作者:独逸人じゃーまんさん


「…忍様。お目覚めください」

 私の身体がゆすられる。まだ眠い…。

「…ん、おはよう、ノエル」

 目をあければ変わらないメイド姿のノエルがそこにいる。
 しかし、微妙に変。…暗い。部屋が。

「ノエル…今何時?」
「私の時計がよろしければ、午前3時になります」
「…え?」

 それはベッドに潜ってから1時間ちょっとしか経っていないのではないか。眠いのも当然だ。
 逆をいえば、こんな時間にノエルが起こしにくるということは何らかの事態が起きたという事だ。

「…なにかあった?」
「はい。…ライフラインが切れています」
「…電気、ガス、水道、全部?」
「はい。付け加えさせていただくならば電話も通じません」

 …寝てる場合ではなさそうである。

「自家用電源を立ち上げて、ノエル」
「すでに立ち上げております。…お嬢様を起こしたのはテレビを見てもらいたいからです」

 ノエルはそういうと部屋に備えてあるテレビの電源をつける。
 そこには見たことも無いおっさんがテレビにでて演説を行なっている。そのとき私はなんの映画なんだろうかと思ってしまったが、それが後に有名になるGGGの融合当初の演説であった。
 …私はリアルタイムでこの演説(ついでをいえば、ノエルは録画までしていた)を見た数少ない人間になったのである。
 まあ、それはさておき。

「他のチャンネルも同じ放送を行なっております」
「え?」

 ノエルの言葉を疑うわけではないが、チャンネルを替えていく。

「…ふむ」

 放送の内容は世界を揺るがす大事件だという時空融合という事態の発生を話している。まあ、結論は…

「寝る。ここでいってるのが本当なら私にはなにもできないから」
「…わかりました」

 ノエルはそう告げると一つ礼をして部屋から出ようとする。

「あ、そういえばねこは?」
「ねこさんなら…そこに」

 ノエルの視線の先を追う。窓際で丸まっている猫。ちなみに名前は「ねこ」である。

「うん、じゃあ、私は寝るね」
「はい」

 これが月村家の融合当初の話であった。


SSFW OutsideStory
融合とらいあんぐる


1st Campaign : 変わらない絆


5th Chapter : 戦士の会合



 俺は一度家へ自転車を取りに戻る。
 と、その道の途中で自動車の警笛。振り返れば…

「月村…」
「おっはよー、高町くん」

 ノエルさんの運転する車から身を乗り出す月村。

「高町くんはこれから大学だよね。一緒にどう?」

 その提案をしばし考える。

「帰りは?」
「んー、じゃあ、帰りも一緒で」
「それならご好意に甘えて」
「はーい。一名様ご案内」
「こらこら」

 扉を開ける月村。そのあと、ノエルの後の席へと移動する。

「じゃあ、ノエル」
「わかりました」

 ノエルさんが運転する自動車のおかげで大学まではスムーズに来れた。
 月村と一緒に休講の案内が掲示される掲示板へとまずいってみる。
 そこにはでかでかと

「非常事態につき全日・全講義休講」

 と、マジックでかかれた紙が張られていた。

「あらら。まあ、そうじゃないかと思ってたけど…」
「ものの見事に、だな」

 俺と月村は苦笑しながら掲示板から離れる。

「さて、どうする?」
「んー。どうしたものか」

 まあ、大学がこれではとっとと帰ったほうがいいかもしれない。そんなことを思ったときに。

「…なんか、あそこの一角が騒がしいな」
「ん?」

 俺達がやってきた門とはちがう、西門と呼ばれる門の前に行ってみる。
 行ってみると…なんというか「いかにも僕らは不良です」という人種と「いかにも暴走族やっています」というまあ2種類の人種10名ちょっとが2、3人の女の子にちょっかいを出している、という図だった。

「なんか、海鳴近辺では珍しいね。ああいう人たち」

 月村の言葉に苦笑する。確かにあまり見ない人種だ。
 と、ここでちょっかいを出された側の1人が進み出て男たちと言い合いになっている。
 そのうち、不良達が激昂し始める。

「なんか雰囲気…まずくない?」
「だな」
「助ける?」
「当然」

 懐に手を入れる。木刀を持参してきているし、鋼糸もある。一介の不良程度ならあっというまに打ちのめせるだろう。…後が面倒になりそうではあるが。
 だが、月村との僅かな相談の合間に不良に囲まれる女性陣の1人が手をふって、他の女性たちに逃げるように合図を送る。さらにはなんかの暴言を吐いたのか、不良たちに怒りのようなものが混じる。手に持った得物に物を言わせようと振り上げるものが居る。

「まずい、な」

 俺は駆け出す。たどり着く合間に地面の小石をさっと拾い上げ、それを投擲しようとした、その瞬間。
 ドスン。
 女性が得物を振り上げた人間を地面に叩きつける。…投げだ。
 一瞬なにが起きたのか解らずにいる不良達。女性はその隙をついて2人目…得物はトンファー…を地面に叩きつけた後にトンファーを手にする。

「…て、てめえ!」

 ようやくなにが起きたのかわかったのか不良達が動き始める。しかし、不良たちの揮う得物はトンファーに受け止められ、時には流される。それどころか逆に女性の鋭い一撃で悶絶するありさまである。

「…な、…おい、女!」

 1人が懐から黒光りする凶器を取り出す。俺は鋼糸でその取り出した凶器を奪う。

「援護する」

 俺はそのまま木刀2本を抜いて不良たちに打ちかかった。
 …参戦してからものの10秒経たないうちに不良達は地面に転がっていた。

「…ふう、ありがとう」

 ここで女性の姿をきちんと見ることになる。
 そこには確かに美人といっていい人物が立っていた。

「高町くん、お疲れ様」

 ここで後から月村が声をかけてくる。

「ところで…高町くん。これ…」

 月村は何時の間にか手袋を嵌めており、その手袋を嵌めた手で黒光りする凶器…世に言うトカレフ、すなわち拳銃…の銃身を拾い上げる。

「安全装置はかかってるから、暴発の危険性はないけど…弾倉抜いたほうがいいね」

 月村はそういうとなれた手つきで弾倉を抜く。その後、ノエルを呼びに行くといって一度立ち去る。
 女性は拳銃の扱いが手馴れていた事に怪訝そうな顔を一瞬よぎらせたが、すぐに取り直した後。

「あなた、強いのね」
「ええ、まあ…武術をたしなんでますから。それをいうなら貴方こそ…」

 近づいたらよく解る。彼女は強い。
 雰囲気だけじゃない。俺との立ち位置さえ計算されている。

「…間合いは…ちょっと狭いみたいですね」
「…まあ、護身道だからね」

 俺の言葉にさらっと答える女性。
 護身道…たしか無手と棍(と、いっても片手で使う短いものだが)を用いる武道だったな…。

「…でも小太刀二刀なんて珍しい武術をやってるのね」

 女性はそこまで答えたあと、

「私は千堂瞳。貴方は?」

と、自己紹介をした。

「高町恭也です」

 なので俺も名乗る。ここでノエルと忍がやってくる。

「恭也様。話のほうは忍様からお聞きになりました。おや…」

 ノエルは女性――千堂さんに目を止める。

「お久しぶりです。千堂様」
「えーと…たしか…ノエルさん?」
「はい」

 ノエルが知っている?
 俺は月村のほうにちらりと目をやる。

「…なんか、どっかであったような気がするんだけど…」

 月村からの答えはそれだった。

「お嬢様。さくら様が高校生だったときに海にいったことを覚えておりませんか?」
「ん? …ああ、そういえばいったけど」
「そのときさくら様にご一緒された方々のお1人です」

 ノエルにそこまで言われて「あ」と小さく声をあげて、

「思い出した。…えーと、瞳さんでしたよね?」
「はい。…ところで…ノエルさんと一緒にいるということは綺堂さんの縁者の方ですか?」
「あ、はい。月村忍といいます」

 月村は一礼する。…ん、千堂さん…かたまったぞ?

「…えーと…あの、私の記憶が間違いでなければ小学生じゃなかったっけ…?」
「えっと…それを言うと私の記憶だと瞳さんはすでに20才後半になるんですけどー…」

 沈黙。

「えーと、千堂さん、月村…。時空融合って言葉聞いたことありますか?」
「んー、深夜にノエルに起こされて聞いたことあるけど」
「私はラジオで聞きましたか…それが?」
「その時空融合のお陰でどうも時間軸の違う人々が来ているみたいでして…月村」
「…ん、なに?」
「綺堂さんに会った?」
「今日、ってことならまだ」
「…美由希が驚いたといってたからな。たぶん、月村も会ってみると一番よくわかる」
「なんか、高町くん…言い回し悪いー。教えてよー」
「たぶん、千堂さんも知り合いの方々にあっていけば多分、幾人か様変わりしてるかたがおられるかと…」
「知り合い…ねえ」

 千堂さんはすこし考え込む。

「大学は休講だし…一度、風芽丘に寄ってみようかな」
「あ、それなら私たちもいってみようよ、高町くん」

 千堂さんの呟きに月村が乗ってくる。俺も異論はないのでそのままノエルさんの運転する自動車にのって風芽丘高校までやってきた。
 たどり着いた時の千堂さんの一言。

「ここ、本当に風芽丘高校?」

 俺と月村は無言で看板を指差す。

「…なのね」

 昼ももう2時近くになると学生(というより制服)の姿は少なく、一般の人々が情報を交換し合う場になっていた。

「そこの校舎は記憶にあるけれど…旧校舎はなくなったのね」

 千堂さんは校内をあるいていく。

「あっちの校舎は?」
「あっち…ああ、海鳴中央の校舎です。吸収合併したことで併設したんですよ」
「へえ…」

 変わってしまった母校を眺め続ける千堂さん。

「…後輩、今もいるのかな?」
「後輩…ですか?」
「そう。鷹城さんや相川くん。綺堂さんはいるのよね?」

 俺は出された苗字に心当たりがありまくるものを感じる。

「…常勝無敗の…」
「ん?」
「いえ…。鷹城さんなら多分会えますよ」
「本当?」
「そこの海鳴中央の校舎にいけば…」

 俺が全て話すまえに千堂さんは歩き始める。

「あ、案内しますよ」

 月村も一緒についてきながら、千堂さんを職員室に案内する。

「ここ?」
「はい。俺たちの記憶では先生ですので」

 俺たちは3人揃って職員室の扉の前で立ち止まる。

「えーと…どうやって入ろうか?」
「…そこが問題よね…」

 月村の問い掛け。それがまさしく今の状況を示していた。
 俺たちはこの中学のOBでもOGでもない。

「ここは高町くんが。レンちゃんの担任を訊ねるという形で」
「…了解」

 まあ、確かにそれが一番「理由付け」としては合っているだろう。
 レンは手術が成功したとはいえ、一時は心臓を病んでいたのだ。これからのことを話し合いに来たとすれば入る理由には問題は無い。
 俺は職員室の扉を開けて中に入る。
 会議中だったらしく、一箇所に固まっていた先生たちが全員こっちを振り返る。

「え、えーとすみません。鷹城先生は…」
「あー、高町さんのところの。はいはい」

 ポニーテールの女性の先生がやってくる。

「なにかな…」

 俺の側にまでやってきた鷹城先生は俺、月村と視線を移し…千堂さんに視線を移したときに止まる。

「…瞳さん…?」
「…鷹城さん?」
「はい。そうです。…先輩は…若くなってますねえ。…って、先輩?」

 鷹城先生の答えに言葉を失っていた千堂さんは…そのまま崩れ落ちた。

「わーーーーっ!!」

 結局、保健室に担ぎ込まれた千堂さん。まあ、すぐに気がついたけど…驚きでまっしろになったらしい。

「うう、オカルト関係には弱いの…」

 瞳のぼそっと呟いた一言で俺たちはなんとはなしに納得する。

「しかし、鷹城さんが学校の先生だなんて…驚いたわ」
「唯子もですよー。…は、もしかしたら今なら瞳さんを倒せちゃったりするかも…」
「7、8年の差は大きそうね。…やってみる?」
「はい!あ、でも胴衣…」
「私はもってるわよ。鷹城さんは?」
「唯子も持ってます。ときどき風芽丘のクラブに出没してましたしー」
「じゃあ、やってみましょうか」

 2人の間だけで話が進む。

「…高町くんも参戦したそうね」
「わかるか?」
「なんとなく」

 月村の問い掛けに答えた後に俺も参戦を表明する事にする。

「もしよければ…俺もいいでしょうか?」
「…高町さんも?」

 鷹城先生が目を見張る。

「護身道の試合だよ?」
「ルールの違いはあるでしょうが…無手もないわけではないですし、棍を手にとったときはきっと負けないと思いますよ」
「これはなんか楽しそう。ノエルー」
「…忍様…私も、ですか?」
「そ、経験値稼ぎには丁度いいかもしれないもの」
「…そういうことでしたら」

 その後、俺たちは道場を借りて試合を行なうことになった。月村が作成した抽選の結果は…

『鷹城唯子 vs 高町恭也』
『ノエル vs 千堂瞳』

と、いうことになった。
 なお、ルールは変則で柔道+剣道をミックスしたもので行なう。
 第一回戦の審判は月村。視力は悪くないし、ノエルの戦闘プログラムを組む必要性から意外にこの手の試合には目が肥えているということからである。

「では、2人前へ」

 護身道用の棍を二刀にした俺。鷹城先生は片手にだけ棍をもっている

「…礼。…始め!」

 礼のあとの号令で試合が始まる。
 …すぐには仕掛けない。それは鷹城先生も同じらしい。
 ゆっくりと間合いを詰めていく。右、左と相手の隙をうかがうが…無い。
 自然体に構えているのだがどう打ち込んでも防がれる、そんな感じがする。
 レンや晶が無冠の王者と呼んでいたが…それもわかるような気がする。
 それでもじりじりと間合いを詰めていく。
 そして…鷹城先生が動いた。掛け声も無く無言で手にした棍を叩き込んでくる。

「ふっ」

 …それを左手の棍で払ったあとに右で追撃をかけに――
 行かずに体を後にさげる。鷹城先生は開いた手で掴みにきたのだ。その掴みを避けて…打ち込む。
 ガッ!
 だが先生はそのまま体当たり気味に突進。棍はあたりはしたものの、忍・千堂さんともに浅いという判断。
 先生はそのまま掴みにくる。ここに及び俺も棍を手放し掴みにいく。
 刹那の攻防。
 相手の手を払い、如何に自分の有利な形に持っていくか。その攻防だ。自分でもどう動かしたのかは解らない。
 その結果はなんとか俺が鷹城先生の首を締める形になった。柔道のルールである以上このまま落としにかかる。

「うわ、高町くん…本気で落としにかかってる」

 このまま落せる…と思ってたら

「えいや!」

 …なんと鷹城先生は俺の身体を持ち上げそのまま場外目掛けて飛び込む。
 場外になったため開始線に戻って再開となった。

「しかし…相変わらず力押しなのね」

 千堂さんの呟きが漏れる。
 しかし、腕前…技量のほうも流石に高い。

「…本気でいきますよ」
「え?」

 俺の言葉に驚く先生。

「ほ、本気じゃなかったの…?」
「悪いですが…」

 本気でやると怪我する可能性が高いのでとは言いにくい。

「始め」

 月村の声にあわせて一気に間合いを詰める。
 そのまま回転するように棍を叩き込む連撃――薙旋。
 ぱぱぱあーーん…。

「きゃ…はう…いたたた…」

 3撃目で棍のガードを払いのけ4撃目で小手をいれる。そのため、先生は腕を擦っている。

「小手有り一本、そこまで」

 月村が手を上げて俺の勝利を宣言する。

「勝者、高町恭也。両者、礼!」

 ここで俺はノエルに、鷹城先生は千堂さんにバトンタッチする。
 第二回戦。
 今度の審判は俺である。

「両者、礼…始め!」

 ノエルはブレードを扱うように逆手で棍を持つ。そういう点では俺に近いといえる。

「…なんか…感じが違うわね」

 千堂さんはそう呟くと、慎重に動く。…先に大きく動いたのはノエル。

「はっ!」

 一閃の閃きが千堂さんを捕らえた――そう思った瞬間。
 ダアアン!!
 ノエルが千堂さんによって投げ飛ばされていた。
 千堂さんはノエルの一閃にあわせ体をずらし、相手の腕を知覚するのも難しい速さで捕らえ投げたのである。
 投げ飛ばされた形になったのは、それだけノエルの一閃が速かったこともあるが…それ以上に千堂さんの投げが綺麗、そして刹那のごとき速さで決まった事が大きい。

「一本。そこまで」
「あ、大丈夫…?ここまで勢いつくとは思わなかったから」
「大丈夫です。受身はとれましたので」

 ノエルは軽く埃を払うと何事も無かったかのように立ち上がる。月村が心配そうに見つめる。

「本当に大丈夫ですよ、忍様」
「そう…でもあとでちゃんと見てあげるから」

 さて、今度は俺と千堂さんの勝負になる。

「…高町さんには本気でかからないと…いけないわね。さっきの連撃は並々ならぬ勢いがあったから」
「…お手柔らかに」

 …ノエルは決して弱くない。そのノエルをあっという間に投げ飛ばした人…気を抜いて…いや、手加減して戦う相手ではない。試合とはいえ…それこそ「倒す」だけの覚悟で戦わなければならない。俺はそう判断する。

「始め!」

 月村の声。
 …ぴりぴりする感覚が身を襲う。相手の本気が静かな気迫となっているのがよくわかる。
 …投げを主体とする以上、どうしても間合いが狭い。俺にとって千堂さんより確実に上回っているのはそこだけだ。
 右に左に相手を揺さぶる。しかし的確にそれを捌く。もっとも、千堂さんは打ち込んでは来ない。千堂さんはあくまで棍は一振り。それを防御にのみ使っている。
 …一度、本気でしかける。
 右手の棍で打ちかかる…が、これはフェイント。左手の棍で相手の腕を狙う。

「!」

 千堂さんは腕を動かすだけで避ける。しかし踏み込みはしない。俺もそれ以上は打ち込まない。
 …貫をかけようとしたのだが、まったく千堂さんは「乗ってこない」。本来ならさらにもう一撃。相手の感覚の死角から狙うのだが…それができない。

「…やるわね」

 千堂さんの呟き。
 月村と先生は何が「やるわね」なのかあまり解っていない節がある。
 今度は千堂さんが動き始める。歩を進め、無造作に間合いを詰めてくる。隙の多い千堂さん。なにか、ある。
 俺は一時バックステップ。千堂さんはその俺の反応を見て進め方を替える。どちらかといえば剣道らしい構えになり、間合いの詰め方もそれになる。
 俺の間合いにそろそろ入る…その瞬間。
 千堂さんは打ちかかってきた。最初の一撃を右手で払い、そのまま左手で胴を狙う。一閃が千堂さんの身体を捕らえようとした瞬間。払われたはずの千堂さんの棍が俺の左手をまるで追尾するかのように、そして…俺よりも速い一閃で狙ってくる。
 まずい!
 そう思った瞬間、俺は「神速」を発動していた。
 世界が色をなくし、全ての動きが遅くなっていく。既に右脚の踏み切りは終わっている。この神速で膝をいためることは無い。
 勝負がつくと思った瞬間――。

「!」

 千堂さんは俺の使った神速に反応している。

「く…」

 自分から倒れこむ形で俺の胴狙いの一閃をかわす。
 世界に色が戻ってくる。

「…あなた…」

 千堂さんが驚いている。
 鷹城先生も何がおきたのかわかっていない様子だ。

「月村さん、なにがあったかわかります?」
「…私もさっぱり」

 審判が見えていないとはちょっと拙いよーな気はするが…神速に反応できる人物がいたとは…。

「…世の中本当に…強い人は居るものね」

 千堂さんは立ち上がると軽く呟く。

「…いくわよ。高町さん――」

 千堂さんがそういった瞬間。
 ジャッ!
 千堂さんの姿が消え、4歩の間合いを瞬間で0にする。――まさか!
 俺はなにも考えずにその動きに神速を発動――したが遅かった。千堂さんの手が俺の手を捉える。そして体を乗せる。
 感覚が先行するこの世界の中でおれはゆっくりと投げられているのを見届ける形になった。
 バアァンッッ!!

「が…」

 畳に叩きつけられ一瞬、息ができなくなる。

「はあ…はあ…」

 投げた千堂さんは肩で息をしている。

「…審判?」
「あ、一本、そこまで…」

 月村が倒れている俺を信じられないような目で見ている。

「高町くんが破れるなんて…信じられない」
「それは私も同じ…まさか、あの動きが出来る人がいるなんて…思いにもしなかった…」

 まだ息が荒い千堂さん。

「…神速、使えるんですか?」
「ええ。…神速、というのね」

 意識集中を極限までに追求すると通常の数倍に時間を引き延ばして感じとることができる。
 その引き伸ばしがある一定水準を越えると今度は体がそのずれを直そうと無意識にかかっているリミッターを外す。
 その結果、爆発的…とは言わないまでも人間の限界を超えた動きができるようになる。
 もっとも、肉体強度を度外視した力が身体に加わるので体への負担が大きい。
 また、俺自身に限らず、バランスの悪い身体で行なえば自滅してしまう可能性がある諸刃の剣。
 今回、俺は二回発動した(2回目は未遂も同然だったが)が一回目は本当に刹那の時間、二度目は動く前に投げられたために感覚だけがその世界に移行しただけに終わったので身体への負担は少ないが…。千堂さんは4歩を0にした上で俺を投げるところまで神速を発動しつづけた。
 俺が知る限り、そこまで発動できる人物は今は無き父親と叔父さん…美由希の父親…に、美紗斗さんだけだ。まあ、父親や叔父は破格のレベルであるとはいえ(実に10秒は発動できるという)、千堂さんは既に美紗斗さんの域には達しているのではなかろうか。

「…何時頃、使えるようになりました?」
「高校を卒業して…すぐ、というところね。高町さんは?」
「父が亡くなって…しばらくしてからです。無我夢中で剣術の鍛錬をしている中で」
「そう…」

 父が亡くなって…というくだりで千堂さんの顔にかげりが見えた。

「ところで…立てる?」
「…どうにか」

 畳に寝転がったまま、叩きつけられたダメージが抜けるのを待ちながら話していたわけで。
 ゆっくりと身を起こす。

「…ほええええええええ…」

 よくみれば鷹城先生が口を大きくあけたまま、呆けている。

「れ、レベルが違いすぎる…」

 …晶やレンが鷹城先生のことを話していた時に、大学時代に一度しかタイトルが取れていないことを話していたけれど…それは仕方ない、と言うしかない。
 神速をあつかえるということはそれだけで実力的に普通の選手に大きく水をあけていることになる。

「うう、大学時代は千堂さんに毎回、瞬殺されてたけど…なんか理由がわかっちゃった…」
「え、私、鷹城さんに…これ、使うの?」

 少し驚く千堂さん。

「融合前に全国大会にでたときは使った事無かったのに…」

 いや、使うような相手がいたらおかしいです、その大会。
 俺は口にださず、ツッコミをいれてしまっていた。

「でも、こんな試合で使ったのは初めて開眼したとき以来かな。狙って使えるようには練習してきたけど…ね」

 くすっと微笑む千堂さん。

「高町さん。…いや、恭也くん。私がいままで戦ってきた中では一番強かったわ」

 そういって左手をだす。
 苗字から名前と左手…つまり、俺はこの美しい人にライバルとして認識されたわけか。
 俺は千堂さんと握手する。
 …時々、鍛錬に付き合ってもらおうかな…。美紗斗さんとはまた違い、無手を基本とする神速使い。
 剣士として、一介の武術家として、こういう相手は好ましいのだ。
 俺たちの試合のあと、ノエルと鷹城先生の試合、そして、鷹城先生と千堂さんとの試合になる。
 ノエルと鷹城先生ではからくも鷹城先生が一本を取る。
 続く、鷹城先生と千堂さんの試合。一進一退の攻防が続いていたが、結局神速発動にまで千堂さんが追い込まれるものの、その神速のおかげで千堂さんが勝利した。
 ちなみに時間無制限だったため、試合時間は20分ほど。

「未来の自分が…はあ…鷹城さんを瞬殺してた理由がわかったわ…。疲れるのよ…神速を使う以上に…」

 …たしかに力なら俺に決められた時に持ち上げて場外にまで持ち込むのだから、女性としてはそうとうなものだといっていい。その上、決して技量が低いわけじゃない。
 そんな相手に戦えば、まあ疲れもするだろう。

「あとは恭也くんとノエルさんの試合だけど…」

 ここでノエルが首を横に振る。

「高町様と戦って勝てるとは思えませんので辞退させていただきます」
「…よね。家政婦がメインのノエルさんでは荷が重いと思うわ」

 千堂さんはノエルさんの言葉に頷く。
 そして、今日の試合は終わったのであった。
 俺、月村、千堂さんは帰宅する。月村は千堂さんを送ろうかと話し掛けたが千堂さんは丁寧に断り、自分の脚で帰って行った。

「しかし、驚いたね。…高町くんを破る相手がいたなんて」
「…試合、とはいえ…確かに強い」

 しかし、実戦となったらどうだろうか。…と、考えて首を振る。普通の人には縁の無い、いやあってはならないことだ。考える必要もないだろう。
 俺は月村に誘われてノエルの運転する自動車で家まで送ってもらった。
 さて、美由希にどう伝えたものかな…。
 …。

「そういえば…あの拳銃は?」
「あ。そういえば、警察に渡すの忘れてた。…ま、いっか。ノエルの武装にそのまんま組み込んでみようかな」
「…それはどうかとおもうのだが…」
「ま、ノエルの内蔵装備する分には普通の人たちが持つよりよっぽど安全よ。盗まれないし」
「…それは認めるが…」

 結局、月村がそのまま拳銃を保管する事になってしまった。
 月村いわく、

「この混乱は警察も一緒だろうから、下手に持っていっても対処できない可能性がある」

とのこと。
 まあ、月村は信用できるし、ノエルの装備なら確かに安全だろう。
 ちょっと理不全とするものはあるが、まあおおきな問題にはならないだろう。
 俺は拳銃の扱いは月村に一任する事で別れる事にした。ノエルの運転する自動車を見送った後、玄関をくぐったのである。


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