時に新世紀元年五月、後に「RYOMA」の名の元に世界的な大企業として大成功を遂げる「海援隊」誕生の瞬間であった。

SSFW外伝−「海援隊がゆく」−

第5話「新たなる商売」






「ほいでどうなっちょる近藤さあ、さっきちくっと見てきたが、結構街の方はにぎわっちょるようじゃがの」
「地の利もいいし、うちらの方の商売もなかなかいい案配じゃ坂本さあ。ここに出てきたんは大正解じゃったぞ」

 新世紀元年十二月、大阪府の「りんくうタウン」の一角にあるプレハブ建ての事務所らしき建物の一室である。
 この部屋では、二人の男がなにやらさほど広くもない部屋中になんらかの資料らしき書類やらメディアやらディスプレイやらを足の踏み場も無いくらい目一杯に広げて会議中であった。

 彼らは高知市に本社を置く中堅商社「海援隊」の男達である。
 始めに問いかけた男の名は「海援隊」の社長である「坂本 竜馬」。それに答えたのがこの「海援隊・りんくうタウン営業所」の所長である「近藤 長次郎」であった。
 彼ら「海援隊」は元々今回の事件前から四国全域を商圏として商売を手がけていた商社であったのだが、この時空融合による混乱を逆にチャンスとしていち早く新たな商売に乗り出し、融合景気−今回の時空融合現象による混乱の後に来た好景気のこと。これは政府の種々の経済政策の後押しを受けつつ、異世界の技術同士が交流が行われ新技術・新産業が多く誕生したことが大きい−の波に乗って、既に融合前の規模をあっさりと追い越した上、地元の四国において5本の指に入る有力企業へと成長を遂げていた。

 が、先の混乱よりの回復の際の見事な判断とその後の行動から示されるように、先見の明に富み、チャンスを生かす行動力、積極性、そして野心にあふれる彼らがこの程度の成功に満足するわけもなく、「新しい世界に出るぜよ」との社長の一言によって、四国の地以外にも本格的に足を踏み出すことを全社員一致で決定。その第一歩として発展著しい関西圏の中心の一つ、この「りんくうタウン」に営業所を設立し、様々な商売をおこなっていたのである。

「そういやあ坂本さあ、東京の方はどうなっちょるんぞ?」
「あっちは中島さあに行ってもらっちょるがの。なんぞ変な怪獣やらロボットやらが出る騒ぎがあって大変だったっちゅう話じゃが、最近はどんどん売り上げが伸び始めたっち言うてきとる。まずはやっぱり食いもんがうまくいっちょるそうじゃ。愛媛のミカンは大成功じゃっちゅうとったし、のりやわかめや養殖の魚や土佐牛なんかも人気じゃそうじゃし、ハウスもんのピーマンやらきゅうりやらなすやらもスーパーとかレストランとかいろんな業者に大いに売れとるっちゅうとったぞ」

 そういうことなのである。高知−東京間の距離の遠さや、上記にあげた幾つかの事件などで「海援隊」の東京進出は結果的に遅れを取ることとなってしまった。しかし、その遅れも彼らの才覚と努力によって徐々に取り戻し、現在、東京営業所は新規分野の開拓を行いながら主に四国産の生鮮食料品を東京や近郊の業者に仲介する仕事をやっているのである。四国は融合前から元々農業や漁業、畜産業が盛んな地域であり、また魚介類の養殖や温暖な気候を生かした野菜の促成栽培なども得意な地域でもある。ただ以前は輸送距離等の問題から、そういった生産物は主に京阪神方面への出荷が行われていたのだが、その障害を低温長期保存技術や長距離用高速貨物船(テクノスーパーライナー)の利用などで乗り越えて成功を納めることなった。四国産の生鮮食料品と東京の台所を結びつけるというアイディアを思いついた彼らの作戦勝ちといったところであろう。

「そうじゃったか。じゃあこっちも負けるわけにはいかんのう」
「そういうこっちゃ。たのむぞ近藤さあ、取り敢えずここんとこの報告をしてくれっちゃ」
「ああ、いい感じで進んどるぞ坂本さあ。この「りんくうタウン」には、「関工共」(関西中小工業協同組合のこと。後の大日本技研/ポセイドン)のお陰でいい技術を持ったたくさんの会社が集まってきちょる。そんな関係でこっちは技術関係とかそんな仕事も多いんじゃ」
「ふむふむ」
「じゃがの、ここに集まっちょるんは中小の連中が多いでの、やつらは技術はピカイチなんじゃがそいつを世に出す力が弱いからの、わしらはそれの支援をやっちょるちゅうわけじゃ」
「なるほどの、営業屋みたいな感じかの」
「そういうことじゃ。例えばの、やつらが持っちょる技術の営業をわしらが受け持って新しい取引先を見つけてきたり、あるいはよそから仕事の依頼が来たときにここの連中からいいのを選んで紹介してやったり、またはここの連中で何社か共同しての新製品開発の企画を引き受けたりとかじゃ」
「ほうほう」
「まあその他にもここの連中が使う原料とか材料とか工具とかの発注やできあがった製品の発送やら、そがいなわしら商社としての本業ちゅう仕事も山のようにあるでの。人が集まりゃ、商売も生まれる。んでまたその商売が商売を産むっちゅう感じで毎日てんてこ舞いの騒ぎじゃ。今日もみんな朝からあっちじゃこっちじゃと町中を駆け回っちょるきに」

「そうかそうか。なかなかうまくいっちょるようじゃの。そういえば聞きたいことがあるんじゃがの、こないだ話がきちょった徳島の「ジャストソフテム」ちゅう会社の話はどうなったっちゃ?」
「ああ、あの会社か。そいつんとこは日本語ワープロソフトに関して相当すごい技術をもっちょったっきに。ちょうど名古屋の方にそんなんが欲しいっちゅうコンピュータメーカーが見付かったんでの。そこの会社のパソコンにアプリケーション・ソフトの形でもって載っけるっちゅうことで話がついたっちゃ」

−後のNo.1日本語ワープロソフト「太郎」の誕生である−

「ふむふむ。そりゃええ案配じゃ。で、わしに何ぞ知恵貸して欲しいことっちゃなんじゃ?田鶴子さあから聞いたんじゃが、詳しいことはこっちで聞けゆうことじゃきに」
「そうそう、そのことなんじゃが坂本さあ。実はな、こっちにある二つの会社からほとんど同じ時期に話が持ち込まれての。両方とも「我々が持っているこれこれこういう技術がある。これを使った商売のアイディアとそれを一緒にやってくれる相手を探して欲しい」っちゃ言うてきたんじゃ。じゃが、わしやこっちの連中だけじゃ思いつかんきに、本社の企画の方にも聞いたんじゃがの。ちょうど坂本さあが出張って来るちゅうことじゃきに。ここは是非坂本さあにええアイディアを出してもらおうと思うてな」
「なるほどのう。じゃ、ちくっとその辺りの資料を見せちゃくれんか」
「ああ、これと…おっとと落ちる落ちる…これじゃ」
「おう、どれどれ…「…品名:カボチャ。数量総計:500トン。売り主:高知南国JA。買い主:レストランチェーン「パンプキン」(株)」…?」

「ああっそりゃ違うぜよ。そいつはこの間商談がまとまった契約書の控えじゃ。なんじゃそがいなところに紛れ込んじょったのか…。おうこっちじゃこっち」
「何か似たようなことやっとるの。えーっと何じゃ、…こっちゃは「京レ」の「高効率太陽光発電電池」とかで、もう一方は…、「東セラ」の「超高性能充電式バッテリー」っちゃ。なあ近藤さあ。これこのままくっつけて売ればいいんちゃなかか?」

「そこじゃ坂本さあ」
「どこじゃ?」

「坂本さあ…、坂本さあまで池さあのボケがうつってどうするんちゃ」
「ははは、すまんすまん近藤さあ。取り敢えず続きをたのむっちゃ」
「じゃからなあ、さっき坂本さあが言われたくらいんことならみんなあっちゅうまに考えつくんじゃ。じゃが、わしらはその一歩前を行かんとうじょうじょいる同業の競争相手に勝てないんちゃ。じゃからこうして坂本さあに聞いちょるんじゃぞ。それにこの「一歩前へ」っちゃは坂本さあが言うたこっちゃじゃきに」
「それもそうじゃなんじゃがのう、この場でいきなり「なんぞなかか」っちゃ言われてもええアイディアは出ん。そいは無理っちゅうもんじゃ。悪いが一旦保留にしておいてくれんかの?」
「それもそうじゃなあ。じゃ頼むきに」
「ああ、今夜ホテルでゆっくり考えて見るっちゃ。で、今度は本社の方からじゃ。新居浜のタオル工場からの依頼なんじゃが、商売繁盛で今度生産能力を強化するっちゅうことじゃそうな。んで、新工場は是非何か新しい技術を使ってコスト削減と規模拡大をしてやりたいちゅうことでな、そんな技術を持っちょる会社捜しやらどんな新技術が入るかちゅう選定やらそいに掛かる費用の見積もりやらをやって欲しいちゅうて来たんじゃが。地元の方でも捜しとるんじゃがええのが見付からん。こっちの方でなんとかやってくれるとこないかの?」
「ああ、それならちょうど新しい紡績技術を開発したんでなんとかならんかちゅうとこがあるからそいつらに…」…


 …翌日、坂本の口より出されたあるアイディアはその日の内に各社に企画・提案され、各社の同意を得てプロジェクトが開始された。それから数ヶ月後、上に上げた「京レ」の「太陽電池」、「東セラ」の「バッテリー」、それに「川津製作所」の「超小型強力モーター」、「シンドーマテリアル」の「強化超軽量有機素材」、その他幾つかの企業が有する技術を組み合わせてそのアイディアは結実することとなる。そしてこれが、「トミタ自工」によって生産され、発売と同時に一大旋風を巻き起こし、「新世紀がつくった車」のキャッチフレーズにで市場を席巻することとなった、無公害・極低燃費電気自動車「プリリス」の誕生秘話であり、彼ら「海援隊」の名を経済界に知らしめた衝撃的な事業の一つであった。…

…「ところで近藤さあ、こんな何も無いとこにあるプレハブの安っぽい事務所じゃのうて、もうちっとちゃんとしたビルかなんか借りられなかったんかいの」…
…「それは無理じゃ坂本さあ。今この街はどんどん人が集まって来るもんで家賃がどんどん高くなっとるんじゃ。それに岩崎さあがそんな金出してくれると思うっちゃ?」…
…「それもそうじゃのう」…




<あとがき>
 こんにちは。何度目かの登場となります。小さな一読者でございます。
 このお話は商社「海援隊」シリーズの続編となります。
 相も変わらず短いですけどね。
 今回は頑張って本編の設定に絡めてみました。
 …ほんの少しですけどね…
 あとは、相も変わらず彼らの土佐弁問題なんですが、
 やっぱり諦めた方がいいんでしょうか。
 こんな私を助けてくれる方。お待ちしてます。
 今回の登場人物は二人だけでしたね(名前は幾人か出てきましたが)。
 ここに出てない連中ももちろん一生懸命頑張ってます。
 あと、話の中にちらりと出てきた「田鶴子さあ」という初登場の名前。
 彼女はこの海援隊の企画本部長です。
 彼女については今度のお話で詳しく出てきます。
 また、今回は彼らがどんな仕事をやってるかについて出しました。
 まあ、彼らの仕事は商社ですからね。
 食料品から機械から技術から企画から何でも売ったり買ったり取ったりやったりします。
 それが商社のお仕事です。
 この辺のお仕事についてはVer7さんのメールからアイディアをいただきました。
 この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう御座いました。
 あと、話し中に出てきた彼らの東京進出なんですが、
 それもまたの機会にということで…あればいいんですけど。
 次回はもうちょっと長くしたいなあ。でもその前にネタが…。
 では、この辺で。小さな一読者でした。




<アイングラッドの感想>
 まずは、小さな一読者さんありがとうございます。
 彼ら海援隊も日本各地で商売が軌道に乗り始めたようで個人的に良かったです。
 私が岡田”雪達磨”さん、ver7さん、小さな一読者さんから戴いたメールからアイデアを貰って書き上げたインターミッション「特車隊西へ そんでもって戦車隊は東へ」プロローグを読んでもらって修正やアイデアを貰ったのですが、それに対してこんなに早くレスポンスがあるとは。
 本当に感謝してもし足りません。
 では、とても面白いお話をありがとうございました。
 誰よりも早く読ませてもらって大変に嬉しいです。

 早く続きが読みたい方々、皆さんも感想のメールを出しましょう。




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