット・・わたし、知らない。まだ、連絡ないもの」
「そう、なんだ。…そう言えば」
「なに? 」
「今日は残念だったね」
「どうして? 」
「だって、今日から学校に通う予定だったじゃないか。あっ、そうだ。ボクはこんなだから行けないけど、今からなら間に合うんじゃないかな、綾波だけだったらさ」
「どうしてそう言う事言うの」
「え?」

シンジを見つめるレイの目には悲しげな光が灯っているように思えた。

「だって、…」
「わたし、行かない」

彼女の意志は固く、シンジの説得によって彼女の意見を変えることは出来なかった。
それは、シンジと一緒でなければ嫌と言う事であったのだが、その事にレイ本人でさえ気付いていなかった。

「どうしても? 」
「ええ、それに、い、碇くんの看病をするように、め、命令があったの、だから」

綾波レイは生まれて初めて故意に嘘を付いた。
可愛いねぇ。

「そう、命令だったんだ」
「あ、いえ、その…違うの…」

だがしかし、経験不足なため、シンジに誤解されてしまった。
シンジももうちょっとなぁ。
まぁ、他人の心が読めるわけではないし仕方がないんだけど。
彼女は何か言い訳しようと言葉を探したが、いつも本を読んでいる割には適当な言葉が浮かんでこなかった。
そのまま口を結ぶと、ショボンとして俯いてしまった。
凄く気落ちしているレイを見てシンジは何とかしようと…。

「ねぇ綾波」
「なに碇くん」
「喉、乾いたんだけど。水かなんか無いかな」
「ちょっと待ってて」

レイは近くの机に置いてあったポットからお茶を湯飲みに開けた。
それを慎重に運び、シンジに手渡した。その時指が触れて顔を赤くしたりなんかして、いよ! 憎いぞコノォ。

「はい、熱いから…」
「うん、ありがとう。」

こうして、シンジとレイがホノボノしていた時、事件は勃発した。

FROM:GGG MAIN ORDER ROOM.

定常勤務に入っていたGGGのメンバーが各自それぞれの任務をこなしていた時、突然メインオーダールーム内に警報が鳴り響いた。
全員緊張の面もちで事件の解明に当たった。

「何があった! 」

GGGの長官である大河長官が直上の宇宙開発公団ビルの執務室から直通エレベーターでメインオーダールームに姿を現した。
現在の所、GGGは公開組織となっているので宇宙開発公団の執務室にいる必要はないのだが、日本政府と交渉を行う際には上の方が都合がいいこともあって通常は上にいることが多い大河長官であった。 (秘書のさくらさんがいることも大きな要因のひとつだが)
外部との連絡を行っていたホワイト・スワン隊員が大河長官に振り返り報告する。

「川崎市JR川崎駅付近にゾンダー出現 ! ただいマ市街地で破壊活動を行っていますデ〜ス」
「なに、ゾンダーだと ! 間違いないのかね?」
「ハイ、敵のハッする音声パターンからも間違いないと思われマ〜ス」
「敵の映像が入ります。メインスクリーンへ」

卯都木ミコトがコンソールを操作し、外部より入ったデーターをメインスクリーンへ投影した。

「オオ !? 」

その場にいた全員が驚きの声を上げた。
そこには現在GGGに拘束中のエヴァンゲリオン弐号機にそっくりなロボットが立っていたのだ。

「博士、これは」
「うむ、有りえん事だ。確かにエヴァンゲリオン3機は地下に収容してあるのだが、スワンくん」
「はい、確かに現在エヴァンゲリオン3機は地下ケージにて拘束中であることが確認できマした。敵のパターンからすると間違いなくゾンダーであることが確実デス」
「と、すると。弐号機パイロットは確か、惣龍・アスカ君だったな。エヴァンゲリオンパイロット各員の所在はどうなっている?」
「現在確認されているのは零号機パイロットの綾波レイちゃんと初号機パイロットの碇シンジ君だけです。弐号機パイロットである惣龍・アスカ・ラングレーは昨晩よりロストしています」
「ナニ ! と云う事はあのゾンダーは」
「うむ、間違いなくアスカに違いない」

メインオーダールーム内を静寂が支配した。
静寂を破ったのは長官だった。

「猿頭寺君」
「はい」
「アスカ君を元に戻すためにもボルフォッグに命じてマモルくんをGGGに ! 」
「了解しました」
「よし、それではGGG機動部隊、これよりゾンダー撃滅のため出動せよ ! 」
「了解 ! 」

長官の命令の元、一斉にGGG隊員達はそれぞれのオペレーションに入った。

「三段飛行甲板空母発進準備終了しました」
「機動部隊三段飛行甲板空母搭載終了。ガイはギャレオンとのフュージョンに入っています」
「周辺住民の避難始まっています」
「機動部隊全機整備状態良好 !! 」
「周辺海域の障害はクリアー」
「ようし、三段飛行甲板空母、発進 !! 」
「了解 !  三段飛行甲板空母発進 ! 」

GGGの地下にあるヘキサゴンから三段飛行甲板空母が分離し現場へと向かった。

その数分前。
川崎市武蔵小杉にある県立北栄高等学校では登校時間の為、学生が次々と校舎へと呑み込まれていた。
時空融合後に学校との連絡の取れた生徒は今後の進路に対する生徒会臨時総会に参加するためこの日初めて登校していた。
だが、よりにもよってその日に事件が起こったのだ。

今年入学してから皆の注目を浴びる事の多い宮沢 雪乃は通学路を学校に向かう途中でフラフラと歩いているひとりの少女の背中を見つけた。
周りの生徒達は気味悪げに見るだけで近付こうとしなかったが、彼女は生来の(後天的な物も多いか?)面倒見の良さからその少女に声を掛けようとした。

「どうしたの宮沢」
「うん、あの子なんだけど」

宮沢嬢の横に並んで歩いていた学校公認彼氏である有馬 総一郎が彼女の様子に不審を抱き声を掛けた。
彼女が指差す先には靴下のまま道路を歩く中学生くらいの、制服を着た赤毛の少女がいた。

「ああ、どうしたのかな、彼女。声掛けようか」
「私もそうしようと思ってたんだ。ねぇ」
「うん、行こうか」

ふたりは急ぎ足で少女に駆け寄った。

「ねぇ、キミ」

有馬が声を掛けると少女はクルッと振り向いた。
少女の顔を見たふたりはビクッと後ずさった。
顔に縦線が入っている暗い表情をした美少女の額には金属光沢を持つ楕円形の物が張り付いていた。
流石に失礼と思ったのか、ふたりは愛想笑いを浮かべた。

「ど、どうしたの? なんか具合が悪そうだけど」

「…ゾンダー…」

「え? なに? 」

「ゾンダー ! 」


「キャ ! 」

突然、額の金属板が発光を始め、彼女の姿を覆い尽くした。
有馬は危機感を感じ、雪乃の腕を掴むと近くの生徒に呼びかけながらその場を離れた。

「なに、一体どうしたの? 」
「分からないんだ。とにかく、ここを逃げた方が良さそうな気がする。」
「彼女はどうしたの?」
「光の中にいるけど、近寄れないよ」

雪乃がそちらを見ると、光の固まりは見る見る間に6階建てのビルほどの大きさになり、気が付くと赤と黄色で構成された巨人に姿を変えていた。
それは見る者の心に根元的な恐怖を呼び覚ました。

「ゾンダー!」



エヴァ弐号機の姿を模したゾンダーは雄叫びを上げると川崎駅方面に向けて進行を始めた。
周囲の建物をいとも簡単に吹き飛ばしながら駅の商店街に進攻したエヴァ弐号ゾンダー=アスカはソニックグレイブを薄い空気から取り出すとそれを大上段に構えた。
「彼女」は何かの気配を感じると上空を睨みながら動かなくなった。
その様子を1キロほど離れたビルの屋上から軽やかに舞いながら見て、ほくそ笑む者がいた。
プリマーダである。

「うふふ、かわいい子。さぁ、思う存分暴れなさい。おほほほほほ」





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