時に新世紀元年五月、後に「RYOMA」の名の元に世界的な大企業として大成功を遂げる「海援隊」誕生の瞬間であった。


SSFW外伝−「海援隊がゆく」−

第2話「四国を巡る」




「また怪獣騒ぎじゃそうな。東京の方はたいへんじゃのう」
「坂本さあ。そろそろみんな集まったから会議始めるぜよ」

 新世紀元年六月、四国は高知県、高知市内にある商社「海援隊」の本社会議室である。
 この部屋で、上座の椅子に座って新聞を読んでいた男が社長の「坂本 竜馬」。
そして声をかけたのが、社長付き秘書で秘書課長の「陸奥 陽之介」である。

 彼らの会社は元々高知県を中心とした四国にて商売を行っていたのだが、今回の時空融合による混乱に巻き込まれてしまった。だが彼らはこの混乱を逆にチャンスとしていち早く新たなる商売へと乗り出したのである。
 「まずは情報収集じゃ」という社長の一言から、社長を筆頭に全社員が留守役のみを本社に残し、地元の高知県内のみならず四国全土へと向かった。(これは時空融合後の混乱によって安全に海を渡る手段が見付からなかったためである。それが存在していたならば間違いなく彼らの足跡は日本全土に及んでいたであろう)。
 だが四国内のみの調査だとしても、混乱が続いている中での旅は困難を極め(特に初期の頃は移動手段がほとんど徒歩に限られた。これは、JR四国などの懸命な努力もあったものの、未だ公共交通機関が満足に運行されていなかった事が大きい。また車に関しても、不明瞭な道路状況と燃料入手の不確実さより利用を出来るだけ避けた)たが、彼らはその苦労に見合った情報を得ることとなった。幾つかを紹介しよう





――高知・高知市内にて――

「とりあえず土電(土佐電気鉄道のこと、高知市内を走る路面電車である)は残っちょるようじゃの」

―カタンカタンカタン―

「…見たことない電車が走っちょるがの」
「坂本さあ、あれ見てみい」
「ん、なんじゃ」

「…はりまや橋が、木造になっちょるのう…」





――高知・四万十川――

「池さあ、ありゃなんぞね」
「かわうそ…じゃと思うんじゃが」
「日本かわうそは絶滅したっち聞いた事があるんじゃが」
「数匹だけ生き残っちょうかもしれんちゃ、週刊誌のネタなっちょったがの」

「…なんでこんなにうじょうじょおるんじゃ?…」





――徳島・祖谷渓あたり――

「中岡さあ。こんなところにこんな立派な道路があったかの」
「さあ…、この辺は国道もまだ狭くて、山沿いに曲がりくねって走っちょるから通るのも大変じゃ聞いたが」

「じゃあこのどう見ても高速道路みたようなんはなんじゃろの?」
「さあ…のう」





――四国山地のどこか――

「後、藤よ、日本、に、狼な、んぞ、おった、のか」
「さ、あ?、ニ、ホンオ、オカミ、は、明、治の、初め、頃にい、なくなっ、たち聞、いたが、の」
「じゃあ、わし、ら、を追っ、かけちょ、るあ、れ、はな、んぞ?」
「わから、んが、板、垣よ、さっ、さと逃、げる、の、が先、じゃ、あぁぁ」

うおおおぉぉぉぉぉーーーーん

「「うぎゃああああぁぁぁぁぁぁ」」





――香川・高松市内――

「岩崎さあ、こんビルはむちゃくちゃ背が高いのう」
「ひのふのみい、と。どう見ても百階は越えちょるの」
「見上げるだけで首がおかしくなりそうじゃ」

「超高層ビルちゅうやつかの」
「なんでんこんなとこ建っちょるんじゃ?」
「わしに聞いても知るわけなかっちゃろ」
「…そいもそうじゃの」





――愛媛・道後温泉――

「この建物はずいぶんと古いつくりかたしちょるが、まるで新築みたいじゃの」
「武市さあ、あっちにあんなちっこい汽車が走っちょうぞ」
「あれはマッチ箱列車言うて、夏目漱石の小説にも出てきた…」
「結構客も乗っちょうようじゃが」

「…現役で動いちょるんか」





――高知市・「海援隊」本社会議室――

「…とりあえず色々あったが、みんな無事に帰っちゃこれたし、大事な情報も取れたっちゃ、このわしからみなに礼を言うぞ。みんなごくろうさんじゃった」
「それはお互い様じゃ坂本さあ」
「そういうことじゃ」
「そうじゃのう」
「それでの、みんなが集めてきた情報を見てみたんじゃがな、商売になるもんが色々と見付かったようじゃの」
「そこじゃ坂本さあ」
「どこじゃ」
「「「「池さあ…」」」」
「い、今のはわしじゃなかぞ」
「すまんの、今のはわしじゃ岩崎さあ」
「中岡さあ…、まあいい続けるっちゃ。とりあえず有望な取引先やら新しい商売のネタはみんな頑張って見つけてきたんじゃ。じゃがの実際に商売をするとなると一つ問題が出てきたんじゃ」
「なんじゃ?」
「お金の価値の問題じゃ坂本さあ。とりあえずこの四国に出てきた世界はみんな「円」を使っちょるがの。その同じ「円」でもどうやら価値が違うみたいなんじゃ」
「そういうことじゃの。例をあげるなら…っちゃ、例えばこの高知市内では米10キロ買うんに二〜三千円取られるがの、よそん土地では…例えば松山の方に行ったんはっと…、武市さあ?」
「ああ、あっちの米屋で聞いてきたんじゃがの。米一俵で十二円五十銭言うとったわ。だからだいたい10キロだと…二円ちょいと言うとこじゃの」
「そういうことじゃ。こんなに金の価値が違ってくるちゅうことになっちょると、決してまともな商売は出来んぞい」
「なんじゃそがいなことか」
「そがいなこと…っちゃ、どういうことじゃ坂本さあ」
「大丈夫じゃっちゅうこっちゃ。陸奥さあ、今朝の新聞持ってきちょくれ…おおそれじゃそれじゃ…っと、えっとこれじゃ」
「…スーパー山内特売セール開催。全商品2〜3割引にてご奉仕。卵1パック74円…」
「そりゃスーパーのちらしじゃ。わざとやっとりゃせんか武市さあ」
「わるいわるい。なんかやっちょかんと何となく不味いような気がしての。えとなになに…『新円の導入が決定。政府は融合した異なる世界間の通貨価値の共通化を図るため、日本国内共通の新通貨導入を決定した。通貨単位はほとんどの世界でなじみ深い『円』。来週中にもこの新『円』への移行が開始される予定である…』…」
「そういうことじゃ。さすがにだるまさんはやることが早いのう。わしらもそれに負けんように商売を頑張らねばならんきに」
「ふうむ。確かにこれならば金の問題は大丈夫じゃの。そんならこれからの仕事はもう一度みなに四国中を回って来て貰うことになるっちゃ。それぞれが見つけてきた取引先へ挨拶回りと更なる新規開拓、ついでにもっと詳しい情報収集じゃ。まず坂本さあが…」

 こうして彼らは再び四国中を巡り情報を収集し新規開拓を続けることとなる。この全ての人々に先んじての情報収集と新たな取引先への根回しは彼らに大きな利益をもたらした。なぜなら、人々、特に同業他社が混乱から立ち直り、ようやく生き残りを賭けて商売に動き出した時には、彼ら海援隊以上に四国全域にわたる詳細な情報を持つ者は行政機関を含めても存在せず、さらに各地の旨みのある取引は全て彼ら海援隊の手によって押さえられていたためである。


…「後藤よ、今度は狼に追いかけられんとよいのう」…
…「今度は大丈夫じゃろ板垣。出そうな場所もわかったしの、そういうとこを避けていけばいいんじゃ」…









…「確かに狼には出会わんじゃったが」…
…「代わりなんぞ頼んだ覚えはないきに」…

うがあああああぁぁっっ

…「「今度は熊じゃああああああああ」」…






<あとがき>
 どうもこんにちは。再びの登場となります小さな一読者でございます。
 今度はちょびっと長く出来ました。
 ほんとにちょびっとですが。
 今回の話は前回の続きとなります。彼ら、商社「海援隊」の話をまた書いてみました。
 前回の会議室内の話から、今度は四国全域に飛ばしてみました。
 なんかいろいろやってますねえ。
 特にあの後藤と板垣の二人は…おもろいコンビですな。
 この設定が書いていてとっても気に入りましたので、彼らはこの先もこのまま行ってもらいましょう。
 中身ですが、彼らが見てきた風景描写に関しては、頑張って四国四県全てを出してみました。
 高知…高知市内、四万十川。徳島…祖谷渓。愛媛…道後温泉。香川…高松市内。というところです(徳島は厳しいところですが)。
 後藤と板垣が狼に追っかけられたのは…まあいいや。
 あと、彼らの台詞(土佐弁)に関しては…、こればっかりはどうにかならないものでしょうか。
 友達とかに高知出身者が居れば見て貰うという手もあるんでしょうけど。
 いないんですよね。そういうの(広島とか浜松とかはいるんですが)。
 これを読んでる中で詳しい人。お願いします。
 私に土佐弁を教えてください。
 しかし、今回も本編の事件に絡められたのは、終わりのほんの少しだけですね。
 舞台が四国に収まってるし、彼らは結局一般市民ですから、どうにもならない面があるといえばあるんですが。
 次回はもうちょっと絡めた話が…できるといいなあ。
 では今回はこの辺で。小さな一読者でした。



<アイングラッドの感想>

 小さな一読者さん、投稿第2弾大変にありがとうございます。
 海援隊の彼らによる素晴らしい行動力が発揮された話です。彼らがまじめな分、周りの状況に振り回されるところが良いですね。
 今回は四国各地の有名地に脚を使って実際に脚を運ぶという・・・何故かサザエさんのオープニングを思いついてしまったのは秘密ですが・・・彼らの行動力が現れてますねぇ。
 しかし、実は四国と言うのはこの世界に於いてはそう悪い場所でもないような気がします。
 この世界において四国と言うのは実は一番安定した商売に適した土地柄かもしれないからです。
 何故ならば、(実はただ単に知らないだけなのかも知れませんし、こんな事を書くと四国の人にぶん殴られそうですが)四国を舞台にしたSFや四国を根城にした悪の秘密結社を私が知らないからです。
 と言う訳で、今のところ四国に於いて日本に敵対する武装集団による大規模な無差別テロは起こる予定が有りません。
 社会的に安定していると云う事は商売上大変有利。 と言う事で彼ら海援隊の活躍に期待出来る訳です。
 ちなみに瀬戸内海を挟んで本州側は連合艦隊の根拠地である呉がある都合上、その物資搬送ルート共々警戒区域に指定されていますし、九州は九州で某県には電柱組という国際的な悪の秘密結社が県立地球ぼーえい軍の面々と果てしなき抗争を続けています。
 電柱組もやってる事は十分にせこいですが技術力だけは凄い物を持っていますから侮れません。何しろ超能力を持つエスパーから目からビームを撃ち出す改造人間まで揃っているのです。
 それはさて置き、こんなに面白い話を投稿して戴き大変にありがとうございました。
 続きを楽しみにお待ちしております。
 ではでは。




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