作者:EINGRAD.S.F


「あら、村枝商事でしたら来てますわよ。現在は中華共同体に支店を作って進出の足掛かりにするって情報が商業誌に掲載されてましたもの」

 伊達雪之丞を連れて横島は帝都区にある帝國歌劇団、裏の顔は帝都の平和を守る帝國華撃団に顔を見せていた。
 そこで美神のガメツさが明らかになったり、まあ色々あったのだがそこは前回を参照の事。
 最後のお茶会に呼ばれた横島と伊達達が話をしていた時にふと横島の両親が勤めていた会社の事が話題になり、政財界に強い神崎すみれ嬢がそれに答えてくれたのである。

「スミレさん、本当ですか!?」
「あら。トップスタアであり神崎重工の後継者候補筆頭のこのワタクシの言葉が信用できないと言うんですの? 不愉快ですわね」
「じゃあ、本当なんですね!? じゃあ明日早速行ってみます」
「ええ勿論。ご両親の安否も何か分かるかも知れませんわね。是非行ってみなさいな」

 そう言ってスミレは微笑んだ。彼女としても自分が両親とともに出て来ただけに時空融合孤児に対しては引け目を感じてしまうのだ。


スーパーSF大戦 インターミッション

横島ファイル

その二。


 翌日、スミレから貰ったメモを片手に横島は新宿副都心へと足を向けた。
 「村枝商事」
 時空融合以前からの規模を保つ手堅い印象を持つ商社である。
 融合直後の混乱期、この村枝商事も多分に漏れず大きく揺れた。
 取引先の消失。金融先の消失。資産の消失。そして社員の消失と一時はこのまま空中分解間違い無しと考えられたのだが…融合景気と云う波に乗って、何とかその実体を保った。
 奇跡的な復興の中に在っても大部分の社員はこう思っていたそうだ。
 「こんな時に横島部長が居てくれれば」、少し古くから居る社員ならば、「こう云う時にこそ紅ユリが復帰してくれれば」 この混乱した業界を支配してナンバーワンになる事もたやすかっただろうに、と嘆いていた。
 現在、社内は社長派を圧して専務派が幅を効かせておりその硬直した対応に批判が集まっていたのだ。
 そんな所、ナルニアと云うアフリカ大陸の小国に派遣されていた横島夫婦、彼らが時空融合前に現地政府と友好的な関係を築き地下資源の開発契約を結んだ為そろそろ本社に栄転か? と云う所だったのだが、横島夫婦は時空融合とともにその消息を断っていた。
 今ここで彼ら夫婦が融合日本に出現してさえいれば、専務派の急所を抑えている専務秘書のクロサキの造反によって社長派は一気に盛り返したろうに。
 そんな所に横島は顔を出した。

「あの〜、済みません。えーと…」

 横島は村枝商事の本店受付に顔を出す。
 珍しく受身でいた為、彼らしからぬ消極的な態度で声を掛けると、美人な受付嬢が未成年者が何故にここに来たのか、と疑問に思いながらも笑顔を向けて応対した。

「当社に何か御用で御座いましょうか」
「俺の親父とお袋が行方不明で、ここの社員だったんスけど…何処に行けば良いんですかね?」
「はい、それならば総務の方で受け賜っております。そちらのエレベーターで3階へ上がって頂きまして、正面のブースが総務部となっております。そちらで担当の者にお申し付けくださいませ」
「どうもすんません。じゃ、そういうことでありがとやんした」
「いえ、ひとりで色々大変でしょうが気を落とさないで下さいね」
「はい、美人なお姉さん」
「あら、まるで大樹支社長みたいに上手い子ね」
「え、あ、はははは(あんなくそ親父と同じに見られた、チクショーッ)

 横島は瓢々とした態度で返事をするとエレベーターに姿を消した。

「ちわーっス。あのーすんません」

 エレベーターを降りるとすぐそこのフロアーが総務部になっていた。元々物怖じしない性格の横島は極めて軽い調子で受付をしていた事務員に声を掛ける。

「ハイいらっしゃいませ。どうかしましたか?」

 受付にいた30代の男が横島に声を掛けられると、書類仕事から顔を上げて横島を見た。

「あのー、時空融合孤児給付金制度ってのが在るって聞いたんですけど、どうすれば良いんですかね」
「ええと、社員の方の?」
「ええ。ナルニア支社に居た横島大樹の息子なんですけど」

 それまで「本当にウチの社のなんだろうな?」とでも思っていたのだろうか、かなり胡散臭げな顔をしていた彼であったが、横島大樹の名前聞いた途端形相が変わった

「! ちょっちょっとお待ち下さいね。秘書課のクロサキさん、秘書課のクロサキさん、至急内線365まで連絡願います。内線365です。お待たせいたしました。えーっと、今から担当の者が参りますので、そこの応接室でお待ちになっていてください」
「はい」

 実はこの時、横島は給付金の受取り資格申請を拒否される所であった。
 現在の村枝商事ではこの競争社会の中で資本の強化を図った、その財源としてこの会社は支出を削って充てたのだが、その為に時空融合対策費が、特に時空融合孤児に対する給付金受取り資格の制限を厳しくしていたのである。
 更に、この総務部こそ専務派の支配する所であって、横島大樹を毛嫌いして居る専務の配下だけあって横島大樹の関係者に対しては苛烈なまでの厳しい対応を取る事が多い。勿論、企業倫理としてはいけない事なのだが、専務に対するヨイショみたいなつもりであるのであろう。
 その中で唯一、クロサキだけは個人的な横島派であり、専務からも睨まれつつもその実務能力からクロサキを派閥内から外す事は出来なかった。総務部の中にはそのクロサキに心酔する者も数名いた為、まずクロサキに連絡が行ったと云う訳である。
 横島が応接室のソファーに座って数分、良く響く音でノックがあった。

「お待たせしました、クロサキです」

 そう云いながら入って来たのは鋭い目つきにメガネを掛けた精悍な青年であった。

「どうもお久し振りです、横島忠夫さん。ご本人ですよね?」

 恐らく間違いなかろうと思いながらもクロサキは確認をした。
 何しろ多数の似た世界が融合を果たしていたので、彼が自分の知る横島忠夫であるかどうか自信が持てないのは仕方の無い事だった。
 とはいえ、余りにも相似な世界であった場合、それを証明するのは不可能であると云われ、融合孤児の場合は条件さえあっていれば本人とみなす慣例が出来ていた。

「あ、ドーモ。お久し振りっス」
「ええ、それで今日は時空融合孤児給付金について、でしたね?」
「そーなんスよ。それとこっちの会社じゃ俺の親父たちについて何か知らないかなって思いまして」
「そうですか…残念ながらご両親についての情報はありません。アフリカは例の状態で近付くのが困難でしたし、調査員を派遣する訳にもいきませんでしたからね」
「ああ何かバカでかい雲が出ていて近付けないとかなんとか…。アレってもうなくなったんじゃ?」
「ええ、ですがまだ交通網が無くてね。未だに中東地域は状況がキナ臭くて不用意に近付けないんですよ。商社用の情報網によるとアンドロ軍団と云う人類に敵対する集団が中東からインド…じゃなくて天竺に向かっていてね、中華共同体の軍隊が防衛線を張って防いでいるのだが…大陸の陸路ルートは未だ確立していないんだ」
「海はどうなんスか?」
「うん、今の海上通商ルートは、治安が不安定なスエズ運河を通るエマーン圏通商路と最近開発されたばかりのZOID連邦通商路のふたつだね。この内、ZOID連邦の方が元ナルニア国に近いんだが、そこが丁度ZOID連邦の周辺域にあって外務省が危険度REDを発令している危険地帯なんだ」
「危険な所なんスか…」
「ZOID連邦は動物を象った兵器群を使用しているんだけど半自律、つまりZOID側にも自由知能があるらしくて、その内パイロットを失って野生化したZOIDがうろついていると云う事らしいんですよ。正直云って一般人が一年間も留まって居られる場所では無いのですよ。それにもしも生き残っておられるなら周辺の文明圏に逃げ出しているはず、しかし、そうだとしたら間違い無くこちらに連絡をいれてくれるはずだ。しかし、今のところそれは無い…」

 まさか彼らがエマーンに渡って大出世しているとは夢にも思うまい。しかも自分達の子供の事をすっかり忘れて…。

「…それじゃ仕方が無いっスね」
「済みませんとしか言えません、ね」
「覚悟はしてたっスから。別に俺みたいな連中はそこらじゅうにいますし、俺だけがガックリしてたんじゃ却って悪いっスしね」
「それで給付金の事なんですが、現在の保護者の方は?」
「ああ、バイト先の雇い主っス。GSの美神令子さんス」
「ふむ…手取りは如何ほどで?」
「えーと、時給で255円、月で合計5万位っスね。それと学費と家賃を貰ってます」
「なるほど」

 それを聞いたクロサキはメモに軽く計算をしてみると肯いた。

「それ位の金額なら給付金の対象になりますね。GS美神の下で働いてるなら正直もっと貰っていると思ってましたので難しいと思ってましたが」
「あの美神さんスよ。バイト代の値上げしてくれって言っただけで神通棍を構えながら怖い笑顔をして『あんたはあたしの丁稚なんだから、ミスばっかりしている癖に文句言うんじゃないのよ』って言ってバイト代上げてくれないんス」
「ふむ、では美神さんに言って次の書類を貰ってきて下さい。給料明細と家計簿、それと後見人資格証の写しですね」

 クロサキが言った物をメモに取った横島であったが、まさかこれが美神令子を窮地に追い込む書類であるとは知らなかった。




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