作者:独逸人じゃーまん さん

 全てが終わった戦場跡では、式堂兄妹が瓦礫に埋まった人物を救助(と、いっても二人とも結局は自力で出てきたが)し、ステイトは聖の傷をヒーリングでしばらく癒した後にロベリアの看護に向かった。傷の治療においては気絶から復帰したエリカ、瓦礫から脱出した薫(正確には霊剣「十六夜」だが)も傷の治療に尽力したため、華撃団の面々は必要以上にその顔ぶれを他人に見せることはなかったのだが、見てしまったものへの対処というものを考えざるを得なかった。

「申しわけありませんが…華撃団本部に来てもらえないでしょうか。」

 一時は肺にダメージを受けて、呼吸困難に陥っていた大神だったが、十六夜のヒーリングを受けてかなり回復した。
 …彼、今月で臨死体験に近いの二度目。

「その、礼を申し上げなければなりませんし…その、秘密厳守の部隊でもありますので。」
「秘密、か。」

 ステイトは苦笑していた。

「私にとっては何故、秘密でなければ成らないのかが不明なんだがな…。私の居た世界では魔は人の世に隠れ、目に捕らえられぬ者には基本的には無害だった。それゆえに秘密でなければ、正気を疑われる世界だった。けれど…今のこの世界はそうでないだろう?」

 ステイトが何をいいたいのかは大神にもわかった。

「異星人、人の心を持つ人形…わたしはホムンクルスと、呼んでしまいそうだがな…今更、悪魔やら降魔やらがいたところで人々は驚きはすれど、それを鼻で笑う事は無い。…と、すまない。」

 しゃべっている間にステイトは一度、座り込む。

「ヒーリングを使いすぎたかな…」
「あ、すみません…お疲れのところで立ち話もなんですから一度帝劇に戻りましょう。」

 大神はステイトを始めとした面々に声を掛ける。

「…いいのか、大神君。君たちは秘密を守らねばならん身の上だろう。民間人のいたあの帝劇に戻るというのは…」

 甲斐那の言葉に苦笑する薫とステイト。聖も傷が痛むのか時々、顔をしかめるが、苦笑する。

「そういえば、式堂さん達は帝劇に向かったのが遅かったから気付くわけも無いんだ。」

 薫は簡単に説明する。

「うちらは彼がモギリをしているのをこの目でみてましたからね。」
「つまり、帝国歌劇は帝国華撃団と繋がっている、と見るべきだろうな。」

 薫の言葉を取るようにステイトが大神を斜めに見ながら続ける。

「それにシャノワールの踊り子たちがここにいることを考えれば、帝国歌劇団のメンバーは帝国華撃団のメンバーだろうな。彼女らが巴里華撃団を名乗ったことも重ね合わせるとほぼ確実だな。」

 ステイトの台詞にちょっと小さくなる巴里華撃団のメンバー。

「ま、確かに立ち話も疲れたな。私は帝劇でケーキでも頼むつもりだが…君らはどうする?」
「いきましょう。」

 ステイトの言葉に薫は即答する。

「式堂さん達は…」
「うーむ…」

 しばし、悩む二人。

「すこし、連絡をいれても構わないかね?」
「…僕らのことをしゃべらない、ということなら。」
「…難しそうだな。が、君たちの秘密に関わる部分はしゃべらないようにしよう。」

 甲斐那はそういうと携帯電話(鏡花達からもらったほう)をかけた。

『あ、甲斐那さん。お疲れ様です。』

 出たのは亮だった。

「すまない。今回の事件で――」

 甲斐那が言葉を切ると同時に刹那が大神に問い掛ける。

「巴里華撃団と帝国華撃団、どっちで話したほうがいいですか?」
「…帝国華撃団でお願いします。」

 大神は瞬時に判断した。ここは帝都区である以上、巴里華撃団の名前をだすのも拙い。

「今回の事件で帝国華撃団と共同戦線を張る事があってな…それで政府筋の方の事情聴衆とやらに付き合わざるをえないようだ。」
『そうですか…じゃあ、こっちから2、3黙っていて欲しい事が』
「なにかな?」
『一つ目は<教えられる魔法を持っている>こと、二つ目は<日本ではないどこか、から来た>事…そして、カイトくんやミューゼルさんのことはオフでお願いします。』
「…わかった。」
『まあ、ボロがでそうなら日本でないどこか…の部分は話してくれてもそう、大きな問題にはならないと思いますが…一つ目がばれると長期間の拘束を受けることは目に見えてますからそちらはとにかくばれないようにお願いします』
「…わかった。じゃあ、付き合うのは構わないな?」
『それこそ、あまり良くないと思いますよ』
「確かに。では」
『はい。夕飯は…無理そうですね』
「ははは…向こうのお世話に成りそうだな。では切るぞ」
『はい』

 甲斐那は携帯をきると刹那を手招き、耳打ちで携帯の会話の内容を話す。刹那はそれに頷くと、
「こちらも構いません」
 と、華撃団のメンバーに答えたのだった。

「じゃあ、決まりだな。ラウンジで温かい飲み物と…ケーキぐらいはおごってもらうというのはどうかな。」

 ステイトの言葉に一行に笑みが戻る。

SSFW Outside Story

新世紀アリス伝/Face Earth


Ep02. 季節はずれの恐ろしさ
G=PART / 一つ目の後始末

「しっかし…まあ、頭の痛い話だなあ。」

 作戦成功の報のあとに米田中将は頭を抱えていた。

「よりにもよって巴里華撃団の連中の顔を5名の通りすがりのGSに見られちまうなんてなあ。」
「もっとも素晴らしい人材も発見した、とも言えそうですが。」

 あやめが美智恵経由で入手した直にやってくる5人のプロフィールに目を移す。

「異能力登録については行なっているのは神咲薫さんだけですね。流派、神咲一刀/一灯流の持ち主で現役の高校3年生ですね。」
「なにぃ?」

 米田は即座にそのプロフィールを手にすると能力ついで、顔を見る。

「ルックスは合格だな。」
「…勧誘するんですか?」

 米田はしばらくの間、沈黙する。

「ま、上が許せばな。」

 高校生なら一応、合格だよなあ…?、と呟いた米田だったが、かえでがその疑問に答える。

「未成年ですから根本的にはひっかかりますが。」
「…なあ、かえでちゃんよう…それをいうならアイリスはどうなるんだい?」
「…まあ、そこは『すでにそうだったから』としか。」

 加治首相がこのことを知らないはずはないのだが、EVAパイロットと同じような特例措置ということである。

「だけど、今回の戦果からさっぴけば一番の腕前、だなあ。」

 薫の戦果は2時間の間にラガウリ=ウェンディゴと4回戦闘(全部救援活動によるもの)を行い、無傷に近い。
 今回の騒動で戦闘でGSに死亡者や重傷者をだしたのはラガウリだけである。もっとも、薫はラガウリとの度重なる戦闘を行なっていた分撃破数そのものは非常に少ない。実質上、早期に出会ってしまったがゆえに足止めに専念したわけである。
 撃破数だけなら次の二人組のほうが多い。

「こっちの式堂兄妹は情報不足…か。」
「今年になってから出現したようですね。この世界にきてからまだ一月経ってませんわ。」
「それはしらべる事もできんなあ。」

 しかし撃破数はダントツである。広範囲攻撃魔法を保有している刹那の存在が大きい。
 GS最高レベルの美神令子でも集団殲滅用の技は多くない。というか懐が痛いので普通やらない。

「しかも、あいつらの報告からじゃあ…シルスウス鋼を気合一閃で叩き斬ったって話だろ。この男のほうは。」
「はい。機体回収班からも報告がありました。」

 人間の身でシルスウス鋼を斬るのはよほどのことである。

「よっぽどの名刀をつかってるのかねえ…」

 最後の一組のプロフィールに目を移す。

「このコンビは…なかなかの腕前みてえじゃねえか。」
「…ですね。」

 融合後、地方自治体レベルとはいえ、退魔師…GSがでなければならない事件に参加。
 異能力登録がなされていないわりにかなり公的機関との係わり合いが深い。

「彼らのいた世界では警察機構を始めとする公的機関の協力が普通だったようです。というより、実質上の公的機関の一翼を担ってたようですね。」
「って、ことは…この二人は基本的には俺らに一番協力してくれやすい人物…って、ことになるな?」
「そうなりますね。今回の事件は彼らと面識を得るには丁度良かったのかもしれませんね。」

 ここでかすみ嬢が入ってくる。

「大神隊長以下、巴里華撃団の方々と救援者の5名の方々が到着いたしました。」
「どうします?」
「こっちに呼んで――」
「あの…できれば、上のラウンジで…ということなんですが…」
「…は?」

 5人のGSは帝劇内のラウンジで身体の温まる飲み物に、思い思いのデザートなりを頼んでいた。
 米田はそこに姿をあらわす。

「わりいが…ここで話というのは…」
「そうかな?、今日はもう人はこないだろうし…華撃団のメンバーが妙神山に修行にいったというのはこの界隈では有名だぞ?」

 ステイトは意地悪い笑みを浮かべながら米田の続けたいことを止めた。
 このステイトの言葉に一番反応したのは米田の後ろにいたかえでだった。

「そんな…彼女たちのことは一級の機密…」
「蓋をあければたいした事じゃないんだろ?」
「まあな。…妙神山が修行場、というのはなんとなく、想像でいったんだが…仕事であの近くにいったことがあって、そのときに登山していたのを見た。」

 しれっと、悪びれも無くステイトは種明かしをした。

「…なるほどなあ…」

 米田は顎はしゃくる。

「その筋では有名なのかい?」
「今のは誰にも言ってない。帝国華撃団が理由はどうあれ、秘密主義なのは業界でなくても有名だからな。だが、秘密なんてものは何時かは漏れる。そして、漏れたと気付いた時には大抵においては手遅れになるものだ。」

 ここでステイトは外の様子を見る。

「今はここには誰も居ない。それに、この会話はどこで話をしようが政府の高官に伝えられるのだろう?」
「まあ、な。」
「じゃあ、盗聴されているここでもいいとしようではないか。」

 この言葉に聖が「え?」と腰を上げる。
 他の3人も聖ほどではないにしろなんらかの反応があった。

「…一般人もいるだろうに…あまり褒められたものではないな。」
「おれっちもそう思うんだけどな。」

 米田は観念したように適当な椅子を引っつかんでくると、一行が占領している相対ソファー席の側に置いて座り込む。

「ま、そういうわけだ。鷲羽ちゃんよう。直接そこで聞いてくれや。」

 米田は顔は一行からまったくそらさずにそれだけいうと、まずはどこから話したものかと考え込む。

「ま、華撃団がやってることは先刻承知だろうから活動内容においてはよこにおいとくぜい。」

 ステイト、聖、薫は頷いたが、式堂兄妹は首をかしげる。

「…ま、お前さんらと同じことだよ。ただ、地域と相手を選んでるだけに他ならん。」

 そういうと米田はいくつかの写真を見せた。

「ま、もしかすると知ってるかもしれないが…そいつが俺たちの敵だ。」

 蒸気獣や足軽などがそこには写っていた。

「…悪魔というより機械、だな。」
「ああ、そうだ。…俺たちの相手は機械相手になるのが常なんだ。」

 ステイトは渡された写真を廻していく。

「機械相手なら自衛隊のほうがよくないかな?」

 写真を見た薫の率直な意見。

「たしかにその足軽――数の多いほうな。それだけなら自衛隊ならびにレイバー特車で十分間に合うんだがな…」
「こっちの毛色の違うのはそうはいかない…と?」

 ステイトの問い。 「ああ、そのとおり。ま、霊力の一撃を受けると大半の機械は停止してしまう、というのが過去の戦訓からわかってるんだわ。」
「…グレムリンの一種のようなものか。」

 ステイトはちょっと眉をひそめ、そう呟いた。

「ということで、そいつら相手には俺らが出る。俺らはつまり、それを倒すのが本来専門のチームなのよ。」
「では、彼女らは巴里華撃団となのっていたが…これはフランス、パリのことで、いいのかな?」
「ああ。ま、顔を知られちまったしな。今更言い逃れはできめえ。実は俺たちの世界でのパリを守る為に結成されたものなのよ。協賛、日本帝国華撃団でな。」
「行なっていた事はほぼ同じ?」

 薫が問う。

「ああ同じだ。立ち上げとほぼ同時にオーク巨樹事件なんてのが起きてそれを解決したことでほぼ成功したようだ。如何せん俺たち、帝国華撃団は巴里華撃団が立ち上がる前の段階でこっちに来ちまったんで向こうからの説明だけなんだけどな。」
「…時間軸違い、ですか。それは大変ですね。向こうの方がいろいろと物知り訳知りで気を使われる事もあって…」
「…嬢ちゃん。なんか体験したのか…?」

 薫が妙に詳しそうな感じなので米田は苦笑しながら聞いてみたのだった。

「ええ、まあ…ちょっと、ですけど。」

 ここでステイトが質問する。

「秘密にしてるのはどう、説明する?」
「…んー、いろいろとあるんだが…今の日本連合の主旨でいえば…国益だな。結局は。」
「…納得した。」
 ステイトはそういうと「ま、それなら口外禁止は守ろう。」と頷いた。聖他4人はそれでいいのか?という顔だったが、国家機密というものがどういうものかは大なり小なり知っているので渋々頷く事になった。

「じゃ、次だ。…今回の事件の立役者だった悪魔。あいつはいったいなにものでえ。」
「何者、と問われてもな。私もよくわからない。」

 ステイトは肩をすくめた。

「あちらのほうがそれに関してだけ言えば詳しいだろう。」

 ステイトは式堂兄妹のほうに目線だけを移す。それに苦笑する式堂兄妹。

「なにものでえ?」 「…ラガウリ、と呼ばれる神だ。」

 甲斐那はそうとだけ、答える。

「へえ…そいつはやっつけたのか?」
「いや。ラガウリは…幽霊のようなものだ。宿主を見つけ、それに憑依する。――寄生虫に近いかもしれんな。ただ、憑依された体の能力を大幅に強化する。特に耐久面においては本来の数倍以上になる。」
「ふむ…」
「ただ、ラガウリに取り付かれたとしてもその身体が本来できないことはできない。たとえば…人間に憑依した場合は空を飛ぶことは出来ない。魚に憑依すれば、きっと水の中でしかいきていけないだろう。まあ、試したわけでもなく、文献に残っていたわけでもない。ただ、あれと少々つきあったことがあるぐらいでの推測の域をでないが…」
「…じゃあ、今回の事件はあれか…。吹雪を起こせる悪魔に憑依して、それを最大限にまで能力を引き上げたって、ことか?」
「そうなるな。…ただ、前に戦った時に比べると耐久性が落ちていたような気はする。高速再生で補っていたが…前に戦った時に比べればどうみても落ちているような気はする。」
「…前のときはなんだったんだ?」
「餓鬼、だったかな。ただ、殴りかかってくるだけの悪魔だったから、さして恐れるほどのものではなかった。」
「ふむ…かえでくん、どう思うかね?」
「多分…推測ですが、ラガウリはその個体能力を強化できる総量は固定なのではないでしょうか。ラガウリ自身で最低が、そして素体悪魔に最高が決まっていて、最低を全部振り分けた後にあまった強化点を更に振り分ける…。たとえば、餓鬼のときは能力が限定されてましたから、最低を割り振っただけで最高に達してしまったから、あまりを全て耐久関係に割り振った…こう、考えれば説明にはなります。」
「おいおい、ゲームの話じゃないんだぞ。」
「ですが…これ以外にこの情報量では推測はできませんが。まあ、先ほどの説明の亜流ぐらいならあるかもしれませんが…それも素体悪魔に左右されるかどうかの比重が変わるだけの話です。」
「そうか…なあ、式堂、甲斐那くんだったな?」
「はい。」
「そのラガウリは再び現れるか?」
「現れる。そうみていいだろう。」
「対処はしにくいな…。」

 米田はしばし、頭を掻く。

「たく、降魔がちょっと静かになったかと思えば、次から次へと頭の痛い勢力がでてくるもんだな。」
「ああ、すまない。その頭痛の種を増やすようなことを一つ付け加えてもいいかな?」

 ステイトが米田に声を掛ける。

「今回の事件でラガウリは『誰かに騙されたようなこと』を話していた。それがなんなのかはわからないが…もしかすると今回の事件――悪魔集団発生の主犯かもしれない。」
「なんだって、そいつぁ…聞き捨てならんぞ。」

 刹那がここで口を開く。

「…そういえばそうでしたね。…あのものは嘘はついていなかった…最悪、手を組むことも構わない、ということでしょうか。」
「厄介だな。それは。」

 刹那の言葉に反応したのはステイトだった。

「倒されても倒されても次から次へと悪魔を乗り換えて…なんて手段に出られたら勝ち目が無い。実際今回の事件でも一回、乗り換えてるからな。」
「憑依してるだけ…ゆえに、か。」

 ステイトの言葉に苦悩の色を隠せない米田だった。

「さて、そろそろ解散かな?そちらの事情を聞いたし、今回の事件の主力だったラガウリのことは判明した。これ以上は、話し合うこともないだろう。」
「ステイトの嬢ちゃん…それはないだろう。まだ一つあるさ。」
「なにかな?」
「俺たちに手を貸してくれないかな?」
「…勧誘なら断ろう。」

 ステイトはにべも無く答える。

「おい、ステイト…」
「今更、ここの役者のように舞台にでることはできないからな。恥ずかしくて。聖、お前もいっしょだぞ。普段はここの仕事を手伝わされる事が目に見えてるぞ。」

 ステイトの台詞に苦笑するしかない聖。

「しゃあねえな。そっちの神咲の嬢ちゃんは?」
「お断りします。うちに霊子甲冑は戦い方に全くあわない。」
「そんなことはないとおもうがなあ。君ならうちのさくらくんや大神といい勝負――いや、それ以上は戦えると思うけどねえ。」

 米田はまあ、無理強いはできんしな、と諦めたように呟くと式堂兄妹に向き直り――

「我々も断る。恩のある人物たちの側にいることに決めている。」

 と、先手を打たれてしまった。

「しゃあねえなあ…。皆だめか…」
「仲間にならないだけで協力を惜しむわけじゃない。」

 ステイトが付け加える。

「私たちは元の世界でも公権力とは密接に繋がっていた。社会に無用な混乱をもたらさないために、そして、通常では解決できない事件を解決する為に。蜜月の関係にあったわけだから、頼まれれば協力に応じるよ。他に仕事が入ってなければ、だが。」
「はは。そいつはありがたいねえ。…ところで嬢ちゃんは魔法を使うようだけど…」
「ん?そうだな。」
「そいつを教える、ってことはできねえか?」
「出来なくはないだろう。」

 ここで色めき経つ華撃団の面々。

「本当か、そりゃあ。」
「ああ。もっとも、素質・素養の有無がまず一つの問題に成るし…多分、今の日本連合じゃああまりいい顔されないとは思うけどな。」
「…なんだ?」
「つまり、廃人覚悟、ということだ。子供の時分から10数年、教え込ませてモノになるのは素質があってもほんの数パーセント。なれなかったものは死ぬだけだ。身体か、精神かの違いはあるだろうがな。まあ、死ななかったとしても普通に生きるには無駄な知識だけが残るだけだ。普通の生活にはまず、戻れないだろう。」

 ここで追加説明。ステイトはかなり厳しい事をいっているが、実際はここまで厳しくない。ただ、ここでいうステイトの話は魔法を教える=対魔師修行という観点から成り立っている。そうなると実際その程度の確率になるわけだ。ステイトの修行は実戦向けだが…
 あまりにハイレベル、ということだけ押えておく。レベルを下げればここまで酷いわけはないのだが…。
 とはいえ、ここまで言われて欲しいと思うほど、米田は偏っていない。

「それは確かに…いい顔されないどころか即行で禁止命令がでて身柄拘束だろうな。」
「だろう?」
「まあ、虫のいい話はないか――神咲の嬢ちゃんもそこは同じかい?」
「そこまでは酷くはありませんよ。」

 薫は流石に苦笑する。ステイトの言葉にちょっと退いていたが。

「酷くは無い…ということは似たようなことはあるってのか?」

 薫は頷いた。

「うちらは人命尊重が先にありますから死ぬまで修行なんてことはないですけど…それでもいくつか危険な鍛錬はありますから、それで命を落す可能性はあります。」
「…そうか。」
「でも、実戦になれば当然のようなレベルのリスクでしかありません。」
「って、ことは…軍の訓練のようなレベルで考えていいのかな?」
「それよりやや厳しい、と見ていいかと。それでも素質の有無は必要ですが。」

 薫の言葉にしばし黙考する米田。

「気を扱った戦い方は当然あるよな?」
「ええ。そこはまあ…。霊力を放つ、という形ですけど。」
「そうか…もしかすれば、そちらの当主の方と話をする機会を設ける可能性があるな。」
「…!」

 驚く薫。

「もっとも素質が有用みたいだから重要度は低いとは思うが、それでも政府の人間が声を掛ける可能性はある。それだけはまあ、覚えておいてくれ。」
「…わかりました。」

 ここで最後に残った式堂兄妹をみる。

「さて、とあとは…」

 甲斐那は首を横に振った。

「その点では力になれない。われわれのは人に教えられるようなものではないからな。」
「そうか、残念だ。」

 人に教えられないようなものではないどころか、誰でも、安全に習得できるレベルなのだが…下手な重要人物としての身柄拘束を避けるために否定する甲斐那。
 どうどうと否定しているために華撃団側は誰も嘘だとは思わない。
 ここでかえでが甲斐那に声を掛ける。

「もうしわけありませんが…刀のほう、見せていただきませんか?」
「…私のか?」

 甲斐那の目が少しだけ光る。

「彼女のほうではなく?」

 薫のほうをちらとだけ見る。

「はい、貴方の刀を。」
「…只の刀だがな…みてみるといい。」
「では。」

 刀を受け取ったかえでは拭いを口にくわえ、ゆっくりと丁寧に刀を抜く。

「へえ…刀としては逸品じゃないか。」

 脇から眺めていた米田はそう、評価する。

「ですが…わずかに霊気を帯びているぐらいで普通の刀です。」

 これでシルスウス鋼の光武を斬ったのである。動作していないとはいえ、中身に傷一つつけず斬って捨てたのだからその腕前は推して知るべし。

「しかも、刃こぼれしていません。」
「まあ、刃こぼれしたら切れねえがよ…それにしても、相当な腕前だな。」

 普通の刀よりは頑丈なシルスウス鋼を斬る…それは腕前だけではないことも示唆している。

「異能力登録はしてないんだっけな。」
「まあ、異能力というほどではないからな。」
「…いや、十分、異能力だが。」

 甲斐那の言葉にツッコミを入れる米田。

「とくにそっちのお嬢さんはな。」
「…手続きが面倒でしたのと…手の内を明かすのは戦うものとしては二流ですので。」

 刹那はそう答える。と、ここでいつの間にやら考え込んでいたあやめが訪ねてきた。

「甲斐那さん。貴方…今、異能力というほどではない、といいましたね?」
「…ああ。」
「つまり、それが一般的、すなわち…誰でも使えたということですか?」

 甲斐那は片目を閉じてあやめを見る。

「…ビンゴ、みたいですね。」

 甲斐那は首を横に振る。

「…誰でも使えたか、という答えには『否』としか答えられんな。だが…私の力は『異能力』と呼ばれるほどではなかった、ということだ。大なり小なり、似たような技を使うものは多くは無いが少なくは無い程度に使い手がいた。言葉にするのが難しいが…私のこれはあくまで人より優れた能力、であって、「異質」な能力ではない。よって異能力ではない、というのが近いかな。」

 つまるところ常識のラインがずれていたから登録はしていない、ということである。

「じゃあ、今ここで登録掛けてくれねえか…と問われたらしてくれるかね?」
「その答えは刹那が答えただろう?」

 はあ…とため息をつく米田。

「…じゃあ、一つだけ。」
「なにかな、米田殿。」
「俺たちから応援要請があったら来てくれるか?」
「難しいな。厄介になってるものの意志を尊重する、という答えで今は我慢して欲しい。」

 交渉窓口が違う、と甲斐那は答えたのだった。

「えーと…」
「うちは基本的には人を救うのを生業としていますので、正式な依頼をいただければ。それに公からの依頼もありますし、逆にこっちから封鎖してもらうとかの協力を頼む事もありますから、うちについては重複が無い限り、答えていきたいと思います。」
「そっか。ステイトくんたちも同じかな?」
「そうだな。神咲さんに近い立場になるな。」

 これでこの重要な会談は終わりあとは仕事抜きの雑談に入っていった。
 そして、つぎの舞台は政府の問題へと移る。





日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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