スーパーSF大戦

インターミッション「GAME」 勝手にCパート


「はーい、皆さんこんにちはー☆ 『なせなにナデシコ』特別編、『超弩級要塞2015バーチャルウォー』の時間がやってまいりました☆ 実況は私、メグミ・レイナードと」
「解説のイネス・フレサンジュです」
「同じく解説のウリバタケ・セイヤだぁ!」
「イェーイ」「ヒューヒュー」「待ってましたぁ!」「ドンドンパフパフ」
 ナデシコ重力制御研究所の中で、シンジたちのバトルを一般公開するというイベントが行われていた。  これは研究所所長のプロスペクターが、マシンチャイルド4人がかりで作成したプログラムを商売に利用できないかと企んだ結果である。世間に公開する前にある程度動作実績を取っておきたいという考えと、お祭り好きなナデシコメンバーの思惑が一致して、このような形になったのだ。
「それでは、このバトルが始まるきっかけを、ダイジェストでお送りしま〜す♪」
 映像はシンジとルリがオープンカフェでお茶をしているところから始まった。どうやらラピスが隠し撮りしたものを編集しているようだ。その後の研究所内での出来事は所内の監視カメラ映像から、所々でスーパーコンピューター思兼の合成CGが入っている。実にワイドショー的な編集である。
「それでは、三軍司令部の様子を見てみましょう。レポーターの、サユリさん?」
『はーい、ホウメイガールズのサユリで〜す☆ ではまず、IBM軍のアスカちゃん&ラピスちゃんの映像をどうぞ』
 そこは戦艦ナデシコBのブリッジだった。艦長席に座るのはIBM帝国総司令、アスカ・ラングレー神。赤いプラグスーツにヘッドセットという姿で、足を組んで右頬杖をつきながら蒼い瞳をモニターに向けている。オペレーター席でウィンドゥボールに囲まれているのはプログラマーのラピス・ラズリ、赤いプラグスーツとヘッドセットがアスカとお揃いである。
 ピッチリとボディラインが浮き出るプラグスーツを見て、ウリバタケが鼻の下を伸ばしているのはご愛嬌。
「IBM軍はどうやら、太平洋艦隊を主軸とした編成ね。F−15をメインに早期の制空権確保を狙っているみたいよ。このF−15は」「では! 次はスミノフ軍のレイちゃん&ハーリー君でーす!」
 解説のイネスが長々と喋りだすところを実況のメグミが強引に遮る。イネスの冷たい視線もどこ吹く風、平然としているメグミ、この組み合わせもある意味で見物である。
 スミノフ帝国の綾波レイ神が座っているのはネルフ総司令室の指令席だった。ネルフの女性仕官用制服を着ており、テーブルの上に両肘を乗せ組んだ手で口元を隠す通称『ゲンドウポーズ』で、氷のような鋭利なオーラを発している。祭祀長マキビ・ハリはネルフのオペレータ用制服を着て、レイの斜め後ろに立っている。
「スミノフ軍は歩兵や軽装甲車を量産してるぜ。まさか、地雷原を人海戦術で強行突破するんじゃねぇだろうな?」
 ウリバタケの疑問に、レイの隠された口元が“ニヤリ”と笑ったような気がした。
「えぇ〜と、では最後に列島軍のシンジくん&ルリちゃんでーす… おおっと! 見かけぬ美男美女の組み合わせですが… これは、シンジくんとルリちゃんの5年後をシミュレートした姿だそうです! シンジくん、成長するとあんなになるんだ…ジュル
「涎、出てるわよ」「あ」
 19才のシンジに反応したのは、何もメグミだけではない。今回のイベントの演出担当である星野ルリ(大)を始めとして、霧島マナ、タカヤ・ノリコ、ユング・フロイト、夢野サリーなど江東学園の仲間で今日見物に来ている女性陣は、みんな揃ってシンジに見とれていた。
「うぉぉ〜っ! 奴も敵だぁっ!」
 ウリバタケが嫉妬に狂って吠えるが、メグミとイネスから鉄拳制裁を喰らって撃沈、床に這い蹲って静かになった。


 まず、第1ターン。
 初期配置を終えていた列島軍は第1警戒態勢のまま「防戦」のコマンドを実行した。
 直ぐにでもアリューシャン列島のIBM軍とシベリアのスミノフの攻撃があると警戒していたのだが、表面上は何事もなく第1ターンが過ぎてしまった。
「あれ… レイはともかく、アスカが何もしてこないなんて変だな。直ぐに大攻勢を掛けてくるかと思ったのに。ルリちゃん、敵の動きは分かんないの?」
 シンジは傍らに控えているルリに訊いてみた。
「はい、少々お待ち下さい。今回の設定ではスターダストが激しいためスパイ衛星が使えませんので何とも言い難いのですが、通信などからは敵の動きは見当たりません。亜宇宙艦隊の牙竜からも目立った動きはないとの報告を受けています」
「それって海中も?」
「はい、レーザー走査による海中航行体の軌跡なども感知されず、との事です」
 それを聞いてシンジは少し考えてからルリに訊いてみた。
「今出せる偵察部隊は有るかな?」
「それでしたら海中艦隊から偵察分遣隊が出撃可能ですが」
「じゃあ、お願い」
 ルリはてきぱきと指示を出し、その手際の良さにシンジは感心した。シンジの視線に気づいたルリが問いかけの視線を送ると、シンジはちょっと照れながら微笑み返した。
「いや、コンピュータの操作が上手いなぁって思って」
「…私は、そのために生まれてきたようなものですから」
「えっ?」
「私はマシン・チャイルドです。IFS用ナノマシンと親和性を高めるため、受精卵の時点で遺伝子操作され、そのように教育されてきた存在です。オペレートが優れているのは当たり前なのです」
 ルリは淡々と事実を述べた。別にルリ自身にとっては、マシン・チャイルドであることに優越感も劣等感も持っていない。単に聞かれたので答えただけだ。
 だが、無表情で出生の秘密を告白するルリを見て、シンジは彼女が他人と異なる生まれに対して人知れず悩みを抱えているものと勘違いした。
 かつてレイが同じように悩んでいたことから、シンジはルリの力になろうと思い、そして当時の経験からこういうときにはスキンシップが良いと判断した。
「…あ」
 後ろから優しく抱きしめられ、ルリは小さく驚きの声をあげた。
「…ルリちゃん。君がちょっと他の人と違っていても、僕は気にしないよ。僕もそういう経験があるけど…(っと、レイのことは話しちゃ駄目だな。プライバシーの侵害だし)」
 耳元でそっと囁かれ、ルリの心拍数は一気に跳ね上がった。
 シンジは言いよどんだ言葉を誤魔化すように、ルリの頭をゆっくり撫で始めた。ルリはナデナデに対して『私、少女です。子供じゃありません』と抗議をしたかったのだが、シンジの手のひらが気持ちよかったので、彼のなすがままを受け入れた。
 シンジはもしかしたら余計なお節介だったかも知れないと内心ひやひやしていたのだが、ルリの表情がわずかに緩んでいるいることを目ざとく見て取り(レイの乏しい表情を読み取ることに慣れているからだろう)、彼女が喜んでいることに安堵した。



「あらー、シンジ君たら大胆ね。ルリルリも一歩前進かぁ」
 バトルをギャラリー席で眺めているハルカ・ミナトが、観客用モニターを見ながらニヤニヤしていた。
「でも、戦闘中にあんなことしてる暇があるのかしら?」
「おおっと、こっちも面白いことになってますよー」
 実況のメグミが、IBM軍とスミノフ軍のトップ間通信の様子を指差した。
『こらー、レイ! 初っ端から同盟協定無視たぁ、やってくれるじゃないの!』
『…違うわ、単にユニットが暴走しているだけ。パイロット山田ジロ『違ぁうっ、それは世を忍ぶ仮の名前、魂の名前はダイゴウジ・ガイッ!
『……………』
『……………』
『…とにかく、アイツは三軍のどれにも属さない、ゲリラ扱いで良いわよね、レイ?』
『構わないわ』
 レイとアスカにとって予想外の事態が発生したため、シンジたち列島軍への攻勢が足並み乱れてしまったようだ。
 余談だが、シンジはいつも飼い竜の世話をしているためか、ナデナデが上手い。今回の件でシンジは“ナデナデ検定1級の腕前”とか、“来栖川製メイドロボが羨望の眼差しを送った”とか、いくつかの噂が出回るのだが、それはウリバタケ・セイヤたち『ナデシコしっと団』のせいである。



 ほのかに甘い雰囲気の漂っていた列島軍コマンドルームだが、ブザー警告音によってそれはかき消された。
せっかく好い雰囲気だったのに… 単機強襲?! 正気ですか?!」
 ルリは名残惜しそうにシンジの腕をほどき、偵察ユニットから得られた敵情報をチェックした。ルリは『パイロット:山田二郎』の一文を見て納得したのだが、ナデシコクルーのことを良く知らないシンジは、何かの作戦かと思って警戒した。
「普通に考えれば陽動だよな… ルリちゃん、周囲の索敵のレベルをアップ。それから、あの機体の詳しいデータを見せてくれる?」
「はい、索敵レベルをアップ。機体情報は… どうやら、正式ユニットでは無いみたいですね(ウリバタケさんの作成したデータみたいです)。敵機の画像を表示します」
 いくら使い捨ての囮とはいえ、それなりの機体でないと役目は果たせない。ましてやそれが単機強襲である。この序盤にどんな機体だろう、とシンジは身構えていたのだが、機体映像が表示されるとその緊張感は裏切られることとなった。
「…何、これ?」
「ユニット名称は"Senkosya"ですが、それ以上は私にも分かりません」
先行者AA
 それは二歩歩行の人型ロボットだった。手にはドリルがついており、いかにも山田二郎ダイゴウジ・ガイが好きそうな機体である。しかしそのフォルムは独特であった。
 八角形の薄っぺらい頭部に、とってつけたような目と鼻と耳。装甲など無きに等しいボディフレームに、シンプルな手足。こんなのがまっとうな兵器とは、誰が思えるだろうか。
「えぇっと、コレどこかで見たような気がするな」
「シンジさん、知っているんですか?」
 眉間に皺を寄せていたシンジだが、ほんの数秒で思い出した。
「あ! そうそう。あの八角形の顔、ゲッターロボに似ているよね」
「…ゲッターですか……」
 ルリはナデシコが初めてSCEBAIに来たときのことを思い出した。演習場で合体変形した巨大ロボットを見て、確かに山田二郎とアマノ・ヒカルはゲキガンガーだと大騒ぎしていた。
「うん、あれにネコミミつければ、ゲッター1そっくりだよ。ドリル装備なのも、ゲッター2と同じだしね」
 どこら辺がそっくりなのだろうか。流竜馬が聞いたら悔し泣きしそうな台詞である。
ゲッター1 (参考までにゲッター1)
 ギャラリー席では、思兼によりゲッターロボと"Senkosya"が並べて表示されている。こう見ると、確かに顔だけなら似ている気もする。流竜馬には気の毒だが。
「シンジくん… あれを“ネコミミ”と表現するの? もしかして、シンジくんてネコミミフェチ?」
 タカヤ・ノリコの呟きにより、ギャラリー席(特に江東学園メンバー)が大騒ぎになったのは言うまでも無い。



 登場だけで笑いを誘ったこのロボットだが、実は更なる破壊力を秘めていた。このロボットが珍妙な屈伸運動をし始め、シンジはそのあまりの可笑しさに、笑いを堪えるのに必死になってしまったからである。逆にルリは、あまりに卑猥すぎる主砲に硬直してしまった。
「な…何、これ? ククク、ハハハハッ
「こ、コマネチと、よ、呼ばれて、いる、ポーズ、ですね…」(赤面)
 恐るべき視覚心理兵器である。敵を笑い殺せる兵器は、世界広しといえどこいつくらいであろう。ちなみにギャラリー席の面々にも大ウケだった。
 シンジは腹を抱えて笑い悶えている。ルリは狼狽えながらもその強靭な精神力でどうにか思考を纏め上げ、モニターから目を逸らしつつヤツの迎撃を指示した。
『来た来た来た来たぁ! エネルギー充填率120%、今、必殺の、ゲキガンビィィィム!
 ユニット名"Senkosya"のパイロット、山田二郎の魂の叫びがスピーカーを通して伝わってくる。そして"Senkosya"は、股間にそそり立つ砲身から熱き迸りを発射した。
“その叫びはゲキガンガーに失礼です、山田さん”
 そう思ったルリは、次の瞬間目を見張った。
「そんな?! ザクが一撃で?!」
『うわははははぁ! これが! 漢の! 先・行・者・だ! ザクとは違うのだよザクとはぁ!』
“その台詞はジオニック社に失礼です、山田さん。当方に迎撃の用意あり、です”
 ルリはこの時点で虎の子と言えるザク小隊に再迎撃を指示してから、腹筋が痙攣して呼吸困難一歩手前に陥っているシンジに駆け寄った。
「大丈夫ですか? シンジさん」
「うっ、ふっ、ううっ、ゲホゲホ。あー苦しい…」
 涙目になって咳き込むシンジの背中をさすりながら、ルリはシンジの顔を後ろから覗き込んだ。先ほど、シンジに後ろから抱きしめられたのと逆のポジションである。
「あ、あぁ… ありがとね、ルリちゃん」
 目じりに残った涙を指で無造作に拭き、ぱちぱちと目を瞬かせるシンジ。ルリは間近にあるシンジの顔をとても可愛く感じた。
「ルリちゃん?」
「…え?」
 ルリは無意識のうちに手を伸ばし、シンジの頬に触れていた。シンジの呼びかけで我に返り、慌てて伸ばした手を引っ込めようとしたが、それより早くシンジがその手を優しく握った。
「ごめんね、指揮官が行動不能になっちゃって。本当にありがとう」
「…いえ、副官の勤めですから」
 にっこり笑ってお礼を言うシンジに、ルリはそう返すのが精一杯だった。シンジはルリの手をもう一度きゅっと握ってから手を離し、キリッとした顔で戦況モニターに目を向けた。
うぉぉぉ! なぜだ、なぜ変身しないんだぁ?! 囲まれているんだぞ、ピンチの今こそ、熱血の見せ所なんだぞぉ?! おぉぉ、応えてくれ、ゲキガンガァァァァッ!!』 チュドーン
「今はどうなってるの? ルリちゃん」
「あ、はい。例のユニットは破壊しました。しかし、こちらは陽動作戦に見事に引っかかってしまったことになります」
「まぁ、予想外の相手だったしね、仕方ないよ。それより、ザクがやられちゃったみたいだね」
「はい。二度目の迎撃では損害無く倒していますので、最初のアレはまぐれ当たりのような気もしますが」
「うーん、それでも無視する訳にもいかないか。ルリちゃん、ユニット一覧を見せてくれる?」
 ルリは指示に従って自軍の兵器開発リストを表示した。それに平行してシステムに侵入し、パイロット山田二郎をゲーム参加不可に変更した。なお、そのときラピス&ハーリーから警告妨害がなかったことから、どうやらIBM軍・スミノフ軍ともに気持ちは同じだったようである。
「やっぱりグフかドムになるのかな… でも、生産ラインを引き継げるザクカスタム型も捨てがたいし… ルリちゃんはどう思う?」
「MS-06FZがお勧めです。型番こそ末尾に"Z"が付いただけですが、大幅改修された実質の次世代機ですから」「うん、じゃあそれにしよう。うちはMS-06Jが主力だから、MS-06JZになるのかな?」
「そうですね、機体開発を進めておきます」
 そんなこんなで序盤は静かな(?)滑り出しとなった。


 嵐の前の静けさとはよく言ったもので、ラブラブな雰囲気(byハルカ・ミナト)を作っていたシンジ&ルリ率いる列島軍には、過酷な攻めが待っていた。
 緒戦に於いて同盟を組んだIBM・スミノフ連合軍の圧倒的な物量差によって、列島軍は折角のモビルスーツという新技術も効力を発揮できずに敗戦を繰り返していた。
 最大の誤算はTV誘導式のホーミングミサイルがミノフスキー粒子が散布された戦場で使用可能だったことだろう。
 遠距離から慣性誘導された巡航ミサイルは目標直前でTV誘導に切り替わり、拠点攻撃に、そしてモビルスーツ各機の攻撃に非効率的ながらも有効だったのだ。
 その為、連合を組んで攻め入ってきたIBM軍とスミノフ軍の焦土作戦によって貴重な補給基地とモビルスーツ、そして通常型の戦闘機(光電他)や攻撃機(仙空等)が電撃的に破壊されてしまったのだ。
 なんとか要塞線で防衛を行おうとしたのだが、既に制空権を握られていたため折角のミノフスキー粒子も役に立たずスミノフ軍の誇るスーパーイワン砲やIBM軍のスーパークルージング爆撃機の火力の元に手も足も出なかったのだ。
 そして超弩級要塞の最終防衛線外殻で迎えた両軍のV作戦により敵軍もモビルスーツの保有に成功。
 そのまま一気に殲滅か? と思っていた所、欲に目が眩んだ両軍の陰謀によって同士討ちが始まったというわけだ。
 しかし、戦力の1割ほどを失った時点で双方とも最初の計画を思い出し、再度手を組み侵攻を再開した。
 そして、列島軍が持ちこたえれば勝利となる規定ターン数の半分くらいで、事態は最終決戦へと推移していた。


 燃えさかるモビルスーツの残骸の中、シンジとルリの乗るザクV改(複座型)が出撃した。総司令官が新型機で出撃すると言えば聞こえが良いが、要は敗け戦を綺麗な形で終わらせるための演出なのだ。
 いくらシンジたちが孤軍奮闘しようとも無駄な足掻き、戦いの趨勢は決している。数度にわたる雑魚の波状攻撃を凌ぎきったとき、敗北のための最後の儀式が幕を開けた。
 ボロボロになったザクV改の前に、ラングレー神が操る赤いガンダムGP−02Aサイサリスと綾波レイ神が操る白いビギナ・ギナが姿を現したのだ。
「ご免なさい、シンジさん。私の力が足りないばかりにシンジさんに辛い思いをさせてしまって」
 ザクV改のコ・パイロット席でルリはメイン・パイロット席のシンジに謝った。
 こうなったのはアスカとレイの素晴らしき戦略の所為であったのだが、ルリはシンジを救えなかったと言う負い目から嘆いていたのだ。
 しかし、シンジは優しく微笑むとルリに告げた。
「ルリちゃんは良くやってくれたよ。不甲斐なかったのはこっちさ。ゴメンねルリちゃん」
「シンジさん…」
「それにね、僕はまだ諦めてないよ」
 シンジは諦めかけたルリを励ますように、彼女の瞳を見つめた。
「向こうは今まで手を組んできたけど、最終目標である僕を目の前にすれば、同盟を破棄せざるを得ない。アスカとレイが互いに潰しあってくれれば、あるいはね」
「自分自身を餌にして、一騎討ちという形で大将を誘き寄せたということですか?」
「そういうこと。これで援軍か伏兵がいれば良かったんだけど、無いものねだりをしてもしょうがない。まぁ、悪くても2対1、うまくすれば1対1を2回。分の悪い賭けだけど、まだ望みはあるんだからね。頼りにしてるよ、ルリちゃん」
「はいっ!」
 強い意志を秘めたシンジの瞳に引き込まれ、ルリは胸のうちを蝕む暗い感情を忘れた。この逆境下でシンジから信頼を寄せられることが、ルリにはとても嬉しかった。
 ルリは確信した。今、目の前にいるのは、ただの優柔不断な男の子では無い、と。
 苦難によって磨かれた魂の輝きに魅せられたのか、ルリはシンジから目が離せなくなる。シンジは暖かくルリを包み込むように、穏やかに笑う。無言で見つめ合うふたり。
「あーっ!! ルリ! 抜け駆けしてんじゃないわよ!」
「えっ、アスカっ、ちょ、ちょっと! …うわぁっ!」
 降伏勧告をするために通信を繋げたアスカだが、その余りにもいい雰囲気に激怒した。
 嫉妬に燃えるアスカはサイサリスのビームサーベルをブンブン振り回しながら突進する。シンジはそれを避けようとしたが、突然ザクV改の肩シールドごと右腕が爆散した。
「シンジくん、やっぱり若い子の方が好いの? 私はもう用済みなの?」
 ビームランチャーを構える白いビギナ・ギナから、レイの通信が入る。
『捨てられそうな子犬』のような表情でシンジに懇願するその姿は、ビームランチャーの照準がピタリと合わされていなければ、とても健気に見えただろう。
「…あ、あの、レイ?」
「レィィ! アンタ、私もまとめて狙ったでしょ!」
 シンジが冷や汗を流しながらどう答えようか迷ったとき、アスカが割り込んで怒鳴り散らした。
「…よく分からないわ」
「こら! すっ呆けるのもいい加減にしなさい!」
「そう、良かったわね」
 シンジに見せた表情から一変して、レイは無表情でアスカに答えた。もちろん、それに黙って引き下がるアスカではない。
「そういえば、レイ、アンタも敵だってコトすっかり忘れてたわ」(怒)
「物忘れが激しいのね。私は最初からそのつもりだったから」
 レイとアスカが互いにヒートアップしていくその様は、赤鬼V.S.雪女といった感がある。シンジはじりじりとその場から後ずさりし始めたが、サイサリスとビギナ・ギナが同時にぐるんとザクV改に振り向いた。
「シンジ! 私とレイ、どっちを選ぶの?」
「シンジくん、お願い。私も見捨てないで…」
 シンジは派手に冷や汗をかきながら、引きつった愛想笑いを浮かべた。ここでアスカとレイの同士討ちを期待していたのだが、二人してシンジを弾劾する修羅場になってしまったのだ。
「…あの、選ぶって?」
「もちろん、どっちに撃墜されたいかってことよ」
「シンジくん、私なら苦しまずに一撃でしとめてあげるわ… クスクス
 シンジは捨て身の作戦が失敗に終わったことを悟った。


「まぁったく、山田のヤロー、基地害にも程があるぜ。戦場で笑い死ぬなんて初めてだ」
「既に知ってるダイゴウジ・ガイだけに、既知ガイ… 気●い…プッククク…
「あのロボット、凄かったよねー。もう創作意欲がギュンギュン湧いてきちゃう。良いモノ見させてもらいました」
「このネタはイマイチ… イマイチ… コマネチ
「だからそのポーズはよせって」
 リョーコ・ヒカル・イズミのパイロット三人娘はエステバリスのシュミレータから降りて、ギャラリー席の設置されているナデシコ食堂に向かっていた。もう大将同士の一騎打ちである以上、単なる戦闘ユニットに出番は無いと判断してのことである。
 この三人は緒戦であの機体外見に気を取られてしまい、アレに撃墜されるという屈辱を味わった。その後、山田をシミュレータから引きずり出して袋叩きにし、医務室送りにして憂さを晴らしたが。
「あれ? 江東学園の人たちじゃない?」
 ヒカルが指差した先には、食堂の入り口あたりをうろうろしている霧島マナたち御一行がいた。彼女たちも三人娘のことに気づいたようで、一行を代表してマナが小走りで近づいてきた。
「すいませーん、あの、お手洗いの場所を教えて欲しいんですが…」
「ん? そこを右に曲がって突き当りを左だぜ。連れションだからってモタモタしてると、クライマックス見逃すからな」
 リョーコのストレートな物言いにちょっと困ったような愛想笑いを浮かべたマナだが、ペコリと頭を下げてからノリコたちと連れ立って廊下の向こうへ歩いていく。リョーコはそれを少しだけ見送ってから、自動販売機でスポーツドリンクを買った。
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハァ〜」
 腰に片手を添え、喉を鳴らして350mlを一口に飲み干す。オヤジっぽいを通り越して、もはやワイルドという形容詞が似合う女、スバル・リョーコ。
 彼女は飲み干した空き缶を自動販売機横の屑篭に投げ捨て、ヒカルとイズミが手招きしている座席へと足早に移った。
「あー、疲れた疲れた。ちょいと隣、邪魔するぜ」
「お邪魔しまーす」
「邪魔… 邪魔… じゃぁ、まぁ、どうも…」
 ミナトの隣に陣取るパイロット三人娘。ちなみにその席は今までマナたち江東学園の面々がいた所だ。
「お疲れ様。シミュレータはどうだった?」
「ん? まぁエステと戦闘機じゃ操作が違うんでアレだがな… うん、ゲームとしては面白かったぜ」
 リョーコはミナトの前にある煎餅に手を伸ばし、一枚頂戴して口に放り込んだ。
「そうねー、エステじゃスパローやサイドワインダーみたいな、派手な花火は撃てないし」
 ヒカルもうんうんと頷きながら、買ってきたジュースに口をつける。無言のイズミはどうやら、コミュニケを使って食堂へ軽食を注文しているようだ。
「でも、やっぱり他人の修羅場を見るのが一番面白いよねぇー♪ 他人の不幸は蜜の味ってね♪」
「そうねー。でもお姉さんはルリルリを応援しちゃうぞー♪」
 ヒカルがゴシップ趣味丸出しでニヤけ、ミナトも同じく無責任に笑い返した。
 元々このイベントは、ナデシコに痴話喧嘩を持ち込んだシンジたちを晒し上げるための『祭り』である。ヒカルやミナトのように『大人』の立場で祭りを楽しむのが正しい作法というものであろう。(少なくとも、このイベントの企画者はそう考えている)


 ルリは二匹の鬼から発せられる怒りのオーラに背筋を震わせていた。このような恐怖は年齢を話題にして説明おばさんお姉さんの秘密研究室に拉致されそうになったとき以来であり、そのときは決死の覚悟で助けに来てくれた天河アキトと一緒に、たまたま通りすがった山田二郎を身代わり(生け贄)にして逃げ切ったのであった。
 ルリは一縷の望みをかけて、序盤で封印した山田の封印を解いた。幸い、ラピスとハーリーも味方であるはずのアスカ&レイの怒りのオーラにビビッていたので、システム変更は無事に成功した。
 もっとも、このことが山田二郎より厄介なことを呼び込むことになってしまうのだが…
「シンジ… 正妻を蔑ろにした罪は重いわよ?」
「正妻が夫を制裁… プッ、ククク」
「シンジくん、浮気は罪…」
「浮気は男の甲斐性、ついでに婚約も解消… なんちゃって」
「ねぇねぇ、別にシンジ君ってあの二人と婚約してるわけじゃないんでしょ?」
「そうねぇ、それなのに女房面して暴力三昧、ちょっとシンジ君が可哀想よねぇ」

「何か言うことある? シンジ」(怒)「シンジくーん、お姉さんが慰めてあげるわよ」
「下手な言い訳はそのまま遺言になるわ…」(怒)「うぉぉぉぉっ! 碇シンジ、男の敵っ! 月のない夜は気をつけろっ!」
「あのぅ、ルリちゃん? 外野の音声を切ってもらえる?」
シンジッ! どうしてそこでその女の名前を出すのっ?!
「え?! だって、その…」
「そう、もう私たちは愛されてないのね…」
「そんな… シンジィ、私たちを裏切ったのね?」
「そうです、貴女たちのようにシンジさんの気持ちを考えず、すぐ暴力を振るうようでは捨てられて当然と思いませんか?」
「る、ルリちゃん?!」
「シンジくん、本当なの?」
「シンジぃ… 嘘よね、嘘だと言って!」
 まさに息もつかせぬジェットコースター的展開。シンジは何もかも捨ててこの場から逃げ出したい気持ちを“逃げちゃだめだ”の呪文で押しとどめ、左手をわきわきさせながら何とか言葉を搾り出した。
「アスカ。レイ。それにルリちゃん。僕は─」『ちょっと待ったコォォォル!!』
 シンジが一大決心をして己の気持ちを告白しようとしたところに、その雰囲気をぶち壊すように乱入者が登場してきた。しかもわざわざ、『Here Comes a New Challenger』という割り込みメッセージをウィンドウに表示させるおまけつきである。
「アンタたち! 何者よ!」
 アスカがクライマックスを妨害した3機のモビルスーツを睨みつける。すると、そのモビルスーツ、いやモビルファイターに乗ったパイロットは高らかに宣言した。
「私達はシンジくんを守るために新たに結成された新組織。第4軍よ」
 セーラー服の少女を象ったようなそのモビルファイター・ノーベルガンダムは叫んだ。
「あたしのハンドルネームは仮面美少女アレンビー・ミスト・アイランド!」  ドドーン!
 彼女が名乗った瞬間、何故か背後にピンク色の爆発が起こった。
 それに続き、残りの機体のパイロット達も名乗りを上げる。
「私の偽名はマリア・川村、機体はヤクト・ドーガ!」  ドドーン!
「で、何で私がハロ扱いなの? 納得いかなーい!」  ドドーン!
「貴女ガンダムに声あててないでしょ」
「私は魔法の少尉ブラスターマリ、機体は1日ザク!」  ドドーン!
「「「お呼びもないのに即参上!」」」「やり直しを要求するー!」
 しばらく見守っていたアスカだったが、不意に口をきいた。
「マナ、アンタ一体なにやってんのよ」
「!!! わ、私は霧島マナなどという名前ではない! 仮面の美少女アレンビー…」
 つい、言われてもいない苗字まで喋ってしまった自分の口に彼女は深い後悔をした。
「ばればれよマナ。しっかも選んだ機体がセーラーガンダム?! イロモノが良く似合うわよ、ふふん」
「くっ、ノーベルガンダムよ。私を無視して決着を着けようなんて狡いのよアンタたち。シンジくんは私が守るんだからね」
「ハッ! 返り討ちにして上げるわ」
 わざわざご丁寧にサイサリスのマニュピレーターで、中指を突き立てる"Fxxk'n"ポーズを取って挑発するアスカ。当然マナも、ノーベルガンダムに親指を下に向けるサムダウン・ポーズを取らせて応戦する。
「それはいいのですが、マナさんですか? 一体どうやって参加したんですか? しかも新軍団まで結成するなんて。そんな設定作った覚えはないんですが」
「ちょっと父さんの知り合いに頼んで、ハッキングさせて貰ったの。ゴメンね」
「思兼を突破したんですか?! 嘘… 信じられません」
「蛇の道は蛇、天才的なシステムエンジニアの手に掛かれば裏道なんて何処にでもあるって言ってたわ」
「…誰ですか、それは」
「う〜ん。それは秘密」
“ウルトラ警備隊のアマギ隊員なんて言ったら私の正体がバレちゃうでしょ”
 ちなみに、正確に言えばマナがハッキングしたのはゲーム『超弩級要塞』が動いているマシンであり、思兼ではない。まぁ、エステバリスシミュレータから思兼を踏み台にしてハッキングしているのは確かなので、ルリが驚くのも無理は無い。
 また「新軍団結成」はマナのハッタリであり、実際には彼女たちはどこにも属さないゲリラ軍扱いである。アマギ隊員本人ならともかく、マナの腕前では短時間でそこまでシステムを書き換えることは不可能である。
「まぁいいわ、マナ。けちょんけちょんにしてあげるわ」
「その台詞、そっくりお返ししてあげる!」
 アスカとマナの間に火花が走り、次の瞬間サイサリスとノーベルガンダムは互いに向かって走り出した。
「いーもん、いーもん。下克上でコントロールを奪ってやるんだからぁ!」
「あっ、ノリコ、何を…」
「いっけー! ファンネル乱れ撃ちー!」
「ちょっと…! レイさんが巻き込まれてしまったわよ!」
「ふははははー、このまま(精神コマンド要員)では終わらんぞーっ!」
「…そう、貴女たちも敵なのね」
 暴走したヤクト・ドーガに突っかけるビギナ・ギナ。レイも頭に血が上っているのか、こちらも収拾がつかない大混乱状態である。
「もぅ、なんだかなぁ…」
 シンジは途切れてしまった緊張感をなんとか持ち直そうとしたのだが、どうにも気合が入らない。何でこんなことを必死にやっているんだろうと醒めてしまった。
 それでも騒乱の元凶であるアスカとレイを憎いとは思わないのは、いささか度を過ぎているとはいえ愛情表現をしてくれているからだろうか。
 シンジは彼女たちがいとおしくなった。良い面も悪い面も知ったうえで、自分たちは強い絆を持っている。それは家族とも言えるのではなかろうか。それはシンジが幼い頃から望んできたものであり、だからこそ彼女たちが望むならそれに応えてやりたかった。
 そのときのシンジは、慈愛に満ちた優しい笑顔、と表現するのが相応しかった。
「ねぇ、シンジ君」
「夢野さん?」
「今は私、魔法の少尉ブラスターマリよ。それよりさ、せっかくだから遊ぼうよ。日本連合の技術って凄いんだね」
「あぁ、夢野さんは中華共同体の出身だっけ。でも僕もここまで凄い仮想空間は初めてだよ」
“あれだけ苦労してるのに、ピュアな心を保っていられるんだ。なんだか羨ましいな”
 サリーは術を使うものとして、シンジに惹かれるものを感じていた。実際に彼は竜を使い魔として従えているわけだし、樊瑞の元で修行を積めば優秀なエージェントになれるだろう。
「いくよー、1日ザクの必殺技はぁ、体当たりぃーっ!」
「何だぁ?! うわぁぁぁ!」
 サリーはわざと陽気な声を上げて気持ちを切り替えると、グルグルと1日ザクを回転させた。それも普通なら背骨を軸にして回転するところを、鼻先を軸線にして回転するという父親譲りの技法を使ってである。
 そして充分な回転速度が得られたところで、1日ザクは真正面からザクV改に突っ込んできた。しかも、胴体はグルグル回っているのに顔は動いていないという、流派東方不敗の奥義である。
 ザクV改は闘牛に跳ね飛ばされた闘牛士よろしく、派手に吹き飛んだ。これまた城戸財団の聖闘士に伝わる奥義『車田落ち』、見事なやられっぷりである。
「ああっ! シンジッ!!」
「隙ありっ!」
 派手にやられたザクV改を見て動揺したサイサリスに、ノーベルガンダムのパンチがクリーンヒットする。サイサリスの巨体がグラリと揺れて、前のめりに倒れこんだ。
「ふふっ、武士の情けでとどめは刺さないであげる。そこで指をくわえて見ていなさい♪」
 半失神状態で動かないアスカに、マナが勝ち誇る。だが反論が無いまま一方的に罵るのも虚しいもので、マナはすぐに新たなる相手を求めてサイサリスに背を向けた。
「まだだ… まだ終わらんよ…」「あれか…… ガンダム、持ってくれよ……っ!」「私は生きる! 生きてシンジと添い遂げる!」
 微妙にトリップしたままのアスカがどこかで聞いたような台詞を連続で呟きながら、サイサリスがもぞもぞと起き上がる。そしてサイサリスが手にした武器は、ビームライフルではなく最終兵器アトミックバズーカ。
 原作では連邦艦隊を一撃で壊滅状態に追い込み、某ゲームではスーパー系の全必殺技よりも強力という、使われる側にとっては正に悪夢の代物である。喰らえば全員敗北確定ということに今更ながら気づいたマナやユングたちが大騒ぎするが、それはもう後の祭り。
「落ちろ、蚊トンボ!」
「ブラスターマリの、明日はホームランっ!」 カキーン
 なんと、1日ザクが魔法の布団たたきでアトミックバズーカの弾を打ち返すという、魔法の離れ業をやってのけたのだ。
 核弾頭は放物線を描いて遠くへと飛んでいき、遥か向こうで大爆発を起こした。
「「「「「………………」」」」」
 あまりの出来事に声も無い一同。
 やがて、呆然としている彼らの前に『GAME OVER』のウィンドウが表示された。
『Winner:IBM軍 惣流・アスカ・ラングレー&ラピス・ラズリ』
『勝利条件クリア:超弩級要塞の破壊』
 つまり、打ち返された核弾頭が超弩級要塞を破壊したということだ。


 シンジはヘルメットを脱いで、バーチャルルームの仮想空間から現実へと戻ってきた。
「ルリちゃん、お疲れ様でした」
「あの… ごめんなさい、私の力が及ばなかったから…」
 シンジは俯くルリに近寄って、優しい笑顔を向けた。
「そんなことないよ、それに、とても楽しかった。ゲームに誘ってくれて、ありがとう」
「はい…」
 シンジの笑顔にKOされたルリは、顔を赤くして再び俯いた。シンジは差し出される格好になったルリの頭を撫でてやり、子供扱いされたことにルリは猛然と抗議した。
「私、子供じゃありません! 少女です!」
「あはは、ごめんね、ルリちゃん」
 あっさりと素で返されてしまったルリは、シンジが自分を妹として見ていることに気付いた。
「シーンジー♪」
「あ、アスカ。ゲームの勝利おめでとう。レイも、お疲れ様」
 ちょうどそこへアスカとレイが来たので、シンジはルリの側から離れた。はしゃぐアスカと落ち込むレイの相手をするシンジを見るのが辛く、ルリは挨拶もそこそこにバーチャルルームを飛び出した。



「シンジさんのバカ…」
 ルリは一人で黄昏ていた。自信のあったシミュレーションゲームに負けたり思兼にハッキングされたりと、ショックを受けることはいくつもあったが、何よりシンジに恋愛対象として見られていないことが一番厳しかった。
「恥ずかしかったんですよ? ゲームに誘うの。それにバーチャルルームのプログラムを1日で作り上げるのも、大変だったんですよ? それなのに…」
 鬱々と落ち込んでいくルリ。そしてそれを見守る2人の影。
「ふふふ… 愛する人に妹としか見られないのは、辛いこと。私も経験済みですからね。傷心のルリ(小)を慰めることで、できの悪い弟分から気になる異性へランクアップするチャンスですよ、ハーリー君」
「で、でも、艦長、相手の弱みに付け込むというか、なんか騙してるみたいですよ」
「ハーリー君、恋愛は戦いです。卑怯と言われようが何しようが、勝てば官軍です」
「でも…」
 と、まぁ、ルリ(大)が陰謀を巡らせていたのだ。
 だが、ここでルリ(大)にとっても予想外の出来事が起こった。
「ルリ(小)ちゃん、どうしたの?」
「ユリカさん…」
 それはルリ(大)でも勝てない相手の一人、ミスマル・ユリカの登場である。
「大丈夫だよ、ルリ(小)ちゃん。一回や二回の失敗、大したことないって」
「それは、確かにユリカさんはいつもいつもアキトさんのことを追い掛け回していますけど…」
「アキトは私のことが大好き! あれはアキトが照れているだけなの、アキトは私の王子様!」
「王子様という割には、再会するまで名前も顔も忘れていたようですが?」
「うっ、だって子供のときのことだもん。と・に・か・く! シンジ君のことが好きなら、諦めずに何度もアタックするの! まったく脈が無いなら無視されるけど、そんなことないでしょ?」
「そうですけど…」
「大丈夫、『私らしく』すれば気持ちは通じるって!」
「『私らしく』ですか… そうですね、ありがとうございます」
「そうそう、笑顔が一番! ルリ(小)ちゃんは5年後の予想図も綺麗だったけど、今でも充分可愛いよ」
「えっ? ユリカさんもあのシミュレーションを見ていたんですか?」
「うん、ルリ(大)ちゃんに頼まれてIBM軍とスミノフ軍の戦略指導をしてたけど… え、ルリ(小)ちゃんどうしたの? 笑顔が怖いよ…」
「いいえ、何でもありません。ユリカさん、ありがとうございました。私、シンジさんを諦めませんから!」
「そうそう、その調子」


「ほら、ハーリー君がぐずぐずしているから、いけないんですよ」
「ぼ、僕のせいですか?!」
「そうです、せっかくお膳立てしてやったというのに…」
「うわぁぁぁぁぁん!」
 どうやら今回のイベントは、ハーリーダッシュでオチを付けるという、ナデシコではいつものパターンで締めくくられたようである。ハーリーの末路に合掌。




 終


あとがき

「GAME超弩級要塞2015」勝手に続編、これにて完結です。
 続きを書くことを許可してくださり、プロットまで頂いたあげく「好きに書いて構わないです」とまで仰ったアイングラッドさんに感謝します。しかも正当な続編と認定までして頂いて、感謝感激雨あられ。
 内容については… ラブコメを目指したのですが、中途半端ですね。レイ、ラピス、ハーリーの出番がほとんど無いのは、ルリとシンジの視点で話がスタートしたこともありますが、私がルリ&アスカ好きなのと関係大ありです。
 先行者については皆さんご存知という前提で書きました。知らない方がおられましたら、ネットで検索してみてください。爆笑もののネタですから。〔゚!゚〕
 では、こんなのを読んでくださった皆さん、ありがとうございました。




日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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