作者:独逸人じゃーまんさん


 時空融合の当日。
 早朝や深夜番の人間により一時的に止められたライフライン。
 この復旧には時間がかかるとされていた…のだが、ここ、海鳴市においてはその9割近いところでその日の内に復旧がなされることになった。
 これは電力・ガスなどの供給元や備蓄が存在したことや、わりと広域に一つの世界からやってきたことによる。
 もっとも、一つの世界、だからといって本当にそうなのかと聞かれたら誰もが首を横に振る。
 なにせ、この海鳴市の融合は世界軸ではなく、時間軸で奇妙な融合を果たしてしまったのだから。
 一番古い人間の時間を基準にすると、一番未来から来た人間は実に8年ぐらいの違いがある。より詳しく言えば、出現時間は0年と+8年のどちらかで、そこに±1年ほどの幅がある。
 まあ、10年近いという時間は開発が進まない限り大きく様変わりすることは無いのであるが…。
 …ここ、海鳴市では小さいけれど、当事者たちにとってはおおきな変化があったのである。
 それは「学校の統合」である。
 その最大10年間の間に海鳴中央と風ヶ丘…この二校が同じ学び舎になってしまったのである(正確には敷地が同じで、校舎は一応別々である。グラウンドや体育館が共用のようである)。また、その統合に基づき制服の仕様が大きく変わった(らしい)のではあるが…。


SSFW OutsideStory
融合とらいあんぐる


1st Campaign : 変わらない絆



3rd Chapter : 複雑奇怪な生徒の肖像〜貴方は何時?、貴方は何処?〜



 1人の少年は悩んでいた。
 テレビはつかず、水道・ガスも止まっている模様。
 電話もつかない。
 なにが起きたのか外に出てみて、近所の人たちの話を聞いて…どうなったのかわかったほどである。

「うーん、ゆっこや小鳥は大丈夫なのかな?」

 少年は自室で考えこむ。
 結果、出した結論。

「一応、高校に出てみよう。生活におおきな変化があるとすれば(避難所指定されている場所でもあるので)なにか聞けるかも知れない」

 で、あった。
 そして、少年は登校してみるのだが…。


「あ、しんくん」
「小鳥!」

 登校途中で…小学生かと見まちがえる身長の女の子に少年は呼び止められる。
 その顔は見知った人物にあって、ほっとした…そういう顔だった。

「おはよう、小鳥。」
「おはよう。…大変な事になったみたいだね…」
「うん。そういえば小鳥のところも電気とかガスとか…」
「とまってたよ。お父さんも出張で居なかったからどうしようかな…って思ってたんだ」
「そっか…それで登校?」
「うん…真くんや唯子の様子がわかるかもしれない、って思って」

 女の子…野々村小鳥は少年のとなりをてくてくと歩く。
 街中を走る自動車はすくなく、国道であってもあまり変わらない。

「そういえば、ゆっこは?」
「うーん、私もまだ見てないよ」

 小鳥は首を横に振る。

「ひゃー、遅れるー!」
「晶ー、走ってると危ないでー…というか…遅刻うんぬん言われることあるのかな…?」
「どうだろうねえ」

 となりを元気一杯な女の子が走っていき、その後を背に差のある女の子と女性が歩いていく。

「…あれ?」
「小鳥どうした?」
「あんな制服あったかなあ…?」

 3人のうちの2人の制服を見て首をかしげる小鳥。

「…ああ、あれは確か海鳴中央の制服じゃなかったかな?」
「え?海鳴中央なら…確か道はこっちじゃないよね?」

 小鳥は自分の記憶の中にある海鳴中央の位置に首を向ける。住宅街の向こう側になるため、(背の低さもあって)今のところ見えない。

「言われてみれば…。…なあ、小鳥」

 少年はある一点を見つめる。それは花をつけた一本の樹。

「…季節、今…いつだっけ?」
「え、10月じゃない。」
「…じゃあ、なんであそこに桜が咲いているんだ…?」
「え?」

 小鳥は少年の見ている方角に目を移す。そこには確かに桜が咲いていた。

「…桜…だね…」

 小鳥は首をかしげる。何故、咲いているのだろうか?

「時空融合っていうものの結果じゃないかな…?」

 結局、結論が見えず、一番「らしい」答えを口に出す。

「…学校、どうなってるのかな?」
「遅刻うんぬんは別にして、急いだほうがいいみたいだね」

 少年の疑問をもっとものもとして頷く小鳥。ふたりは早足で進み始めた。
 高校が近づくに連れ同年代の、高校生の姿が増える。
 どうも同じ道…つまり、風ヶ丘に向かう生徒たち…のはずなんだがどうにも奇妙なことに制服が一様ではない。
 もっとも、それが奇妙とは思わない。2人の進む風ヶ丘の特色の一つには自由な(特に女子)制服の選択がある。上半身、下半身、ネクタイ、リボンなどに幾つかのパターンがあり、それを組み合わせる事によって制服とするという極めて稀な校風である。
 近隣ではその制服の幅から人気が高い高校なのだ。ちなみに進学校でもあり、全国から受験を受けに来るほどである。
 また、進学校でありながらスポーツにも力を入れており、海鳴では知らない者は居ないというほどの有名校なのだ。
 まあ、その制服の自由度が利点なのだが…それでもパターン化されており、当然、近隣の制服と見まちがえる事の無いようには(多少だが)配慮されている。

「なんで、海鳴中央の生徒がこんなに…?」

 高校の校門の近くまでやってきた。だいたい、3割が海鳴中央の制服。残り3割がほぼ同じような制服で、のこり4割が様々雑多な制服となっている。

「あ、相川じゃないか」

 と、その雑多な中から1人の女生徒が2人に声をかけてくる。
 少年――そろそろ名前で呼んであげよう――相川真一郎の側にやってくる。

「御剣…これはいったい?」
「あたしもさっぱり。それより…校舎が変わってるんだ」
「変わってる…?」
「ああ。旧校舎がなくなってて新校舎のほうも『増えてる』」

 真一郎と小鳥の2人は首をかしげる。

「まあ、見てきたほうが早い。早く校門にこい」
「あ、ああ」
「うん」

 御剣――下の名前はいずみなのでこれからはいづみ――に連れられ校門前に進む。校門には急遽用意されたらしい黒板に『本日は特殊な事態につき休校します』と書かれている…が、2人にとって驚くのはそれではなく、その黒板の向こう側…校舎である。
 見覚えのある校舎ではなかったのだ。

「…いったい、これは…」
「あたしにもわからない。…それで近くの、とくに海鳴中央の制服来た人たちに話し掛けたら…ここは風ヶ丘と海鳴の合同校舎らしい」
「え?」

 その言葉に真一郎、小鳥の2人はいづみのほうに顔を向ける。

「驚くよなあ…やっぱ」
「当然」

 解説役らしい先生を捜してみる。…居た。

「ですからー、今日はー、休校でーす。とんでもない事態になりましたけどー、現在は情報収集中ですのでー、答えることはできませーん」

 海鳴中央の生徒たちに囲まれて声を上げる女性の声。甘ったるい感じがする。
 他にも男性の先生が声をあげている。

「今現在どうなってるかはまだわかりません。それから、寮生を始めとする自宅から離れて生活してる方は自宅との連絡がつくかどうか試してください」
「ただしー、校舎はー、情報交換の場所としてー開けておきますからー自由に使ってくれても構いませんー。またー、ごく一部ですが、自宅が無くなっているという人がいまーす。そのひとはー臨時避難所としての準備を体育館に行なっていまーす。そこへ向かっていただいて、役所の人に話してくださーい」
「また、一人暮らしの人は今現在電気・ガス・水道会社の人が点検に回っています。会社の方のご好意により、無線による通話がここで行なえますので、所在確認情報を送ってください」

 拡声器をもちいたり(女性の先生は地声だったりするが)メガホンでもって叫んでいる内容からある程度の情報を掴む3人。

「火影兄様がいたから、あたしは問題ないけど…相川と野々村は?」
「俺は今一人暮らし。」
「私…お父さんが出張でまだ帰ってこないの…」
「そうか…。えっと…じゃあ、一応無線で所在確認おこなったほうがよくないか?」
「…そうだね。いってくるよ」

 2人は緊急で立てられたテントに向かう。無線は各社一個しかない為に短いながらも行列が出来ている…とおもいきや、無線はあくまで会社の人間が使うもので、ここでは書類に書き込む形になっている。

「えーと、一人暮らし?」
「はい。マンションに住んでいます」
「マンションなら、お名前と住所と何号室に住んでいるかを記帳していただければいいです。あと、電話番号のほうも」
「はい。」
「そちらの女の子は妹さん?」
「あ、違います。父と二人暮しですが…父は出張に出かけてまして連絡が取れないままなんです」
「えーと…じゃあ、どこに御住いですか?」
「私もマンションです。」
「はい、じゃあ、彼と同じように書いていただければ」

 2人は書き込んでいく。

「じゃあ、お手数だけど、水道、ガスのほうも書いていってね」
「はい」

 ちなみに書類に書き込む形…ではあるが、与えられた紙にはまったくなんの印刷もされていないコピー用紙を渡されているだけである。

「復旧は何時頃になりますか?」
「んー、所在情報がついたら規格の確認作業を行なう手はずになってるけど…マンションなら水道は午前中に復旧すると思いますよ。幸い、水源から全て全部、無事にこちらにきていますんで」

 水道局のおじさんはそう答えた。
 全部を書き込んだ2人は再びいづみと合流する。

「…なあ、さっき神咲さんとであったんだけど…」
「神咲さん…ああ、瞳ちゃんの友人の、さざなみ寮の?」
「うん、そう。…高校の服着てたぞ」

 いづみの言葉に「ん?」という顔になる2人。

「…あれ、確かあの人…去年卒業してなかった?」

 と、真一郎が尋ね返したときに、後から挨拶がくる。

「お久しぶりだね、相川くん」
「あ、神咲先輩」

 そこにいたのは薫、那美、リスティ、岡本みなみ(いたんですよ?)の4人の姿だった。

「神咲先輩、おはようございます」

 真一郎の声につづいて小鳥が挨拶する。

「お久しぶりです」
「…えーと…高校3年生?」
「はい、そうですけど?」

 ここで薫が苦笑する。

「…なんか皆においてけぼりをくらった気分だ…」
「薫ちゃん、ファイト」

 真一郎たちにとっては見知らぬ人物が薫を元気付けようとする。

「…えーと、訊いていいですか?」

 真一郎が訊ねようとする。

「うちはまだ卒業しておらんね…ようわからんけど、どうも時間がごっちゃになってるみたいで」
「時間が?」
「うん…2人はまだ気付いてない?」

 薫はちょっと意外な顔になる。

「えっと…なににでしょう?」
「…この声」

 薫の言葉に一同、一時口を閉ざす。

「手続き関係はテントのほうで行なってます。テントのほうでお聞きください」
「はーい、みんなー聴いてー。今日はー、黒板にあるとおりにー休校でーす。少なくとも今週一杯は授業を行ないませーん」
「何故ですかー?」
「ラジオやテレビなどで報道されていますけどー、じくーゆーごーという現象によってー、みんなバラバラになってまーす。それで先生たちの数も足りませんー、また、風ヶ丘と海中の人たちは校舎前の自分の名前と学年を記帳しておいてねー」

 …。
 いづみ、真一郎、小鳥の3人は。
 間延びした甘ったるい感じの声の主のほうに。
 物凄い勢いで駆け出して行った。

「…気付いてなかったみたいだね…」

 那美の言葉に薫は苦笑した。

「それに、周囲をみていただいたらわかるとおもいますけどー」
「ゆっこ!」
「唯子!」
「た、鷹城…?」

 大声で説明していた先生の側を囲む3人。

「あ、真一郎に小鳥にいづみー。…なんで若いの?」
「ゆっこ…おまえ…」

 体育の先生らしい出で立ちの先生の姿をみて言葉を失う真一郎。

「はうぅぅ…」
「あ、野々村」

 御剣が崩れそうになる小鳥を支える。
 先生…本名鷹城唯子…がでへへ…と頬をちょっと掻いた後。

「えっと…話はちょっと後でいいかなあ?」
「…いいが、何時になる?」
「一応、本来なら授業開始になる9時までここにいることになってるから、その後で」
「わかった。…どこで?」
「んー、じゃあ海中のほうの職員室で。ここから右手側の校舎の1階にあるから、そこで待ってくれればいいよ」
「わかった」

 真一郎は頷くと小鳥といづみに待つかどうか訊ねる。

「ちょっと話聞きたいから残るよ」
「わかった。小鳥は強制、な」
「うう、言われなくてもきちんと聴きにいくよー」

 2人は頷く。

「あ、一応神咲先輩たちも呼んだほうがよくないかな?まったくの他人、というわけじゃないし…それになんかこういうややこしい事態には馴れてるだろうし…なにか助言くれるかもしれない」
「…あー、そうだね」

 いづみの提案に頷く、真一郎。
 真一郎たちは再び薫たちの姿を捜し求める。

「いたいた…あ、さくらも一緒だ」

 真一郎達は薫たち、さざなみの面々と合流する。

「先輩、おはようございます。…ご家庭のほうは大丈夫ですか?」

 可愛らしい女の子…綺堂さくら…があいさつのあとで心配そうに訊ねてくる。

「電話が繋がらないからなんとも…」
「私も…」

 小鳥の答えにさくらは首をすこしかしげる。

「野々村先輩は父親と一緒に暮らしていませんでしたか?」
「うん、そうなんだけど…出張で出てるときにこうなっちゃって…」
「そうですか…」
「そういうさくらはどうだった?」

 真一郎の問いに、

「私の家族も大丈夫です。…あとは忍がどうなっているのかまだあっていないんだけど…」

と、答えた。

「忍ちゃんか…」

 真一郎の答えに「ん?」という顔になる那美。

「えーと…忍先輩のことを知っていらっしゃるんですか?」
「…先輩?」

 那美の答えに首をかしげる真一郎&小鳥。
 2人の記憶にある忍…月村忍はまだ幼さを残した姿である。すくなくとも高校生の姿ではない。

「…ん、ちょっと待てよ…?」

 ここで真一郎はふと考え込む。

「…那美…どっかで聞き覚えが…」
「あ、そういえばまだ自己紹介がまだでしたね。神咲那美、と申します。薫ちゃんの妹にあたるんだけど…まあ、見てのとおり一緒の学年になってしまいました」

 笑顔で話す那美。…となりで薫が那美の肩に手を乗せてうなだれている。いまだ少し納得のいかないご様子である。
 しかし、その自己紹介で真一郎は思い出す。

「…まさか、あのときの巫女少女…?」
「たぶん、そのときの巫女少女じゃないかと…悪霊退治のときの」
「そうそう、そこで七瀬の危ないところを…って。七瀬!」

 真一郎は校舎の方向に向き直る。

「この校舎の並びは私が高校に言ってた時の並びだから…」
「多分、いない」

 那美の言葉のあとを引き継ぐように(立ち直った)薫が答える。

「…七瀬…まさか、昨日でお別れ…なのか…?」

 真一郎は寂しそうな感じで校舎を見つめる。

「あ、そうだ。神咲先輩」

 ここでいづみが再び合流した本題を話す。

「うちらもまだ何が起きたのかわかってないことのほうが多いんだけど…まあ、そういうことなら」

 薫は頷いた。

「那美もよかんね?」
「うん、いいよ。さくらさんは?」
「私も付き合う。相川先輩、話のあとで春原先輩を捜しに行きましょう」
「…ありがとう、さくら」

 真一郎はさくらの言葉を嬉しく思うのだった。

 で、ぞろぞろ、という表現が正しいように一行は職員室に向かった。
 職員室には約10名ばかりが出勤して情報収集に当たっているようだった。

「うわ、凄い数になってるー」

 唯子はそう言うとここだと他の人の邪魔になるからといって、社会科教室の鍵を借ります、と他の先生に一言告げて、その教室に向かう事にした。
 そして、社会科教室で話をすることになった。

「えっと…真一郎は高校生?」
「ああ。高校3年。本来なら受験で忙しい時期になるかな?」
「小鳥も?」
「うん。…唯子は…」
「あたしは…見てのとおり先生なんだ。昨日の夜は宿直でこの学校にお泊りだったんだけどね…一夜明けたらこんなことになって驚いたよー」

 笑って自分のことを話す唯子。

「でね、この高校って一応、避難所指定だから自家発電もってるから、それを動かしてテレビとかラジオつけたら『じくーゆーごー』ていう大事件が起きた事を報道しててね。出勤してきた先生たちに話して急遽今の体勢を作ることにしたんだ。」

 その結果が外の様子というわけである。

「そういえば、みんなは記帳した?あれで多分クラスの再編することになると思うんだけど。」
「しましたが…それほどのことなんですか?」

 那美が答える。

「うん、そうなんだ」
「って、ことは…唯子が僕達の担任になることもあるのか…?」

 真一郎の言葉に唯子は「どうかな?」と答える。

「唯子は海中のほうの先生だから、たぶんそれは無いと思うよ」
「そっか…まあ、高校生のころのゆっこの姿をしっていると考えれば…笑って授業にならないとおもうな」
「真くん…それは」
「小鳥もそうじゃないのか?」
「…唯子、ごめん」

 言い過ぎではないかという小鳥も結局思いは同じ、ということである。
 その後、唯子の知る限りの自分たちの姿を聞いて恥ずかしがったり、照れたり、悶絶したりというそれはそれで楽しい時間をしばし送る。

「ははは、大人さくらのスーツ姿…なんか見てみたいような気がするなあ」
「相川先輩…笑わないでください」
「ああ、でも凄くにあってたよ。…あ、もう11時すぎてるね」

 2時間ほど話し込んでいた計算になる。

「外のほうは、と…学生は少なくなったね」

 生徒たちの姿は少なくなっている。そのかわり、私服の多種多様な年齢の人々が集まっている。
 生徒があつまっていたことが呼び水と成り、情報交換の場になっているようである。
 ここで構内放送が流れる。

「風芽丘及び海鳴中央所属の先生方、至急職員室までお集まりください。繰り返します…」
「あ、呼ばれたからゆっこはこれで。真一郎たちはこれからどうするの?」
「校舎の散策がてらに七瀬を捜しに行くよ」

 ゆっこは「んー」と唸る。

「朝方、見回ったときは春原先輩は居なかったよー」
「…うーん、姿を消してたかもしれないから、さ」
「かもしれないね。真一郎、じゃあ、ね」

 唯子はそういうと教室を離れた。

「唯子が先生か…」
「なんか…あってそうであったなさそうで…」

 小鳥と真一郎が割合に失礼な感想を述べていたのだった。

「じゃあ、うちはこれで失礼させてもらいます。…うちは春原先輩にはあまり好かれとらんからね。那美に綺堂が居れば、そう困った事もないと思うし」
「あ、薫ちゃん…それって…つまり…」

 那美の言葉の問おうという意味。

「ああ、那美はそういえば知らんかとね。春原先輩は…地縛霊。それで退魔の仕事をしているうちのことを好いておらんのや」
「…そうですか…」

 幽霊だと聞かされ、どう答えていいものか…いや、出会ったときにどう接すればいいのかしばし考え込んでしまう。

「えっと、那美さんですよね?」
「はい」

 そんな那美に真一郎が声をかける。

「僕らと一緒に付き合うように七瀬に話してくれればいいですよ。」
「…はい」

 那美は頷く。真一郎の一言で決めたようだ。
 そして残った一行は(それこそぞろぞろと)社会科教室を後にしたのだった。

「どこから捜す?」

 いづみの問い掛けに真一郎は少しだけ考えて、

「位置的に旧校舎があったところかな?」

と、答えてぞろぞろと…

「あの…手分けしたほうが早くないでしょうか?」

 さくらの言葉に全員、手をポンと叩く。七瀬の顔をよく知っている真一郎、小鳥、さくらはべつべつにわけることにし、そのあとパートナーを分ける事にした。

「まあ、野々村さんにリスティさんは当然として」
「え、当然なの?」
「まあ、念のためです」

 結局、真一郎とみなみと那美、小鳥とリスティ、さくらといづみという組み合わせになった。

「俺たちは旧校舎跡にいってくる」
「では、いづみさんと新校舎のほうにいってきます」
「じゃあ、リスティさんと海中のほうにいってくるね」

 時間と場所を取り決めて(12時、校門前)捜しにいくことにした。
 七瀬は幽霊なので夜のほうが出現確率は高いが、別に昼だからといって出てこないわけではない。
 まあ、人気の少ないところでないと姿は見えないだろうが。
 真一郎達は旧校舎のあったところにいく。

「…居ない…よね?」
「みなみ…おびえんでも」
「あ、でも…私たちのことを覚えてなかったら…」
「七瀬はそんな怖いものじゃないって」

 真一郎は苦笑しながら旧校舎があったはずの場所を散策する。

「旧校舎のあとにはなにも建てられてないんだなあ…」
「でも、霊気を感じます。その、春原七瀬という方は近くにいるみたいですね」

 なにげない那美の言葉。それを聞いて真一郎が呼んでみる。

「七瀬ー、なーなーせー」

 …。

「出てこないなあ…?」
「でも、霊気が揺れたような感じがします。…でも…これは…?」

 那美が手を口にあてて考え込む。

「どうしました?」
「いえ…霊気、というより押えられないなにかが流れてきている感じ…?」

 那美は上を向き、校舎の一角を指差す。

「あのへん…から、かな?」

 そこの窓には暗幕。

「暗幕のある教室っていうことは視聴覚室かな…?」

 みなみの言葉のあとに那美が首を横に振る。

「いえ…あそこは今は図書室になっています」
「図書室…か」

 3人は図書室に向かう事にした。

「あれ、相川じゃないか」
「いづみ。…さくらは?」

 新校舎1階でいづみと出会う。

「ああ、さくらなら図書室前。…しかし、微妙に教室の配置が変わってて驚いたなあ」
「そうなんだ…で、いづみがどうしてここに?」
「図書室の鍵を取りに。…まあ、手に入るかは微妙だけどなあ。そっちは?」
「那美さんが図書室から霊気を感じるって」
「さくらと同じだな。…まあ、あたしも気配みたいなのを感じたから多分ビンゴじゃないかな。先行っててくれよ。あたしは鍵取りに行ったら戻るから」
「わかった」

 そしていづみは職員室へ向かって行った。
 3人は図書室にたどり着く。

「あ、相川さん。…那美さん、感じますか?」
「…うん。ここまでくるとよくわかるよ」

 みなみが身体を震わせる。

「ねえ、相川くん…ここ、なんか寒くない…?」
「確かに…ちょっと寒さみたいなのを感じるな…」

 ここで真一郎は図書室の前に立ち…ノック。そのあと

「七瀬ー。なーなーせー。いるんだろう?」
「…うーん、来ちゃったか…」

 部屋の向こうから声がする。

「七瀬。よかった居たんだな。」
「まあ、おかげさまでというかなんというか。だいたいの事情はその辺散策して掴んでるんだけど…驚いたわ。目がさめたら旧校舎無くなってるんだもん」
「そりゃ、おどろくわなあ…」

 真一郎が頷く。

「で、七瀬…姿見せてくれない?」

 …しばしの沈黙。

「ごめん。今はちょっと…」
「七瀬?」
「先輩?」

 その言葉に首をかしげる真一郎とさくら。

「ん…さくらは感じないかな?」
「えっと…なにが?」
「なんか、霊気というか…世界の空気がちょっと違うのに」

 七瀬の言葉にさくらと那美は見合う。

「…感じます?」
「んー…あれ?」

 那美はふと足元を見るように俯く。

「…地脈が…?」

 那美の言葉にさくらも足元…否、それよりもっと深い部分のを探るように集中する。

「…来てますね。かなり太いのが…もともとここにはあったので感じませんでしたが…」
「あははは…多分それが原因なんだろうね。なんか、身体が押えられないんだ」

 七瀬のどこか力ない声。

「自分が自分でないような…そんな感じなんだ。だから、人前には出られない。もしかすると…求めちゃうから」
「そんな…七瀬!」
「…ああ、でも多分、急激な変化に感覚や身体がついていってないだけだと思うから。今だけ、ちょっとごめん」

 ここでいづみが戻ってくる。

「いづみ先輩…鍵は?」
「駄目だった。…理由を話せないからなあ」
「そうですか…相川先輩、どうします?」
「…うーん」

 真一郎はしばし考え込み、

「七瀬、本当に状況の変化でとまどってるだけだな?」
「多分…」
「わかった。じゃあ、今日は帰る事にするよ」

 真一郎は確認の後でそう答えた。

「ということなんで…ごめんね、つき合わせちゃって」
「いえ、構いません。春原先輩がいたことだけでもわかったんですから」

 さくらの言葉に続いて他の娘たちも「気にするな」という意味の言葉をかけられる。
 その後、待ち合わせの時間までを校門前で過ごす。と…

「あれ、那美さん」

 真一郎たちには馴染みの無い顔が那美に声をかけてきた。

「まだ、残ってたんですか?」
「あ、はいー」

 眼鏡をかけ、長い髪を三つ編みにした少女と那美は親しげである。服装が那美とほぼ同じ(胸のリボンとラインのカラーが違うだけ)服装なことから那美の時代の人間なんだろうと、真一郎は考えた。

「美由希さんこそ、どうしてこんな時間まで?」
「レンと晶の付き添いでちょっと…2人の喧嘩がいつものように起こりまして…それでちょっと高校の備品を壊してしまったものですから」
「…それは…」

 あははは…と、どう声をかけていいものか悩み、とりあえず苦笑するにとどめる那美だった。

「ところで那美さん…こちらの人たちは――って、もしかしてさくらさん?」

 三つ編みの少女…美由希はさくらに目を止める。

「…はい、そうですけど…えっとどなたでしょうか?初めてお会いすると思うんですけど…」
「あー、やっぱり大人の雰囲気じゃなかったから知りませんでしたか…私、高町美由希と言います」

 礼をする。

「あ、はい」

 それにさくらも返礼する。

「ところで、私のことをどういう形で…?」
「忍さんの親戚…ということで紹介されまして」
「…そう、なんですか?」

 と。ここで、

「そういえば美由希さん、ご家族のほうはどうでした…?」

 那美がおずおずと尋ねる。

「あ、私のほうは運がいいのかして、みんな居ましたですよ。…あ、フィアッセは…居ないんですけど」
「そうですか…」
「でも、グラウンド見て回りましたけど…家族と離れ離れになってしまったらしい人たちも多いみたいで…フィアッセがいないことを嘆いたら罰があたりますね」

 美由希はそう微笑んでくくった。

「美由希ちゃーん」

 ここで遠くから美由希を呼ぶ声。

「あ、レン」
「うちら、これから桃子ちゃんの様子見にいきますさかいに美由希ちゃんもどないー?」
「うん、わかった。行くよー」

 美由希はそう答えた後で、

「それでは私はこれで。那美さん、そしてみなさん、さようなら」

 美由希は礼をすると一行から離れた。

「…那美さん?」
「えーと…いづみさん、なんでしょうか?」
「…知り合い、なんだよね?」
「ええ。親しくしていますけど…?」
「じゃあ、聞くけど…さっきの人…かなり強いんじゃない?」
「「え?」」

 真一郎とみなみがいづみのほうに目を移した後、美由希のさったほうを振り返る。

「…多分、強いんじゃないかと…」

 那美は苦笑しながら答える。

「多分、ね」
「いづみ?」
「ほのぼのしてる雰囲気だったけど隙がなかった。…もし戦ったらどうかな…?」

 いづみの言葉に声を失う真一郎。いづみは忍者の家の出自。その身軽さのみならず戦闘能力の高さは承知している。そのいづみがそう言うのだから、さっきの女性の実力の高さも相当なものと判断する。

「…真くーん」

 ここでととと、と小鳥がやってくる。

「みんな待った?」

 ちょっと遅れてリスティもやってくる。

「ごめん、結局見つからなかったよ。真くんは?」
「七瀬は居たよ」
「居た…ということは会えなかったということでもあるってことか」

 リスティが真一郎の短い返答からさらりと真実をあてる。

「手数かけてごめん」
「いいよ。で、これからどうする?もうじきお昼だけど」

 一行はしばし考え込む。
 結局さざなみ寮のメンバーは一度もどることになった。
 そして…

「私はちょっと月村…親戚筋のところに寄って行きます」

 と、さくらも分かれた。

「ん、じゃあ、あたしは一度戻って兄様に高校のことを報告しに戻るよ」

 いづみも「じゃな」を最後に別れる。結果残ったのは真一郎と小鳥だけになった。

「んー、どうする?」
「いまからだとお昼作っても遅くなるし…ガスとかもどうなってるのかわからないから、商店街でなにか買っていかない?」
「だな…って、これ、通じるのかな?」

 財布から日本円を取り出す。

「…た、多分、通じるよ」

 小鳥は根拠はないもののそう答えたのだった。



 ようやく初日の昼になりました。
 なんというか時間に対し話の密度が濃いなあ…。


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