アメリカ合衆国とエマーン商業帝國






 通称ホワイトハウスと呼ばれるここは、西暦2050年代の世界であってもその役割を果たしていた。
 そしてこの国もこの時空融合現象に巻き込まれた国々の常として大変な混乱に見舞われていたのだ。
 何しろ彼らはその直前まで急速に発展を続けていた旧発展途上国連合軍との戦闘にあったのである。
 それが、彼らの開発した時空振動弾の暴発によって時空そのものが引き裂かれ、自分たちのみならず他世界まで巻き込んでしまったのである。
 今のところその情報は秘匿されているが、これが漏れたら他国からの厳しい追及は免れない。
 それらのことも含めてこのホワイトハウスでは現在アメリカ合衆国第56代ホイットモア大統領とそのブレーンであるスタッフが勢揃いしていた。

「で、現在我々に残されている戦力は? 国防長官」

 スーツ姿の多い中で何人かの制服組がいたが、その中でも最も高齢の男が立ち上がった。

「大統領閣下、現在我々アメリカ合衆国には大した戦力と言えるべき物は数少ないですな。精鋭である航宙戦略機甲師団は時空振動弾の余波により消滅、現在は居残りの陸海空軍が常備戦力の約半数強に過ぎません」
「ふむ、主導権を握るためアメリカ主導にしたのが仇となった訳だ」
「イエッサー、それに加えて北を目指して進んでいる火星軍の連中も戦力には組み込めそうですが」
「・・・ふむ、この際それは除外するとしよう。幾ら戦力が足りないからとは言え得体の知れない連中と直ぐに手を組む事などな。それに日本の連中が送ってきたWWII の英雄殿を使うわけにも行かないしな?」
「はい、見せ物には丁度良いのですがね。我らが愛すべきブル・ハルゼー殿は」
「うむ。それでは、現在我々が直面している敵勢力について説明を」
「分かりました・・・」

 現在、このアメリカ大陸に出現した勢力は5つ程有った。
 それらは元々の世界の於いて強力な軍事力を持ち、支配を進めていた国々ばかりであった。

 ひとつ目は南米に出現し、既にムーに滅ぼされたインカ帝国。
 ふたつ目は中南米に出現し、彼らの世界の産物である軌道エレベーター周辺より南下及び北上を開始したムー。
 みっつ目は北米大陸カナダ付近に出現したインビットと呼ばれる甲殻類のような機動兵器群。
 よっつ目はそのインビットによる地球支配から解放を導くため火星駐留軍が放った地球解放侵攻軍。
 そしていつつ目が彼らアメリカ合衆国であった。

 基本的に北米大陸は彼らアメリカを中心に形作られていたが、軍事力という点では戦力を出していた彼ら偉大なるアメリカ国軍は実にタイミングが悪かった。
 彼ら侵略能力の強いアメリカ合衆国軍であったが、近代化の進んでいた第5軍の宇宙軍に対して、空軍、海軍、陸軍、海兵隊の戦力は〇.五世代ほど古い物と言えた。
 彼らの近傍に突然出現した侵略性の高い社会システムとしか言えない勢力に対してアメリカ合衆国政府は緊急に国家非常事態宣言を発令。
 国内に存在する戦力は州兵に至るまで全てが掻き集められていた。
 特にニューメキシコ州以南、彼らが属国扱いしていたメキシコは人類によって生み出され、人類に反旗を翻した人工知能体によって侵攻が始まっていた。
 最も、彼らムーの軍勢の主力部隊は現在南米大陸を南下し、人類の虐殺を継続して行っていた。
 その目的は徹底した人類の抹殺であり、彼らアメリカ政府の交渉をまったく受け付けなかった。
 現在まで南米に存在していた人類はムーの拝人主義者達の必死の活躍によって抵抗と避難が続けられていた物の、既に人口の9割がムーの戦闘ロボットの手に掛かり虐殺されていた。
 それを目の当たりにしたアメリカとメキシコ及びキューバ、バハマは国民を守るための戦いの準備を始めていた。
 だが既にムーのロボット兵団はグアテマラを死の大地へと変えつつ、メキシコを北上し始めていた。
 メキシコの支援要請を受けたアメリカ合衆国はそれを受けて陸海空軍を派遣し、防戦に当たっていた。

 また、北のインビットはレフレックスポイントと呼ばれる根拠地を中心に半径300キロメートルの地域を占拠し、惑星環境そのものを改造しつつあった。
 彼らの軍事力も侮りがたい物では有ったが、民間の低出力のエネルギーシステムに対しては攻撃的ではなく、近隣の軍事対象以外にたいして攻撃は行われていなかった。
 そのインビットに対抗すべく火星軍は北へと進んでいたが、彼らも突如出現した秩序ある勢力であるアメリカ及びカナダの呼びかけに応じてレフレックスポイント近くの基地に終結しつつ待機していた。
 この内、最も危険度が高いのがムーであることは間違いなかろう。
 ムーの目的が人類の完全抹消で有ることは、ムーから離脱した拝人主義のアンドロイド達の証言からも明らかであるし、ムーのロボット軍団の行動からも証明された。
 それに対し、インビットは現段階に於いては、その支配域の拡大を図ろうとはしていなかった。
 その逆にカナダ政府からの国外退去勧告もまったく無視していたが。
 しかし、彼らの勢力圏内に不用意に立ち入った全ての軍事関係のヒト、モノは全て完全に破壊し尽くされていた。
 侵略係数が少ないとは言え、戦力的に決して侮れる相手でも無い事は確かだった。
 此処に至ってアメリカ軍は基本的にインビットに対しては監視団を派遣するに留め、火星軍に無用の刺激を与えないように指示を出した。
 そして戦力の大半をメキシコの陸橋に集結し防衛陣地を形成、侵攻してくるムーの戦闘デバイス群を迎え撃つ構えを取った。
 陸軍は最新鋭のM−3主力戦車からM−1まで、空軍は流石に旧式化し始めたラプター制空戦闘機や新式の全領域戦闘機ブロンコ2を取り揃えて迫り来る敵を待った。
 そして現れた敵は酷く低速で飛行する10隻ばかりの大型の飛行物体であった。
 最初それは大型の硬式飛行船ではないかという憶測も流れたのだが、開戦劈頭、その様な甘い考えは完璧に打ち砕かれてしまった。
 彼らの未だ知らない装甲板を有した空飛ぶ戦艦はまずアメリカ空軍の攻撃を受けた。
 20機を超える攻撃機群から撃ち放たれた大型の空対空ミサイルは、80発にも及ぶミサイルのシャワーをムーの戦闘デバイスに浴びせ掛けた。
 しかし、それらは人工知能のみが成し遂げられる冷徹な思考の制御によって撃ち放たれたビーム兵器によって呆気なく迎撃されてしまった。
 ビーム兵器は彼らの最新鋭機にようやく実用化された物が搭載されたばかりであったが、ムーの撃ち放つビームはアメリカ製の物と違い最低照射時間が1秒超というまどろっこしい物ではなくて、当たった瞬間相手を吹き飛ばしてしまう衝撃兵器として完成していた。
 だが、敵のそれは只の強襲揚陸艇に過ぎなかった。
 真打ちはそれらの中からゾロゾロと姿を現したロボット兵器である。
 ムーが何故人を攻撃するようになったかは定かではない。
 拝人主義のアンドロイド達は黙して語らない。
 だが、そのムーを構成するロボット達に組み込まれた人工知能プログラムにはハッキリと 「1.ロボットは人間を消去しなければならない。2.ロボットは人間の命令を聞いてはならない。3.ロボットは自分の身を犠牲にしてでも人間を殺さなくてはならない。人を殺せ、殺せ! 殺せ!!」 と言う反ロボット3原則とでも言う物を刷り込まれていたのだ。
 その為、ムーの構成員である彼らロボット達は挙って人間狩りという名のハンティングを行わなければその精神的均衡を保つことが出来なくなっていたのである。
 おかしいではないか、それでは全ての人間を滅ぼした後、彼らはどうするつもりだったのか。そう言う意見もあるだろう。
 現に彼らの世界に於いては純正の人間は既に滅ぼされており、精神的均衡を失ったロボット達は人間に良く似たアンドロイドを狩ることによってその憂さを晴らしていたのだ。
 そしてそこに彼らの行動原理を決めた事件の原因が隠されているようだ。
 後先考えずに人間を殺しまくるという存在として第一に上げられるのは人間だからだ。
 だがそんな社会の閉塞状態に陥り掛けていたムーの目の前に、時空融合現象によって実に美味しそうな獲物がチラつかせられることになった。
 血に飢えたムーの一般構成員達は次々と戦闘用ロボットに改装されることを志願し、その第二団がこの北米戦線に投入されてきていたのだ。
 ムーの戦闘ロボットは一見して強そうに見えない。
 体を構成する部位も単純明快で、まるで案山子かデッサン人形のような物だった。
 だが、優れた科学技術はその人間と対して変わらない大きさのそこに、小型高出力の核融合炉を備え付け、腕には固定武装として高出力のレーザービーム砲が装備されていたのだ。
 そしてそれら階級に従って二等兵、一等兵、上等兵と造りが上等になって行き小佐クラス以上にもなると、等身大にも関わらず重力制御システムが組み込まれていた。
 そう、アメリカ軍を苦しめたムーは重力制御システムを持っていたのだ。
 ムーの戦闘機はアメリカ軍の主力戦車並みの装甲を持つ重装甲にも関わらず、空力特性と慣性の法則以外の制約を受けず、まるで複葉機のような軽快さを持っていたのだ。
 だが、流石にアメリカ軍の敷いた防衛線は強固であった。
 ムーの戦闘デバイス達は彼らの常識を越えるタフさであったが、ロボット達には対戦車ロケット弾が有効であったし、重戦闘機であっても洗練に洗練を繰り返されたミサイルの直撃には耐えられなかったからだ。
 だがしかし、ムーとアメリカ軍の最初の戦いに於ける犠牲者は、初日だけで一万人を超える死者が出ていた。
 そう、ここ北米に於いても南米で繰り広げられた虐殺が行われたのだ。
 それはベトナム戦争以来、極力犠牲を払うことを忌避し続けてきたアメリカ軍にとって70年振りのアメリカ人の若者の大量死となったのだ。
 この戦いに於いては人間同士の戦争とは異なり、敵に負傷者を増やすことにより国力を削ぐ、等という目的がムーには存在し得なかった。
 陸続と続くムーのロボット達と白兵戦を演じた者達は、ムーの血に飢えた殺戮者達の渇きを癒す為に考えられる限り最も残酷な方法で事切れるまでいたぶられ続けたのだ。
 第1次大祖国防衛戦争はこうして始まった。
 戦争に勝つことが目的ではない故、ムーの侵攻は遅々として進まなかったが、長期化する戦闘はアメリカのみならず最前線にて戦うメキシコ義勇兵と温存された正規兵達にも多大なる厭戦気分を蔓延させることになっていた。
 苦戦するアメリカ軍の中でも最も死亡率が高いのは歩兵であることは間違いなかったからだ。
 そんな中、最も生存率が高かったのは全領域戦闘機ブロンコ2であった為、その生産ラインは拡充され続けていたが、難しすぎる操縦性はそのパイロットの育成を阻んでいた。
 だが、そんな八方塞がりなアメリカ政府にひとつの光明が投げ掛けられた。


 ホワイトハウスで続いていた会議の最中、ひとりの客人が彼らの元に訪れていた。
 その中年の男はウェットスーツのような首から下を全て覆うツナギ状の服を着ていた。年甲斐もなく、とは言えそれが彼らエマーン人の一般的な服装なのだから文句を言う方が筋違いだが。
 それはさて置き、要人警護の達人であるSPに守られた彼は大統領の前に立つと後頭部から一本生えた触手を擡げるとにこやかな笑顔を浮かべて挨拶を交わした。

「初めまして、私はエマーン商業帝国評議会に多数の株を持つ者、トーブ家の代表として遣わされたゼロス・トーブです」
「初めまして、アメリカ合衆国の長を努めていますホイットモアです。失礼ですが、エマーン政府の代表だとお伺いしていたのですが」
「ああ、はい。私達トーブ家は利益が出せるので有れば、多少の出費はケチったりしませんよ」
「は? いまいち良く分かりませんな。実際の所アナタはエマーン評議会を代表してきた使者なのか、それともエマーンの有力な家柄であるトーブ家の使者なのか。そこの所をハッキリさせて貰わないと我々としても対応に差が出ることをアナタに伝えなければならない」

 ふむ、と考える振りをしてゼロスは顎に手を当てた。
−−−自分が相手のことを知らないと暴露してしまうとは、この国のリーダーは交渉術という物に欠けている様だ。
−−−だが、まぁその方がこちらとしてもやり易い。
−−−手の内が読みやすければ商売がし易いからな、相手に自分が儲けていると思いこませることこそ私達の利益の第一歩である。
−−−とは言え、まぁ最低限の知識は与えておくべきだろう。
−−−こちらの慣習にも慣れて貰わなければな。

「勿論、エマーン評議会の、で御座いますよ。大統領閣下。我々温厚な性格をしていることで有名なエマーンでは商業が大変に盛んです、それぞれの相互の利益を分かち合う事こそ選り良い繁栄への第一歩ですからな。そして、その精神的理念は政治の方法としても採用されています。一家として、若しくは党に参加して年間国民ひとりに付き1ポイントずつ与えられる議会内専用流通政治行使力兌換券を選挙の投票によって集め、それぞれの交渉によって政治のやり方を決めるのです。単純明快にして実力に応じた能力を振るうことが出来ますのでね、我々エマーンには大変に向いています。まぁ、そう言うことで今回のエマーン−アメリカ通商条約交渉権は我々トーブ家がバーム家やゾム家と言ったライバル組織と競り合って五十億エキューで落札することが出来ました。これも我々とアメリカ政府との間に引き合う物があったからに相違有りませんな」

 だがしかし、それこそは我々の間で、金権政治、賄賂政治として忌み嫌われる物その物であった。

「さて、我々の方でもあなた方のことを調べさせていただきましたが、色々と遅れて・・・もとい欠けている技術が有るようですな。例えば重力制御システム等のことですが。お困りでしょう? 敵方に有る技術が自陣営に無いという事は。我々トーブ家では重力制御システムをお売りする用意が御座います」

−−−慣性制御以前の型落ち品がダブついているから少々安くしても構わないでしょう。
−−−取り敢えずは、我々の技術に依存する体制を作り上げてしまうことだ。

「なんだと、重力制御システムを。しかし、今から技術を買ったとしてもとても量産が間に合うとは思えないのだがな」
「いえ、お売りするのはエンジンの完成品だけです。勿論、制御方法や整備方法のマニュアルはお付けします、技術員を派遣しても良いでしょう。我がトーブ家の人材派遣センターならお安くさせて貰いますよ。我がトーブ重工製の重力制御システムは小型低燃費高性能が謳い文句ですからな、今お使いの装甲戦闘デバイスに取り付けるだけでも運用に大きな自由が出来るはずですよ」

−−−どのみち、理論も知らずに複製したところでうんともすんともしないがね。

「それに我々は法によって武器を輸出することは禁止されていますので、あくまで汎用機器としてお売りするわけですが、それに抵触しない工事用の作業機械ならば完成品をお売りすることが出来ます」
「ふむ、それが有効に使えるかどうか、研究者や技術者達の分析が出ないと返事は出来ませんな。また、それが有効だとしてどれだけの製品がどれだけの期間で用意できるのかね」
「ふーむ、そうですな。取り敢えずサンプルをお見せしましょうか」
 そう言うと彼は中型のトランクから30センチ角大の機械を取り出した。
 それはジャイロのような黒いドラムがついた何の変哲もない只の箱だった。

「これが重力制御システムですかな?」

 大統領は半端失望したような声で聞いた。
 重力制御システム等と言うからもっと厳めしい外観かと思っていたのだが、それは予想外に軽薄な感触を受ける品物だった。

「はい、大統領閣下。これ一基で約10トンの質量を無重量状態にすることが可能です」
「10トン!? こんなちっぽけな代物がかね?!」
「ちっぽけとは又、悲しい評価ですな。これぞ我々の科学の結晶ですぞ」

−−−今となっては、旧世代の量販品だがね。

「あ、いや済まなかった。悪気はなかったんだが・・・10トンか・・・凄いな」
「これを今回、一万基用意してあります。代金さえ払っていただければ直ぐにでも」
「用意が良いな」
「はい。商売を上手く行うためには時と場所を選ぶ必要がありますからね」
「商売、商売か・・・私は政治家のつもりだったのだがね。・・・傭兵はやってないのかね?」
「おお、何と言う事を。我々は平和主義者ですぞ」
「ふむ・・・」  キミは何に対して自分たちが平和主義者だという認識を得たのかな? 本当に平和しか知らないので有れば平和主義という考えは思いもつかないはずだが。

 さて、実のところ、彼らが用意した重力制御システムにはちょっとした癖があった。
 細工と言うほどではないのだが・・・・・・ちょっとした癖があって、このエンジンに合わせて制御系エネルギー系を設計すると同じエマーンの他社のエンジンが使用し辛くなるのだ。
 最初に大量にこのエンジンを使用して生産ラインを作ってしまえば、後々の売り上げを独占することは大変に容易い。
 彼らの社会に於いては独占禁止法と言う物が存在していない事もこう云う行為に走る原因の一つだろう。
 さて、実のところ、純益から言えば重力制御システムよりも慣性制御システムの方が利益を上げやすいのである。
 しかし今のところ評議会で禁輸出項目となっている物として、慣性制御システムが上げられている為重力制御システムを輸出するしかないわけだが、どのみち完成された技術である重力制御システムと違って慣性制御エンジンはどうしてもサイズが大きくなるために互換性が効かないのが現状である。
 そうなってくると、先駆者としての既存の有利さを生かすためにはこのままアメリカ相手には重力制御システムを売り続ける方がよい。
 多少ダンピングしてもそれを規制する法律がないのだから、ラース家の者達も文句を言うことは出来ないのだ。
 と、そこまでゼロスが考えたとき、帝国議会に於ける入札で皇室が取ったやり口を思い出してしまい機嫌が悪くなってしまった。
 皇室はアメリカ合衆国に対する交渉権を確実にする為に賄賂を要求しておきながら、本来なら次回に回す筈のアジア方面に対する交渉権を多額の賄賂と共にラース家に売りつけていたのであった。
 なんてやり方が上手な連中だろう。
 だが、とゼロスは思い直した。
 アジアは広く、商売相手が数多くいる点に於いては確かにアメリカに比べて有利である。
 しかし、こちらはたった3国しか商売相手が居ないと言う点では不利と言えるが相手は戦争により危機存亡の状態である。
 上手くすれば活かさず殺さず利益を上げることに専念することも可能だ。
 それに、交渉権を勝ち取ったからとは言え通商権まで含めた独占権を得ているわけではない。
 やりようによっては両方の地域で利益を上げることも可能の筈だ。

「所で、売買をするにも通貨の問題もある。初期は鉱物資源や何かで支払うとして、国交の基本事項を取り決めるとしようじゃないか。政治家として」

 ホイットモア大統領はこの目の前にいる如何にも遣り手の悪徳商売人と言った感じの男に辟易として、自分は政治家であると自分に言い聞かせようとしたのだが目の前の人物には何の感慨も与えなかったようだった。
 エマーン人にとっては政治家という物は須く商売の上手な人間が自分に有利な状況を作り出すために用いる、金は掛かるが不可欠な手段であると認識していた。

「そうですな、私達のスタッフにも法律の専門家がおりますので。それに代金は租借権でもよろしいのですよ」

 日頃からアメリカ帝国などと揶揄されることの多いアメリカ合衆国では有ったが、此処まであからさまな事はここ数十年したことがなかった。
 そんなトーブ家の代表と名乗るそのエマーン人の男の背後に揺れる一本の触角は会談の間一瞬も崩れることの無かった笑顔と共に揺れ続けていたのだが、今それが敬虔なキリスト教徒であるホイットモア大統領には魂の取引に来た悪魔の尻尾に見えた。




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