作者: アイングラッド

エマーン商業帝國の皇帝領

 かなり昔の事になるが、高度な科学力を軍事方面に結集し、その結果として敵対していた人類を武力によって滅ぼしたエマーン人達。
 全てが終わった決戦後、彼らは全ての兵器を皇帝の管理下に置き、その軍事的庇護の下に政治に関与する権利を『議会に対する政治株』として皇帝より購入する事によって、自らが軍事力を保持する必要を無くした。
 そうして初めて民族の念願であった戦争放棄を実現したのである。
 既に天敵が存在しない地球上で彼らの楽園は永遠に続く筈であった。時空融合さえなければ。
 帝國法によれば、皇帝は政治的権力を株式の形で民間に委託。
 暴力機関を専有する皇帝は、平時には自らの直轄地である皇帝領以外での行動、特に軍事力の行使を硬く制限していたのである。
 だが、そこには平時であるという前提があった。
 いざ外敵がエマーン人に対して存亡の危険を与える可能性があるならば、皇帝は封印された超兵器MHを開封し指揮下の騎士達と共に外敵を殲滅する為に出陣するとある。
 これは自らが忌まわしい軍事力を維持する必要がないと云う極めて便利で頼もしい反面、いざその時が来た場合には、彼らが営々として築き上げてきた既得権益をリセットしなければならないと言う事を意味していた。
 つまり有事に際しては、意思の統一を図る為に民間に預けていた政治株(彼らにとって極めて価値の高い有価証券であり、経済の基盤である)と銀行株の皇帝への返納と取り決められていたのである。
 この事は彼らにとって、皇帝は軍事的には極めて頼もしい反面、政治的経済的には破滅的な損害を計上する魔神のような存在であったのだ。
 最終戦争当時に多神教であったエマーン人は皇帝を「戦いの神」と同一視していた事から、まさに「触らぬ神に祟り無し」と言った様相である。
 そんなこんなで時空融合後の外敵に対する彼らエマーン評議会の対応は、何とか皇帝の軍事力行使を起こさない方向となったのは必然であった。

 現皇帝領「通称:フロート・テンプル」、バチカン市国並みの広さを持つ小高い丘となっている皇帝領は、戦争当時文字通り「空飛ぶ神殿(正確には寺院)」と称えられた飛行城砦である。
 戦後、現在の場所に固定されて以来稼動したことは無いが、他の氏族のコロニーのシステム元になった閉鎖型循環環境システムは稼動を続けており、恐らく騎士団の駆るモーターヘッド共々そこに内蔵された超兵器達はその稼働を待ち侘びているはずである。
 現に・・・。

 現在皇帝領に住む人間のほとんどが戦争用に改良された「騎士」と呼ばれるエマーン人である。
 彼らの精神は商業に強い関心を持つ一般的なエマーン人とは違い、彼らの嘗ての敵である補食的人類の精神的形質を一部受け継いでおり一般人とは違ったメンタリティーを有する。
 もちろんそれによってエマーン世界が破壊されてしまっては元も子もないので精神的なブロックが掛けられているのだが。
 現皇帝レディオス帝。
 皇帝の常駐する玉座の間から一人の優男がソロリソロリと後退りつつ、コッソリと抜け出そうとしていた。
 その様子はまるで地獄の獄卒の目を逃れようとする哀れな刑者を思い浮かべさせる。
 例えは悪いがまるで黒々とした油虫の様な素早い動きでそこから離れると宮殿近くに設営された格納庫へと足を運んだ。
 薄暗い格納庫の中には、大戦で幾多の強敵を葬り去ってきた30メートル級の重装甲のロボット兵器が立ち並んでいた。
 現在のエマーンの科学力も相当なモノだが、当時追いつめられ、軍事力に集中していた当時の科学力はこのような化け物を生みだしていたのだ。
 当然のように慣性制御を使いこなし、瞬間移動すら可能な電気騎士。モーターヘッド。
 様々な機体の中、最奥の玉座にて待機している黄金色のモーターヘッドに彼は近づいて行く。

「どちらへ行こうと云うんですか へいくぁああ〜??!」

 突如として現れた紫の髪の毛を頭上60センチも編み上げる独特な髪型の女性が下から睨め付けるようなジト目で彼を威圧する。

「や、やあアイシャ。今日は良い天気だねぇ」
「ええ、そうですわね。で?」

 その迫力に気圧された彼は引き気味に答えるが、その女性は追及の手を休めようとはしない。
 そこで仕方なく彼は当たり障り無いような言葉で誤魔化そうと試みる。

「しばらく動かしてないからさぁ〜、少し整備の方をと」
「ほほぅ、しばらく動かしていないと? 」
「うんうん、そうそう」
「不思議ですわねぇ、今の機体の応力係数は待機状態で蓄積する物ではなく、どちらかというとどこかへテレポートして一戦交えた挙げ句隠れてこそこそ格納庫に戻ってきた、みたいな整備が必要な応力なんですけど?!」
「ふ、ふしぎだねぇ」
「ええ、不思議ですねぇ」
「じゃあそう言うことで・・・」
「さらに噂によると、南極決戦の場に突然金色の戦闘ロボットが現れた・・・って事なんですけどね」
「へぇ〜、そーなんだー」

 彼は白い顔を青く染めて返事を返した。
 そんな彼を睨む女性、騎士団の重鎮にて政治中枢に籍を置く宮家のアイシャさんは止めを刺すべくクリップに挟んである書類の中から一枚の絵を出す。

「因みにこれが証拠写真です」

 そこには敵が「樹」から大量に生みだした敵の一体をバリアー毎一刀両断している黄金の電気騎士の姿が・・・。

「あぅ」
「バッチリ写真取られてるじゃないですかぁあっっ。評議会に知られたらどうするつもりなんですかぁっっ幸いこれだけだったんで大金積んで口止めしてきたんですよっっへっいっかっはっ私たちを過労死させるつもりなんですかっっ見る人が見ればこれが何処の何なのかなんて分からないわけ無いでしょうがっっこれでもまだシラァ〜切るつもりなんか陛下ぁっっ」

 どとーの口撃に彼、現帝陛下は何とか言い訳を考えみる。

「あ〜、今回の戦いにはエマーンは参戦していないし、何とか誤魔化・・・」

 見る見るうちに陛下の声は窄まってしまった。目の前の彼女の視線があまりにも怖かったからだが。

・・・ないよねハイ。だ、だけどさ、ほら、なんだ、あの〜その〜そうっ! あの場には各国の兵力、特にあの『エヴァンゲリオン』がいたんだし、実戦を直に見た方がぁ・・・実力を測れるってぇ云うかぁ・・・ねぇ?」
「ふむ、分析は済んでいると?」
「勿論さ、ラキシスッ」

 彼が黄金の電気騎士に呼びかけると、胸部装甲が盛り上がり2ndコクピットのハッチが開いた。
 活きている機体の活動音と共に彼女は姿を見せる。
 針金のように細い肢体に曇り硝子のような両眼、集積回路と複合素材で形作られた骨格にシリコンゴムのような素材で出来た人工の身体。
 人が電気騎士を操るのに必要な演算を行う為、敢えて人の心を知る事の出来る姿形に作られた人型のコンピューター、『ファティマ』である。

『Yes,マスター』
「南極での実戦データーを」
『ハイ、分析ハ済ンデイマス。アイシャ様ノ端末ニ転送デ?』
「いえ、機密保持のためチップにして」
『了解シマシタ、アイシャ様』

 そう言いながらラキシスは高さ20メートルは有る胸部から足音も立てずに飛び降りると、腕のリングからスイカの種位の情報チップを取り出した。

『オ受ケ取リ下サイ』
「確かに、受け取りましたわよ陛下ぁぁ」

 チップを受け取ったアイシャはイヤな笑いを浮かべると皇帝に向けた。

「えっ? あの、許してくれるんじゃなかったのかな」
「フフフ、無断出撃の証拠、確かに受け取りましたわ。覚悟はよろしくてございますわね陛下」
「ゴメーン」

 両手の指をワキワキと蠢かせていたアイシャがふと我に返ると、脱兎の如く駆けて行く皇帝の後ろ姿が妙に小さく見えた。

「逃げた・・・」
『ハイ、逃亡イタシマシタ、アイシャ様』
「逃がすくわぁーっ! 待たんかーい陛下ぁーっ」

 陛下と同じく騎士の脚力をフルに活かして猛スピードで疾走し始めるアイシャの姿もたちまち小さくなる。

『フフフフ・・・相モ変ワラズ愉快デスネ、陛下達ハ。ソウハ思ワナイ? ナイト・オブ・ゴールド』

 一箇の機械生命体に近い迄に高められた機能と構造を有するモーターヘッドは、そう呼びかけられると微かに笑ったような気配を発した。














「お仕置きっ!」
「そこはダメー」




<アイングラッドの後書き>
 えっと、後書きです。
 ビミョーな話です。
 本編に使えるかどうか、しかもファティマがL−GAIMの設定に近いしで様子見中にしていた設定です。(外典強化の為、本編様子見作品として文章化。)
 ただ、エマーンが帝国の割りに皇帝が出てこないのはこういった理由です。
 作中に出てくるエマーン各氏族のトップとしては「『エマーン帝國騎士団が出張るような事態ではない』、と言う事にしておきたい」のが共通した理念なのです。
 戦後は一から政治株券の購入を始めなければならないし、下手に損害が大きければ皇帝親政の名の下に自らの権利が制限される〜と云う事態にも成りかねないと考えている訳なんです。
 むむ、弱小氏族にとって有利な様な気が・・・今持っている既得権益まで分まで大手の氏族に奪われる可能性があると、そう言う感じでしょうか。
 とはいえ、今回のこれは設定面でのやり過ぎやキャラクターが巧く掴めていないかなとも思いますので、ご意見よろしく。
 上手く練れたら改変の上、本編に移行させるかもです。
 ではでは。
 PS.騎士とプロテクターの組み合わせがイマイチ。




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